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旅は道連れ

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 老人はセネクスと名乗った。襲われてから間もない為、先ずは体力と気力を回復させるべきだというリートの判断で、少し移動した場所に腰を落ち着ける事にした。




 「何だったらあの場所で休むか、いっそのこと一気に街に戻りたかったのだがな」
 「耄碌したかジジイ。あの血生臭い場所では休憩にならんし、下手したら別の獣や魔獣を呼び寄せるだろうが。また戦闘を体験したいなんて戦闘狂もしくは自殺志願者の吐くセリフだぞ。それから、文句を言うならその痩せた体に尽きた体力でどうやって街に戻るのか提案してから言え。不足の事態で命を落とす猛者など掃いて捨てるほどいるが、俺はそれに名を連ねたくないからな」
 「……お前は猛者に数えられているのか?」
 「ディーレ。ソレ墓穴」

 偏屈ジジイらしい文句が飛び出したが、そこは捻くれ加減で右に出るものはいないリートである。こってり盛られた毒を付けてお返ししている。湯水のように出てくる罵りに、絶句している老人を見たヴィディーレが思わず突っ込む。ラフェがすかさず忠告するが既に遅し。

 ざっと血の気が下がる音を聞きつつ、ピリピリと刺してくる空気の発生源を遅る遅る確認すると、ことんと可愛らしく小首を傾げる絶世の美人が。

 「なぁにか言ったディーレ君?ああ、そう言えばさっきの戦闘で傷負ってたよね?治療してあげるよ?」
 「……いや、遠慮しておく。傷なんて……いや、かすり傷だっ!」
 「知ってる?かすり傷であっても手当てせずに放置してたら、下手な病に掛かったり、悪化して重症化したりして命を落とすんだよ?遠慮しないで、さぁ?」
 「ちょ、ま、いや、お前の治療を受ける方が危険ってか……っ!」
 「な、に、か、言った?」
 「おお、勢いよく地雷を踏み抜いていくなぁ。マゾヒストだったのか?」
 「黙ってろソコ!」

 謎の毒々しい色をした液体を詰めた小瓶を揺らしながらじりじりと間合いを詰めてくるリートを見て、もはや卒倒寸前のヴィディーレ。恐怖に回らない頭をどうにか鞭打って動かすが、更に火に油を注いだ模様。

 完全に纏う雰囲気と浮かべる表情が一致していない彼に、歴戦の猛者が悲鳴をあげている。ケラケラと馬鹿だーと笑っているラフェに怒鳴り返す事を忘れない所を見る限り、律儀である。大丈夫かこいつ等、と信じられないものを見る目で見てくるセネクスに、ラフェは笑って手を振って見せた。

 「大丈夫大丈夫。何時もの光景だから」
 「何が何時もの光景だ!いつ俺がお前らと!」
 「ディーレ?気付いてないの?さっきのリートの発言に対する正しいツッコミは、"正論だけど容赦ないのが平常運転、もといリートだよね"だぞ?人間、慣れてる事に突っ込むことはないんだから、そこを突っ込まなかったって事は順応しているって事じゃないか?」
 「……」
 「残念だなディーレ君。ついにラフェに言い負かされたぞ。記念日にでもするか?」

 両手両足をついて撃沈を全身で表現しているヴィディーレ。返答する気力すら根こそぎ無くしたらしい。人としてどうなんだ、と思わず嘆き、更にリートの怒りにダイナマイトを打ち込んでいる。哀れ。

 「で、爺さんは何してんだここで」
 「……あれはいいのか、あれは」
 「いーのいーの放っておいて。スキンシップだから」

 本人たち――正確にはヴィディーレにとっては――命を懸けた修羅場でも、傍から見ればただのじゃれ合い。あっさりと放置を選択したラフェに、セネクスが顔を引きつらせている。

 「……何してるってそら、お前。見りゃわかるだろう」
 「爺さんが持ってるのは猟銃。猟銃って事は猟だって?魔獣を狩るのは冒険者で、獣を狩るのが猟師だからってところか?」
 「分ってるなら聞く必要ないだろ」
 「あはは。言えてる」

 ケラケラ笑い飛ばすラフェを見る目は、もはや珍獣を眺めるも同然。何なんだこの連中は、と半眼になったその時だった。

 「でも悪いな爺さん。ウチの軍師が機嫌悪いんだわ」
 「は?」

 予想の斜め上の理由を突き付けられ、セネクスはポカンと口を開けて固まった。確かにそこらで転がっている二人の様子を見る限り機嫌よさそうにはみえないが、と突っ込みかけて飲み込んだ。ラフェが笑顔の癖に、妙に圧力を発していたから。

 「ウチの軍師はさ、確かに毒舌だけど不機嫌がデフォルトじゃないんだわ。寧ろ器は大きい方。なのに、そんなウチの軍師が不機嫌極まりない。って事は考えられるのは一つ。アイツの想定を超えた状況にいるって事なんだわ。アイツは準備不足と想定外を殊の外嫌う。足をすくわれる原因トップ2だからってな」
 「……」
 「つまり、アイツにとって爺さんがここに居るって事は不自然な状況って事。じゃあ、なんで爺さんがここに居るっている不自然な状況が出来上がったんだろうな?」

 にこやかなラフェを前に、セネクスが言葉を詰まらせる。猟師が森にいて何が悪いと言いたい所だが、ラフェが言っているのはそういう事じゃないだろうと言う事は簡単に予想がつく。睨み合っていると、仕置きがすんで満足したらしいリートがこちらにやってきた。背後に屍となっているヴィディーレを放置して。

 「ったく。面倒に首を突っ込みおって」
 「でもよ。情報は命と同等以上の価値を持つんだろう?知らずに苦労するのと、知って苦労するのじゃどっちがいいよ?」
 「最悪すぎる二択だな」

 吐き捨てると、リートはとさっと音を立ててラフェの隣に腰を下ろした。どうせだからいいことを教えてやろう、とラフェを睨みつける。俺何かしたか、と汗を流すラフェを鼻で嗤ったリート。

 「俺の答えは、どちらでもない、だ」
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