その悪役令嬢はなぜ死んだのか

キシバマユ

文字の大きさ
上 下
41 / 73
二章 獣人の国

41 遠足に行こう(2)

しおりを挟む
 ハウさんの家を出て、通学路には戻らず森の中へ入る。

 「あんまり、森の中は、危ないんじゃ……」

 各村とも集落が形成されている場所と村々を繋ぐ道は森が切り開かれているが、そこを少し外れるともう樹海だ。山歩きの装備もなしに歩くのは遭難の恐れがある。

 「大丈夫よ。すぐそこだから」

 民家の裏手から森に入り歩くこと5分。森の中の開けた場所に来た。

 「お花畑があるって言ってたのに何もないね」

 イサナさんが残念そうに積もった雪を蹴った。

 「今の時期に咲いてるわけないじゃないっ。ここは春になったらシャラの花がいっぱい咲いて絨毯みたいになるの。とってもすごいんだから!」

 ウェルナさんは両腕を広げて満面の笑みで言う。

 (ウェルナさんはリーダー気質はこういう隠れた場所を探したりするところでも発揮されるみたいね)

 シャラの花という名前は初めて聞いた。
 一体どんな花が咲くのだろう。それが一面に咲き誇る景色は一体どんなものだろう。
 春になったら絶対に見に来よう。




 次の案内役はリーヴくん。
 彼は狼族の村から近い森の中を案内してくれた。
 村からここまではよく人通りがあるらしく、踏みしめられて道になっていた。

 「僕の好きな場所はここ。ここら辺の木は全部リーヴなんだよ。僕の名前と一緒の木。秋にはたくさん実がなるから取りに来たりもする」

 リーヴくんの名前の由来はこの木からきていたのか。
 こんなに雪が積もっていても青々とした葉を茂らせている。

 「リーヴの木って、どんな木?」
 「私知ってる。リーヴの木は千年も生きるの。どんな痩せた土でも育つし、丈夫」

 興味があることにはとことん詳しいカーグさんが教えてくれた。

 「花はとってもいい匂いがするよね」

 と言って葉の匂いを嗅いで何の匂いもしなかったらしく、イサナさんは首を傾げている。
 リーヴくんの両親は、この木のように彼が丈夫で長生きしてどんな場所でも活躍できる人になれるようにと願って彼の名前をつけたのだろう。
 私も秋になったらリーヴの実を取りに来よう。

 「私の名前の由来ってなんだろう?」
 「ボクも知らないや」

 カーグさんとオドくんが顔を見合わせて首を傾げている。

 (かわいい……)

 「次は私。ここからまぁ近いからついてきて」

 今度はカーグさんの番らしい。
 私達は彼女を先頭に再び歩き始めた。




 カーグさんは来た道をさらに奥へと進んでいった。
 途中で道は獣道になり険しい坂もズンズンと登る。
 私は急坂を15分登り続けたところで次第に息が切れ始めた。
 雪で足を取られるから余計に体力を消耗する。
 体は若いし、日頃水汲みや掃除でそんなに運動不足でもない。
 それでも体力は獣人の子供達の足元にも及ばない。

 「先生、大丈夫ー?」

 エイドくんが心配そうに私の顔を覗き込んだ。

 「だっ、大丈夫……」
 「もうすぐ着くから頑張って」

 先頭のカーグさんが前だけを見て言う。
 彼女のもうすぐはそれから5分後のことだった。




 「ここ、いい場所でしょ?」

 険しい山登りをして辿り着いたのは狼族の奥にある山の頂上だった。
 この山には狩りや山菜取りに度々来ていたが、山頂までは来たことがなかった。
 ここからは狼族の村が一望できる。
 人が住み着いて森が切り拓かれ、住人が増えるごとにその面積を広げていったように推察できた。
 見晴らしの良さに感心するが、さすがに他の村までは見えなかった。
 ビュウビュウと冷たい風が私の髪を巻き上げる。ここまで来る間に少しかいた汗が余計に寒い。

 「ここには月が出ない夜パパと来る。それで一緒に星を見る。いっぱい見えるよ。春は◉◆⌘%?%∂__」
 「ちょっと、待って! 辞書を出すから……」

 私はいつも持ち歩いている辞書を肩かけカバンから取り出してカーグさんが言った単語を探した。

 「じゃあもう1回言うよ。春は魔法使いの杖座、大鷲座、方舟座、鼓舞する獅子座とか、夏は炎の竜座、森の妖精座、天馬座、天空の猟豹座でしょ、秋は真実の秤座、勇敢な狐座、君臨する熊座、冬は王冠座、闘う虎座、光の蝶座、砂時計座、夜の花座とかいっぱいいっぱい見れるよ。まだ覚えてないけどもっとある」

 私は辞書を引き、たくさんの星座の名前を知った。
 カーグさんは空を指差し一つ一つ形を作りながら天体を熱く語ってくれた。

 (本当に記憶力がすごい。特に興味のある分野はとことん調べ尽くすタイプよね)

 「すごい! 詳しいわね! どれが一番綺麗なの?」
 「一番はきめられない。けど明るい星が多いのは炎の竜座」
 「見てみたいわ」
 「見られる時期になったら教える」
 「ありがとう!」

 カーグさんとウェルナさんがまだ明るい空を見上げながら楽しそうに笑っていた。

 「星座は分かったから次行こーぜー。今度はオレらの番な」

 次の案内人はスキラさんとスナフくん。
 さすが双子、一番好きな場所も同じだった。
 2人の好きな場所は獅子族の村にあるらしい。
 私達は山を来た方とは逆側に下り、獅子族の村に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...