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二章 獣人の国
26 獣人の国へ来たけど……
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箱のような国境検問所の扉を出るとそこはもう獣人の人々が住む世界だった。
(あの人はライオン、あの人はシカかしら、あの人は……間違いなくトラね)
どこを見ても歩いているのは獣人。ただひとえに獣人といってもほとんど人間に見えるような人から元の動物に近いような見た目の人まで様々だった。
もっとも、動物に近い見た目といっても四足歩行の人はいない。
そして着ている服もジルタニアとは全く違った。
ドレスやジャケット姿の人もいないではないが1割以下で、ほとんどの人が伝統衣装だろう、前で合わせる衣服を着ている。形はアジア圏の民族衣装っぽい感じだ。
襟元や袖、裾の刺繍が鮮やかだ。
(隣の国なのにこんなに景色が違うなんて。って言ってもジルタニアの国境側の街はバスの車窓からしか見てないけど)
とにかく1年半暮らしたハールズデンとはまるで違う。
国境の街だから国内でもそこそこ栄えてる街のはずだが、それでもジルタニアとの経済力の差が目に見えてわかる。背の低い建物が圧倒的に多く、それらも古びている。道路を走る車の数もまばらだ。
私は街を見回しながら、若干途方に暮れていた。
(大森林にはどうやって行けばいい? でもその前に服を調達しておいたほうがいいよね。でもドレスは置いてあるかしら)
服や医学書、筆記用具に大切にしていた白衣も全て事故車両に置いてきてしまった。その中でもすぐ必要なのは着替えだ。大森林と呼ばれているくらいだから服屋もないかもしれない。ここで買っておこう。
(となると、まずは着替えを入れるカバンが欲しいところね)
そして再び街に目を向けて気づいた。
(文字が読めない……! 私バカだ。他所の国に行ったら文字も言葉も違うのが当たり前じゃない! どうしてそんな簡単なこと思いつかなかったんだろう……。この世界に来てから言葉で困ったことがなかったから……? そうだ、前に会った狼の人が一切訛りのないジルタニア語を喋ってた。だから……?)
原因を考えても意味がない。この言葉が通じない国でこれからやっていくのか、いけるのか。それともジルタニアに戻るか__。
(戻って人里離れた場所でコソコソ怯えて暮らすより、この国で心機一転頑張るほうがいい)
心は決まった。
通りを歩いていたらカバンを売っている店はすぐに見つかった。店の外にも商品を陳列していたからだ。その中から大きくて安い物を探して値札を見てまたしても気づく。
(両替しないと……!)
再び街を歩いて両替店らしきものを探す。しかし服屋や飲食店のように店のマークでも判別できそうになく途方に暮れた。
そこで先ほどのカバン屋に戻って、思い切って店主の、ネズミだろうか? 女性に話しかけた。
「あのっ、両替をっ」
私は財布からお札を取り出して、お札を指差し次に下を指差して、それからお札を差し出し受け取るジェスチャーをしてみた。
「! ◆$%〻◉¿⁑¢⌘∞⁂※」
伝わったらしく、女性は店の外を差しながら何やら説明してくれるが全く何を言っているのかわからない。
「えぇっと……、どこ?」
困惑していると、伝わっていないと気づいた店主さんが手招きして私を外に連れ出した。
「∞⁂¢⌘◉、◉⌘※※⌘__」
女性は店の正面にある通りを指し示して、右を指し正面を指しさらに右を指し示し、手振りで懸命に説明してくれた。
(あっ、なんとなくわかった。真っ直ぐ行って右に曲がってまた真っ直ぐ歩いて2本目の角を右だ)
「ありがとうございます!」
私は笑顔でお辞儀をした。女性はそれに笑って応えてくれた。こちらの謝意も伝わったらしい。
(早くこの国の『ありがとう』くらい言えるようになりたい)
教えてもらったとおりに行ってみると、銀行のような窓口のある店を見つけた。
意を決して中に入り窓口でお札を出してみると、何も言われずすぐにこの国のお金に変えてくれた。
私はこのお金を持ってカバン屋に戻りトランクを買い、次に服屋に入った。
その店は予想通り古着を扱っており、ドレスも店の半分くらいを占めていた。
いくつか値札を確認して、これなら2、3着購入できそうだと安堵する。
(やっぱりこの国でもまだ新品の既成服を売る店は多くなさそう)
ジルタニアでも服は自宅で作るのが一般的で既成服を扱う店は多くなく、必然と価格も高かった。
店内で丈の合うものを第一に選んでみたがそれだとそれなりに数があった。
そういえば街で見かけた人も話しかけた人もみんな背が高かった気がする。獣人は人間より背が高いのだろうか、と考えてハッとしてワンピースのお尻を見た。
(これも、こっちのものも尻尾用の穴が空いてる……!)
選び直しだ。
今度は尻尾用の穴がないことを基準に、予算と相談しながら2着を選んだ。
これからどれだけ入り用になるか分からない。節約しなければ。
私は服を持ってレジに向かった。
レジで座って本を読んでいたのは全身トラ柄の服を着たトラの獣人男性だった。
「あの、これを」
「◉⌘。*●□○⌘」
多分合計金額を言っているんだと思うが聞き取れない。
単純に値札の合計金額を出せばいいのか。それとも消費税的なものが加算された金額になるのか……。
ええい、多めに出すか、と財布を開けたところで店主の男性が奥に引っ込んでしまった。
すぐに戻ってきたが、言葉の通じない人間は追い出されるかと身構えた私をよそに、店主さんは紙にさらりと数字を書いて私に見せた。
「9800」
値札の合計金額だ。この国は税込か消費税がないらしい。カバンのお店でも表示されている値段を払えば大丈夫だった。明朗会計で助かる。
しかも買い物をいくつかして思うに、ジルタニアより4割ほど物価が安い。貯金を切り崩して生活する身としては非常に助かる。
私は10000と書かれたお札を出した。
(10000、円じゃなくてなんだろう。とりあえず今はホニャララって呼ぼう)
私は9800ホニャララを支払って服を受け取った。
(あとは大森林に向かうだけ。この人が持ってきた紙とペンでなんとか聞けないか……?)
海外旅行でも困った時は筆談が有効だったりする。それにここで聞けなければアテもない。
「すみません、紙とペンを借りても?」
私は紙とペンを指差し、手で字を書くモーションをして見せた。
すると男性は『オーケーオーケー』と言うように笑ってその2つを差し出してくれた。
私はそこにこの国の地図を描き、今いる場所と大森林にマルをつけ矢印で繋ぎ完成した絵を見せた。
「◉⌘◉!」
無事伝わったらしい。しかし何やら考え込んでいる。……やっぱり伝わってない?
様子を窺っていると、
「◆〻※◆◉!」
何か言って店の外に出て行ってしまった。
一人取り残された私は呆然とするしかない。
(ちょっと、えっ? あの人どこに行ったの? 私はどうすれば)
これは留まっておくべきか、むしろ店主さんが帰ってくる前に消えておくべきなのか。
うだうだ迷っていると店主さんがもう一人、キツネの獣人を連れて戻ってきた。その人は動物の姿に近く種類は見間違えようがない。
(わっ、どうしよう、戻ってきちゃった。道教えてくれるんだろうか? それとも追い出される!?)
「アンタ、大森林に行きたいんやって?」
「えっ、はっはい!」
「あそこは定期馬車も出てへんし、行くってなったら遠いから馬か馬車借りるしかないで。けどちょうどよかったな。オレ行商で1カ月に1回まわってんねん。乗ってく?」
これ以上の渡りに船ならぬ渡りに馬車(?)はない。
「お願いします!」
「オレはマルティン。アンタは?」
「ナオです。そうだ、ありがとうってウィルド・ダムではなんて言うんですか?」
「ニキオーやで」
私はマルティンさんを連れてきてくれた店主さんと目線を合わせ、
「ニキオー」
「ニキオー、キヤマタ」
「キヤマタはどういたしましてって意味や」
私はもうすでにこの国がちょっと好きになっていた。
(あの人はライオン、あの人はシカかしら、あの人は……間違いなくトラね)
どこを見ても歩いているのは獣人。ただひとえに獣人といってもほとんど人間に見えるような人から元の動物に近いような見た目の人まで様々だった。
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そして着ている服もジルタニアとは全く違った。
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襟元や袖、裾の刺繍が鮮やかだ。
(隣の国なのにこんなに景色が違うなんて。って言ってもジルタニアの国境側の街はバスの車窓からしか見てないけど)
とにかく1年半暮らしたハールズデンとはまるで違う。
国境の街だから国内でもそこそこ栄えてる街のはずだが、それでもジルタニアとの経済力の差が目に見えてわかる。背の低い建物が圧倒的に多く、それらも古びている。道路を走る車の数もまばらだ。
私は街を見回しながら、若干途方に暮れていた。
(大森林にはどうやって行けばいい? でもその前に服を調達しておいたほうがいいよね。でもドレスは置いてあるかしら)
服や医学書、筆記用具に大切にしていた白衣も全て事故車両に置いてきてしまった。その中でもすぐ必要なのは着替えだ。大森林と呼ばれているくらいだから服屋もないかもしれない。ここで買っておこう。
(となると、まずは着替えを入れるカバンが欲しいところね)
そして再び街に目を向けて気づいた。
(文字が読めない……! 私バカだ。他所の国に行ったら文字も言葉も違うのが当たり前じゃない! どうしてそんな簡単なこと思いつかなかったんだろう……。この世界に来てから言葉で困ったことがなかったから……? そうだ、前に会った狼の人が一切訛りのないジルタニア語を喋ってた。だから……?)
原因を考えても意味がない。この言葉が通じない国でこれからやっていくのか、いけるのか。それともジルタニアに戻るか__。
(戻って人里離れた場所でコソコソ怯えて暮らすより、この国で心機一転頑張るほうがいい)
心は決まった。
通りを歩いていたらカバンを売っている店はすぐに見つかった。店の外にも商品を陳列していたからだ。その中から大きくて安い物を探して値札を見てまたしても気づく。
(両替しないと……!)
再び街を歩いて両替店らしきものを探す。しかし服屋や飲食店のように店のマークでも判別できそうになく途方に暮れた。
そこで先ほどのカバン屋に戻って、思い切って店主の、ネズミだろうか? 女性に話しかけた。
「あのっ、両替をっ」
私は財布からお札を取り出して、お札を指差し次に下を指差して、それからお札を差し出し受け取るジェスチャーをしてみた。
「! ◆$%〻◉¿⁑¢⌘∞⁂※」
伝わったらしく、女性は店の外を差しながら何やら説明してくれるが全く何を言っているのかわからない。
「えぇっと……、どこ?」
困惑していると、伝わっていないと気づいた店主さんが手招きして私を外に連れ出した。
「∞⁂¢⌘◉、◉⌘※※⌘__」
女性は店の正面にある通りを指し示して、右を指し正面を指しさらに右を指し示し、手振りで懸命に説明してくれた。
(あっ、なんとなくわかった。真っ直ぐ行って右に曲がってまた真っ直ぐ歩いて2本目の角を右だ)
「ありがとうございます!」
私は笑顔でお辞儀をした。女性はそれに笑って応えてくれた。こちらの謝意も伝わったらしい。
(早くこの国の『ありがとう』くらい言えるようになりたい)
教えてもらったとおりに行ってみると、銀行のような窓口のある店を見つけた。
意を決して中に入り窓口でお札を出してみると、何も言われずすぐにこの国のお金に変えてくれた。
私はこのお金を持ってカバン屋に戻りトランクを買い、次に服屋に入った。
その店は予想通り古着を扱っており、ドレスも店の半分くらいを占めていた。
いくつか値札を確認して、これなら2、3着購入できそうだと安堵する。
(やっぱりこの国でもまだ新品の既成服を売る店は多くなさそう)
ジルタニアでも服は自宅で作るのが一般的で既成服を扱う店は多くなく、必然と価格も高かった。
店内で丈の合うものを第一に選んでみたがそれだとそれなりに数があった。
そういえば街で見かけた人も話しかけた人もみんな背が高かった気がする。獣人は人間より背が高いのだろうか、と考えてハッとしてワンピースのお尻を見た。
(これも、こっちのものも尻尾用の穴が空いてる……!)
選び直しだ。
今度は尻尾用の穴がないことを基準に、予算と相談しながら2着を選んだ。
これからどれだけ入り用になるか分からない。節約しなければ。
私は服を持ってレジに向かった。
レジで座って本を読んでいたのは全身トラ柄の服を着たトラの獣人男性だった。
「あの、これを」
「◉⌘。*●□○⌘」
多分合計金額を言っているんだと思うが聞き取れない。
単純に値札の合計金額を出せばいいのか。それとも消費税的なものが加算された金額になるのか……。
ええい、多めに出すか、と財布を開けたところで店主の男性が奥に引っ込んでしまった。
すぐに戻ってきたが、言葉の通じない人間は追い出されるかと身構えた私をよそに、店主さんは紙にさらりと数字を書いて私に見せた。
「9800」
値札の合計金額だ。この国は税込か消費税がないらしい。カバンのお店でも表示されている値段を払えば大丈夫だった。明朗会計で助かる。
しかも買い物をいくつかして思うに、ジルタニアより4割ほど物価が安い。貯金を切り崩して生活する身としては非常に助かる。
私は10000と書かれたお札を出した。
(10000、円じゃなくてなんだろう。とりあえず今はホニャララって呼ぼう)
私は9800ホニャララを支払って服を受け取った。
(あとは大森林に向かうだけ。この人が持ってきた紙とペンでなんとか聞けないか……?)
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「すみません、紙とペンを借りても?」
私は紙とペンを指差し、手で字を書くモーションをして見せた。
すると男性は『オーケーオーケー』と言うように笑ってその2つを差し出してくれた。
私はそこにこの国の地図を描き、今いる場所と大森林にマルをつけ矢印で繋ぎ完成した絵を見せた。
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無事伝わったらしい。しかし何やら考え込んでいる。……やっぱり伝わってない?
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「◆〻※◆◉!」
何か言って店の外に出て行ってしまった。
一人取り残された私は呆然とするしかない。
(ちょっと、えっ? あの人どこに行ったの? 私はどうすれば)
これは留まっておくべきか、むしろ店主さんが帰ってくる前に消えておくべきなのか。
うだうだ迷っていると店主さんがもう一人、キツネの獣人を連れて戻ってきた。その人は動物の姿に近く種類は見間違えようがない。
(わっ、どうしよう、戻ってきちゃった。道教えてくれるんだろうか? それとも追い出される!?)
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「えっ、はっはい!」
「あそこは定期馬車も出てへんし、行くってなったら遠いから馬か馬車借りるしかないで。けどちょうどよかったな。オレ行商で1カ月に1回まわってんねん。乗ってく?」
これ以上の渡りに船ならぬ渡りに馬車(?)はない。
「お願いします!」
「オレはマルティン。アンタは?」
「ナオです。そうだ、ありがとうってウィルド・ダムではなんて言うんですか?」
「ニキオーやで」
私はマルティンさんを連れてきてくれた店主さんと目線を合わせ、
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