上 下
46 / 48
適材適所

4

しおりを挟む
 武闘大会は予選で5回勝ち進めると、本選に進める。本選に進めるのは、16人。かなりの人数が出場しているため、その腕はピンからキリまでいる。その証拠に、ヴィディーレの一回戦は。

 「マジか!優勝候補にも挙げられてるAランクのヴィディーレ?!」

 と叫ぶ見るからに新人冒険者といったなりの少女。しかし、ラフェとは違ってすぐに思考を切り替えた彼女は、スピードを生かした戦法で短期決戦に持ち込もうとした。風魔法を使用して勢いよく突進してきた少女は。

 「いいね。先が楽しみだ」

 ニヤリと笑って呟いたヴィディーレにあっさり交わされた挙句、がら空きの胴に蹴りを叩き込まれて吹っ飛ぶ。そのまま目を回している最中に、首筋に剣を当てられ試合終了。

 二回戦は、構えも装備も上等で、中堅から上位の冒険者といった感じの男。しかし、一点、難があった。

 「ああ、ヴィディーレだ!ずっと憧れてたんです自分!こんな所で会えるなんて、握手してください!」
 「男に憧れられても微妙。つか、その前に試合に集中しろ馬鹿」

 目をキラキラと輝かせて突っ立っている内にヴィディーレに勢いよく剣の柄で殴られてKO。実に幸せそうな顔で卒倒したをみて、ヴィディーレの腕に鳥肌が立ったとか立たなかったとか。

 何はともあれ、三回戦。

 今度はまともな奴が出て来いよ、とげんなりしつつ会場に向かった先で。ヴィディーレは目を見開いた。その先に居たのは。

 「アンタ、センシアか!」
 「おうよ。久しいなヴィディーレ」

 ウヌスの街で出会った壮年の重装備冒険者。よく日に焼けた強面の顔に笑みを浮かべ、立派な鎧をまとって立っていた。盛り上がりと共に湧き上がる歓声の中、歩み寄って握手する。

 「驚いた。俺たちよりもよっぽど先に出立してたし、こんな所であうなんて思いもしなかった」
 「近くに寄ったもんでな。ここの武闘大会は有名だし、腕試しに参加したんだ。お前さんの名前はそこら中で聞いてるぞ」
 「……やめてくれ気恥ずかしい」
 「ちなみに、俺もお前に賭けた」
 「そこは自分に賭けろおっさん。負ける前提か」

 茶目っ気たっぷりに揶揄われ、がっくりと項垂れる。早くも精神的ダメージを負った気分である。やれやれと体を伸ばし、柄に手を添える。すっと体の前に大盾を構えたセンシアも、楽し気な笑みを一瞬のぞかせたのち、びりびりと気迫に満ちた顔付きになる。じりりと腰を落とし、ヴィディーレは好戦的に笑う。

 「始め!」

 審判の声を皮切りに、ヴィディーレは一気に躍りかかった。これまではのらりくらりとデュランダルを振るっていたが、今回は思いきり切りかかれる。勢いに体重を乗せた重い剣を叩きつける。流石の反応速度で盾で防いだセンシアが、泳いだヴィディーレの躰めがけて剣を叩き落としてくる。咄嗟に後ろに飛び去って避けるが、一瞬の間をおいて服に一文字が。ヒューとヴィディーレは口笛を吹く。

 「流石!」
 「こんなもんじゃねぇだろ、小僧!来い!」

 誘われるままに飛び掛かる。切りかかり、防ぎ防がれ、体勢を崩しては隙を逃さない相手の剣が迫る。一進一退の攻防が続く。

 「逆巻け!」
 「なんの!」

 ヴィディーレの振るうデュランダルが、暴風を巻き起こし。センシアの掲げる盾が土の壁を作り出して跳ね除ける。鋭い風が土を巻き上げて吹き荒れ、周囲を切り裂いていく。すぐに収まった風を防ぎ切ったセンシアがニヤリと笑って盾から顔を出し。

 「?!」
 「わりぃなおっさん!後ろだ!」

 姿を消したヴィディーレに動揺して一瞬のスキが生じる。風によって注意を引き、同時に巻き起こした砂嵐に身を潜めて肉薄する。即座に反応したセンシアが盾を動かすも、間に合わない。ヒュン、と音を立ててデュランダルが首筋に突き付けられ。中途半端な体勢で動きを止めたセンシアが、目を見開いた後、苦笑した。

 ガラン、と音を立てて大盾と剣がその手から滑り落ち。

 「そこまで!勝者ヴィディーレ!」

 会場が歓声に揺れた。





 「かーっ!やっぱり強ぇなヴィディーレ」
 「アンタもな。流石につかれたぜ。楽しかったけど」
 「そりゃお互い様だな」

 次の試合に会場を譲り、二人は会場の通路の一角で腕を触れ合わせていた。双方ともに息を切らし、全身きり傷、打ち身だらけではあったが、心底楽しそうだ。そんな二人に恨めし気な視線が突き刺さる。

 「……おう、お前さんは剣の使い方を学んだら出直してきな。そしたらいくらでも相手してやる」
 「ちくしょう!ヴィディーレばっかりずりぃぞ!」
 「だから、お前はまず剣を振るえるようになってだな」

 ウルウルと涙目のラフェがセンシアに迫る。俺とも手合わせを!といいたいのが分かっているのだろう。堂々巡りの会話をしつつ、宥めようとしている。心が広い。ヴィディーレは近くにやってきたリートに一応視線を向けるが。

 「アレは病気だ」

 一言で一刀両断。静かに首を振る彼に苦笑する。そうだよなぁ、と思いつつ、センシアに縋り付くラフェをべりと引きはがす。センシアの仲間が彼を迎えに来たのが見えたからだ。

 「おっと。じゃあまたどこかで会ったら手合わせしようぜ」
 「こちらこそ頼む」
 「次は俺も!」
 「剣が振るえるようになってたらな」

 バッサリと切り捨ててセンシアは去っていった。打ちひしがれるラフェは放置して彼らを見送ると、リートとヴィディーレは連れ立って歩き出した。チラリと空を見上げるも、予定されている次の試合まではまだ時間がありそうだ。

 「さて、何処で時間を潰すか」
 「とりあえず腹減った。何か食おうぜ」
 「あ、じゃあこの前見つけた郷土料理屋行こうぜ。旨そうだった」
 「んじゃそこな。ついでに何処か武器屋見つけてデュランダルの手入れがしたい」
 「ならギルドに言って紹介してもらうか。ついでにクラウ・ソラスも見てもらえ」

 一通りの予定を立てつつ、ラフェの道案内で腹ごしらえに向かう。しかし、向かう先がどうも細く暗い道ばかりで、ヴィディーレが徐々に半眼になっていく。

 「おい、この道で大丈夫なのか?」
 「安心しろ。この男は道案内だけはマトモに出来る」
 「なんかとげのある保証の仕方だな?!道案内だけだと?!」
 「本当の事だろう」
 「リートがそう言うなら大丈夫か」
 「なんか扱いが雑?!」

 やいやいと騒ぎつつ、角を曲がろうとしたその時。ラフェとヴィディーレの体に緊張が走り、動きを止める。ぱっと同じ方向に顔を向け、まるで耳を澄ましているかのようだ。

 「どうした」
 「しっ!……おい、ヴィディーレ」
 「ああ。行くぞ!」

 チラリと視線を交えた二人が、ぱっと身を翻して小道の一本に飛び込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

英雄の詩

銀河ミヤイ
ファンタジー
 3年前、バルグーン王国を襲った魔王軍のアジトである魔王城に1人で向かい魔王サタンを撃破した英雄がいた。 彼の素顔は仮面に覆われて誰も知らない。通称仮面の騎士だ。  そして現在、国立バルグーン学園付属第一高校に入学した影野 光輝は、そこで王家出身のアリスと出会う。 毎週、日・水曜日絶賛更新中!!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

西向きの窓を開けて~六代帝の時代の女子留学生の前日譚

江戸川ばた散歩
ファンタジー
大陸が東側の「帝国」と、西側の「連合」に分かれている世界。 「帝国」六代皇帝の時代、はじめて女子の留学生が「連合」へ行くことになる。 境遇の違う三人の少女は直前の研修のために同居することとなるが、そこで事件は起こる。 少女達は全員無事「連合」へ行くことができるのか。

神守さんは苦労性で

色彩和
ファンタジー
「神守」——。それは、神様を守る役割を持つ者のこと。 神守の冷は三人の神様にお仕えするが、三者三様の個性を持つ神様に振り回されっぱなし。 そんな日常を描いたドタバタコメディをこっそりお届けします。

処理中です...