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15『もう一年たったんだ……』

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秋物語り

15『もう一年たったんだ……』    

 主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)

 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名




 え、もう一年たったんだ……美花からのメールを読んで、思わず呟いた。

 ちょっと入院していたということにした、三人とも……大丈夫かな。
 そう思って、開き直った気持ちで学校にもどったけど、あっさり、それで通ってしまった。

 一年前の終業式に居なくなって、一夏入院してました。

 誰もそんなことは信じなかっただろうけど、関わりになりたくないんだ。友だちも先生も、「あ、来たの。よかったわね」てな顔つきでおしまい。
 家族から北海道に家出してますって話はいっていたようだ。麗も美花も家には、その説明で済んでいる。
 これは、お隣のラノベ作家・雨宮さんのお陰だ。一カ月以上、北海道の友だちに頼んで、三人分のシャメ付きメールを送り続けてくれたんだ。わたしたちをモデルにラノベを書くって交換条件があったけど、やっぱ、雨宮さんの人柄なんだろう。

 わたしたちは、ただアリバイのためだけに学校に通った。高卒というアリバイを完成させるためだけに。

 だから、わたしたちは大人しいもんだった。遅刻も欠席もしなければ、テストの成績も、それぞれの能力(と、みんなが思っている程度)に見合った程度には取った。

 わたしは、進路の吉田先生の勧めで、アニメーターの勉強が出来るS文化大学に指定校推薦で行けることになった。まあ、去年の秋までの不行跡があって入れるんだから、大した大学じゃない。
 行ったところ、収まった場所で、その都度考えればいいと思った。
 学校の先生を見てもわかる。東大や早稲田、慶応をでていても、こんな場末の偏差値50を切るような都立高校でくすぶっている。ちなみに我が担任江角女史(運悪く三年でも担任)は、東大の法科を出ながら、司法試験に三回も落ちて、しかたなくやってるデモシカだ。

 大阪での事が大いなる人生勉強であることは、少しずつ分かってきた。

 そんなこんなの内に一年が過ぎ、こうして美花からのメールに驚いている。

「ごめん、本屋のバイトが遅刻で、申し訳ないね」
「いいよ、いいよ。今日はあたし達の方が休みなんだから」

 そう、わたしは本屋さんで、麗と美花はガールズバーでバイトしている。こっちの方に、わたしたちの人生の軸足がある。

 だから学校は適当でいい。

「じゃ、揃ったから、とりあえずオッサンみたく乾杯しよう」

 三人とも、去年の大阪でお酒には強くなった。飲み屋さんの雰囲気にもなれたもんで、だれが見ても二十歳過ぎの大学生か専門学校生にしか見えない。こういうとこも、何度も言ってるけど、大阪の経験のお陰。

「こないだ、メグさんからオヒサで電話あってさ、今は東京戻って、銀座で働いてんだって」
「そっちで働きたいなあって言ったら、百年早いって言われちゃった!」
「百年って、メグさん、いったい幾つなんだろうね?」
「わたしたちだって、人のこと言えないかもよ」
「って、銀座にいけそう?」
「メグさんの半分くらい賢くなったらね」
「アハハ、そりゃ、百年早いわ!」

 麗が豪快に笑ったところで、ビールがきたので、乾杯した。

「かんぱーい!」

 三人揃って一気のみ。これは、もうお局様の貫禄だ。

「今日、雨宮さんのラノベが単行本になって出てきたよ」
「え、あたし達がモデルの!?」
「うん、ヤバイとこはうまくぼかしてあるけど、読めば、わたしたちの事だってすぐに分かる」
「うわー、読みたいなあ!」
「はい、どうぞ。一周年記念のプレゼント」
 二人に一冊ずつ渡した。
「わ、表紙のイラストだけで、だれだか分かっちゃうね!」
「大阪を知ってる人にはね……あれ、読まないの?」
「帰ってからゆっくりと、ね、美花」
「うん!」

 よく書けたラノベで、リュウさん、滝川さん、シゲさん、見たこともなかったリュウさんのお父さんのことが、カリカチュアライズされながらもイキイキと描かれていた。

 でも、吉岡さんのことは書かれていなかった。彼のことは言ってないもん……。

 わたしたちの、マッタリした秋物語りの新しいページがめくられた……。
 

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