上 下
16 / 72

16『エヴァンゲリオン・1』

しおりを挟む
真夏ダイアリー

16『エヴァンゲリオン・1』    



 二時間目前の休み時間に下足室へ行った。

 二時間目の授業が数学だってことをコロっと忘れて、ロッカーの中の数学一式を取りに来たのだ。

 期末テスト明けの授業というのは、どうにもしまらない。テストを返してもらって、キャーキャーと成績に一喜一憂。で、午前中の授業なんで、たいがい、それだけでおしまい。
 だけど、数学は三単位もある(つまり週に三回も授業がある)ので、このテスト後に二回授業があって、今日はちゃんと授業。でも、明日は終業式なんで、頭は冬休みモード。うっかり忘れていた。

――あら……?

 うちのクラスのロッカーの前に、C組の柏木由香が立っていた。真面目な顔で……。

 その視線は、省吾のロッカーを見つめていた。

――あ、エヴァンゲリオンのラブレター!

 気配が伝わったのか、由香は、わたしに気づくなり、怖い顔をして行ってしまった。

――由香だったのか……イニシャルもぴったりYだもんね。

 由香は同じ中学出身の女の子。生真面目な美人。思い詰めたらまっしぐらって子。

 今の顔は、一週間毎日ロッカーにアスカ・ラングレーのシールが貼り出されるのを「待ってました」という色が出ていた(分かんない人は十回目の『小野寺潤の秘密』を読んでください) これはヤバイ!

「ちょっと、省吾。いつになったら答え貼ってあげんのよ!?」

「え……?」

「エヴァンゲリオン。明日、もう終業式だわよ!」

「もち綾波レイでしょ!」

 玉男が割って入ってきた。

「なんでよ!?」

「だって、省吾には真夏がいるじゃん」

「「そんなんじゃない!」」

 同じ言葉が、わたしと省吾の口から出た。危うく、みんなの注目が集まりかけた時、数学の沢野先生が入ってきた。

 結局、数学の時間は自習になった。先生も生徒も、あんまり気乗りがしなかったから。自習ってのは、騒がなければ、なにしても怒られないんだけど、さすがにこの話題を継続するのははばかられた。

「ねえ、どっちかにしなさいよ!」

「オレ、こういうやり方、好きじゃねえ」

 わたしたちは、放課後、下足室で続きを始めた。

「コクるんなら、ちゃんと自分で言うべきだ。こんな人の気持ちを試すようなやり方は趣味じゃねえ」

「だけどねえ……」

「こういうカタチでしか、気持ちを伝えられない子もいるのよ」

 わたしの後ろ半分の言葉が三人の後ろでした……。

 アスカ・ラングレーのように、マニッシュなオーラを放ちながら、柏木由香が立っていた。

「柏木さん……!」

 意外な展開だ。本人が目の前にいる!

「誤解しないで、その手紙はわたしが出したんじゃないから。今朝、冬野さんに見られて誤解されるんじゃないかと思ってきたの」

 そういうと、ゆっくり柏木由香は、省吾に近づいていった。

「わたしも、このやり方、好きじゃない。でも無視していいほど悪いやり方でもないと思うの。手紙を見ても分かるでしょ。ワープロなんかじゃなくてきちんと心をこめて書いてあるのが」

「……ほんとだ、カラっとした文章だけど、字は、とても乙女チック。貴女じゃないことはたしかね」

 玉男が余計なことを言う。

「文章考えたのは、わたし。文句ある?」

「でも、イニシャルYだからてっきり、由香だと思った……」

「え、Yになってんの……?」

「ほら……」

 省吾が、手紙を差し出した。

「……ほんと。あのバカ」

「バカって?」

「うらら、ちょっと出といで!」

 柱の陰から、真っ赤な顔をして、同じC組の春野うららが現れた……!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

高校球児、公爵令嬢になる。

つづれ しういち
恋愛
 目が覚めたら、おデブでブサイクな公爵令嬢だった──。  いや、嘘だろ? 俺は甲子園を目指しているふつうの高校球児だったのに!  でもこの醜い令嬢の身分と財産を目当てに言い寄ってくる男爵の男やら、変ないじりをしてくる妹が気にいらないので、俺はこのさい、好き勝手にさせていただきます!  ってか俺の甲子園かえせー!  と思っていたら、運動して痩せてきた俺にイケメンが寄ってくるんですけど?  いや待って。俺、そっちの趣味だけはねえから! 助けてえ! ※R15は保険です。 ※基本、ハッピーエンドを目指します。 ※ボーイズラブっぽい表現が各所にあります。 ※基本、なんでも許せる方向け。 ※基本的にアホなコメディだと思ってください。でも愛はある、きっとある! ※小説家になろう、カクヨムにても同時更新。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

喫茶店オルクスには鬼が潜む

奏多
キャラ文芸
美月が通うようになった喫茶店は、本一冊読み切るまで長居しても怒られない場所。 そこに通うようになったのは、片思いの末にどうしても避けたい人がいるからで……。 そんな折、不可思議なことが起こり始めた美月は、店員の青年に助けられたことで、その秘密を知って行って……。 なろうでも連載、カクヨムでも先行連載。

拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです

熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。 そこまではわりと良くある?お話だと思う。 ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。 しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。 ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。 生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。 これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。 比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。 P.S 最近、右半身にリンゴがなるようになりました。 やったね(´・ω・`) 火、木曜と土日更新でいきたいと思います。

深淵に眠る十字架

ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
悪魔祓いになることを運命付けられた少年がその運命に逆らった時、歯車は軋み始めた… ※※この作品は、由海様とのリレー小説です。 表紙画も由海様の描かれたものです。

処理中です...