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再びの軛
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先王がまだ病床にて存命だった時だ。先王は秘密裏に、騎士団長である流星を病床に呼んだ。先王は骨と皮ばかりの病み衰えた姿で、それでもその紫色の瞳だけは、はっきりと理性と意思を示していた。
そして、先王は流星に、衝撃的な告白をした。
「実は、儂には男子が一人いる」
先王がまだ元気で各地を見聞に回っていた頃、虹色の水が流れるとある奥地にて、それはそれは美しい女と出会ったという。女は、龍の血を濃く引く娘で、その腕や顔には虹色の鱗が浮かんでいたが、不思議と恐れは感じず、大層美しく感じたそうだ。王はその娘と情を交わし、やがて娘は子を孕んだ。
先王は娘とその子を手放し難く、秘密裏に虹蛇王国の首都に連れ帰ることにした。正妃は情の怖い女だ。娘の身の安全を考え、側室にはしなかった。仮に龍の血を濃く引く子が生まれても怪しまれないよう、古くから龍やその成り損ないが時折産まれる村に、その身柄を預けた。
やがて女は男児を産み、数年後、女児を産んだ。先王は庶民の男に身をやつして、度々女に会いに行ったが、しだいに正妃の疑いの目が厳しくなり、女の元には通えなく成った。そのうちに女は死んでしまったが、先王は密かに密偵を送り、子どもらの成長する姿を見守り続けていた。
「甥の蛇祐は非道な男で、王の器ではない。短期的な利益ばかり考え、大きな損をするだろう。儂は、我が子──紫蛇を王としたい。そのための遺言状をおまえに託す」
そうして王は急逝し、流星は託された遺言状を公開しようとした。が、蛇祐とその叔母である正妃の妨害にあい、それが叶わぬまま、蛇祐は即位してしまった。あの舞踏会の夜、居並ぶ貴族の前で遺言状の存在を公表しようとしていた流星だったが、とうとう暗殺者に殺されかけ、身を隠さなければならなくなった。
「──おそらく、我が家にも刺客が送られたはずだと思っていました。精霊の加護ある、我が妻露草ならきっと無事でいてくれると信じていましたが、気が気ではありませんでした。白月様にはどれだけ感謝しても足りません」
と流星は言うが、白月の心は白けていた。
先王の、なんと勝手なこと。結局の所、愛人を作って子どもを産ませながら、正妻怖さに存在を隠し、そのくせ相続問題をややこしくしたと、そういう話ではないか。
蛇祐が非道であり、王の器ではないのはその通りかもしれない。自分で流星に刺客を送っておきながら白月を殺人者として断罪し、結果、龍の加護を失った。だからといって、村で平凡に暮らしていた紫蛇を巻き込もうなどと、勝手すぎる。
紫蛇も思うところがあるのだろう。その顔は青ざめ、唇は引き結ばれている。
──だが、紫蛇が決めることだ。今宵で別れる白月に、何を言う権利もない。
白月はそう思った。だが、流星は思いがけないことを言った。
「紫蛇様には、王城に来ていただく。無論、白月様もご一緒に」
白月は目を剥く。
「はぁ!? なんで私!?」
「失われた龍を連れて帰ったとなれば、紫蛇様の権威を示すことができます。私がこうして生きている以上、白月様の無実も証明できるでしょう」
ごめんだ、と言おうとした白月だが、流星は更に言葉を続けた。
「それに、先王の遺言に示された次王が紫蛇様である以上、蛇祐様は正当な王ではない。つまり──」
貴方、と露草が止めようとするが、間に合わない。
「蛇祐様が言い渡した契約の破棄が、無効であると、私は先王の名にかけて申し立てます」
その瞬間。すっかり忘れていた音。胸の内の軛が己を縛る、ガシャンという硬質な音を、白月は聞いた。
全身が縛られる。龍に变化する自由が奪われたのが分かる。
白月の心を無視して、本能が──契約が脳に命令する。おまえは虹蛇王国に戻らなければならない、王国に仕えなければならないのだと。
「白月さん!」
ただならぬ様子の白月に、紫蛇が心配する声を上げるが、白月はすっかり青ざめ、ただ立ち尽くすしかできない。变化もできぬただの小娘となった白月を見て、彗は面白そうに笑った。
「おやおや」
心の底から憎ったらしい声だった。
龍に变化することができなくなった白月は、他の者達と一緒に彗の背に乗せられて地上に降りた。その間も白月は、文句を言い続けていた。
「龍を連れて還れば良いのなら、虹音で良いじゃないか。新たな龍の降臨、まさしく新王の権威を示すに相応しいよ」
必死に言い募る白月に、彗は含み笑いを漏らした。
「あいにく、虹音は長老が手放さないだろうねぇ。無理に連れて行こうとすれば、長老と戦う羽目になるよ」
長老は虹音を文字通り掌中の珠のごとく掌の上で遊ばせ、とうてい手放す気などなさそうだった。虹音は置いてくるしかなかったのだ。
そして、否が応でも、契約に縛られた白月の本能は、虹蛇王国に帰ることを自身に課していた。だが、白月の意思は激しくそれを拒絶し、理性は危険を知らせる警鐘を鳴らし続けていたのだった。
そんな白月を、紫蛇は気遣わしげに見る。が、白月は紫蛇に目を向けない。──この優しい少年に、おまえのせいだと責めてしまいそうな自分が嫌だった。
やがて彗は虹蛇王国の上空に至った。国境を守る兵士たちは、泡を食って混乱した。
「『砂漠の魔龍』か!?」
「いや、色が違うぞ。『砂漠の魔龍』は真珠色、あれは黄金色をしている!」
「何をしている、とにかく射てぇい!!」
やがて、統率を取り戻した彼らは矢を射掛けてきたが、彗の防御魔法はなんなくそれを弾く。
そのまま、彗は王城へと一直線に飛行する。
王城の前の広場に降り立ち、白月達を降ろしたら、
「じゃあね、健闘を祈るよ」
と言ってすぐに飛び去ってしまった。
後に残された一行に、兵士たちが飛んできて剣を向ける。だが、流星はそれを一喝した。
「騎士団長、鷹尾流星、先王の命により使命を果たし、只今帰還した! 我らを玉座の間に案内せよ!」
「団長!」
「流星様!!」
流星は兵士たちに慕われているらしい。次々と兵士たちが武装を解除し、次々と駆け寄ってくる。
「玉座の間にお触れを! 流星様が戻られたぞ!!」
白月は懐かしい──とはとても言えない、嫌な思い出ばかりが残る王城の廊下を歩く。やがて、白月が断罪されたあの場所、王座の間に着いた。
玉座の間では、ちょうど重要な会議が行われていたらしく、重臣たちが集まっていた。その半数が見覚えのない顔で、良識派と言われていた重臣たちの姿が消えているのを、白月は見て取った。
重臣たちは皆、死んだはずの流星の帰還に目を丸くしている。
「鷹尾流星、死んだのではなかったのか」
「龍宮家の、龍の娘も一緒だぞ」
その中で唯一、顔色を買えなかったのが蛇祐だった。蛇祐は玉座の間に座り、一行を睥睨した。
「久しいな、鷹尾流星よ。生きていて何よりだが──長きに渡り職務を放棄し、行方をくらましていたそなたが、なぜ今頃になって戻ってきた」
「それはあなたが何よりご存知のはず──この、先王より預かりし遺言状を今こそ執行すべく、正当なる王位継承者をお連れしました!」
流星が掲げた封書には、たしかに先王の印と直筆。重臣たちがざわめいた。
「あなたはこの遺言状の存在を知りながら、この私ごと抹消しようとなされた。ですが、今こそ私は帰還しました。──そしてこの方が、正当なる王位継承者、紫蛇様です!」
担ぎ出された紫蛇は青ざめ、今にも震えそうな脚を奮って立っている。
白月は──そっぽを向いた。こと今に至っても、関わり合いになりたくなかった。
重臣たちはざわめくが、蛇祐は歯牙にもかけない。
「私がおまえごと遺言状を抹消しようとした、だと? 何か証拠でもあるのか?」
流星はぐっと詰まる。蛇祐は続ける。
「なるほど、それは確かに先王の遺した遺言状なのだろう。が、こと今に至っては、王に即位したのは私だ。コロコロと王を変えていては、諸外国にも示しがつかん。私が──私こそ、正当な王だ」
その言葉には一理あり、重臣たちは、どちらに就くべきか悩み、顔を見合わせている。流星の騎士団や兵士たちへの影響力は無視できない。が、今玉座に座っているのは間違いなく蛇祐である。それに──流星が連れてきた小さな少年は、明らかに無力で怯えているように見えた。
「決着は、古来より定められし方式で決めましょう」
「ほう? 寡聞にして知らぬが、それはどのような方法なのだ」
「二人の王位継承者による、決闘です」
そっぽを向いていた白月は、思わず目を見開いた。
蛇祐と紫蛇。体格に差がありすぎる。勝敗はあまりにも明白だった。
蛇祐もそう思ったのだろう。呵呵と笑う。
「いいだろう。──では、決闘により王を決めることとする。古来より定められし方法となれば、何かと作法があろう、文官に調べさせる。そしてそうだな、貴族たちや国民にも広く決闘を見せつける必要がある。準備が必要だ。勝負は一週間後だ」
「それでよいでしょう」
「そして、唯一褒めてやるぞ、鷹尾流星よ。よくぞ、龍の娘を連れ帰った。──女官長。龍の娘をお連れせよ。今や賓客だ。『丁重に遇せよ』」
「かしこまりまして」
と王に応じてそう言う声に聞き覚えがあり、白月は背筋が粟立った。
玉座の間の隅に控えていた女官長が顔を上げれば、その頬に醜い蚯蚓腫れのような『偽』の文字。それは──空見不知火だった。
爪が食い込むほどの力で不知火に腕を捕まれ、引きずられて行かれる白月の背に、
「白月さん!」
と紫蛇の心配する声がかけられたが、振り返る余裕はなかった。
そして、先王は流星に、衝撃的な告白をした。
「実は、儂には男子が一人いる」
先王がまだ元気で各地を見聞に回っていた頃、虹色の水が流れるとある奥地にて、それはそれは美しい女と出会ったという。女は、龍の血を濃く引く娘で、その腕や顔には虹色の鱗が浮かんでいたが、不思議と恐れは感じず、大層美しく感じたそうだ。王はその娘と情を交わし、やがて娘は子を孕んだ。
先王は娘とその子を手放し難く、秘密裏に虹蛇王国の首都に連れ帰ることにした。正妃は情の怖い女だ。娘の身の安全を考え、側室にはしなかった。仮に龍の血を濃く引く子が生まれても怪しまれないよう、古くから龍やその成り損ないが時折産まれる村に、その身柄を預けた。
やがて女は男児を産み、数年後、女児を産んだ。先王は庶民の男に身をやつして、度々女に会いに行ったが、しだいに正妃の疑いの目が厳しくなり、女の元には通えなく成った。そのうちに女は死んでしまったが、先王は密かに密偵を送り、子どもらの成長する姿を見守り続けていた。
「甥の蛇祐は非道な男で、王の器ではない。短期的な利益ばかり考え、大きな損をするだろう。儂は、我が子──紫蛇を王としたい。そのための遺言状をおまえに託す」
そうして王は急逝し、流星は託された遺言状を公開しようとした。が、蛇祐とその叔母である正妃の妨害にあい、それが叶わぬまま、蛇祐は即位してしまった。あの舞踏会の夜、居並ぶ貴族の前で遺言状の存在を公表しようとしていた流星だったが、とうとう暗殺者に殺されかけ、身を隠さなければならなくなった。
「──おそらく、我が家にも刺客が送られたはずだと思っていました。精霊の加護ある、我が妻露草ならきっと無事でいてくれると信じていましたが、気が気ではありませんでした。白月様にはどれだけ感謝しても足りません」
と流星は言うが、白月の心は白けていた。
先王の、なんと勝手なこと。結局の所、愛人を作って子どもを産ませながら、正妻怖さに存在を隠し、そのくせ相続問題をややこしくしたと、そういう話ではないか。
蛇祐が非道であり、王の器ではないのはその通りかもしれない。自分で流星に刺客を送っておきながら白月を殺人者として断罪し、結果、龍の加護を失った。だからといって、村で平凡に暮らしていた紫蛇を巻き込もうなどと、勝手すぎる。
紫蛇も思うところがあるのだろう。その顔は青ざめ、唇は引き結ばれている。
──だが、紫蛇が決めることだ。今宵で別れる白月に、何を言う権利もない。
白月はそう思った。だが、流星は思いがけないことを言った。
「紫蛇様には、王城に来ていただく。無論、白月様もご一緒に」
白月は目を剥く。
「はぁ!? なんで私!?」
「失われた龍を連れて帰ったとなれば、紫蛇様の権威を示すことができます。私がこうして生きている以上、白月様の無実も証明できるでしょう」
ごめんだ、と言おうとした白月だが、流星は更に言葉を続けた。
「それに、先王の遺言に示された次王が紫蛇様である以上、蛇祐様は正当な王ではない。つまり──」
貴方、と露草が止めようとするが、間に合わない。
「蛇祐様が言い渡した契約の破棄が、無効であると、私は先王の名にかけて申し立てます」
その瞬間。すっかり忘れていた音。胸の内の軛が己を縛る、ガシャンという硬質な音を、白月は聞いた。
全身が縛られる。龍に变化する自由が奪われたのが分かる。
白月の心を無視して、本能が──契約が脳に命令する。おまえは虹蛇王国に戻らなければならない、王国に仕えなければならないのだと。
「白月さん!」
ただならぬ様子の白月に、紫蛇が心配する声を上げるが、白月はすっかり青ざめ、ただ立ち尽くすしかできない。变化もできぬただの小娘となった白月を見て、彗は面白そうに笑った。
「おやおや」
心の底から憎ったらしい声だった。
龍に变化することができなくなった白月は、他の者達と一緒に彗の背に乗せられて地上に降りた。その間も白月は、文句を言い続けていた。
「龍を連れて還れば良いのなら、虹音で良いじゃないか。新たな龍の降臨、まさしく新王の権威を示すに相応しいよ」
必死に言い募る白月に、彗は含み笑いを漏らした。
「あいにく、虹音は長老が手放さないだろうねぇ。無理に連れて行こうとすれば、長老と戦う羽目になるよ」
長老は虹音を文字通り掌中の珠のごとく掌の上で遊ばせ、とうてい手放す気などなさそうだった。虹音は置いてくるしかなかったのだ。
そして、否が応でも、契約に縛られた白月の本能は、虹蛇王国に帰ることを自身に課していた。だが、白月の意思は激しくそれを拒絶し、理性は危険を知らせる警鐘を鳴らし続けていたのだった。
そんな白月を、紫蛇は気遣わしげに見る。が、白月は紫蛇に目を向けない。──この優しい少年に、おまえのせいだと責めてしまいそうな自分が嫌だった。
やがて彗は虹蛇王国の上空に至った。国境を守る兵士たちは、泡を食って混乱した。
「『砂漠の魔龍』か!?」
「いや、色が違うぞ。『砂漠の魔龍』は真珠色、あれは黄金色をしている!」
「何をしている、とにかく射てぇい!!」
やがて、統率を取り戻した彼らは矢を射掛けてきたが、彗の防御魔法はなんなくそれを弾く。
そのまま、彗は王城へと一直線に飛行する。
王城の前の広場に降り立ち、白月達を降ろしたら、
「じゃあね、健闘を祈るよ」
と言ってすぐに飛び去ってしまった。
後に残された一行に、兵士たちが飛んできて剣を向ける。だが、流星はそれを一喝した。
「騎士団長、鷹尾流星、先王の命により使命を果たし、只今帰還した! 我らを玉座の間に案内せよ!」
「団長!」
「流星様!!」
流星は兵士たちに慕われているらしい。次々と兵士たちが武装を解除し、次々と駆け寄ってくる。
「玉座の間にお触れを! 流星様が戻られたぞ!!」
白月は懐かしい──とはとても言えない、嫌な思い出ばかりが残る王城の廊下を歩く。やがて、白月が断罪されたあの場所、王座の間に着いた。
玉座の間では、ちょうど重要な会議が行われていたらしく、重臣たちが集まっていた。その半数が見覚えのない顔で、良識派と言われていた重臣たちの姿が消えているのを、白月は見て取った。
重臣たちは皆、死んだはずの流星の帰還に目を丸くしている。
「鷹尾流星、死んだのではなかったのか」
「龍宮家の、龍の娘も一緒だぞ」
その中で唯一、顔色を買えなかったのが蛇祐だった。蛇祐は玉座の間に座り、一行を睥睨した。
「久しいな、鷹尾流星よ。生きていて何よりだが──長きに渡り職務を放棄し、行方をくらましていたそなたが、なぜ今頃になって戻ってきた」
「それはあなたが何よりご存知のはず──この、先王より預かりし遺言状を今こそ執行すべく、正当なる王位継承者をお連れしました!」
流星が掲げた封書には、たしかに先王の印と直筆。重臣たちがざわめいた。
「あなたはこの遺言状の存在を知りながら、この私ごと抹消しようとなされた。ですが、今こそ私は帰還しました。──そしてこの方が、正当なる王位継承者、紫蛇様です!」
担ぎ出された紫蛇は青ざめ、今にも震えそうな脚を奮って立っている。
白月は──そっぽを向いた。こと今に至っても、関わり合いになりたくなかった。
重臣たちはざわめくが、蛇祐は歯牙にもかけない。
「私がおまえごと遺言状を抹消しようとした、だと? 何か証拠でもあるのか?」
流星はぐっと詰まる。蛇祐は続ける。
「なるほど、それは確かに先王の遺した遺言状なのだろう。が、こと今に至っては、王に即位したのは私だ。コロコロと王を変えていては、諸外国にも示しがつかん。私が──私こそ、正当な王だ」
その言葉には一理あり、重臣たちは、どちらに就くべきか悩み、顔を見合わせている。流星の騎士団や兵士たちへの影響力は無視できない。が、今玉座に座っているのは間違いなく蛇祐である。それに──流星が連れてきた小さな少年は、明らかに無力で怯えているように見えた。
「決着は、古来より定められし方式で決めましょう」
「ほう? 寡聞にして知らぬが、それはどのような方法なのだ」
「二人の王位継承者による、決闘です」
そっぽを向いていた白月は、思わず目を見開いた。
蛇祐と紫蛇。体格に差がありすぎる。勝敗はあまりにも明白だった。
蛇祐もそう思ったのだろう。呵呵と笑う。
「いいだろう。──では、決闘により王を決めることとする。古来より定められし方法となれば、何かと作法があろう、文官に調べさせる。そしてそうだな、貴族たちや国民にも広く決闘を見せつける必要がある。準備が必要だ。勝負は一週間後だ」
「それでよいでしょう」
「そして、唯一褒めてやるぞ、鷹尾流星よ。よくぞ、龍の娘を連れ帰った。──女官長。龍の娘をお連れせよ。今や賓客だ。『丁重に遇せよ』」
「かしこまりまして」
と王に応じてそう言う声に聞き覚えがあり、白月は背筋が粟立った。
玉座の間の隅に控えていた女官長が顔を上げれば、その頬に醜い蚯蚓腫れのような『偽』の文字。それは──空見不知火だった。
爪が食い込むほどの力で不知火に腕を捕まれ、引きずられて行かれる白月の背に、
「白月さん!」
と紫蛇の心配する声がかけられたが、振り返る余裕はなかった。
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