61 / 73
最終章 過去・現在・未来
61 1年ぶりのジルタニア
しおりを挟む
街中にあふれるジルタニア語が懐かしいと感慨に耽る余裕もなくタクシーに乗り込んだ私は、ハリス先生の診療所の前に乗りつけ、再び大荷物を担いで中に入った。
「こんにちはー」
「こんにち__ナオ!!?」
受付にいたテイラーさんが私の登場に驚いて身を乗り出した。
「お久しぶりです」
「お久しぶり、って! なによいきなりいなくなったと思ったら急に帰ってきたりして! ハリス先生はあまり詳しく教えてくれなかったし! 今まで一体どこで何をしていたの?」
すごい勢いで捲し立てられ少したじろぐ。
「ウィルド・ダムに行っていました」
「国外なの!? なんだってそんな場所__」
「そっ、それより! 先生は診察室ですか?」
「えぇ。診察中だからノックして大丈夫そうなら入ったらいいわ」
テイラーさんに色々と突っ込まれないうちに診察室に逃げ込みたい。
診察室の前に立ってドアをノックした。
すぐに先生の「どうぞ」という返事が聞こえ、中に入った。
そして患者さんの後ろ姿を見て、驚き動けなくなった。
「ナオ!?」
先生は先生で私の突然の登場に、見たことがないくらいに驚いていた。
それに釣られて患者さんが振り返り、私と目が合った。
そのシトリンの宝石が嵌め込まれたような目が大きく開く。
「ナオさん!?」
「っ、アーサーさん」
驚く彼の顔の左顎には少量ではない血がついていた。
「血が!」
「治療は終わったから拭いて差し上げて」
「はい」
私は棚からガーゼを出し、血を綺麗に拭き取った。
「ありがとうございます。傷は武人の栄誉ですが、王族……貴族の顔に傷があるのはあまり好まれませんのでこちらに伺ったんです」
「武人……?」
この人はこの国の王子様ではなかったか?
「あぁ、私は今は陸軍に所属しているのです。こちらの街には演習場があり、先生には度々お世話になっています」
だから列車事故の時も今も軍服を着ていたのかと合点がいった。
「申し訳ございません殿下。この子は2年より前の記憶がございませんので、国民が当たり前に知っていることを知らないのです。……そうだ、殿下が以前に川縁で倒れていた女性をお助けになられましたね。あれはこのナオです」
そうだった。彼は私の命の恩人だったのだ。
「その節はありがとうございました……!」
私は両腕をクロスさせ首を少し前に傾けた。
これがジルタニアでの最大限の感謝を示す仕草だ。
「あなたがあの時の……! 気づかず失礼しました。助かって本当によかった」
アーサーさんはふわりと笑んだ。
その顔からは心から喜んでくれているのが伝わってきて嬉しくなる。
「それにしてもナオ。急に来たりしてなんです? 驚くでしょう」
「すみません。手紙も一応送ったんですが、私の方が早く着いちゃったみたいです」
「そうですか。それで研究の方はどうしたんです?」
「それが、成功したんです……!!」
「そんな、まさか……! 本当ですか!?」
2人だけで話してしまっていたので、アーサーさんは気を利かせて退出しようとしていたところを先生が呼び止めた。
「お待ちください、殿下。あなた様にもこの話を聞いていただきたい」
「私もですか?」
アーサーさんも驚いていたが私も驚いた。
専門的な話だし、新魔法のことを話してしまってもいいのだろうか。
「えぇ。ナオが研究していた新魔法は世界を変えます。とてつもないことです。ですから、殿下のお知恵を拝借したいのです」
「分かりました」
そこで、私とアーサーさんは診療所の診察が終わるまで先生の家で待つことになった。
先生の家に入り時計を確認すると時間は12時を少し回ったくらいだった。
そういえば今日はまだ何も食べていない。
気づいたら急にお腹が減ってきた。
「アーサーさんはもうお昼済ませましたか?」
「いえ、訓練の後すぐこちらへ来たのでまだです」
「丁度よかった。でしたら今から何か作りますね」
「よろしいんですか?」
「えぇ。先生も診察が終わったらすぐ何か食べたいだろうし。ここでお世話になっていた時は私が食事当番だったんですよ」
話しながらキッチンの食料庫を漁る。
キャベツにブロッコリー、ビートにほうれん草、きのこ類もあった。
(何を作ろう? やっぱり久しぶりにパスタが食べたいな)
先生は自分でほとんど料理をしないわりにパスタのストックは欠かさない。
とりあえず茹でたら食べられるからだろうか……?
私はきのことほうれん草でクリームパスタを作ることにした。
「こんにちはー」
「こんにち__ナオ!!?」
受付にいたテイラーさんが私の登場に驚いて身を乗り出した。
「お久しぶりです」
「お久しぶり、って! なによいきなりいなくなったと思ったら急に帰ってきたりして! ハリス先生はあまり詳しく教えてくれなかったし! 今まで一体どこで何をしていたの?」
すごい勢いで捲し立てられ少したじろぐ。
「ウィルド・ダムに行っていました」
「国外なの!? なんだってそんな場所__」
「そっ、それより! 先生は診察室ですか?」
「えぇ。診察中だからノックして大丈夫そうなら入ったらいいわ」
テイラーさんに色々と突っ込まれないうちに診察室に逃げ込みたい。
診察室の前に立ってドアをノックした。
すぐに先生の「どうぞ」という返事が聞こえ、中に入った。
そして患者さんの後ろ姿を見て、驚き動けなくなった。
「ナオ!?」
先生は先生で私の突然の登場に、見たことがないくらいに驚いていた。
それに釣られて患者さんが振り返り、私と目が合った。
そのシトリンの宝石が嵌め込まれたような目が大きく開く。
「ナオさん!?」
「っ、アーサーさん」
驚く彼の顔の左顎には少量ではない血がついていた。
「血が!」
「治療は終わったから拭いて差し上げて」
「はい」
私は棚からガーゼを出し、血を綺麗に拭き取った。
「ありがとうございます。傷は武人の栄誉ですが、王族……貴族の顔に傷があるのはあまり好まれませんのでこちらに伺ったんです」
「武人……?」
この人はこの国の王子様ではなかったか?
「あぁ、私は今は陸軍に所属しているのです。こちらの街には演習場があり、先生には度々お世話になっています」
だから列車事故の時も今も軍服を着ていたのかと合点がいった。
「申し訳ございません殿下。この子は2年より前の記憶がございませんので、国民が当たり前に知っていることを知らないのです。……そうだ、殿下が以前に川縁で倒れていた女性をお助けになられましたね。あれはこのナオです」
そうだった。彼は私の命の恩人だったのだ。
「その節はありがとうございました……!」
私は両腕をクロスさせ首を少し前に傾けた。
これがジルタニアでの最大限の感謝を示す仕草だ。
「あなたがあの時の……! 気づかず失礼しました。助かって本当によかった」
アーサーさんはふわりと笑んだ。
その顔からは心から喜んでくれているのが伝わってきて嬉しくなる。
「それにしてもナオ。急に来たりしてなんです? 驚くでしょう」
「すみません。手紙も一応送ったんですが、私の方が早く着いちゃったみたいです」
「そうですか。それで研究の方はどうしたんです?」
「それが、成功したんです……!!」
「そんな、まさか……! 本当ですか!?」
2人だけで話してしまっていたので、アーサーさんは気を利かせて退出しようとしていたところを先生が呼び止めた。
「お待ちください、殿下。あなた様にもこの話を聞いていただきたい」
「私もですか?」
アーサーさんも驚いていたが私も驚いた。
専門的な話だし、新魔法のことを話してしまってもいいのだろうか。
「えぇ。ナオが研究していた新魔法は世界を変えます。とてつもないことです。ですから、殿下のお知恵を拝借したいのです」
「分かりました」
そこで、私とアーサーさんは診療所の診察が終わるまで先生の家で待つことになった。
先生の家に入り時計を確認すると時間は12時を少し回ったくらいだった。
そういえば今日はまだ何も食べていない。
気づいたら急にお腹が減ってきた。
「アーサーさんはもうお昼済ませましたか?」
「いえ、訓練の後すぐこちらへ来たのでまだです」
「丁度よかった。でしたら今から何か作りますね」
「よろしいんですか?」
「えぇ。先生も診察が終わったらすぐ何か食べたいだろうし。ここでお世話になっていた時は私が食事当番だったんですよ」
話しながらキッチンの食料庫を漁る。
キャベツにブロッコリー、ビートにほうれん草、きのこ類もあった。
(何を作ろう? やっぱり久しぶりにパスタが食べたいな)
先生は自分でほとんど料理をしないわりにパスタのストックは欠かさない。
とりあえず茹でたら食べられるからだろうか……?
私はきのことほうれん草でクリームパスタを作ることにした。
1
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる