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1.5章
タカタク執行部
しおりを挟む戦争とは、互いに主張持った者同士が対立する事で起きる事象。
それは、時代が進んだこの現代においても無くなることはなく、今も至る所で起きている。
かく言うこの神代学園でも、まさに今それが起きようとしていた──────
急変更の規定を振りかざす生徒会VS必死に抵抗する少人数部活
互いに自身の帰る場所を守るため、戦いの火蓋は切って落とされる。
もちろん、この現代日本において武力による交渉なんてもってのほか。
お互いがお互いに納得した上での、特別措置としての対抗戦。
いつからそう呼ばれていたのか、付いた名称は『部活血戦』。
───────これは少人数部に新部活規定を納得してもらう戦いである。
***
………とは、難しく言ったものの、つまるところ向こうの土俵で戦い、勝って5人制を認めてもらうことである。
そしてそれを今日行うのは、この教室にいる4人の男女である。
2019年 5月1日
GWまであと1日となったこの日、部活血戦当日となった。
生徒会室は目がどんよりとしゾンビみたくなってる真昼が居るため、空き教室に場所を移してミーティングを行ったのだが。
「ちょっと待ってください。なんで私とタク、美晴と山本でチーム分けされてるんですか?」
「なんでって、ほたるんは家の事情、あとはジャンケンの采配でしょ。そもそも数が多いから担当を分けようって言ったのは高須賀、あんたじゃない」
そしていま血戦に向かう為のチーム分けを行ったのだが、高須賀にはその分かれ方が不服らしい。
「ええ、確かに言ったのは私です。分けたのもジャンケンなので運でしょう。しかし! なんでまた私がこのバカタクとチームを組まないといけないんですか!」
「いいじゃない。バカはバカ同士仲良く行ってきなさいよ。神代学園きってのバカ2人がまた手を組むなんて、見てるこっちからすると楽しいし」
「なんで馬鹿って所はお前ら同じ認識なんだよ」
言い合う二人の間から苦言を呈する高城。
もうバカと言われ慣れすぎたのか鋼のメンタルで2人を睨む。
高須賀は自身の出したグーを恨めしく睨み、数週間前に行った部活血戦の結果を思い出す。
「い、嫌だ! またあんな結果になるくらいなら私1人で行った方がましです!」
「生徒会規程、執行部の活動は正当性を保つため2人以上で行うこと……ルールを押し付ける俺らがルールを破ってどうする」
山本が言うが、それでも高須賀の不服が止まらない。美晴も呆れたのかため息をついて、
「もういいから健一いこ。それじゃあお二人さん頑張ってー」
「5時半にまたここでな」
結局高須賀の言い分は聞いてもくれず、そそくさと2人は出ていってしまった。
「まあまあ仲良くやろーぜ。前みたく死ぬ時は一緒に死のうや」
まるで呪いのような言葉。
戦争の言葉に、『最大の敵とは無能な味方である』という言葉があるが、高城はその中でも一級品。
頭を抱える高須賀は気づいているのだろうか。高須賀、彼自身もその一級品に入るのだ。
結局似た者同士には縁が結ばれ、今日も活動を共にする。これが後のタカタク執行部である。
高城は何となしに担当部の紙の束から上の1枚目の部活動を見る。
「よぉーし!まずは羽毛布団研だ! 行くぞー」
「はい……行きましょう」
生徒会の仕事だと割り切り変な部活の集まる第三棟の校舎へと足を運んだ。
***
~1時間後~
「はぁ……はぁ………次は、あっちの教室か……」
「………………………」
「おい、タク……? しっかりしろ!」
返答のない違和感に振り返ると、戦友は倒れていた。
神代学園第三棟の廊下で変な茶番をしているのは高城と高須賀である。
高城の口からは泡が吹かれており、先程の戦いの凄惨さを表していた。
「だからやめておけと言ったのだ! 相手が出てきた果物の王様ドリアンに漬物の王様たくあんをぶつけるなんて……なんでそんな無茶したんですタク!」
「ふっ、はは。王手には王手ってな。相手が奇料理で向かってくるんだ。こっちは相手の予想にない奇料理で迎え撃たないとダメだろ」
霞む視界と震える手足。
溢れる嗚咽感の中に、しかしやり切ったという満足で満ちていた。
奇料理研との勝負は至ってシンプルだった。
お互いに提示する食材を混ぜて煮込み、それを完食出来なくなった方の負け。
最後の決め手となったのは相手の禁じ手だ。
自滅覚悟のドリアンにタカタク執行部は選択を迫られる。
味をぼかす延命か、刺し違え覚悟の味の引き立てか。
限界に近いタクは苦悩の末、後者を選んだのだ。
「あぁ……婆ちゃんが川の向こうで走りながら何か言ってる……聞こえないよ婆ちゃん、もうちょっと近づいてくれよ」
「やめろタク! それはお婆さんがまだこっちに来るなと言ってるんだ!気を確かに持て!行くな!」
「婆ちゃん、なんて……聞こえないよ……ばあちゃ……カ、バディ? 婆ちゃんあの世でカバディしてんのか……いいなぁ楽しそうだなぁ」
「……お前のお婆さん元気だなおい」
「え、婆ちゃん……次俺アタッカーでいいの?やったぜ……カバディ…カバディ」
「いやもう川渡ったのか!? 帰ってこい! カバディなんて置いてこっちに戻ってこいタクゥゥゥ!」
両頬をビシバシ往復ビンタしてカバディと呟く友人を目覚めさせる。
廊下を歩く数人の生徒から奇異な目で見られるのは当然であり、生徒会はおかしな人ばかりというイメージにまた拍車がかかった。
***
「あぁ気持ち悪ぃ。なあ、あのゲテモノ食ってから記憶飛んでんだけど頬痛いしなんかあったのか?」
「いや、ただカバディしてただけだ。気にするな」
「は? んーまあいいや。んで次がここか」
第三棟の4階にある教室。
掛札は無いものの申請書にはここが部活室であると記されている。
膨れる吐き気を無理やり押し込め部屋のドアを開けた。
***
「次は『クイズゲーム部』? なんでゲーム部と統合しないんだよ」
まずはこの部活規定についての話し合いだ。生徒会と部長、副部長が対面して座り会話から始める。
前髪パッツンの丸メガネが部長、マイペースそうにぽけーっと天井を見ているタレ目女子が副部長だ。
そこでまず初めに口を開いたタクがそんな事を言って、それにクイズゲーム部部長が机を叩いて立ち上がる。
「我々はクイズのためにゲームをしているんです! ゲームのためにゲームをするアイツらと一緒にして頂きたくないですねぇ!」
「どっちも同じ穴の狢だろうが。てかクイズしたいならクイズをしろよ。なんでゲーム挟んでんだよ」
今日は珍しくツッコミ側にまわるタク。
そのツッコミに反応することなくクイズゲーム部部長、谷山は生徒会が持ってきた部活規定変更の紙をくしゃくしゃに丸めた。
「おい! なにすんだよ!」
「見て分かりませんか? 我々はその規定変更を認めないと言っているんです」
「では、特別措置を行いたいと?」
高須賀の言葉にニヤリと笑う谷山。
規定変更の話をどこからか聞いていたのか、もう既に用意はしているらしい。
教室の奥、パソコンが数台並ぶその後ろから3台のテレビモニターを取り出し机に並べる。
薄っぺらくて軽いのに高画質。どうやら谷山のポケットマネーで全て揃えているらしい。
並べ終えると次はそのモニターに色々なコードを繋げていって最後にパソコンと繋げて、モニターの電源をつける。
ブッ という音とともに3Dのゲーム画面が映し出され中央にはそのゲーム名がデカデカと書かれている。
「今回我々が血戦にて使うゲームは『解答への鉄骨渡り』!」
「そこはゲームでいいのかよ」
「簡単に言えば、鉄骨を渡るアクションと問題をクリアするクイズが混ざったクイズゲームです」
「あ、言い直した」
小さくちゃちゃ入れをするタクを無視して谷山はこのゲームについての説明を続けた。
「まず皆さんにはこれを見てください。
見た通り、ゲームのステージは鉄骨が一定の間隔で何本も並列に並んでいる空中となります。
最初のステージでは、鉄骨一本につき一つの門が存在します。
門に触れる事でその鉄骨の解答権を得ることができ、解答して正解なら門が開いて次のステージに進むことができます。
ただし門一つに対して触れれるのは一人だけです。一つの門に何人も入られてはゲームが崩壊しますから、門に触れた時、その門と繋がる鉄骨に二人以上いた場合、解答権を持っていないプレイヤーは脱落します。なお、鉄骨は解答後下に落ちますので気をつけください」
「すっげぇ! これお前らだけで作ったのかよ」
「これは……なかなか」
高城も高須賀も驚きのあまり画面に釘付けだ。
すると後ろからマイペースそうな副部長がコントローラーを渡してくる。
どうやらこれでこのゲームをプレイできるらしい。
「それでは今から10分間練習時間を上げますので操作に慣れてください
〇ボタンを連打することで走り、×ボタンでジャンプ、十字キーでその方向に腕をほんの少し出すことが出来ます。………聞いてます?」
「悪いな。こういうのは習うより慣れろタイプなんだ。ちなみに頭良さそうに見えるこいつもこのタイプだから」
「いえ私は聞いています。それで敵を倒すにはどうしたらいいんですか?」
「ほんとに聞いてました? これクイズゲームだから。頭良さそうに見えて脳筋ですねあなた」
ため息をつく谷山を他所に生徒会の2人は思い思いに自身のキャラを動かしていく。
ジャンプで跳ねたり連打速度を変えて走るスピードを早くしたり十字キーで腕を出したり。
「おいおい、このゲーム当たり判定あるぞ!」
高城はロビー画面で高須賀のキャラに腕を前に出してぶつけている。ポンっと可愛い音を立ててお互い前後に弾かれた。
「キャラに当たり判定はあります。
しかし、それじゃあただの落とし合いになってしまう為、当たった時、前にいるプレイヤーは前に、後ろにいるプレイヤーは後ろに弾くよう設定しています。
これなら問題の解答権、つまり『門に触れる』という行為は前にいるプレイヤーに与えられる為乱闘にはなりにくくなります。
あくまでこのゲームはクイズアクション、前後でボコボコに当たりまくってゲームが終わらないなんて事にならない為の調整です」
「じゃあなんで当たり判定付けたんだよ」
「妨害対策です。後ろのプレイヤーがぶつかり、前のプレイヤーはのけ反りという1秒動けなくなるようシステムを組んでいます。
そうする事で貴方たち二人が相手でも妨害を掻い潜って別の鉄骨に渡ることができます」
前に立って、とおせんぼ。
このゲームでよく使われる妨害法だ。これの最悪な所は後ろのプレイヤーが右に移動しても前のプレイヤーが右に移動すれば状況が変わらないという所。
つまり、前のプレイヤーに1秒のスタンがあれば後ろのプレイヤーが妨害を掻い潜って抜け出すことの出来る救済法となる。
そこまで説明した時、高須賀が先程の説明で気になる事に気づく。
「待ってください。もし横に飛んだ時、飛んだ先にプレイヤーが居たら?」
「お互いに弾くので、2人とも鉄骨の下に落ちるでしょう。なので飛ぶ時は周りに注意して飛んでください」
やはりといった答えだ。
前の敵をみるだけではいけない。仲間の位置取りの把握がかなり必要だ。そして作戦も。
目の前の谷山を見る。
彼が持ってきたモニターは3つ。そして用意されたコントローラーも3つ。そして彼が先程言っていた『貴方たち二人が相手でも』という言葉。
彼は一人で生徒会2人を相手に出来ると言っているのだ。
彼の出している慢心は長年プレイしてきた自信から来ているのだろう。
しかし警戒してるだけではいけない。こちらのハンデとなる人数差を活かせる作戦を考えなくては。
必死に頭を回す高須賀、そしてそれとは対照的にポチポチと画面に釘付けの高城。
高城は何度目かの鉄骨渡り失敗に「あぁぁ!」と騒ぐ。
「鉄骨を渡るの難しすぎんだろこれ。どうやってやってんの?」
「これはキャラを横に向けてジャンプボタンを押しギリギリ届く距離を設定してます。あと、手が鉄骨に触れれば自分から這い上がります。
なので前に走りながら横に飛び移るなんて大着は鉄骨の間に落ちるだけの自殺となるので気をつけてください。
ちなみに鉄骨の間に落ちたら下にある判定で即脱落になります」
ドゥーン という効果音と共に再び高城のキャラが死ぬ。
リスタートのボタンを押して画面に戻ってきた自分のキャラを見て何かに気づく高城。
「なぁ、俺のキャラ最初に見た時よりごつくなってるような気がするんだけど」
「あぁ、キャラは死ねば死ぬほど彫りが深くなるように設定していますので」
「要らねー凝り設定なんで入れるんだよ!」
この部長のこだわりポイントが分からず、やはり今日はツッコミポジションに居座る高城であった。
***
「それと、私はこのゲームの開発者。つまりプレイスキルも貴方たちより格段に上のはずです。
ですので、ハンデとして2人で3回の復活権を与えます。もちろん私は復活権はなしで大丈夫です」
「お、まじかよ! 太っ腹じゃねーか。見直したぜ」
高城の喜ぶ姿にほくそ笑む谷山。
(ふっ、馬鹿が。今与えたのはハンデなんかじゃない。2人で3回の復活権、それはデメリットに働くって事を教えてやるよ)
そんな腹黒さを片鱗も見せずゲームの説明と練習は終わる。
そうしてそれぞれ元場に着く。
画面には『ホストのOKボタン待ち』と表示されており、恐らく谷山がボタンを押すことでゲームがスタートするのだろう。
高城と高須賀はお互いに目配せをした。
このゲーム、生徒会側が2人であるなら片方の1人が問題を解いて進んで、もう片方の1人が谷山を邪魔し続ければいい。
それに復活権は3回もある。無茶な妨害もできる所まではしていこう。
そういう方針で試合を見定めて、そしてポロンと言う効果音と共に。
副部長が参加してきた。
「一人で相手するんじゃないんですか!?」
大きくツッコミをする高須賀。
高城はもう驚き呆れて笑っている。
「いえーい。私たちの部だもん、私も参加する」
後ろを見ればパソコンをモニター代わりにしてマイペース少女が参加の表明を行っていた。
「うむ!うむ! それでこそ我がクイズゲーム部の姫だ!」
「なんなんですかこの人たち……」
「珍しいな高須賀。俺も同じ意見だ」
普段なら振り回す側であるはずの2人は、珍しくも散々振り回されているのであった。
そしてゲーム参加者は横一列、鉄骨上に並び立つ。
全員に確認を取ってからOKボタンを押した。
3秒前のカウントダウン
カーレースによくある縦型の信号機がカウントダウンと共に変化していく。
赤
黄
そして………
青 共にスタートを合図するブザーが鳴り響く
その瞬間ボタン連打をしまくる生徒会2人。しかし、
「なんでアイツら動かないんだ……?」
ちらりと横を見ればクイズゲーム部の2人が全く先へと進んでいない。
(甘いな生徒会。このゲームは俺が作った。だから鉄骨先にあるクイズで何処が簡単な問題かを俺たちは把握しているのさ。行け優紗!)
(りょ)
目配せで優位な鉄骨への移動を指示。何度もやっているからこそもう身についていて、マイペース少女は生徒会完全打破の為動き出し、
「あ」
ジャンプが足りず鉄骨の間に落ちていった。
ドゥーン という効果音が虚しく響く。
《優紗 失格!!!》
「……………」「……………」
「ゆさあああああ!」
壮絶な悲鳴が画面の右に出てきた通知とともに響いた。
***
谷山が叫んでいる間に生徒会チームは作戦通りの動きをした。
まず高須賀は前へ前へと突き進み、そして高城は。
「まあ、そうなりますよね」
2:1という数の状況。当たり判定があり、邪魔できるシステム。
この2つを上手く利用する方法は、片方が問題解決に奔走し、もう片方は敵プレイヤーの邪魔をする。
先程の説明での救済措置。
それは殴った際のスタンだった。つまり殴られない距離を保ちつつ前でのとおせんぼを続ければいい話なのだ。
前にいるプレイヤー、高城は不敵な笑みで向かい合う谷山を見る。
(救済措置がある程度で俺が邪魔しに来ないとでも思ったのか? 絶対に前には進ませねぇからな)
ほくそ笑む高城であったが。
しかし、谷山にとってそんなのは予想の範疇にすぎない。
谷山のキャラが動いた─────!
「なっ……うめぇぇ!」
舞うように右の鉄骨へ、そして高城が右に来たのを確認する前に読んで元の鉄骨に戻る。
読み合いは確かにあるが、しかしそれ以上にキャラクターコントロールがうますぎる。
「生徒会二人の動きがペッパー君なら、部長の動きはバレエ選手のよう」
「ごめん何言ってんのかわからん」
後ろで実況しているマイペース少女にツッコミを入れつつ、谷山を右の鉄骨から追いかける。
「はははは!いいぞ優紗そのまま実況を……っと見えてますよ生徒会!」
右へと飛ぶ谷山。
視線の先、鉄骨終わりの問題の門にたどり着いた高須賀が谷山の鉄骨の門に触れていた。
『問題の解答権は門に触れる事であり、そして解答権の無い者が同じ鉄骨上にいれば失格となる』
これを利用した蹴落とす脳筋プレイ。
右に飛ばれた為成功はしていないが、しかし高須賀も諦めない。
「私のキャラコンに着いてこれますかねぇ!」
右に左に飛ぶ谷山、それと連動して飛んで門に触れる高須賀。そして、
ドゥーン という効果音が鳴る。横からの通知は。
《高城 失格!!》
味方の死を告げるものであった。
高須賀が目を疑っていると、隣から非難が飛ぶ。
「おい高須賀! ちゃんと俺の場所見とけよ!」
「す、すまない。あの部長に目がいってて」
「はーはっはっは! ではな生徒会、先に行ってるぞ!」
高須賀が目を離してる隙に門へとたどり着いた谷山は問題の解答をすぐに終え姿を消した。
それと同時に高城が復活しすぐに門へとたどり着く。
「悔やんでても仕方ねぇ! さっさと次のステージ行くぞ高須賀!」
「ああ、すまない。次こそは成功させる」
謝る高須賀とチームのミスを水に流す高城。
この2人、普段はいがみ合ってばかりだが、やはり勝負事となると相性はかなり良く、このままいけば逆転の目がまだまだ残されていた。
そう、この時までは。
ドゥーン という効果音。そして右に出てきた通知には。
《高城 失格!!》
問題のパネルを手に愕然とする高城。
彼の手には、
『18+7(8-5)=75 ❌』
という基礎的な算数問題の間違いが書かれている。
静かな空間。
壊れたロボのように隣の高須賀に向くと、あちらも愕然とした表情で高城を見ている。
その時思い知った。
どれだけ勝負事が強くても。どれだけ相性が良くても。
馬鹿という根底は覆されないのであった。
「バカタクぅぅぅぅ!!!」
響く怒号。
それはあとから気付かされるチーム崩壊の予兆である。
***
高城2回目の脱落を終え、復活した頃には高須賀は2つの問題の解答を終えて、もう片方を解答処分としていた。
「バカタクの分の解答は俺がする。それでいいな」
「はい、どうもすみませんでした!」
平謝りする高城を最後に。
そうしてようやく第2ステージへと足を進めた。
***
第2ステージ
鉄骨が並列に並ぶのは変化なし。
しかし下の風景は全く違う。
下には真っ赤なマグマがあった。
煮え滾っているマグマと、そして時折フレアが鉄骨の間から湧き上がってくる。
「説明がまだだったね、このステージは火山。ステージギミックとしてフレアが上がってくるからタイミングを見て渡っていかないと失格になるから気をつけてね。あ、あとクイズの誤回答も失格になるよ。まさか間違える人がいるなんて思わなかったから言わなかったんだけど。言っといた方が良かったかな」
「くっそ、あの野郎……」
先を進んでいた谷山は慢心しているのかステージの途中で動かずにこちらを待っていて煽り文句まで付けてくる。
いい性格をしているらしい。
さっさと追いついてどついてやろうと足を踏み出すと、
「おい! バカタクの鉄骨の先何も無いぞ!」
隣からの声に驚き見れば鉄骨の先が無かった。
「初めに言っておいたでしょう?最初のステージには1つの鉄骨につき一つの門と。
つまり次のステージからどんどん回答できる門は少なくなり、5つ、3つ、そして最後は1つの門を取り合うゲーム、それが『生存への鉄骨渡り』なのです!」
「もう名前からもクイズ成分無くなっちゃったよ! 適当だなこいつ!」
そう大きくツッコミを入れる高城。
ゲームはまだ始まったばかりであった。
***
「おらああああ!!」
目の前のキャラにぶつけようと十字キーで手を出す高城。しかし、
「はっはっは!見える、見えるぞ! そんな遅い攻撃……くそッ!?」
「今だ! 門を押せ!」
谷山に触れ、隣の鉄骨にジャンプして叫ぶ。しかし、
「いやいや、ちょっと押すの遅すぎますよ」
スタンは切れたのか同じく右へと移動していた谷山。
「何やってんだよ! いま完全に動き止めたのに!」
「バカタクが復活権2個目を使ってしまったからあまり無茶ができないんですよ!」
言い合う生徒会チーム。
互いが互いに思い通りに動かずイラつく思考、そして先の分からないゲームに緊張感が高まる。
来た来た、とその様子に心中で笑う谷山。
2人で3回復活権とは言い換えれば連帯責任という言葉になる。
もう既に2つ彼らは使ってしまった訳だが、1つ目はある1人の注意散漫で2つ目はただの馬鹿であった。
両者がミスをした結果互いに引けず、緊張感も相まって対立は苛烈へと進むのだ。
笑ってしまいそうになる顔を無理やり留めながら谷山はタイミングを見て右へと移る。
「行かすかよ!」
谷山に釣られて高城も右へとジャンプ……だが。
ドゥーン 3度目の効果音。
《高城 失格!!! 復活権残り0》
下から湧き出すフレアに身を燃やされ落ちていく高城。最後に見えた友人の目は諦観の眼差しであった。
「それじゃあお先に」
次のステージで最後だ。
そして門へと続くのは1本の鉄骨のみ。
もちろん谷山にはどの鉄骨が唯一繋がっているのか既に分かっているため、その優位な門を楽々とクリアして先へと進む。
もう教室の空気は冷たく重いのに、彼の心の中だけは舞い上がっていた。
***
第3ステージ
下は針地獄の様相をしていて、鉄骨の先には1つの門しかない。その門も鬼の顔が沢山つけられており、最終ステージと名乗るのも頷けるほどの恐ろしさであった。
「おや、あなた1人ですか? このままじゃ彼、問題解けずに脱落しますよ?」
谷山が第3ステージに入ってすぐ高須賀が入ってくる。彼がこっちにいる以上、どの門がなんの答えなのか彼に受け取る方法はない。
「別に構いません。元々これは会長の命を執行するゲームです。私1人で終わらせれば何の問題もありません。
それにバカタクは会長の右腕に相応しくない。彼には僕の右腕になって貰って、そうですね……メイドとしてこき使ってやろうと思いますよ」
「副会長……貴方もいい性格してますね」
「貴方に言われたくないですよ。クイズゲーム部部長」
少しの間が空く。
互いにタイミングを見計らい、動きを注視して。そしてそれは同時に動き出す。
「っ!」「はっ!」
互いに横一列。
最後のステージは思ったよりも短い。丸ボタンの連打が互いの限界を悟らせる。
痛む親指を、悲鳴を出すコントローラーを全て無視してここに全てをかける。
しかし─────
「は!!? 動けない!?」
鉄骨上に設置されていた針に足を貫かれ高須賀のキャラが強制的に止まってしまう。
「ああ、言い忘れていた。このステージは鉄骨上に針があってね。足止め用のまきびしさ。ジャンプして避けないと止まっちゃうから気をつけてね」
その後出しの情報は試合を決定づけた。
もう高須賀に彼に追いつける方法はない。
絶望的な表情で先を見る高須賀。
前には先のない鉄骨。右の鉄骨にはニヤニヤと笑う谷山、その彼の表情が驚きへと変わった。
そして。
先のない鉄骨の視界が、ある男の背で隠れた。
***
門まではあと数メートル。
そして門のある鉄骨を今走っているのは、クイズゲーム部部長、谷山だ。
もうクイズゲーム部部長の勝ちは揺るがない。そんな絶望的な状況で、しかし。
「クソがああああああああぁぁぁ!!!」
谷山と横並びになる人影が1つ。
先程以上の連打音、そして誰よりも早いその加速は絶対王者と横並ぶ力を発揮した。
その人影とは、高城である。
2度失格した事で顔の彫りが3倍ほど深くなっており、そのお陰か後ろから迫るプレッシャーが何倍にも膨れ上がっていた。
このままいけば恐らく同着。しかし、高城の鉄骨先には何も無い。勝つには谷山の走る鉄骨へ渡らないといけないのだ。
「ッ行きやがれぇぇぇぇ!」
減速なんてしてられない。
走る超速連打の勢いのまま右へとジャンプ。
高城と谷山はほぼ横並び。
このまま渡れればまだ勝機は分からないはず。
だったが……
「馬鹿め」
高城の手は隣の鉄骨に届くにはほんの少し足りず空を切る。
『前に走りながら横に飛び移るなんて大着は鉄骨の間に落ちるだけの自殺となる』
最初に言われた言葉が蘇る。
「そうだ。そうやって実力のない奴は最後に意地で挑んでくる。そんな確証もない方法に縋る相手を眺めるこの視点………」
落ちる高城を一瞥する谷山。その顔は徐々にゆがみ始め、
「……さいっこうだなぁ」
悪魔のような笑顔になる。
全てはこちらの手のなかであったと笑う谷山。その悪辣な笑顔に高城はニヤリと笑い返してやる。
「ああ、さいっこうだ」
そうして、高城の足先が鉄骨よりも下の判定になり、
ドゥーン 終わりを知らせる効果音。そして、
《高城 失格!!!》
それが画面に表示され────
「まだです!!!」
その死体が人影で暗くなる。
それは死体を照らす上の光から何かが遮っていることであり、それは高須賀である。
人ならざる連打速度で2人に追いつき高城に続いてジャンプしていたのだ。
そして、──────ポンッと。
「仲間を足場に、だとぉ!?」
『前にいるプレイヤーは前に弾くように』
落ちる高城の右頭頂部を足場に。
足場のない空中を、加速的に右前へと進む。
それが谷山の連打速度よりもほんの数瞬だけ速くなり、その速さだけで十分だった。
ドゥーン 試合を決める効果音。
画面に表示される敗者の名は。
《谷山 失格!!!》
コンマ1秒の差で、解答権は高須賀に与えられたのだ。
表示された名前に理解が追いつかず、画面から消える自身のアバターに信じられない顔をする谷山。
「な、なんだって……まさか!」
画面から目を離し、生徒会チームへと目を向けた。
「ないっすー最後どうなるかマジでビビったわー」
「まあ、これも我々生徒会の作戦勝ちという訳ですかね」
先程までの空気はどこへ行ったのか。
和やかな空気で勝利に喜ぶチームがそこにいた。
***
「最初から身内争いするよう演じていた、ってのか」
呆然とつぶやく谷山に高城が笑った。
「実力の無いプレイヤーが使うのは意地だけじゃねぇよ。ダチが居るかどうか、それがこの勝敗を分けたんだ」
そう言って最後の生き残り、高須賀の画面に目を向ける。
もう画面に残る鉄骨は1本だけであり、そして最後の問題は画面にでかでかと書かれていた。
高須賀にとっては簡単すぎて、表示された時笑ってしまったほどに。
『2018年神代高校で生徒会長をしている生徒の名は?』
最後の問題がこれなのかよ、と肩透かしを喰らう高城。しかし高須賀にとっては最後にふさわしい問題でありニマニマ笑顔で答えを書く。
しかし、ふと高城は違和感を覚えた。
何かおかしい。だってこの年はまだ────
「答えは───────」
「!? おい、待て高須賀!!」
「─────千年原真昼会長だ!!」
高須賀の止める声も届かずに大きく告げてしまった。そして。
ドゥーン 鳴らなかったはずの効果音。そして
《高須賀 失格!!!》
それが画面に表示され、GAME OVERという文字が大きく画面を埋めた。
「なん、ですと……?」
信じられないといった愕然顔の高須賀に頭をポリポリ掻いて小さく言った。
「お前は去年学校に来てなかったから知らねぇかもだけどよ、真昼が生徒会長になったのは今年からだ。
んで、去年の2018年はまた別の人が生徒会長だった」
そうして、ここで登場する。
完璧で完全で優しくて暖かくて愛想が良くて皆に頼られて。
誰も逆らう発想すら抱かない、真昼の憧れでトラウマな彼女の名前。
「花守 優姫、前生徒会長の名前。これが答えだろ? ───更新しとけよな、クソが」
それだけ言うと他の部に配る分の規定変更の紙を取り、そのまま部室を後にする。
最バカと言われいつもヘラヘラしているタカの、複雑で苦渋をかみ締めたこんな顔つきを高須賀は今まで見たこともなかった。
***
第三棟の1階。
そこの自販機コーナーに高城はいた。
先程の嫌な感覚を洗い流すために缶コーヒーを買って飲み干すが、まだ気分が悪い。
奇料理研の戦いの後の方がまだマシだった。
「全く、探したぞ」
そんなしかめっ面の高城に近づいてきたのは話し合いを済ませてきた高須賀だ。
「あの戦い、クリア出来ずとも最後に残ったのは生徒会チームだから規定を飲むんだそうだ。これで会長の面目は保たれそうだぞ」
高城の不機嫌さに気づいているのか、それとも敢えて気付かないふりをしているのか。
気を使わせても悪い、とため息1つで気分を変えた。
「そうかよ。それにしてもお前が先に第3ステージに行った時は焦ったぜ。作戦とは言え3回復活権を使った後のことはアドリブだったしな」
「ああ、だが問題のヒントは分かりやすかっただろう?
『それにバカタクは会長の右腕に相応しくない。彼には僕の右腕になって貰って、そうですね……メイドとしてこき使ってやろうと思いますよ』
アドリブで考えたにしてはよく出来てると私も思います」
「分かりにくすぎるわ。てか最初はお前の本心だろ、余計こんがらがった」
「嘘には一つまみの真実を入れるべし、最近私がハマってる謳い文句なんですよ」
「なんだよそれ。まあクリア出来たし次行こーぜ。伝達先はまだまだあるんだろ」
「ええ、早く終わらして会長の元へと帰りましょう」
会長Loveの高須賀の態度に苦笑いを零す高城。
タカタク執行部の仕事はまだ終わらない。
─────────────────
「まさかのここで、謎解のコーナーです。西明寺 蛍、異例の出世です!あとこちら山本健一郎くんです」
「すごい気合い入ってるが蛍どうしたんだ?」
「はい、それはもう満ちています! だって僕が最後に出たの1月9日ですよ! 1話ですよ! 作者に忘れられていると思ってました!」
「1章と1.5章振り返ってみると殆ど学校関係ないしな」
「はい、そうなんです! 群青劇の構成から削られるのは覚悟していましたが、まさかここまで削られるとは……それにそれに! 今回の話は生徒会の仕事だって聞いたのに、また僕いないんですよ。私情で帰る僕が悪いのは当然なんですけどね……」
「まあ落ち着けって。噂じゃ2部のメインは学校らしいし出番も増えるだろ。それにほら、手紙も届いてるぞ。」
「いいんですか? ただでさえ山本くんも発言数少ないのに、こんな出番僕にあげちゃって」
「俺は発言数どうこうよりも、言いたい奴が言えばいいからな。ほら、時間もう無いぞ」
「は、はい!ありがとうございます!手紙読みます!
『今回の7話に際して1.5章は終わりとなります。基本的に文字数少なめ、なのに投稿頻度が落ちていった事には本当に申し訳なく思っています。さて、1.5章では様々な視点を描きつつ、1章で出てきた数々の人の繋がりとその先を描いてきました。次から2章へと入るのですが1章同様真昼メインに描かせて頂こうと思っています。まだまだ登場キャラは増えていきますが把握のほど宜しくお願いします。最後に私事にはなりますが、私生活の方で忙しくなるため投稿頻度は下がる可能性があります。ご容赦のほどお願いします。』
はい、噛まずに読めました!
…………これで1.5章終わりだそうですよ」
「俺1章1.5章合わせても片手で数える程しか登場してないな」
「僕なんか三本指で終わりますよ……」
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