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トイレの花子さん
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学校の七不思議。その言葉は誰もが聞いたことのあるものだろう。例を挙げるとするならば、トイレの花子さんや動く人体模型といったところだろうか。普通の人ならば、こんな根も葉もない噂信じたりする者は少ないだろう。私もその一人だ。心霊現象、などというものは一切信じていない。この学校では、そういう噂が多いのだ。私のもとに一人の女が来る。
「冷夏。今日さ!いつものグループで夜の学校に肝試しに来ようと思っているんだけどさ。冷夏も来ない?」
彼女は、清水霊奈。私の大親友だ。いつものグループというのは私と霊奈を含めた八人のグループだ。
「今日はトイレの花子さんを調べてみようと思うんだ」
トイレの花子さんのやり方はとても簡単だ。手前側から三番目の扉をノックして、『花子さん、いらっしゃいますか?』と聞くだけだ。このとき一人で調べなきゃならないらしい。噂だと3階の東側のトイレに出るそうだ。
「私はいいや、今日は塾があるから」
霊奈はしょんぼりした顔をする。
「そっかぁ。じゃあ私達だけで行ってくるね」
霊奈は自分の机に戻っていく。
次の日。
「えー今日の欠席は、七人が体調不良で休むそうです」
七人…。昨日肝試しに行くと言ったグループのメンバーだ。まさか…
「あ、あと最近“3階の東側のトイレ”で人が行方不明になった」
『噂だと3階の東側のトイレに出るそうだ』
「みんなは近づかないように」
私はあることが引っかかった。やはり学校の七不思議は存在するのだろうか。いやそんなはずない。今日実際に調べて証明してやろう。私は霊奈の机を見て、授業の準備に移った。
(どこ行っちゃったのよ。霊奈)
キーンコーンカーンコーン…
終わりを告げるチャイムが教室内を反響する。各々が駐輪場やバス停に向かう。そんな中誰もいないはずの教室に人影があった。それは冷夏だ。
(まずは先生が居なくなるまで待たなきゃいけない。それに適している場所は… 図書室か)
図書室なら「勉強をしていた」という言い訳で先生を回避できる。私はノートと鉛筆を持って、図書室に向かった。
私は図書室で、「効率の良い勉強法」という本を読んでいる。ように見せているのだ。実際はその本の間に、「恐怖!学校の七不思議」という本を読んでいる。第一章 トイレの花子さんによると、それをやった人はトイレに引きずり込まれるそうだ。だとしたら…もう…。いや!トイレの花子さんなんているわけないじゃない!何を考えているの私は…。
ゴーンゴーン
6時になると同時に時計の音が鳴る。図書室にはカエルが一匹入り込んでいた。私は今不安で仕方なかった。トイレの花子さんなんているわけないのに、内心は花子さんのせいで皆が消えたんだと思ってしまっていた。だから一匹のカエルだとしても、今は心のよりどころであった。そんな時。
「ーーッ!?」私達のグループのうちの一人、風見楓華がいた。私は我を取り戻した。
「待って!楓華!」そんな声は一切届かず、楓華は図書室から出ていってしまった。私はすぐにその後を追いかけた。
「ねぇ!楓華!…からかってるの?」楓華に私の声は届かない。まるで“私なんていない”かのように。
楓華が東側の階段を上がっていく。この先にあるもと言えば…。私は最悪のエンディングを思いついてしまい、すぐにかき消す。
楓華は3階に上がってすぐにトイレの入り口まで来た。そこでずっと止まっている。胸に握りこぶしを当てて。数十秒後何かを覚悟したのか、トイレに入っていった。その体は少し震えていた。私もトイレに入る。いや体が勝手に動いたのだ。でも私はそんなに気にしていなかった。頭の中が絶望でいっぱいになっていたから。中に入ると楓華は二番目の個室をノックしていた。口を動かしているが何も聞こえない。おそらく「花子さんいらっしゃいますか?」と言っているんだろう。そして三番目の個室。私は体が動かない。楓華は扉を三回ノックする。そして何かを話す。そして楓華が扉を開ける、と中から手が出てきて楓華を引きずり込み扉が閉まってしまった。私はすぐに三番目の個室の扉を開けた。中には誰もいなかった。私は怖くなって逃げ出した。
「はぁー…」右肘を机につけ、ため息をつく。
(昨日のあれは何だったんだろう…)
出てきた手は色白で指先の方は少し赤くなっていた、気がする。誰かがイタズラでもしていたのだろうか。でも、だとしたら声の聞こえない楓華や急に消えた花子さんらしき人はどうやって説明するというのだろうか。よし!私は決心した。もう一度あのトイレに行って、調べてみようと。その時トイレに引きずられていった楓華を思い出した。
「あ…あぁ…」その声に先生が反応する。
「どうした岡野?具合悪いなら保健室に行くか?」
「い、いえ。大丈夫です」
何事もなかったように授業が再開した。
「どうしたんですか?岡野冷夏さん」女の子が話しかけてきた。彼女は、君島朱里《きみじまあかり》。学校の近くにある成城神社の巫女だ。彼女ならトイレの花子さんとかを信じているだろう。
「相談したい事があるんだ。昼休み図書室に来てくれない」
「分かった」そう言って朱里は教室から出ていった。
彼女とはそんなに話した事はないのに一体どういった感情の変化があったのだろうか?それとも彼女が学級委員長だから心配してくれただけなのだろうか?私は次の授業の準備を始める。
「なるほど?」
私達は今、図書室にいる。とりあえず昨日の諸々を全て朱里に話し終えたところだ。
「で、今日私も実際にやってみようと思うんだけど」そう言うと朱里は顔を険しくする。
「それは止めたほうがいいと思うな」
「なんで?」
「あなたの見た楓華さんはね。多分亡霊だと思うの。声も聞こえないし話しかけても反応しない。まるで自分がいないようだといってたよね」
「うん」私もその言葉から大体のことは察した「そうだよ」
「つまりそれって、図書室から3階東側のトイレに行くまでの楓華さんが辿った道のりだと思うんだ」
「やっぱり…そうなんだ」私は少し怖くなった「で、でも…やっぱり私はやってみようと思う」
「君がそう言うなら私は止めないけど…ちょっとついてきてくれない」
「えっ?分かった…」朱里は周りを気にしながら図書室から出て東側の階段まで行く。
「ねぇもしかして…」朱里は階段を登っていき3階の東側のトイレまでやってきた。そしてトイレの中で何かを唱え始めた。
「………、………………、……、………」なんと言っているのかまでは聞き取れなかったが、なんかお葬式とかで聞いたことある感じだった。
「やっぱり何かいるみたいね」唱え終わり、朱里はさ
っきまで放っていたオーラの様なものは消えていた。
「というと?」
「ここには高濃度の霊気が漂っているの。只者ではないわ。想像のつかない怨念があったのだろうね」
そういえばトイレの花子さんの言い伝えは土地によって異なるんだったな。
「それで、どうするの?今日、トイレの花子さんやる気?」
「もちろん。怖いけど、楓華を助けられる可能性があるなら」
「そう、じゃあ頑張ってね」ありがとう。そう言われ私は朱里と別れ、2階に降りた。
現在時刻は午後6時。昨日楓華が現れた時間だ。一体あれは何を伝えたかったのか。私は決心し、本を閉じて立つ。そして様々な感情が葛藤しているうちに、いつの間にか3階の東側のトイレについていた。今の季節は夏。なのに今年の夏は少し冷たい。寒気だろうか。私はトイレに入って、まず水で顔をバシャッと洗った。そして一つ目の扉の前に立って三回ノックをする。
「花子さんいらっしゃいますか?」
もちろん何も聞こえない…。二つ目の扉の前で同じことをする。何も聞こえない。そして三つ目の扉。三回ノックをして例の言葉を放つ。
「…花子さん、いらっしゃいますか?」
「はい…」
!?。瞬間冷や汗がドバっと流れた。微かに聞こえた弱々しい声。その言葉は心に深く染み込み、感覚や感情、思考といったそれらを全て恐怖で支配した。私は恐る恐る扉を開ける。その中には色白の肌に、所々ドラマでしか見たことのない血のようなものが飛び散っている。私は全速力で逃げ出した。その逃げる先は図書室だった。あそこは私の知っている中では唯一中側から鍵のかけられる部屋だった。しかし、2階の廊下を走っているとき、追いつかれてしまった。手首が掴まれる。私は必死になって振りほどこうとしたが、一向に離れそうになく。少しずつ引っ張られていった。
(あぁ…死ぬのか…)
その時。
「除霊!!」
花子さんから手が離れる。そして花子さんは火傷した様な色になっている手のひらを抑えてもがいている。
「冷夏さん!逃げてください」
振り向くとそこには達筆で変な文字の書かれた札を持っている朱里がいた。私は一目散に図書室に向かった。ガチャ!
図書室の鍵を閉めてなんとか逃げ出した。私は一息ついてペタッと床に座った。外では朱里が変な顔をして扉を叩いている。廊下を見ると花子さんらしき姿は一つもない。私は鍵を開け、扉を開けようとした。すると扉は一切私の言うことを聞かず、開く気配は一切なかった。私は恐怖で頭が一杯になる。扉ごしに朱里の声が少しだけ聞こえた。
「冷静になって!なんとか脱出する方法を探して」
私は深呼吸を三回する。そして図書室内を探し始めた。
調べてみて出てきたのはこの学校のことが書かれているものだけとってある新聞の束と、どこかの棚の鍵がその束の中にあった。
「ん?…何だこれ?」その新聞の中に惹かれる一つの記事を見つけた。2011年8月16日。梯花子《かけはしはなこ》か自殺したという記事だ。
「梯花子?花子さん?」どうやら事はこの図書室で起こったらしい。いじめが原因だそうだ。私は今見つけた鍵が使えるところが無いか探していた。朱里は、なんとか図書室の鍵を借りてこようとしている。ガチャ。
「ここだ!」棚を、開けるとその中にはある物が入っていた「卒業アルバム?」
2011年のものらしい。その集合写真のところを見ていると、一人欠席しているのが分かった。この人はさっき掴まれた花子さんと顔がそっくりだ。やっぱり梯花子が花子さんなんだろうか。そこに、花子さんが現れる。猛スピードでこちらに走ってくる。
私は新聞と卒業アルバムを見せる。
「あなたは梯花子さんね?いじめで自殺したっていう」花子さんの動きが止まる。
「花…子、梯花子!」花子さんは何かを思い出したかのように声が元気になる。
「あなたも私のことをイジメるの」睨めつけてくる。
「ねぇ花子さん」そんな花子さんに対して笑顔で話しかける「私と友達にならない」
花子さんはとても驚いた顔をしている「と、もだち?」
「そうだよ。ずっと何年も…寂しかったでしょ。私があなたを幸せにしてあげるよ」
「わ、私は貴方の友達も殺してしまったんだよ」ポケットから楓華の生徒手帳を出す。
「確かに悲しいし、まだ少し恨んでるけど。でも花子さんにも理由があってやっていたんだもん」生徒手帳を、受け取る「少し寂しいけどあなたが居れば少しは楽しいかもしれないしね」
花子さんの目から涙が溢れ出る「あり…が、とう」
花子さんはしゃがみこんで泣き始めた。私はそっと頭を撫でる「これからよろしくね、花子さん」
「うん」初めてみた花子さんの笑顔だった。
「つまりこれはだな」
キーンコーンカーンコーン…
「おっと、じゃあ今日の授業はここまでだ」
「起立!礼!」
「ありがとうございました」
「解散!」
その声と共に私は荷物をすぐに準備し3階東側のトイレに向かった。そして三つ目の扉の前でこういった。
「花子さんいらっしゃいますか?」カチャっと扉が開いて、そこには…
「こんにちは!レイカ」笑顔で挨拶する花子さんがいた「今日は何して遊ぼうか?」
「冷夏。今日さ!いつものグループで夜の学校に肝試しに来ようと思っているんだけどさ。冷夏も来ない?」
彼女は、清水霊奈。私の大親友だ。いつものグループというのは私と霊奈を含めた八人のグループだ。
「今日はトイレの花子さんを調べてみようと思うんだ」
トイレの花子さんのやり方はとても簡単だ。手前側から三番目の扉をノックして、『花子さん、いらっしゃいますか?』と聞くだけだ。このとき一人で調べなきゃならないらしい。噂だと3階の東側のトイレに出るそうだ。
「私はいいや、今日は塾があるから」
霊奈はしょんぼりした顔をする。
「そっかぁ。じゃあ私達だけで行ってくるね」
霊奈は自分の机に戻っていく。
次の日。
「えー今日の欠席は、七人が体調不良で休むそうです」
七人…。昨日肝試しに行くと言ったグループのメンバーだ。まさか…
「あ、あと最近“3階の東側のトイレ”で人が行方不明になった」
『噂だと3階の東側のトイレに出るそうだ』
「みんなは近づかないように」
私はあることが引っかかった。やはり学校の七不思議は存在するのだろうか。いやそんなはずない。今日実際に調べて証明してやろう。私は霊奈の机を見て、授業の準備に移った。
(どこ行っちゃったのよ。霊奈)
キーンコーンカーンコーン…
終わりを告げるチャイムが教室内を反響する。各々が駐輪場やバス停に向かう。そんな中誰もいないはずの教室に人影があった。それは冷夏だ。
(まずは先生が居なくなるまで待たなきゃいけない。それに適している場所は… 図書室か)
図書室なら「勉強をしていた」という言い訳で先生を回避できる。私はノートと鉛筆を持って、図書室に向かった。
私は図書室で、「効率の良い勉強法」という本を読んでいる。ように見せているのだ。実際はその本の間に、「恐怖!学校の七不思議」という本を読んでいる。第一章 トイレの花子さんによると、それをやった人はトイレに引きずり込まれるそうだ。だとしたら…もう…。いや!トイレの花子さんなんているわけないじゃない!何を考えているの私は…。
ゴーンゴーン
6時になると同時に時計の音が鳴る。図書室にはカエルが一匹入り込んでいた。私は今不安で仕方なかった。トイレの花子さんなんているわけないのに、内心は花子さんのせいで皆が消えたんだと思ってしまっていた。だから一匹のカエルだとしても、今は心のよりどころであった。そんな時。
「ーーッ!?」私達のグループのうちの一人、風見楓華がいた。私は我を取り戻した。
「待って!楓華!」そんな声は一切届かず、楓華は図書室から出ていってしまった。私はすぐにその後を追いかけた。
「ねぇ!楓華!…からかってるの?」楓華に私の声は届かない。まるで“私なんていない”かのように。
楓華が東側の階段を上がっていく。この先にあるもと言えば…。私は最悪のエンディングを思いついてしまい、すぐにかき消す。
楓華は3階に上がってすぐにトイレの入り口まで来た。そこでずっと止まっている。胸に握りこぶしを当てて。数十秒後何かを覚悟したのか、トイレに入っていった。その体は少し震えていた。私もトイレに入る。いや体が勝手に動いたのだ。でも私はそんなに気にしていなかった。頭の中が絶望でいっぱいになっていたから。中に入ると楓華は二番目の個室をノックしていた。口を動かしているが何も聞こえない。おそらく「花子さんいらっしゃいますか?」と言っているんだろう。そして三番目の個室。私は体が動かない。楓華は扉を三回ノックする。そして何かを話す。そして楓華が扉を開ける、と中から手が出てきて楓華を引きずり込み扉が閉まってしまった。私はすぐに三番目の個室の扉を開けた。中には誰もいなかった。私は怖くなって逃げ出した。
「はぁー…」右肘を机につけ、ため息をつく。
(昨日のあれは何だったんだろう…)
出てきた手は色白で指先の方は少し赤くなっていた、気がする。誰かがイタズラでもしていたのだろうか。でも、だとしたら声の聞こえない楓華や急に消えた花子さんらしき人はどうやって説明するというのだろうか。よし!私は決心した。もう一度あのトイレに行って、調べてみようと。その時トイレに引きずられていった楓華を思い出した。
「あ…あぁ…」その声に先生が反応する。
「どうした岡野?具合悪いなら保健室に行くか?」
「い、いえ。大丈夫です」
何事もなかったように授業が再開した。
「どうしたんですか?岡野冷夏さん」女の子が話しかけてきた。彼女は、君島朱里《きみじまあかり》。学校の近くにある成城神社の巫女だ。彼女ならトイレの花子さんとかを信じているだろう。
「相談したい事があるんだ。昼休み図書室に来てくれない」
「分かった」そう言って朱里は教室から出ていった。
彼女とはそんなに話した事はないのに一体どういった感情の変化があったのだろうか?それとも彼女が学級委員長だから心配してくれただけなのだろうか?私は次の授業の準備を始める。
「なるほど?」
私達は今、図書室にいる。とりあえず昨日の諸々を全て朱里に話し終えたところだ。
「で、今日私も実際にやってみようと思うんだけど」そう言うと朱里は顔を険しくする。
「それは止めたほうがいいと思うな」
「なんで?」
「あなたの見た楓華さんはね。多分亡霊だと思うの。声も聞こえないし話しかけても反応しない。まるで自分がいないようだといってたよね」
「うん」私もその言葉から大体のことは察した「そうだよ」
「つまりそれって、図書室から3階東側のトイレに行くまでの楓華さんが辿った道のりだと思うんだ」
「やっぱり…そうなんだ」私は少し怖くなった「で、でも…やっぱり私はやってみようと思う」
「君がそう言うなら私は止めないけど…ちょっとついてきてくれない」
「えっ?分かった…」朱里は周りを気にしながら図書室から出て東側の階段まで行く。
「ねぇもしかして…」朱里は階段を登っていき3階の東側のトイレまでやってきた。そしてトイレの中で何かを唱え始めた。
「………、………………、……、………」なんと言っているのかまでは聞き取れなかったが、なんかお葬式とかで聞いたことある感じだった。
「やっぱり何かいるみたいね」唱え終わり、朱里はさ
っきまで放っていたオーラの様なものは消えていた。
「というと?」
「ここには高濃度の霊気が漂っているの。只者ではないわ。想像のつかない怨念があったのだろうね」
そういえばトイレの花子さんの言い伝えは土地によって異なるんだったな。
「それで、どうするの?今日、トイレの花子さんやる気?」
「もちろん。怖いけど、楓華を助けられる可能性があるなら」
「そう、じゃあ頑張ってね」ありがとう。そう言われ私は朱里と別れ、2階に降りた。
現在時刻は午後6時。昨日楓華が現れた時間だ。一体あれは何を伝えたかったのか。私は決心し、本を閉じて立つ。そして様々な感情が葛藤しているうちに、いつの間にか3階の東側のトイレについていた。今の季節は夏。なのに今年の夏は少し冷たい。寒気だろうか。私はトイレに入って、まず水で顔をバシャッと洗った。そして一つ目の扉の前に立って三回ノックをする。
「花子さんいらっしゃいますか?」
もちろん何も聞こえない…。二つ目の扉の前で同じことをする。何も聞こえない。そして三つ目の扉。三回ノックをして例の言葉を放つ。
「…花子さん、いらっしゃいますか?」
「はい…」
!?。瞬間冷や汗がドバっと流れた。微かに聞こえた弱々しい声。その言葉は心に深く染み込み、感覚や感情、思考といったそれらを全て恐怖で支配した。私は恐る恐る扉を開ける。その中には色白の肌に、所々ドラマでしか見たことのない血のようなものが飛び散っている。私は全速力で逃げ出した。その逃げる先は図書室だった。あそこは私の知っている中では唯一中側から鍵のかけられる部屋だった。しかし、2階の廊下を走っているとき、追いつかれてしまった。手首が掴まれる。私は必死になって振りほどこうとしたが、一向に離れそうになく。少しずつ引っ張られていった。
(あぁ…死ぬのか…)
その時。
「除霊!!」
花子さんから手が離れる。そして花子さんは火傷した様な色になっている手のひらを抑えてもがいている。
「冷夏さん!逃げてください」
振り向くとそこには達筆で変な文字の書かれた札を持っている朱里がいた。私は一目散に図書室に向かった。ガチャ!
図書室の鍵を閉めてなんとか逃げ出した。私は一息ついてペタッと床に座った。外では朱里が変な顔をして扉を叩いている。廊下を見ると花子さんらしき姿は一つもない。私は鍵を開け、扉を開けようとした。すると扉は一切私の言うことを聞かず、開く気配は一切なかった。私は恐怖で頭が一杯になる。扉ごしに朱里の声が少しだけ聞こえた。
「冷静になって!なんとか脱出する方法を探して」
私は深呼吸を三回する。そして図書室内を探し始めた。
調べてみて出てきたのはこの学校のことが書かれているものだけとってある新聞の束と、どこかの棚の鍵がその束の中にあった。
「ん?…何だこれ?」その新聞の中に惹かれる一つの記事を見つけた。2011年8月16日。梯花子《かけはしはなこ》か自殺したという記事だ。
「梯花子?花子さん?」どうやら事はこの図書室で起こったらしい。いじめが原因だそうだ。私は今見つけた鍵が使えるところが無いか探していた。朱里は、なんとか図書室の鍵を借りてこようとしている。ガチャ。
「ここだ!」棚を、開けるとその中にはある物が入っていた「卒業アルバム?」
2011年のものらしい。その集合写真のところを見ていると、一人欠席しているのが分かった。この人はさっき掴まれた花子さんと顔がそっくりだ。やっぱり梯花子が花子さんなんだろうか。そこに、花子さんが現れる。猛スピードでこちらに走ってくる。
私は新聞と卒業アルバムを見せる。
「あなたは梯花子さんね?いじめで自殺したっていう」花子さんの動きが止まる。
「花…子、梯花子!」花子さんは何かを思い出したかのように声が元気になる。
「あなたも私のことをイジメるの」睨めつけてくる。
「ねぇ花子さん」そんな花子さんに対して笑顔で話しかける「私と友達にならない」
花子さんはとても驚いた顔をしている「と、もだち?」
「そうだよ。ずっと何年も…寂しかったでしょ。私があなたを幸せにしてあげるよ」
「わ、私は貴方の友達も殺してしまったんだよ」ポケットから楓華の生徒手帳を出す。
「確かに悲しいし、まだ少し恨んでるけど。でも花子さんにも理由があってやっていたんだもん」生徒手帳を、受け取る「少し寂しいけどあなたが居れば少しは楽しいかもしれないしね」
花子さんの目から涙が溢れ出る「あり…が、とう」
花子さんはしゃがみこんで泣き始めた。私はそっと頭を撫でる「これからよろしくね、花子さん」
「うん」初めてみた花子さんの笑顔だった。
「つまりこれはだな」
キーンコーンカーンコーン…
「おっと、じゃあ今日の授業はここまでだ」
「起立!礼!」
「ありがとうございました」
「解散!」
その声と共に私は荷物をすぐに準備し3階東側のトイレに向かった。そして三つ目の扉の前でこういった。
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