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言えない一言
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昼過ぎ、僕はどこか重い気持ちで家を出た。
おじさんとおばさんに午前の内にツグミに説明するから昼過ぎに来て欲しいと言われたのだ。
昨日から何から話せば、どう話せば僕の気持ちをツグミに伝えられるかをずっと考えている。
ツグミとはもちろん別れたくない。
でもツグミには生きて幸せになって欲しい。
だから、ツグミは僕なんか忘れて新しい人生を生きて欲しい。
僕とツグミは別々の道を歩むべきなんだと。
ツグミなら分かってくれる。
ツグミ前では絶対に泣かない。
多少傷つけてもツグミには分かってもらうんだ。
きっと人生が掛かっている、ツグミもその選択をするはずだ。
ツグミとは別れよう。
病院に着いた。
おばさんが玄関で待っていてくれた。
僕はおばさんに頭を下げる。
「翔くん…忙しいのにごめんなさいね
ツグミにはもう説明したわ。
ツグミは手術を受けないと言うの。
翔くんからも説得してくれるかしら…」
「はい…」
ツグミを説得しなければならない。
僕は病室に向かった。
病院のドアを開けると、ツグミは背を向けてベッドに横になっていた。
「ツグミ…?」
僕が呼び掛けるとツグミはハッとなってこっちを向いた。
「翔くん!?
この前はごめんね!?
私もほんとにびっくりで…
でももう大丈夫だから!」
ツグミは一気に言う。
その顔は泣いたあと無理矢理笑っているように目がほんのり赤かった。
「ツグミ…」
僕はどう切り出すか迷う。
「今度さっ、誕生日!
行きたい所調べてたの!
あのね!私ね!」
「ツグミ…!」
「ネズミーランドもいいなって思ったんだけどね!」
ツグミは僕に恋病の話題を出させまいと隙間なく喋り続ける。
「お泊まりで新潟行きたい!
そこで長岡花火大会って言う有名な花火大会があるんだって!」
「ツグミ!」
ツグミは悲しいような怒ってるような目を向けてきた。
「まさか、翔くんも恋病がなんとかとか言うの…?
今日はその話をしに来たの?ねえ!」
ツグミは目に涙を浮かべながら怒ったように言ってきた。
「ツグミ…僕だって恋病なんてそんな話したくないよ…考えたくもない。
でも僕はするよ。
これはツグミの人生が掛かっているから。」
「翔くんもそんなこと言うの…
人生が掛かってるとかさっきまで散々聞いたよ!」
「僕はツグミに生きて欲しい。」
「いや。私、翔くんが好き。
発作が出ちゃうくらい大好きなの!
だから私はどうなっても構わない!
死ぬんならそれでいい!
翔くんがいないところで生きるよりたとえちょっとしか生きれないとしても私は最期まで翔くんと一緒にいたいよ…!」
ツグミは泣きながら言う。
そこまで僕のことを思ってくれてるなんて、僕は複雑な心境になる。
「死ぬならそれでいいなんてそんなこと言うなよ…
僕だってツグミとずっと一緒にいたいよ…
でもこのままツグミと治療せずにいて、ツグミが死んだ後絶対後悔する。
僕はツグミのいない世界なんて耐えられない。
ツグミには生きて生きて幸せになって欲しいんだ」
「翔くんこそそんな事言わないでよ…
私、翔くんを忘れたくない。」
「でもこれ以上一緒にいて苦しむツグミを見たくないんだ。だから…」
僕は言葉に詰まる。
「だから…」
「やめて!その先は言わないで!」
ツグミも何を言おうとしたのか分かったのだろう。
「もう…今日は帰って…」
ツグミが絞り出すように言った。
そして僕の目をしっかり見て
「重いしだるい女だと思うかもしれない。
でも私、翔くんのことほんとに好きだから…
だから…」
と涙をぽたぽたと零しながら訴えた。
僕も限界だった。
「ツグミ…」
その先の「好きだよ。」が言えない。
医師からそのような言葉は発さないようにと言われていた。
「ごめん…」
僕はそう言ってツグミから顔を逸らして病室を出た。
これ以上ツグミを見ていると泣いてしまう。
別れられなくなってしまう。
諦められなくなってしまう。
病室から出るとドアのすぐ近くでおばさんが泣いていた。
僕はおばさんに頭を下げると何も言わず病院を後にした。
おじさんとおばさんに午前の内にツグミに説明するから昼過ぎに来て欲しいと言われたのだ。
昨日から何から話せば、どう話せば僕の気持ちをツグミに伝えられるかをずっと考えている。
ツグミとはもちろん別れたくない。
でもツグミには生きて幸せになって欲しい。
だから、ツグミは僕なんか忘れて新しい人生を生きて欲しい。
僕とツグミは別々の道を歩むべきなんだと。
ツグミなら分かってくれる。
ツグミ前では絶対に泣かない。
多少傷つけてもツグミには分かってもらうんだ。
きっと人生が掛かっている、ツグミもその選択をするはずだ。
ツグミとは別れよう。
病院に着いた。
おばさんが玄関で待っていてくれた。
僕はおばさんに頭を下げる。
「翔くん…忙しいのにごめんなさいね
ツグミにはもう説明したわ。
ツグミは手術を受けないと言うの。
翔くんからも説得してくれるかしら…」
「はい…」
ツグミを説得しなければならない。
僕は病室に向かった。
病院のドアを開けると、ツグミは背を向けてベッドに横になっていた。
「ツグミ…?」
僕が呼び掛けるとツグミはハッとなってこっちを向いた。
「翔くん!?
この前はごめんね!?
私もほんとにびっくりで…
でももう大丈夫だから!」
ツグミは一気に言う。
その顔は泣いたあと無理矢理笑っているように目がほんのり赤かった。
「ツグミ…」
僕はどう切り出すか迷う。
「今度さっ、誕生日!
行きたい所調べてたの!
あのね!私ね!」
「ツグミ…!」
「ネズミーランドもいいなって思ったんだけどね!」
ツグミは僕に恋病の話題を出させまいと隙間なく喋り続ける。
「お泊まりで新潟行きたい!
そこで長岡花火大会って言う有名な花火大会があるんだって!」
「ツグミ!」
ツグミは悲しいような怒ってるような目を向けてきた。
「まさか、翔くんも恋病がなんとかとか言うの…?
今日はその話をしに来たの?ねえ!」
ツグミは目に涙を浮かべながら怒ったように言ってきた。
「ツグミ…僕だって恋病なんてそんな話したくないよ…考えたくもない。
でも僕はするよ。
これはツグミの人生が掛かっているから。」
「翔くんもそんなこと言うの…
人生が掛かってるとかさっきまで散々聞いたよ!」
「僕はツグミに生きて欲しい。」
「いや。私、翔くんが好き。
発作が出ちゃうくらい大好きなの!
だから私はどうなっても構わない!
死ぬんならそれでいい!
翔くんがいないところで生きるよりたとえちょっとしか生きれないとしても私は最期まで翔くんと一緒にいたいよ…!」
ツグミは泣きながら言う。
そこまで僕のことを思ってくれてるなんて、僕は複雑な心境になる。
「死ぬならそれでいいなんてそんなこと言うなよ…
僕だってツグミとずっと一緒にいたいよ…
でもこのままツグミと治療せずにいて、ツグミが死んだ後絶対後悔する。
僕はツグミのいない世界なんて耐えられない。
ツグミには生きて生きて幸せになって欲しいんだ」
「翔くんこそそんな事言わないでよ…
私、翔くんを忘れたくない。」
「でもこれ以上一緒にいて苦しむツグミを見たくないんだ。だから…」
僕は言葉に詰まる。
「だから…」
「やめて!その先は言わないで!」
ツグミも何を言おうとしたのか分かったのだろう。
「もう…今日は帰って…」
ツグミが絞り出すように言った。
そして僕の目をしっかり見て
「重いしだるい女だと思うかもしれない。
でも私、翔くんのことほんとに好きだから…
だから…」
と涙をぽたぽたと零しながら訴えた。
僕も限界だった。
「ツグミ…」
その先の「好きだよ。」が言えない。
医師からそのような言葉は発さないようにと言われていた。
「ごめん…」
僕はそう言ってツグミから顔を逸らして病室を出た。
これ以上ツグミを見ていると泣いてしまう。
別れられなくなってしまう。
諦められなくなってしまう。
病室から出るとドアのすぐ近くでおばさんが泣いていた。
僕はおばさんに頭を下げると何も言わず病院を後にした。
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