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旅は道連れ

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 ヴィディーレたちは森を駆けていた。索敵が得意な者とスピードを生かした奇襲が得意な者を先陣に、中間にリートとリートにピタリと寄り添うラフェ、火力に覚えがある実力者たちと続いていく。ヴィディーレもリートの近くに陣取り、舌を噛まないように気を付けつつ、気になっていた事を尋ねる事にした。

 「で?どうやって目的の場所を割り出したんだ?」

 すると、興味津々といった顔でセンシアが近づいてきた。リートを刺激しないが聞こえる範囲という絶妙な位置取りが憎い。茶目っ気っぷりにウインクしてくるセンシアに後で一発入れる、と決める。

 「簡単な話だ」

 一瞬煙に巻きたそうな顔をしたが、ヴィディーレの食い下がり方からそちらの方が面倒だろうと判断したのだろう。リートが慎重に口を開く。万年インドア派を誇張する彼の身体能力は人並み以下。下手をしたら馬の振動で舌を噛む。

 「事前に調査隊に渡していた信号弾は三色。とりあえず黄色は置いておいておく。あれは非常用だ。で、青が対処可能で、赤が対処困難。最初に赤を上げた、もしくは上げる間もなく退避してきたのは、弱い者達だ」

 改めて状況を整理する。ヴィディーレもその時の様子を思い返しつつ頷く。

 「で、先程の話になるが、弱い者達に対して森に入ってから小手調べの弱い連中の次に襲ってくるだろうと予想できるのは、高ランクの魔獣どもだ。つまり、青が上がった後に、赤が上がるまでの時間というのは、何等かの方法で小手調べの奴らが頭に情報を伝達し、高ランクの奴らを向かわせるのにかかった時間と言う訳だ」

 低ランクの奴らの頭に入っているのは、食う寝る生殖の三つと群れのボスに従うという本能だけだからな。そう言ったリートに、センシアが成程と唸った。

 「あらかじめ手駒にした小ボスに対し、子分を向かわせることと、弱いか強いかを報告するよう、命じるように指示していたと言う訳か」
 「ザッツライト。そして、まんまと罠にかかったやつらは、見事に高ランクの奴らを向かわせてきた。俺の予想が当たっていれば、高ランクの魔獣は基本的に拠点の近くをウロウロしているはずだ。つまり、連絡が来てから、拠点まで一直線に駆け抜けたということになる。そこに、やたらとワーウルフがうろついている事を考慮すれば、ワーウルフが伝達役として機能していると仮定でき、伝達時間に関してはほぼ無視していい。つまり、そこからある程度の距離が絞れる」

 ワーウルフの遠吠えは仲間との遠距離コミュニケーション。やたらとワーウルフの姿を見ると思っていたが、単に元の住処だったからだろうと決めつけていた。それが、使いかたによっては伝達手段として機能させられるとは。

 ヴィディーレは愕然とした。同じものを見ていても、視点を変えればここまで違うものが見えてくるのかと目から鱗である。センシアも、自信がなくなりそうだぜ、と器用に馬を操りながら両手を上げる。

 「距離が分かれば後は方角だ。作戦開始にあたり、全員に周知徹底したのは、魔獣がやってきた方角を確実に伝達してくる事。突然周囲を囲まれる事もあるだろうが、基本的には一定の方向から飛び出してくる。なので、退避してきた連中には直接方角を聞き、離れた場所で戦闘をしている奴らには、魔法か何かを使って襲ってきた方角を知らせるように指示した。それによって、地図上で方角を絞り込んでいけば、ある程度の場所が絞り込める」
 「……あとはその二つが重なる場所を求めれば、敵の拠点として考えうる優先ポイントとなるわけか」
 「ザッツライト。ある程度まで絞り込めば、後は索敵が得意な奴に探させるだけでいい。敵方も何等かの認識阻害を使っていれば面倒だが、そこらへんの幻術系と言われる部類は俺の専門分野。すぐにわかる。そうでなければ、高ランクの魔力垂れ流し野郎どもがたむろしているんだ。簡単にわかる」
 「おぉう」

 事もなげに言い放つが、中々無茶な事を言っている。探した方法も方法だ。もう少し確実な方法はないのか、と睨みつけるが下手に情報を渡して学習させたくないとリートがそっぽを向く。正確さと素早さが今回の鍵ってのはそういう事か、とセンシアも苦笑気味だ。

 ウオォーン。

 近くから遠くから、狼の遠吠えが聞こえる。ワーウルフだ。徐々にその遠吠えの数が増えていく。

 「ま、実際ワーウルフの遠吠えを使っているというのは間違いじゃなさそうだ。しかも、あちこちから聞こえてくるって事は」
 「奴らの拠点が近いという事か。全くこれで間違っていたらどうするつもりなのか」
 「そんなの決まっているだろう。一度撤退して、体勢を立て直し、情報を集めて、もう一度策を立てる。それだけだ」

 軍師は失敗して成長する生き物だ、と胸を張られ、センシアと顔を見合わせる。失敗されて被害を被るのは俺たちなのだが、という無言の抗議が伝わったのか、リートが鼻で嗤う。

 「いいか。戦場においては、頭と軍師が生きていれば敗北ではない。逆に、兵が生きていても頭と軍師が死ねばチェックメイトだ。つまり、俺が生きて成長すれば価値なのだ」

 なんとも理不尽な暴論である。俺何時かコイツに殺される、と幾度となく浮かぶ考えが再び浮かんでくる。どうしてくれよう、と考えたが、次の瞬間それどころではないとゴミ箱にその思考を捨てる。

 「発見!200メートル先、魔獣の群れ!高ランクばかりです!」

 索敵を任せていた者が密やかに叫び、一向は馬の足を緩めた。更に詳しい事を探ろうと、索敵に集中している彼を一瞥したリートが、ふむ、と顎に指をやり微笑んだ。

 「さて諸君。もう一度確認だ。現在我々は敵の懐に奇襲をかけようとしている。我々自体はマップの裏に描きつけた魔法陣を使って気配を消している為、奴らはまだ気づいていないはずだ。その上、グループを再編成し、大暴れする事で陽動としている。俺の指示に従って動いていれば、相当量の高ランクの魔獣をおびき寄せられているはずだ。つまり、最低限の護衛を侍らせた頭しかいないはずだ」
 「Aランク1。Bランク3。Cランク12。それ以下が何匹か、ですね」
 「了解。まぁ、及第点だろう」

 チラリとメンバーを見て頷く。AランクとBランクが面倒だが、Cランク以下であれば十分撃退できる戦力を連れて来ている。

 「どうする?AとBに人をさくか?」

 視線を向けられ、すっと目を閉じたリート。赤い舌が動き、チロリと唇を舐めた。

 「索敵。Aランクは何だ?」
 「……これは、ワイバーン?特徴的にはワイバーンだと。実際に遭遇したこと無いのでアレだけど」
 「……ディーレ君。君はドラゴンを引き寄せる何かを発しているのかね」
 「俺の所為か?!」

 ジト目でみられ、目を剥く。いや、確かに前回はギーヴルだの、クエレブレだのが出てきたが。いや、そう言えばアイツら分類的にはドラゴンだが。偶然巻き込まれているだけなのに、なぜか冤罪を着せられている。寧ろお前らじゃないのか、と噛みつこうとして止めた。どうせ倍になって帰ってくる。

 「戦場となる場所の様子は?」
 「小さな割れ目の様な洞窟がある岩がそびえてる。その前に拾い草地があって、魔獣たちがたむろっている状態だ」

 それを聞いて、ふむと考え込んでいたリートが、ニヤリと笑って顔を上げた。

 「それでは諸君。君たちお得意かつ大好物の、楽しい愉しい戦闘の開始だ。ぬかるなよ?」

 軍師は淡々と指示を出していく。指示を受けていく者たちが順々に顔を引きつらせていくが、ご愛嬌。ヴィディーレも容赦ない指示に、頭を抱えている。

 「キリキリ働いてくれ給え」

 実に楽しそうに笑う軍師。お前が闘えよと全員が叫ぼうとしたかは定かではない。
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