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#4 冒険者ギルドと不穏の予兆

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 やっとの思いで、『亜精霊の森』から抜ける事ができたフォルティナと久遠が疲れを取ろうと眠りに着いた後の事。

〈──規定条件をクリア。マスター:フォルティナの魂に刻まれていた既存のスキルやステータスを確認…………修正点多数……ステータスの編集を実行します〉

 森の入口付近で眠る少女に付与されたスキル『エア』は、ただ無機質に広がる空間で一人、目の前に展開されているステータス値を弄っていた。

〈レベル、HP、MP、STR、DEF、MSTR、MDEF、INT、AGI、LUK………LPとAP・・・・・の値を現世での平均値へと改良…………成功、適正値へと変更しました。続いて既存スキルの削除、及び改良を開始………………〉

 膨大な量のデータを処理し、編集する。この《グランティア》の創世神『ステラ・・・・・・・フィール』・・・・・に依って与えられた権限を、主人マスターのこれからの為にと全力で次々と添削をしていくのだった。

◇◇◇◇◇

「ん、んん~~!!」
 何事も無く無事に朝を迎え、起きたばかりのフォルティナは軽く伸びをし、辺りを見回した。何処までも広がっている様な草原しか視界に映らないが。

「かぁ……あふ。主様、今日はどうするんじゃ?街の様なモノは見えんが……行き当たりばったりで探す訳では無いのじゃろう?」
 朱と金色の模様が拵えられている着物を身に纏った久遠は、欠伸をしながらフォルティナに目標をいた。

「……うん、そのつもり。だけど当てもないしなぁ………ん?」
「なんじゃ、急に1箇所なんぞ見つめて……おお?」
 フォルティナがどうするか考えながら視線を外した途端視界の中心、それも大分遠目に角が四本生えた牛の様なモノ……所謂いわゆる、バイソンに近い見た目をした、遠目でははっきりとは分からないが全長凡そ、三メートルにいくかいかないかの茶黒の魔物がその赤い双眸をフォルティナ達に向けていた。

「あれ、何?テレビとかで見たバイソンみたいな見た目なんだけど……やけに大きくない?しかもこっちガッツリ見てるし……」
 フォルティナは警戒をしながら、何も無い空間から愛刀の〈八神魂之神ヤツカミタマノカミ〉を取り出し、鯉口を切り戦闘態勢に入る。

『ブオオォォォ!!!』
 それが合図だったかの様に、バイソン似の魔物は大きな雄叫びを上げ、その四本の角をフォルティナ達に向け、突進してきた。

「……くっ!?」
 フォルティナは森にいた魔物と同じ様にいなしながら戦おうとしていたが、自身の身体が『亜精霊の森』の中の時の様に動かない事に顔をしかめる。

「ほれほれ、どうした?主よ。黒龍と戦った時の様に動かんと倒せんぞ?」
「いや、久遠も手伝ってよ!?」
 コロコロと喉を鳴らし笑いながら言う久遠に、バイソンの攻撃を愛刀で攻撃を受け流し、斬る。それを繰り返しながらそう言った。

「その程度の奴、仕留めるのに時間など掛からんじゃろうて」
「久遠なら知ってるでしょうに!森の外に出たらステータスが『グランティアこっち』仕様になるって!」
 久遠の言った言葉に視線だけを移し、そう言うと面倒臭そうに溜め息を吐いた久遠は何か呟くと、久遠から伸びた影が魔物を拘束する。

「『シャドウバインド』………これでいいじゃろう?これ以上は主の為にもならんし、何より面倒臭い」
「ええ、ありがとう!これなら……シッ!!」
 久遠のそんな態度にイラッとしながらも、礼を述べると一度息を吐き、刀を袈裟に薙ぐ。
 すると、魔物の首があっさりと落ちそのまま横に倒れた。

「ふう、いきなりこんな魔物が出るなんて……この世界ってこれが普通なの?」
「ん?いや、こやつは違うのぉ……ほれ、見てみ。これは『狂化の呪い』じゃな」
 フォルティナが呟くと聞こえたのか、久遠が答えた。それを聞き、『鑑定』をしてみるとたしかに、魔物は呪いにかかっていた。

「『グレートバイソン』……あれ?さっきまではレベルが七十九だったのに今は十一になってる……これも『狂化の呪い』の所為?」
「そんな筈はないが……ふむ、たしかに異常じゃな……『狂化の呪い』にレベルを上げる効果など無かったはずじゃが……」
 久遠も原因が分からずにいたようなのので、取り敢えず今はこのことは保留にし、付近の街に行くことにしたのだった。

「そうじゃ主、ステータスを確認せんでええのか?」
「あ、そうね。何が使えて、何が使えなくなってるかくらいは把握しておかないとね」
 久遠の言葉に心の中で『ステータス』と唱えると、フォルティナの目の前に半透明な様々な文字が書かれた板が出現し、それを確認する。

『名前:フォルティナ Lv21 性別:女性
職業ジョブ:魔剣士 サブ職業ジョブ:召喚士

 HP:850/850 MP:2097/2097
 LP:1000/1000 AP:19800/19800
 STR:562 MSTR:903
 DEF:800 MDEF:899
 AGI:340 INT:507
 LUK:478

 スキル:職業変更ジョブチェンジ、鑑定Lv6、禁忌聖典アカシックレコード、魔法の心得、剣術の心得、精霊召喚、天魔召喚、武器複製Lv8、言語補正(隠蔽中)、神姫の型(隠蔽中)、アイテムボックスLv10、真祖還り(使用不可)

 称号:〈創世神〉ステラフィールの寵愛(隠蔽中)、クロノアの寵愛、転生者(隠蔽中)、天魔族の主(隠蔽中)、久遠クオンの主、熟練の剣士、数多の剣を修める者(隠蔽中)

 《神外神技デウス》─〈叡智神エア

 《理外術式マギア》─〈大罪化〉(一部封印)
 使用可能:〈傲慢(封印中)〉〈憤怒(封印中)〉〈嫉妬〉〈強欲(封印中)〉〈怠惰(封印中)〉〈暴食〉〈色欲(封印中)〉』

 ……と、なっていた。
「これ、この世界的にはどうなの……?」
 フォルティナはスキル等に対し、苦笑しながら久遠に訊ねた……勿論、精一杯の笑顔だ。

「ふむ……MP魔力量はだいぶ高めになっておるくらいでそこまで異常な値では無いのう。あ、《神外神技デウス》や《理外術式マギア》は流石にやりすぎだがのう」
 最初は真面目に答えていたかと思えば後半になるにつれて笑いを堪えながらの返答になっていた。

「それに、この『LP』と『AP』って言うのは?」
「んむ?『LP』は『LPライフポイント』と言って、『HP』が0になった後攻撃を受けると減少する値じゃな。これが0になると死ぬ。簡単に言えば『LP』が本体で、『HP』が『鎧の様なモノ』じゃな」
「んー、完全に理解は出来なかったけどなんとなくは分かったかな。じゃあ『AP』は?」

「『APアストラルポイント』……《理外術式マギア》の使用に依る《カルマ》の値の増加を立て替える物じゃな。勿論、《理外術式マギア》を持っていなければ表示されんがな」
「へぇ……てか久遠、流石に詳し過ぎない?」
 久遠の説明を聞きながら感じた疑問を問うフォルティナ。

「まあ……妾は一応《神外神技デウス》であり、《理外術式マギア》でもあるからのう。世界のことわりに干渉し、知識を盗み見ることなぞ造作もないわ」
 久遠はフォルティナの質問に最初は茶化すかの様な話し方をしていたが、後半はまるでカンニングをした事を自慢するかの様な感じになっていった。

「……もう驚かないからね……。と言うか、この『称号』欄にあるクロノアの寵愛って何?」
「む?ほう、クロノアからも愛されておったとはのう!」
 フォルティナが『称号』にある名前について訊くと可笑しそうに笑っていた。一頻り笑った後、一息着いてから質問に答え始めた。

「クロノアはこの世界の創世神『ステラフィール』に次ぐ〈管理神〉での、世界の均衡を保つ役割を担っておる。妾も『ステラフィールあやつ』経由でクロノアには会った事があったが……おおそうじゃ、丁度主様と同じ髪色と足元まで伸びた髪が特徴的だったのう」
 久遠はそこまで言うと懐かしそうに目を瞑っていた。

「成程……て、じゃあ私ってそんな神様達に見られてるってこと!?」
 納得したと呟くと同時にそんな考えになったフォルティナは慌てて辺りを見回す。
「いや、クロノア達もそこまで暇ではないじゃろう。さて、そろそろ街に向けて進むかのう?」

「あ、うん。そうね……日が沈む前に着くといいけど……」
 久遠はそう言い、フォルティナも同意し少し荒い道を歩き街に向かうことにした。

◇◇◇◇◇

 淡々と歩みを進め、早五十分が経った頃。フォルティナは転生後初の街の入口で呆気に取られていた。
「此処が街かな?」
「うむ、『ティアノート王国』の南にある〈ライア〉と言う街でそこそこ大きい街らしいのぅ」
 久遠は盗み見た知識でそう答える。

「へぇ……ま、取り敢えず入ろっか……あれ?久遠、どうしたのその姿!?」
 それを聞いた後、久遠の方を向き異変に気付いた。久遠が居たはずの場所には光の球体に二対についの羽根が生えた物が居た。

『いや何、この国では獣人は大々的には認知されておらんようじゃし、騒ぎになると主様が困るじゃろう?この姿でも一応少しは能力やらが使えるし問題なかろう』
「久遠……まだ森で騎士達に言われてた事を気にしてたのね……」

 昨日の事をまだ引き摺っている久遠に呆れながらも、検問の様子を同じ列の後方から見る。

「ねえ、久遠?こうゆうのって通行税みたいなのかかったりする?お金の単価とかイマイチ理解できてないんだけど」
『ん?基本的には銅貨→銀貨→金貨→大銀貨→大金貨じゃな。銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚、金貨百枚で大銀貨一枚、大銀貨百枚で大金貨一枚と言った感じじゃ。平均的な月の生活費としては銀貨十二枚と言ったところじゃの』

(ふむ……銀貨十二枚が一ヶ月の生活費……銅貨一枚百円ってところかな……て事はアイテムボックスに入ってた硬貨袋に金貨五枚入ってたけど……て事は五百万円相当!?)
 『ステラフィール』がアイテムボックスに入れてくれたあまりの金額にフォルティナは袋を持つ手が震えるのだった。

◇◇◇◇◇

 『ステラフィール』からの贈り物・・・によって無事、〈ライア〉に入れたフォルティナ達は一先ずこの街の冒険者ギルドへ登録しに行く事にした。

「冒険者って言葉だけでもワクワクするね!やっぱり酒場みたいな感じなのかな?!」
 前世では小説やゲームでしか冒険者を知らなかったフォルティナは言葉の通り、生まれて初めての冒険者ギルドへの想像でテンションが上がりっぱなしだった。

『主様、そんなにハイテンションにならんでもいいんじゃないかのう?何処も同じ感じだと思うぞ?』
 光の球体の様なフォルムの久遠がそんなフォルティナに注意をする。

「……だって前世でだって『LEOゲーム』でしか冒険者ギルドを知る機会がなかったんだもん……あ!」
 そんな会話をしていると、目の前には二階建ての巨大な建物があるのが分かった。看板を読むとそれには『冒険者ギルド』の文字があった。

 フォルティナは扉を開けるとギルド内にいた一部の冒険者がフォルティナの方を見た。女も男も、フォルティナの容姿に惹かれ、見蕩れていた。フォルティナはそんな視線に気付きもせず、カウンターへと向かうと受付の女性に話しかけた。

「すみません、冒険者の登録に来たんですが此処で合ってます?」
「え、ええ、登録ですね。ちょっと待っていて下さい」
 受付の女性はフォルティナの装備に少し驚いた様子を見せ、気を取り直してからそう言うと、カウンター奥の小部屋に入って行った。

 少しすると背後からやや痩せぎすの男と身長が二メートル近くある大男が、小馬鹿にする様に声を掛けてきた。
「お嬢ちゃんみたいなのが冒険者?危ないからお家に帰ろうな?」
「此処はガキが来る様な場所じゃねぇ。そんな舐めた装備で何ができるってんだ?」

「御心配無く、これでもそこそこ戦えるつもりです」
 フォルティナは可能な限り相手を挑発しない様に話すが、逆にそれが癪に触ったようで、怒鳴り始めた。

「ああ!?俺等が注意してやってんだ、大人しく言う事聞いて帰れ!」
「お待たせしまし……た?え……っと、どうしたんです?」
 その大声が聞こえたのか、書類を持ちながら先程の女性が声を掛けてきた。

「いえ?なんでもありません。これに書けばいいんですか?」
 フォルティナは大男の怒鳴り声にも耳を傾けず、女性に質問をした。

「おい!何シカトしてやがる!?ぶっ殺すぞ!」
「どうやら痛い目を見ないと分からないらしいなぁ?!」
 しかし、余計に怒りをあらわにした冒険者二人は遂には武器を構え始め、今にも斬りかかりそうだった。その様子に最初は笑っていた冒険者達も多少の焦り始めた。

「ちょっ、此処での私闘は止めてください!冒険者の権利剥奪だけでは済みませんよ!?」
 流石に危険だと判断した受付の女性は諌めようとするが、時すでに遅し。勢いを付けハルバードを振り下ろす大男。フォルティナはそれに対し見向きもせずに書類に名前や年齢等を書いていく。

「危ない!」
 受付の女性が叫んだが、ハルバードはフォルティナに当たる事は無かった。

「はぁ……静かにして貰えます?書いてるのが見えないんですか?」
 フォルティナは愛刀の鍔で軽々と封殺していた。
 それに大男の表情は感じたことが無いほどの恐怖に染められる事になる。見た事も無い程に大きな威圧に気圧され、まともに立っているのが難しくなり遂には、腰を抜かしてしまった。

「さて、書き終わりました!」
「え……あ、はい」
 圧倒的な身長差にも臆せず、いとも容易く制圧したフォルティナに呆気に取られ間の抜けた返事しか出来なかった。

「えーと……はい、これで大丈夫です。……では、此方をどうぞ……あれ?」
「おう、この惨状は嬢ちゃんの仕業か?」
 受付の女性が銅で出来たプレートをフォルティナに渡そうとした……が、横から先程の冒険者よりも大柄の、胸元と左目に裂傷痕が目立つ男が警戒を隠すこと無く話しかけてくる。

「ぎ、ギルドマスター!?」
「よお、何やら下からとんでもねぇ威圧とやかましい声が聞こえてきたもんでな、何事かと思って降りてきてみればもう終わった後じゃねえか」
 ギルドマスターと呼ばれた男はフォルティナと絡んできた冒険者を交互に見ながら、呆れた様な声で言った。

「一応こんなのでもCランクでな、しかもそいつ等が勝手に売った喧嘩で相手、それも子供に返り討ちにあったってんじゃあ示しがつかねぇ」
「え……と、つまり?」
 フォルティナはギルドマスターの言いたいことが理解出来わからず、思わず聞き返す。受付の女性は呆れた様子で溜め息を吐き、他の冒険者達も「またか」と言う様に苦笑していた。

「要は、俺とろうぜ!!」
 ガッツポーズをしながらいい笑顔でそう言った。
「はぁ、まあ良いですけど……ルールはどうしますか?」
 フォルティナは渋々した様子でそれを承諾し、ルールと言うよりも『何処までの範囲なら大丈夫か』を尋ねた。

「いや、他所よそのギルドでもそうだが、訓練場には〈不死の加護〉によって護られてるから武器は何でもいいし、魔法も使ってもらって構わん。どちらにしろコレは私闘だからな、万が一死んだとしても自己責任だ」
 と、ギルドマスターはガハハと笑いながら言った。

(いや、自己責任とか言ってるのに拒否権ほぼ無いじゃん!)
 相手はこのギルドのギルドマスターだ。万が一にも決闘(本人は私闘だと言っているが)を断れば後々面倒を引き摺る事になるのは明白だった。なので、死なないと言うならとフォルティナは愛刀を出そうとしたが、装備それは次の言葉で中断せざるを得なくなった。

「あ、だが『概念干渉』や『事象改変』系のスキル、又はそれに準ずる武具だと普通に結界を貫通する事になるから注意してくれると助かる」

(あっぶねぇ!?〈八神魂之神〉でやるところだった!!)
 フォルティナは〈八神魂之神〉が使えなくなったので代わりとなる、暫く使われることのなかったもう一振の愛刀・・・・・・・を使うことにした。

「よし、取り敢えず行くか!」
 ギルドマスターはそう言うと受付の女性を連れ、カウンターから向かって左側にある出入口に向かって行く。それに続くようにしてフォルティナも付いて行った。

◇◇◇◇◇

「へぇ……確かに凄い魔力の渦が訓練場ここを囲んでますね」
 訓練場に入ってまず驚いたのは結界だ。
 フォルティナの予想を上回る魔力に依って構成された結界は訓練場をドーム状に囲んでいた。

「ほう?結界コレが分かるか。こりゃあ、評価を上に上げないとなぁ?」
 そう言いながら虚空から・・・・一本の大剣を取り出した。
 それは剥き身の大剣で、全体的に黒くシンプルではあるが、一切の無駄が無い洗練された外見をしていた。

「なかなかいい物をお持ちで」
 フォルティナも腰に携えた刀を構えた。
 これで、両者決闘の準備が整ったことになる。あとは開始の合図を待つだけだ。

「では、これより〈ライア〉ギルドマスター、ギルバード・アストラ対フォルティナの決闘を開始します!ルールは一本勝負。降参、しくは戦闘続行不能となった場合、又は《概念干渉》、《事象改変》等のスキルや武具を使用した者の敗北となります。尚、これは私闘となります。報酬等はありません。それでは……─始め!」
 審判は勿論、先程の受付の女性だ。ルール説明が終わり、開始の合図が出された瞬間、お互い剣を構え攻撃に転じる。

「うおおぉぉ!!」
「ふっ!!」
 ガィィィィン!!!!と鈍重な音が訓練場に響き、初手で鍔迫り合いとなる。ギルバードは持ち前の圧倒的な筋力による力技で、フォルティナは前世から培った・・・・・・・剣技で・・・お互いぶつかり合う。
 暫くそのまま睨み合うと、両者少し下がり、又ぶつかる。今度は若干フォルティナの攻撃が速く、ギルバードを押す形となる。

 いつの間にか集まった観客野次馬が手に汗握るその戦いに息を飲んだ。
 ほぼ互角。力対技のぶつかり合いで決め手に欠けた戦闘を続ける。其れを約五分続けると、ギルバードが言った。

「お互い、様子見はここまでにするとしようか。ここからは俺の全力をぶつける!受けてみよ」
 そう言うとギルバードが持つ大剣が淡く光る。スキル発動の兆候だ。
 ギルバードはその後フォルティナの方へ駆け出し、高くジャンプすると大剣を振り上げ、下ろした。

「〈グランドクラッシュ〉!!!」
 フォルティナはそれを確認し、ある技を使用する。

「──神楽坂神明流秘術・心眼!」
 すると、フォルティナの視界には景色がスロー・・・・・・モーション・・・・・となって映る。
 神楽坂神明流とは、フォルティナの前世……つまり、神楽坂瞬人はやと出会った頃、実家の道場で祖父に教わっていたモノである。
 神楽坂神明流は、剣術、槍術、短剣術、弓術、格闘術、秘術の内の秘術を除く五種を道場で教えていた。
 秘術と言われるだけあり、神楽坂家の正統な血筋にのみ教えられる技能であり、歴史そのものだ。

 そして、今使ったのは秘術の中でも『心眼』や『第六感』と呼ばれるモノで、意識を一時的に空気や自然と一体化し、様々な恩恵を授かるというモノだった。

「おらぁぁ!!」
ギルバードは〈グランドクラッシュ〉のスキルを発動したまま振り下ろした大剣に力を更に込める。

「……ふっ!!」
 然し『心眼』を使用したフォルティナには当たらなかった。愛刀を斜に構え、攻撃を受け流しその勢いで横薙に斬る。
 本来であればこれで上半身と下半身は泣き別れするところだが、訓練場ここの結界〈不死の加護〉に拠って死ぬことは無い。
 では、どうやって勝敗を判断するか……それは、意識の喪失等だ。

「……え?あ……勝者、フォルティナ!!」
 審判を引き受けていた、受付の女性はあまりの出来事に一瞬呆気に取られ、すぐに今の状況から勝者の名を声に出した。それと同時にこの戦いを見ていた冒険者という名の野次馬達は一斉に歓声を上げ、此度の決闘(ほぼ一方的な私闘)はフォルティナの勝利で終わったのだった。

 ──神楽坂神明流には二つの型が存在する。一つは〈天の型〉、もう一つは〈地の型〉と言うモノだ。因みに決闘中にフォルティナが使用した『秘術・心眼』は〈天の型〉に分類される。

 〈天の型〉は主に自身の身体能力を向上させる型で、〈地の型〉は自身の技量、力を武器に込め、相手を討つ型である。この二つの型は、神楽坂の血が流れている者にのみ使用が可能とされていた。勿論〈地の型〉も同じだ。
 神楽坂の家は代々神を祀って来た正統な家系で、・・・・・・・産まれる子供は・・・・・・・ほぼ全員が・・・・・神に近しい力を・・・・・・・持って産まれる・・・・・・・
 
 話が脱線したが、その力を『ステラフィール』は元の世界の神と交渉し、フォルティナに継承することに成功した。然し、この話をフォルティナが知る事になるのはもう少し後になる。

「フォルティナさん、この後急ぎでなければギルドの応接室に来てくださいますか?」
 受付の女性は突然フォルティナにそう言った。それにフォルティナは少し考えた後了承し、女性について行った

◆◆◆◆◆

「はぁ、はぁ…………セナ、大丈夫?」
「うん………だいじょうぶだよ……おにいちゃん」
 燃え盛る町を駆ける少年と少女。両親や友は突如現れた影の様な黒い何か・・・・・・・・に殺され、二人だけとなってしまっていた。
 セナと呼ばれた少女は足がもつれながらも必死に後を追い掛ける。おにいちゃんと呼ばれていた少年は妹に心配をさせまいと必死に取り繕う。

 そうして町の外に出れる、とそう思い安堵したその時──。

「あっ………かはっ」
 少女は突如覚えた違和感に胸元を見る。そこには黒く鋭い何か・・が胸から生えるように飛び出していた。それを認識した途端、少女はあまりの苦痛に顔を歪め、口からは血を吐いた。

 少女の兄は後ろを振り返ると、妹の後ろに立つ黒い何かが居る事と、ソレが妹に爪を立て、胸部から貫いている所を見てしまった。

 黒い何かはその光景に顔と思われる部位を喜色に染め、今度は少女の首を掴んだ・・・・・
 それだけでこの後の事を想像してしまった兄は絶望と憤怒が綯い交ぜになり、無謀にも近くにあった枝を持ち、反撃しようと立ち向かって行った。が、もう既に遅く、少女の胴と首は離れてしまっていた。

「セ、ナ……あ、アァあァァァ!!!」
 少年は大事な、たった一人の家族を守れなかった事に絶望し、泣いた。それを満足気に見、黒い何かは現れた時の様に姿を消した。

──その後、火が高く舞う町には人が・・居なくなり、ゴーストタウンとなった。……そう、先程までいた少年の姿すらも・・・・・・・

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