43 / 60
二章 獣人の国
43 遠足に行こう(4)
しおりを挟む
森に入り20分ほど歩き、秘密基地の洞窟に到着した。
入り口は木の蔦で作ったらしいカーテンが掛けられていて、中を見せてもらうと床には布が敷いてあり、話の通り毛布も置いてある。他にもコマがあったり、木の板にくぼみが上下5つずつ、左右にはそれよりも大きなものが1つつけられたものと、おはじきのようなきれいな石がそのくぼみに入っていた。
何かのボードゲームだろうか。
とにかくワクワクするような空間が作られていた。
「思ったより広いかも」
「だろ?」
ハウさんは興味深そうに辺りを見回している。
「でも11人で入るとちょっと狭い」
「いつもはボク達だけだからねぇ」
狭苦しいのが嫌になったのかカーグさんが出て行ってしまった。
「いいなーー! オレも秘密基地ほしー!」
羨ましくなったらしいスナフくんは地団駄を踏んだ。
「ここの秘密基地使う?」
「オレの家からじゃ遠すぎる」
「そうだよねぇ」
「スキラ! オレ達も秘密基地作ろうぜ!」
「うーん、まぁいい場所が見つかったらね」
スキラさんは少し面倒くさそうに返事をしていた。
(これで全員の紹介が終わったわね。皆のことを深く知られて、遠足をやってよかった)
それに狼族の村の外に来られたことも有意義だったが、それぞれの村の伝統や習慣も知られてよかったと思う。
私はここから学校に帰るまでにかかる時間を考えながらスカートのポケットから懐中時計を取り出した。
その時刻、12時半。
「っ、大変! もう帰る時間、過ぎてる!! みんな、早く戻りましょう!」
「センセー、また学校に戻って家に帰るの面倒だしここから帰っていいー?」
ジェスくんがすごくだるそうに両手を頭の後ろに組んで言った。
「水筒も持ってきたから学校に取りに戻るものもないしそれがいいな」
イサナさんや他の子も同意見のようだ。
確かに今から学校に帰るより直帰の方が皆楽だろう。
「そうね。そうしましょう。では、みなさんさようなら。気をつけて帰って」
私も皆と一緒に今日は帰ることにした。
今日の良き日のことは手紙に書いてマルティンさんに送ろう。そう思いながら。
その夜、夕食を終え、今日は疲れたから何もせず早く寝ようとベッドに潜り込んだものの、なんだかいつも以上に寒くて体の震えが収まらず、まさかと思い体温計__もちろんデジタルではなく水銀式__で測ったら39度あった。
完全に風邪だ。
(ナラタさんに薬を作ってもらおう……)
私は部屋を出てナラタさんの私室をノックした。
「どうしたんだい?」
私が居候を始めてから初めての夜間訪問に、ナラタさんは怪訝そうな顔をして出てきた。
「熱が出て、薬を、作ってもらえないかと」
「熱? 待っといで。すぐに作るよ」
「ありがとう、ございます」
ナラタさんはすぐに階段を下りて薬局に行こうとしたが、忘れてたというように私の方を振り返って、
「他に症状は?」
「ないです」
それを聞くと階段を下りていった。
私は一度部屋に戻って毛布に包まってから薬局に下りた。
ナラタさんは蝋燭をつけてすでに薬草を煎じていた。
「アンタが風邪なんて、ここに来て初めてだね。最近忙しかっただろ。疲れが出たのさ」
「それもあると、思いますが……今日は遠足でずっと外に出てたから」
「遠足?」
私はナラタさんに午前中の間ずっと外を歩き回っていたことを話した。
「ここらに住む獣人はそんなことじゃ熱は出さないけどねぇ。人間は寒さに弱いね」
むしろ私からしたらここに住む人達は寒さに強すぎると思うのだが。
「お湯を沸かしてきな」
言われるままに台所に行って火を起こして鍋に火をかけた。
そうしているうちに薬が出来上がり、薬草を袋に入れてお湯の中に入れて煮出し飲み薬が出来上がった。
漢方のような、夏前の河川敷のような、強い草の匂いがする。
一口飲むと強烈な味に髪の毛が逆立ちそうな気がした。
『うぐっ……ニガッ……』
「ちゃんと飲むんだよ」
ナラタは言い残してさっさと部屋に戻ってしまった。
私は時間をかけて息も絶え絶えになりながら飲み干した。
その効果は抜群で、翌日には微熱程度に下がっていた。
良薬は口に苦し、とはまさにこのことだと実感した。
入り口は木の蔦で作ったらしいカーテンが掛けられていて、中を見せてもらうと床には布が敷いてあり、話の通り毛布も置いてある。他にもコマがあったり、木の板にくぼみが上下5つずつ、左右にはそれよりも大きなものが1つつけられたものと、おはじきのようなきれいな石がそのくぼみに入っていた。
何かのボードゲームだろうか。
とにかくワクワクするような空間が作られていた。
「思ったより広いかも」
「だろ?」
ハウさんは興味深そうに辺りを見回している。
「でも11人で入るとちょっと狭い」
「いつもはボク達だけだからねぇ」
狭苦しいのが嫌になったのかカーグさんが出て行ってしまった。
「いいなーー! オレも秘密基地ほしー!」
羨ましくなったらしいスナフくんは地団駄を踏んだ。
「ここの秘密基地使う?」
「オレの家からじゃ遠すぎる」
「そうだよねぇ」
「スキラ! オレ達も秘密基地作ろうぜ!」
「うーん、まぁいい場所が見つかったらね」
スキラさんは少し面倒くさそうに返事をしていた。
(これで全員の紹介が終わったわね。皆のことを深く知られて、遠足をやってよかった)
それに狼族の村の外に来られたことも有意義だったが、それぞれの村の伝統や習慣も知られてよかったと思う。
私はここから学校に帰るまでにかかる時間を考えながらスカートのポケットから懐中時計を取り出した。
その時刻、12時半。
「っ、大変! もう帰る時間、過ぎてる!! みんな、早く戻りましょう!」
「センセー、また学校に戻って家に帰るの面倒だしここから帰っていいー?」
ジェスくんがすごくだるそうに両手を頭の後ろに組んで言った。
「水筒も持ってきたから学校に取りに戻るものもないしそれがいいな」
イサナさんや他の子も同意見のようだ。
確かに今から学校に帰るより直帰の方が皆楽だろう。
「そうね。そうしましょう。では、みなさんさようなら。気をつけて帰って」
私も皆と一緒に今日は帰ることにした。
今日の良き日のことは手紙に書いてマルティンさんに送ろう。そう思いながら。
その夜、夕食を終え、今日は疲れたから何もせず早く寝ようとベッドに潜り込んだものの、なんだかいつも以上に寒くて体の震えが収まらず、まさかと思い体温計__もちろんデジタルではなく水銀式__で測ったら39度あった。
完全に風邪だ。
(ナラタさんに薬を作ってもらおう……)
私は部屋を出てナラタさんの私室をノックした。
「どうしたんだい?」
私が居候を始めてから初めての夜間訪問に、ナラタさんは怪訝そうな顔をして出てきた。
「熱が出て、薬を、作ってもらえないかと」
「熱? 待っといで。すぐに作るよ」
「ありがとう、ございます」
ナラタさんはすぐに階段を下りて薬局に行こうとしたが、忘れてたというように私の方を振り返って、
「他に症状は?」
「ないです」
それを聞くと階段を下りていった。
私は一度部屋に戻って毛布に包まってから薬局に下りた。
ナラタさんは蝋燭をつけてすでに薬草を煎じていた。
「アンタが風邪なんて、ここに来て初めてだね。最近忙しかっただろ。疲れが出たのさ」
「それもあると、思いますが……今日は遠足でずっと外に出てたから」
「遠足?」
私はナラタさんに午前中の間ずっと外を歩き回っていたことを話した。
「ここらに住む獣人はそんなことじゃ熱は出さないけどねぇ。人間は寒さに弱いね」
むしろ私からしたらここに住む人達は寒さに強すぎると思うのだが。
「お湯を沸かしてきな」
言われるままに台所に行って火を起こして鍋に火をかけた。
そうしているうちに薬が出来上がり、薬草を袋に入れてお湯の中に入れて煮出し飲み薬が出来上がった。
漢方のような、夏前の河川敷のような、強い草の匂いがする。
一口飲むと強烈な味に髪の毛が逆立ちそうな気がした。
『うぐっ……ニガッ……』
「ちゃんと飲むんだよ」
ナラタは言い残してさっさと部屋に戻ってしまった。
私は時間をかけて息も絶え絶えになりながら飲み干した。
その効果は抜群で、翌日には微熱程度に下がっていた。
良薬は口に苦し、とはまさにこのことだと実感した。
1
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
前世を思い出したのでクッキーを焼きました。〔ざまぁ〕
ラララキヲ
恋愛
侯爵令嬢ルイーゼ・ロッチは第一王子ジャスティン・パルキアディオの婚約者だった。
しかしそれは義妹カミラがジャスティンと親しくなるまでの事。
カミラとジャスティンの仲が深まった事によりルイーゼの婚約は無くなった。
ショックからルイーゼは高熱を出して寝込んだ。
高熱に浮かされたルイーゼは夢を見る。
前世の夢を……
そして前世を思い出したルイーゼは暇になった時間でお菓子作りを始めた。前世で大好きだった味を楽しむ為に。
しかしそのクッキーすら義妹カミラは盗っていく。
「これはわたくしが作った物よ!」
そう言ってカミラはルイーゼの作ったクッキーを自分が作った物としてジャスティンに出した…………──
そして、ルイーゼは幸せになる。
〈※死人が出るのでR15に〉
〈※深く考えずに上辺だけサラッと読んでいただきたい話です(;^∀^)w〉
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げました。
※女性向けHOTランキング14位入り、ありがとうございます!!
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?
藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。
目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。
前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。
前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない!
そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる