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旅は道連れ

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 どういうことだ、と問い詰めるものの、流石に魔獣の住まう森にこれ以上突っ立っている訳にはいかない、という至極真っ当な意見に促され、一旦街に戻る事になった一行。途中でまだ戦闘を行っていたグループを助けたり、逆に突然魔獣たちがいなくなったんだが、と首をひねっているグループを拾ったりしてウヌスに戻る。



―――――――――――



 疲れ切っている作戦参加者を歓声と共に受け入れた住人達とギルドは、労うために怪我の手当や食事を提供した。フラフラとそちらに流れて行きかけたリートだったが、それはそれはいい笑顔を浮かべたヴィディーレに引きずられ、インハーバーの部屋に向かう事になった。

 「まずはご苦労だったな」
 「ああ。なんか色んな意味で疲れた」

 労いの色をその隻眼に浮かべたインハーバーが声を掛けてくる。しれっとついてきたセンシアが、いたく疲れた様子でソファに埋もれる。その際チラリとリートの方を見る限り、戦闘よりも別の意味で疲れたのだろう。

 気持ちはよく分かる、と頷くヴィディーレとラフェとは対照的に不思議そうな顔をしたインハーバー。しかし、ギルマスとしての責任感か、先に報告をと促してきた。

 「おい、リート」
 「俺は疲れた。お前たちで報告しておけ」
 「分んねぇ事が山積みだからここまで引っ張ってきたんだろうが!責任者なら最後まで仕事しろこの鬼畜軍師!」

 気だるげに丸投げしようとするリートの耳元で叫ぶヴィディーレ。心底嫌そうな顔で耳に指を突っ込んでいたリートだったが、呆気にとられた顔をするインハーバーに加え、いい加減色々と話してほしいなと無言で訴えてくるセンシアの視線に負け、渋々口を開く。

 「とりあえず結論。おそらく今までの異常は解決したはずだ。暫く様子見をしなければ断定は出来ないがな」
 「そうか。助かった。結局何が原因だったんだ?」

 ほっとした様子で息をついた強面のギルドマスターは、顎髭を撫でつつ質問してきた。それだそれ、と息を合わせてリートに詰め寄るヴィディーレとセンシアに対し、いや何でお前たちも質問しているんだ、と顔を引きつらせているが。

 「喧しい。知りたいなら黙って聞いてろ馬鹿ども」

 グイっとヴィディーレの顔を押しのけながら毒を吐いたリートは、懐から布に包まれた小さな塊を取り出した。戦闘が終わった後に回収してきた蝙蝠の死骸である。

 「何だこりゃ。大きさからしてモモンガ?いや蝙蝠か?」
 「ザッツライト。おそらく蝙蝠だ。いい感じに焦げすぎてはっきりとは分からないがな」

 チラリとラフェを見やると、見事に視線が泳いでいた。闘いに転用するのに苦労するが、ひとたび放てば恐ろしい威力を発揮するすさまじい火力だ。

 「で?なんで蝙蝠って分かるんだ?」
 「可能性の一つとして想定していたからだ」

 指先でつまみ上げてまじまじと見つめているヴィディーレ。これの何処に蝙蝠要素が、と聞くとそんなのは知らんと返ってくる。

 「今回の件に関しては不可解な点が多すぎたからな。色々と仮説を立てた。その内の一つが、それだ」

 ぴん、と指先で蝙蝠の死骸をつつくリート。はらはらと灰が落ちてくるのを見たヴィディーレが慌てて机の上にそっと置く。

 「説明した通り、今回裏で糸を引いていたのは、精神干渉系の魔法を持つ魔獣だった」
 「おい、そこから聞きたいところだが」
 「あとでコイツ等から聞け。そこまで説明していたら俺の体力の方が先に尽きる」

 慌てて割り込んできたインハーバーだったが、ふんすと胸を張ったリートの前に撃沈する。万年インドア派の脆弱体力なめるなよ、と全く自慢にならない自慢を聞かされ、精神異常者をみるような目を向ける。

 「でだ。精神干渉系の魔法を使う魔獣をひたすら思い浮かべて言ったのだが、どうにもしっくりこない。精神干渉魔法の使い方がお粗末と言うか、そもそも、それだけ危険な奴にしては被害の規模も小さく、感知されていない。全部が全部AもしくはS認定されてるのに、ハッキリ言って大人しすぎる。それがきっかけだな」

 崩れかけの蝙蝠の遺骸をなお意地悪く突き続けるリート。流石に可哀想だとセンシアが微妙な顔で退避させる。

 「そこで発想を変えた。今回の件を引き起こしているのは、精神干渉魔法を使うと言われている魔獣、それ以外のヤツだと」

 「うん。全く意味が分からない」

 真っ先に笑顔で白旗を上げたのは勿論ラフェ。お前に期待していない、と容赦なく切って捨てられ肩を落としている。

 「つまり、未知の魔獣って事か?」
 「それも、感知がしずらい、もっと言うならば出来ない魔獣だ」
 「おい、それが本当ならSなんて可愛いものじゃないだろう」

 青ざめた顔でインハーバーが割り込むが、リートは首を振る。

 「その可能性もある。だが、その逆はどうだ」
 「逆?」
 「感知されないって事は、感知を妨害する、感知をやり過ごす、もしくは感知されない程に脆弱という事だ」

 ポカンとした表情で見つめてくる皆に、リートは指を立てて見せた。

 「今回戦闘に参加したもので最も感知に長けているであろう者を傍に置いた。ヤツは優秀だな。探索が楽になった。そして、そんな優秀な奴でも今回の黒幕を探知できなかった。奴ほど探知に長け、なおかつ経験豊富であれば、探知を誤魔化す何等かの仕掛けをしていれば、その痕跡に気付く。探知自体出来ずとも、出来ないという事を探知できる」

 実際、迷彩やジャミングなどの能力を持った魔物はきっちり補足されていたからな、と付け足され、言葉を失う。そうなると、探知されない状況の中で残る者は、探知する事が不可能なくらい弱い相手であるという事になる。

 分かりやすく言えば、どれ程目が良い人間でも、足元をうろつく極小のアリを意識せずに発見するのは難しいと言ったところか。

 「だから、魔獣としては弱いはずだ、と?」 
 「だが、それがどうつながる?」

 センシアとインハーバーまでもが身を乗り出してくる。ふむ、と指を顎に当てたリートはヴィディーレに視線を向けた。

 「ここでクエスチョン。特殊能力を持つ可能性がある弱い魔物を生み出す方法が一つ。それは何だ?」
 「は?」

 無茶難題に、ヴィディーレは間抜けな声を出す。すぐに様々思考するが、答えが出ない。インハーバーもセンシアも険しい顔で考え込んでいる。リートはため息をつき、ヒント、と呟いた。

 「生み出す方法と言っているだろう。魔獣とは言え生物。生み出すにはどうする」
 「どうするってそりゃ、生物って言えば生殖だが……」

 突然変異って事か?と首を傾げるがしっくりこない。煮詰まった状況を打破したのはまさかのラフェだった。きょとん、とした顔で突っ込ん出来たのだ。

 「魔獣っていったら魔素溜りじゃないのか?魔素溜りから魔獣は生まれるって聞いたけど?」
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