キミアリテ、シアワセ

山田 華子

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ミルク風呂

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「お帰り。
おそかったじゃない。」
母さんが背中を向けながら言う。
「うん、ちょっと」
僕は返し仏壇に手を合わせる。
「姉ちゃんただいま」
仏壇の中の笑顔の姉を見る。


「私後悔はしない、絶対。
幸せだもん。」
夏の病室。姉は言った。
「私ね、優くんと出会って、付き合って、笑いあって、すっごい幸せだった。
お母さん達は治療しろって言うけど、私優くんがいないこれからなんて考えられない。
優くんを忘れることなんて、出来ない。
たとえ、死んだとしても。」
涙を浮かべながら姉はちょっと切なそうな笑顔を浮かべた。
その顔を見て僕は止めることなんて出来なかった。
結局姉は、優さんの腕の中で  死んだ。
姉は幸せだったと思う。
たとえ、「生きる」と言う道を選ばなかったとしても。


「まぁた、お姉ちゃんのこと考えてたの?」
母さんが半ば呆れたように顔を覗かせた。
でもそう言う母の顔は寂しそうだ。
「別に優くんを恨んでるわけじゃないの。
でも…かなには生きてて欲しかった。」
姉ちゃんそっくりのどこか切なそうな笑顔を浮かべて母さんは言う。
「なーんて、今更だけどね!
ほら!お風呂入ってきちゃいなさいよ。
今日はミルク風呂よ?新しい入浴剤。」
「ミルクか…独特だね…
入ってくるよ。」
入浴剤は姉ちゃんが好きだった。
姉ちゃんが死んだあの日から母は「かなが好きだから」と毎日入浴剤を入れて風呂に入る。


白く濁ったミルク風呂に体を沈めながら考える。
ツグミは大丈夫だろうか…
すると、不意に姉ちゃんとツグミが重なった。
まさか…
嫌な予感を振り払うようにミルク風呂に潜った。
しかし、その振り払ったはずの嫌な予感を思い出させられるのは次の日の昼下がりだった。
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