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旅は道連れ

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 「しかし、これで良かったのか?」

 ヴィディーレは周囲を警戒しつつ、リートに問いかけた。既に準備を終え、作戦を説明した後彼らは早速森に繰り出していた。街には必要最低限の戦力を護衛として残し、それ以外は全て戦力として投入している。

 近くにいるセンシアを始めとした同じチームの者達も同調した視線を向けてくる。意見は聞かないし説明も質問も受け付けない、と最初に宣言したリートは、その宣言の通り指示だけして皆を放り出した。

 是非とも理由が聞きたいが下手な事を言って追い出されたくもない、と顔に書いている彼らを代表して、ヴィディーレが問いかける事にしたのだ。

 「何がだ」
 「チーム分けだ。明らかに不自然だろう」

 リートが森にはなった冒険者のチームは全部で10。その内の4チームが初心者を始めとした低ランクの冒険者のみで構成されている。普段のパーティーは実力が近いものたちで集まる事を考えれば当たり前のことだが、このような場合ではフォローや護衛の意味も兼ねて高ランクと低ランクが入り混じる事が一般的だ。

 何を考えている、と尋ねられ、リートは鼻を鳴らした。

 「追い出すぞ」
 「したけりゃどうぞ。俺は貴重な戦力だろう。それよりも聞かせろ。これでは低ランクで集めた者達が危険だ。結構意見しようと言ってたヤツ多かったんだぞ。いくら街を守る為だって言っても、そいつら犠牲にしてまでやることかって」
 「全く喧しい奴らだ。人を何だと思っているのか」
 「リート」

 興味無さそうにそっぽを向く彼に詰め寄るが、一切口を利く様子もない。流石の態度に、リートに対する視線が厳しい。フォローのしようがないだろう、と頭を抱えていたその時だった。

 「左手で青の信号弾!」

 周囲を警戒していた者の一人が鋭い声で報告してきた。パッとそちらを見上げると、空に青の霞が揺らめいていた。

 「始まったか」

 リートがぼそりと呟き、視線を前に戻した。その纏う空気が一段と張り詰める。これは敵とエンゲージしたという知らせ。闘いが始まったのだ。

 次々に左右の両方から信号弾があがり、リートはその度に時計を見つつ何事かを地図に書き込んでいた。真剣に考え込んでいる様子に追求は不可能か、とヴィディーレは諦めた。ラフェは変わらず苦笑するだけ。

 「お前も良く付き合っていられるな」
 「最初はお前みたいにカリカリしてたけどな。結局諦めた。どうせこいつがやる事に意味無い事なんてないし、俺らが考えている事はとっくに考えて計算に組み込み済みって嫌でも理解させられてきたからな」

 ニヤリと笑われ、ヴィディーレは黙り込む。頭の切れるリートが不慣れな者が危険であることを想定していないはずがない、だとすれば何かしらの意味があるのだ、と言外に窘められため息をつく。

 「ま、頭で理解していても、感情は別ってのはよく分かるけどな」
 「つくづくいいコンビだよお前らは」

 同情に満ちた瞳を向けられ、乾いた笑みを零したその時だった。

 「左方で赤の信号弾!方向的に最初のチームか?!」
 「……来たか」

 緊張に張り詰めた声が響き、全員の体に緊張が走った。仲間の身を案じる皆のなかで、一人零した者がいる。リートだ。ちらりと時計に視線を落とし、地図に書き込んだ。その手が先程よりもさらに早く動き出す。

 「おい、軍師!助けに行かなくていいのか?!」
 「流石にマズいだろう!」

 血相を変えて叫ぶ冒険者たち。さもありなん、先程の青の信号の意味は敵とエンゲージ、力量差は同じかこちらが上なので問題ない、というもの。その一方で、赤の信号の意味は、敵とエンゲージ、力量は相手の方が上、というもの。要するに、仲間が危険という事だ。焦るのは無理もない。

 しかし、リートは全く動じることなく、むしろ面倒そうな表情で彼らを一瞥し、煩いと吐き捨てただけだった。

 「何だと?」
 「喧しいと言っているだろうが。そんなに喚かなくても聞こえているし、問題はない」

 そう言った瞬間だった。近くで魔法の反応がしたかと思うと、突如何人もの人影が現れたのだ。ぱっと反応した冒険者達が武器を向けるが、すぐに驚愕に顔を歪めてそれをおろした。

 現れたのは、今回作戦に参加している者達で、弱いもので固められたグループの者だ地だったのだ。息切れし、人によっては傷を負っている様子を見たリートが、愚か者どもめ、と冷やかに吐き捨てた。

 「どういうことだリート」
 「ああもう煩い。言っただろう問題は無いと。そいつら弱いグループには事前に転移魔方陣を記した紙を渡しておいたのさ。おそらく、最初にエンカウントする魔獣連中はさほど強くない奴らだろう。しかし、その次からは保証しないから的確な状況判断で躊躇いなく使えと言っておいたというのに」

 クシャリ、と流れ落ちてきた前髪を握りしめ、リートは睨みつけた。

 「どうしてさっさと使わなかった馬鹿ども。死にたいのか」

 叱責された彼らは罰が悪いのか、もごもごと何かしらを呟きつつ誤っている。不慣れな冒険者によくある判断ミスと言ったところか。冷ややかに睨みつける彼を、冒険者達が驚いた顔で見つめていた。 

 「転移魔方陣なんてどうやって用意したんだ?」
 「空関係の魔法なんて、系統外魔法の中でも特に習得困難と言われている部類だろう?一体どうやって」

 火、水、土、。これら五つが一般的に使われる魔法で、一番使い手が多い属性。しかし、その枠を超えた魔法も存在する。それらはまとめて属性外魔法と呼ばれ、空間魔法もその一つ。使い手が滅多にいない希少魔法である。

 ソレを魔法陣とは言え用意していた事自体があり得ない。しかし、当の本人は至ってケロリとしたもので。

 「偶々空間魔法の魔法陣を知っていたから書き起こしただけだ」
 「……コイツの頭どうなってやがる」

 ヴィディーレは久々に戦慄を禁じえなかった。言うは簡単だが、出来るかと言われたらできる人間の方が少ない作業だ。何せ、魔法は元々本人の魔力を元にイメージを現実化するもの。魔法陣なんていう無機物を使って発動させることがどれほど困難か。

 流通しているものは全て属性魔法。感覚的に使いやすいから使われているだけで、系統外魔法を魔法陣にして使うなんていう無茶苦茶を考え、あまつさえ実行する人間など皆無だろう。しかも、誰かが使っていた魔法を概念的に書き起こすだけではなく、誰もが使えるように書き換えているとしたら、もはや可能なのかすら危うい。

 頭の内部に限っては規格外なのは知っていたが、と呆然としていたが、それどころではなかった。次々に赤の信号が上がったかと思うと、転移してくる者達が現れたのだ。

 「ふむ」

 それを見て、時折質問を投げかけつつ地図に書き込み続けたリート。すぐにピタリとそのペンが止まって、天を仰いだ。

 「これで確実、か。やっと見つけたぞ」

 一人ごちると、すっと手を伸ばしパンっと打ち付け皆の注目を引く。全員の視線が集まったのを確認して、彼はあっさり言い放った。

 「ここからが本番だ。反撃に出るぞ。この茶番、さっさと終わらせてやる」
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