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16『エヴァンゲリオン・1』
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真夏ダイアリー
16『エヴァンゲリオン・1』
二時間目前の休み時間に下足室へ行った。
二時間目の授業が数学だってことをコロっと忘れて、ロッカーの中の数学一式を取りに来たのだ。
期末テスト明けの授業というのは、どうにもしまらない。テストを返してもらって、キャーキャーと成績に一喜一憂。で、午前中の授業なんで、たいがい、それだけでおしまい。
だけど、数学は三単位もある(つまり週に三回も授業がある)ので、このテスト後に二回授業があって、今日はちゃんと授業。でも、明日は終業式なんで、頭は冬休みモード。うっかり忘れていた。
――あら……?
うちのクラスのロッカーの前に、C組の柏木由香が立っていた。真面目な顔で……。
その視線は、省吾のロッカーを見つめていた。
――あ、エヴァンゲリオンのラブレター!
気配が伝わったのか、由香は、わたしに気づくなり、怖い顔をして行ってしまった。
――由香だったのか……イニシャルもぴったりYだもんね。
由香は同じ中学出身の女の子。生真面目な美人。思い詰めたらまっしぐらって子。
今の顔は、一週間毎日ロッカーにアスカ・ラングレーのシールが貼り出されるのを「待ってました」という色が出ていた(分かんない人は十回目の『小野寺潤の秘密』を読んでください) これはヤバイ!
「ちょっと、省吾。いつになったら答え貼ってあげんのよ!?」
「え……?」
「エヴァンゲリオン。明日、もう終業式だわよ!」
「もち綾波レイでしょ!」
玉男が割って入ってきた。
「なんでよ!?」
「だって、省吾には真夏がいるじゃん」
「「そんなんじゃない!」」
同じ言葉が、わたしと省吾の口から出た。危うく、みんなの注目が集まりかけた時、数学の沢野先生が入ってきた。
結局、数学の時間は自習になった。先生も生徒も、あんまり気乗りがしなかったから。自習ってのは、騒がなければ、なにしても怒られないんだけど、さすがにこの話題を継続するのははばかられた。
「ねえ、どっちかにしなさいよ!」
「オレ、こういうやり方、好きじゃねえ」
わたしたちは、放課後、下足室で続きを始めた。
「コクるんなら、ちゃんと自分で言うべきだ。こんな人の気持ちを試すようなやり方は趣味じゃねえ」
「だけどねえ……」
「こういうカタチでしか、気持ちを伝えられない子もいるのよ」
わたしの後ろ半分の言葉が三人の後ろでした……。
アスカ・ラングレーのように、マニッシュなオーラを放ちながら、柏木由香が立っていた。
「柏木さん……!」
意外な展開だ。本人が目の前にいる!
「誤解しないで、その手紙はわたしが出したんじゃないから。今朝、冬野さんに見られて誤解されるんじゃないかと思ってきたの」
そういうと、ゆっくり柏木由香は、省吾に近づいていった。
「わたしも、このやり方、好きじゃない。でも無視していいほど悪いやり方でもないと思うの。手紙を見ても分かるでしょ。ワープロなんかじゃなくてきちんと心をこめて書いてあるのが」
「……ほんとだ、カラっとした文章だけど、字は、とても乙女チック。貴女じゃないことはたしかね」
玉男が余計なことを言う。
「文章考えたのは、わたし。文句ある?」
「でも、イニシャルYだからてっきり、由香だと思った……」
「え、Yになってんの……?」
「ほら……」
省吾が、手紙を差し出した。
「……ほんと。あのバカ」
「バカって?」
「うらら、ちょっと出といで!」
柱の陰から、真っ赤な顔をして、同じC組の春野うららが現れた……!
16『エヴァンゲリオン・1』
二時間目前の休み時間に下足室へ行った。
二時間目の授業が数学だってことをコロっと忘れて、ロッカーの中の数学一式を取りに来たのだ。
期末テスト明けの授業というのは、どうにもしまらない。テストを返してもらって、キャーキャーと成績に一喜一憂。で、午前中の授業なんで、たいがい、それだけでおしまい。
だけど、数学は三単位もある(つまり週に三回も授業がある)ので、このテスト後に二回授業があって、今日はちゃんと授業。でも、明日は終業式なんで、頭は冬休みモード。うっかり忘れていた。
――あら……?
うちのクラスのロッカーの前に、C組の柏木由香が立っていた。真面目な顔で……。
その視線は、省吾のロッカーを見つめていた。
――あ、エヴァンゲリオンのラブレター!
気配が伝わったのか、由香は、わたしに気づくなり、怖い顔をして行ってしまった。
――由香だったのか……イニシャルもぴったりYだもんね。
由香は同じ中学出身の女の子。生真面目な美人。思い詰めたらまっしぐらって子。
今の顔は、一週間毎日ロッカーにアスカ・ラングレーのシールが貼り出されるのを「待ってました」という色が出ていた(分かんない人は十回目の『小野寺潤の秘密』を読んでください) これはヤバイ!
「ちょっと、省吾。いつになったら答え貼ってあげんのよ!?」
「え……?」
「エヴァンゲリオン。明日、もう終業式だわよ!」
「もち綾波レイでしょ!」
玉男が割って入ってきた。
「なんでよ!?」
「だって、省吾には真夏がいるじゃん」
「「そんなんじゃない!」」
同じ言葉が、わたしと省吾の口から出た。危うく、みんなの注目が集まりかけた時、数学の沢野先生が入ってきた。
結局、数学の時間は自習になった。先生も生徒も、あんまり気乗りがしなかったから。自習ってのは、騒がなければ、なにしても怒られないんだけど、さすがにこの話題を継続するのははばかられた。
「ねえ、どっちかにしなさいよ!」
「オレ、こういうやり方、好きじゃねえ」
わたしたちは、放課後、下足室で続きを始めた。
「コクるんなら、ちゃんと自分で言うべきだ。こんな人の気持ちを試すようなやり方は趣味じゃねえ」
「だけどねえ……」
「こういうカタチでしか、気持ちを伝えられない子もいるのよ」
わたしの後ろ半分の言葉が三人の後ろでした……。
アスカ・ラングレーのように、マニッシュなオーラを放ちながら、柏木由香が立っていた。
「柏木さん……!」
意外な展開だ。本人が目の前にいる!
「誤解しないで、その手紙はわたしが出したんじゃないから。今朝、冬野さんに見られて誤解されるんじゃないかと思ってきたの」
そういうと、ゆっくり柏木由香は、省吾に近づいていった。
「わたしも、このやり方、好きじゃない。でも無視していいほど悪いやり方でもないと思うの。手紙を見ても分かるでしょ。ワープロなんかじゃなくてきちんと心をこめて書いてあるのが」
「……ほんとだ、カラっとした文章だけど、字は、とても乙女チック。貴女じゃないことはたしかね」
玉男が余計なことを言う。
「文章考えたのは、わたし。文句ある?」
「でも、イニシャルYだからてっきり、由香だと思った……」
「え、Yになってんの……?」
「ほら……」
省吾が、手紙を差し出した。
「……ほんと。あのバカ」
「バカって?」
「うらら、ちょっと出といで!」
柱の陰から、真っ赤な顔をして、同じC組の春野うららが現れた……!
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