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始まり

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 冒険者。世界各地に多く存在し、冒険者ギルドに寄せられる多種多様な依頼を行ったり、未知の領域に探索に行ったり、ダンジョンを攻略したりする。それゆえ、ギルドに登録する多くは戦闘能力を有し、その力量によってSランクからEランクまでの6段階に分けられている。

 余程の事が無ければ、冒険者になってCランクまで5年もあれば到達できるはずだ。その上に行くには骨が折れる事などといった事情も含めて、全体の40%を占める最も人口の多いクラスなのだ。勿論、その下、DランクとEランクの人口はそれぞれ20%を占め、これら全てを合わせると80%を超える。

 つまり、何が言いたいかと言えば、人口は多いモノの、標準ランクであるCランクはともかく、通常ならばDランク、ましてやEランクなど、通過点に過ぎないはずだということだ。

 にも関わらず。

 「どういうことだ……」

 ヴィディーレは呆然と目の前の戦闘を眺める。彼の前では、ラフェとリートが戦闘を行っていた。自己申告で、3年前から冒険者を始めたと聞いている。統計上、既にDランクになっていてもおかしくない二人だが。

 「うわぁぁぁぁ⁈」

 「馬鹿者!どうしてそこで空振る⁈」

 Eランクの極々弱い魔獣相手4匹に、悪戦苦闘していた。とてもとてもDランクに上がれるとは思えない。つまり。

 「コイツら、Eランク……?」

 「言わなかったか?というか、何か文句でも?」

 すかさず振り向いてニッコリ笑うリートに撃沈するヴィディーレ。その隙に襲ってきた魔獣にわあわあ騒ぎながらリートが逃げ回る。ラフェが応援に行こうとするも空振りするわ、飛び掛かられるわで動けないようだ。

 暫く頭痛を堪えていたヴィディーレだったが、大きくため息をついてリートを追いかけている1匹をチラリと見やる。すると、視線を感じたのか、ピキンと固まった魔獣が、恐る恐る振り返ってくる。

 名前も遠に忘れたその魔獣。小さな丸い体とふわふわした毛、対照的な鋭い牙が特徴のその魔獣に、よく見ると可愛いなと思いつつ近寄る。忙しなく視線を動かし、逃げ道を探っている魔獣の真正面に立つと、魔獣が、テヘ?と言わんばかりの仕草を見せる。

 何時も闘っている魔獣との差に乾いた笑いを零しつつ、サクッと切ってみる。いかに可愛くても魔獣は魔獣。切ることにためらいはない。

 「そこまでサクッと倒されると癪に障るな」
 「だったら自分でやれよ」

 助けたのにも関わらず、開口一番に例ではなく毒が吐かれたのに、溜息を零す。呆れ顔を彼に向けると、ニヤリと笑みが返される。

 「俺は、魔法は殆ど使えなくてな!」
 「いや、これくらい剣で……」

 惚けているとしか思えない回答に、思わず突っ込む。しかし、リートは逆に呆れ顔だ。

 「万年インドア派たるこの俺の細腕で剣が振り回せるとでも?」
 「だから、堂々と言う内容じゃねぇし。つか、だったらなんでここに居るんだよ……」

 その通りと言えば、その通りではあるがやはりズレている。いつの間にかツッコミポジに追いやられている事に、不思議な敗北感を感じつつラフェの方を確認すると。

 「いてててて!」
 「何やってんだアイツは……」
 「じゃれてるんだろう」

 三匹の魔獣に噛みつかれて踊っている。半眼になってぼやくヴィディーレに、リートが飄々と言い放つ。既に興味を失っているようだ。きょろきょろと辺りを見回している。

 温度差激しいコンビに頭痛を感じつつ、手を貸すために動き出す。その裏で、ヴィディーレはラフェの様子を注意深く探っていた。

 初めてあった時、彼はラフェに対し、自分に匹敵する強者であるとの印象を受けた。だが、今のラフェは最弱の魔獣にすら手を焼いている。演技とも思えない。これは一体どういうことなのか。

 悪戦苦闘する背後から近づき、ぺりっと一匹引きはがしサクッと切ると、もう一匹も持ちあげて放り出す。最初の一匹と同じく固まっている魔獣をサクッと切って振り返る。

 最後の一匹と対峙するラフェ。その様は、強敵との最終決戦の如く。緊張感が当たりに満ち溢れ、今にも弾き飛びそうだ。突然魔獣がラフェに飛び掛かる。

 「うぉぉぉぉ!」

 雄たけびを上げてラフェが迎えうつ。一刀目はひらりと魔獣に交わされる。キラリと魔獣の目が光り、勝利を確信したかのように大きく口を開けてラフェに飛び掛かる。その時。

 「引っかかったな!」

 ラフェが振り向きざまに剣を大きく振る。見事、魔獣の腹に直撃し、魔獣は地に伏せる。

 「きゅう……」

 最後に一鳴きして、その体が動きを止める。ラフェがゆっくりと元の体制に戻る。

 「……いや、まて。なんでEランクの魔獣を相手にラスボス感。どう考えてもおかしいだろ」

 無駄にかっこいいシチュエーションではあるが、実際の絵は明らかにそんな大層なものではない。全力で突っ込むヴィディーレだが、当のラフェは一仕事終えて満足気である。

 「何をしている!さっさと行くぞ!」
 「どした?行くぞ?」

 ヴィディーレの気も知らず、呑気な二人。さっさと歩き出している。

 ああもう!と一声唸り二人の後を追う。

 「つか、強引にお前らとクエスト受けさせられてるけど一体何のクエストな訳?急展開過ぎて頭が付いて行かないというか、ホント、気付いたらここに居たぐらいな感じなんだけど?」

 恨みがましく二人の背を睨みつけてみる。此処はムーティーニからすぐ近くの草原。例のダンジョンへの道でもある。ここに居る理由はヴィディーレのいう事、それだけである。とは言えクエストを受けてしまった以上は仕方ないと、尋ねてみることにしたのだ。場所から考えて、ダンジョン関係かと思ったのだが。

 「なぁにを言っている。薬草取りに決まってるだろう」
 「……」
 「だから、魔獣退治の方がいいって言ったじゃんか」

 ああ、そうだった。こいつらEランク冒険者だから、Eランクの任務しか受けられないんだった。

 ぎゃおぎゃおと依頼内容についてケンカを始めた二人の背を、頭を抱えて見やる。

 最近、頭痛は激しいし、頭抱える事多い。ひとえにこいつらの所為なんだが。

 そう思いつつ、それらの事は一旦頭の端に追いやり、一番気になる事を尋ねる。

 「お前ら、陣形どうなってんの?さっきの酷過ぎるだろ」
 「決まってる。俺が軍師。指示出し。後方支援。ラフェが攻撃担当。壁だ」
 「壁ってなぁ」

 リートの説明に、ラフェが苦虫を嚙み潰したような顔で呻く。リートが薬師の他に軍師をやっている、という事を除けば予想通りの回答で、次の質問もなんとなく答えは見える気がしたが、とりあえず聞いてみる。

 「で?さっきのは?」
 「一つ、ラフェが壁になり切れなかったせい。二つ、策を弄そうにも、弄しろうがなかった」
 「だよな」
 「ちょいと⁈」

 ヴィディーレの相槌に、ラフェが目を剥く。じぃっと見つめてくる目は無視して、取り敢えず提案してみる。

 「冒険者、辞めたら?」
 「んな殺生な!」

 何となくズレた悲鳴が上がるのを聞いて、思わずリートを一瞥する。首を竦めて見せたその仕草で、どうして冒険者なのかが分かった。

 「でも、この様子じゃあ稼ぎなんて……」

 そこまで言ってある考えに辿り着き、ギギギと音を立ててリートの方へ向く。案の定、彼は天使の如く麗しい笑みを浮かべてくれた。

 「何か?」
 「いや、何でも」

 即答し、視線を前に戻す。

 ぼったくり薬師の苦悩が見えた気がした瞬間であった。
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