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1.5章
共鳴する謎はまだ一端
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GW2日目
風紀委員室での後日談。って言ってもその後は別段文字に起こすような事は起きていない。
靴を履いていない事をゴリ公から指摘されパソコン室に戻れば、何故か睨み合ってる一二三、舞花と合流。
色々と聞かれたが、やはりまだ話すのは早いだろうという考えから『真昼の予想が空ぶって、結局手紙の主は不明』という結末で話を終わらした。
しかし、何故か2人はやる気満々でその後も手紙の照合を続けて気づけば日も傾く頃、とうとう最後の一人に絞り込めた。
左利きで文字が手紙と近くて、文章の上手さから趣味の欄にも注目し、50人の中から一人が見つかったのだ。
名前をマイケル。
なんだか最近聞いたような見たような人物が残ってしまった。
絶対に違うと全員分かってはいたが、その頃になると2人のやる気も低下していて。
もうこいつでいいんじゃね、といった空気にみんな流されてしまった。
というか、趣味に『小説添削』ってなんだよ。どれだけ情報量多いんだよマイケル
その後、力になれずすまない、といった2人に謝られ帰宅。
ふと、空の加減に気づいて急遽あの場所へと足を運んだのだ。
***
黄昏時。それは別名、逢魔が時とも呼ばれ、昼と夜の境界線は魔物と遭遇する時間だと恐れられた。
そして、今彼と相対する真昼もまさに魔物と遭遇している、そんな感覚であった。
「やあ、朝ぶりだね真昼ちゃん」
そう言ってヒラヒラと手を振るのは朝取り調べの相手だったコスプレ少年、確か名を芥子風太であった。
開口一番、犯人通告を行った彼は、驚いて声も出ない真昼に両手を合わせてごめんね、と謝る。
目まぐるしく変わる彼の行動に理解が追いつかないでいると、芥子は続ける。
「ほんとはね、証拠もなしに大っぴらに暴くのは僕の流儀に反するんだ。
でも、負けたままってのはもっと嫌だからさ。これで、引き分けだね」
にこりと笑う彼、その行動はいつも至ってシンプルだ。
極度の負けず嫌い、それもこと事件においては彼の右に出る者はいない。それは彼の持つSの称号がよく表しているだろう。
どんな才能にも『負けず嫌い』という短所こそが伸ばす秘訣なのだから。
彼は笑い、それを向けられる真昼は困惑顔だ。
彼の言った言葉のその1部に安心し、されど、どうしても気になった事を尋ねる。
「証拠はないって言ってるけど、じゃあなんで私を付け狙うの?」
真昼も気づいている。
探偵がここまで調査するという事は真昼に気になる所があったからだろう。それがただ確たる証拠がないだけで。
真昼が気になるのはそこだ。単純に、真昼のどんな所が探偵は怪しいと思っているのか。
そこを聞かなくては、正体の分からない不安が真昼を苛む。
そんな真昼に彼は笑って答えようとして─────どこからとも無くバイブ音が鳴る。
気づいたようにポケットからスマホを取り出した彼は画面を見るなり、表情が変わった。
目を少し開き口元に笑みが無くなる。
貼り付けた笑顔は仮面の如く、どうなっても変化しないと思っていた真昼にとってそれが意外すぎた。
思わず「大丈夫ですか?」と言ってしまう。
真昼の声にハッとした芥子はまたいつもの笑顔を貼り付け、
「ごめんね。ほんとはもっと話していたいんだけど後がつっかえてて。偶然会えてよかったよ。この話はまたいずれ。次はこっちから出迎えるから」
それだけ言うと、ばいばいと手を振って早々にどっかに行ってしまった。
急に来て急に帰る、どこか小鳥遊舞花と同じ嵐の感覚だ。
どっと来る疲れと緊張の解けが重なって一瞬意識が飛びそうになるが、その際スマホを落としそうになり意識を覚醒させる。
「大丈夫まひる?」
「うん……帰ろっか」
せっかくのエンディングシーンを邪魔された気分だ。
最後にと、その風景へと向く。
私は日常に戻れたんだ。そう思い直すように。
***
ふと懐かしく感じる商店街に安堵の息をつく。
三嶋町
そこは夕方18時頃になると街灯が点き、晩御飯の買い出しや学生の下校と重なる事で1番賑やかになる時である。そしてまさに今であったりする。
頭に響くような騒々しさではなく、どこか懐かしさを感じる交響のよう。夕暮れに歩くこの光景が真昼は好きだ。
頭を抱えるような問題は大方片付き、視界がクリアになったからかその郷愁に押され、真昼は久しぶりにそこへと足を向けた。
「たえさん! コロッケ1つくださいな」
数人の列に並び、自身の番が来たので元気よく注文。忙しそうに揚げ物を弄っていた、たえさんはちらりとこちらを見て、いつもの笑顔で出迎えてくれた。
「あら真昼ちゃん、久しぶりねぇ。最近表情暗かったから心配してたのよ」
「私ってそんな顔に出てた?」
「出てた出てた。そりゃあもうゾンビみたくなってたんだから。皆でマヒルハザード来るわねって笑ってたんだから」
なんかタクからもゾンビ顔って言われてたな。私って疲れるとそんな死人顔になるのだろうか。
というか、マヒルハザードってそれ私が増えるみたいじゃん。
そう考えながら顔をムニムニと伸ばしてると、それにたえさんは笑って、
「でも、今の様子を見ると問題は片付いたの?」
「うん、ほんと高校生も大変だよ。やること多くてさ」
今回の事件を話すわけにもいかない。
適当に誤魔化し笑ってそう答えると、「よし!」と店の中から袋を出される。いつもコロッケを複数渡す時に入れる紙袋。しかし、真昼は1つしか頼んでなかったはず、なのだが。
「じゃあそんな真昼ちゃんに2つオマケね。しずくちゃんとお食べ」
「───たえさんありがとう!!」
そう言って大きめの袋を頂く。中から安心するいつものコロッケの匂いでお腹が減ってきた。
コロッケ1つ分のお金を財布から出そうとして、
「あーそうそう。真昼ちゃんさ、隆二のやつ見なかったかい?」
そんなことを聞かれた。
もちろん真昼と隆二の間に最近は接点がないため、少し考えるも何も思いつかない。
「隆に……隆二さんどうかしたの?」
「この辺り毎日うろついてたアイツが最近めっきり見なくなってね。まあ三嶋の人間だしね、例えあのちゃらんぽらん警官でも心配してあげないとね」
言い方的に隆二は嫌われているように聞こえるが、本質はその真逆。
数日、近所の人が見えないだけで心配するのは信頼し愛している証拠だ。まあ三嶋の人間はそれを承知の上でたえさんと隆二のいざこざを楽しんでいるのだが。
しかし、隆二について尋ねられても真昼には検討もつかない。というか、ここ最近は真昼の方が多忙でいない事にすら気づいていなかったほどだ。
しばらく唸った末、出た結論として言った。
「どうせあの人の事ですから、何かやらかして東京の方にでも叱られに行ってるんじゃないんですか?」
「それもそうね」
あはは、と笑って流した。
ここに隆二でもいれば、どれだけ真昼の為に今頑張ってるのか、と怒りたくなるだろうが、残念。
遠くでくしゃみの声を響かすだけであった。
***
「はぁぁ、ただいまぁぁ」
最近ため息癖が着いているような気がする。齢16歳にしてなんてことだ。
友人や近所の人からゾンビ顔って言われるほどだしそろそろ美容系極めるか、なんて考えていると、
「ん? なにこれ」
靴棚の上、そこにあるA4サイズの白い本を見つけた。
一瞬見覚えのあるような表紙だったが、どうやら見間違いだ。 ────────────違いすぎる
表紙には地球の上で大人たちが円になり手を繋いでいる。──────人は手を繋がない、聖人ではない
地球の中心にはハートがあり、よくある皆で世界守ろう、みたいな意志を感じる。────なんで崇めない
一体なんの本なのか、パラパラめくっていると、とあるフレーズに目を奪われた。
「あーおかえりー。それおねぇにプレゼントだからー」
リビングから湯気のたったパジャマ姿のダラしない格好をしたしずくが出てきて本の説明をする。いや、こんな曰く付きみたいな本欲しがった覚えはない。
「どこから拾ってきたのこれ」
「人を犬みたいに言わないでよ。この前家にいたら宗教の人たちが来てさ。本だけでもーっていうからしょうがなく受け取ったの。なんかねー人は平等だよって書いてた」
千年原家の本の批評家であるしずくにこんな感想を抱かせるということは、それほどこの本がつまらなかったという事だろう。
特に気になる所もないし要らないか、と廊下に出してあったゴミ袋に無理やり詰める。
ここに置いてあるということはゴミ出しは明日だ。明日は早めに起きよう。
「すぐご飯できるけどー?」
「あ、食べる食べる! 昼から何も食べてないんだよね」
「明日はおねぇの当番だからね、楽しみにしてるよ」
にしし、と笑う妹に笑みが零れる真昼。
いつものご飯前の光景は、どんな所よりも深く安心できた。
***
夕食後、真昼は部屋でハクとだべっている。
話してる内容は転々としていた。
最初は真昼の友達について。
真昼の自慢の友人たち。美晴、蛍、高城、高須賀、山本。一人一人思い出話を加えつつ紹介していく。
その次がハクの記憶について。その時ハクに少し迷う素振りがあるように見えたが、見間違えのようだ。元気なハクからは可愛さはあれど、新たな収穫は無かった。
最後に残りのゴールデンウィークで何をしようか、その話をしていると、昼間一二三が言っていた事を思い出した。
もう既に忘れたい事件ではあったが、それでも別の欲求に駆られ疑問が口に出る。
「ちなみにさ、どうやってテレビ局をジャックしたの?一二三くんがすごく大変だって驚いてたよ」
たしか人材と機材が2クラスあっても足りないとかなんとか。もしそんな凄いことが手軽にできるのならハクは何でもできる可能性があるということになる。
例えば、……………なんだろ。
いや、それでも凄いことに変わりは無いのだ。今からハクがきっとドヤ顔で説明してくれるだろうから、その時は大手を振って褒めちぎってやろう。
そういう魂胆で聞いた質問、それにハクはドヤ顔でも自信満々の説明でもなく、疑問符を浮かべていた。
『? 僕はただ運んだだけだよ?』
「………運んだ、だけ?」
軽く話すハク。謙遜か、と少し考えたが本人の顔は至って真面目だ。
本当にたったそれだけしかやっていないのでは?
そんな言葉が浮かんで有り得ないと首を振る真昼に、ハクは続ける。
『うん。どこに運ぼっかなぁって悩んでたら、道を見つけてさ。持っていって流しただけだよ』
「え、じゃあテレビジャックしたつもりは無かったの?」
決定的な疑問。
PJ事件とは東京全域のテレビをジャックした大事件。それを行ったのがハクだとずっと思っていたからバレないように聴取で誤魔化し続けていたのだが、
『ねぇまひる』
決定的な疑問の解答。
ハクは目を丸くしてずっと気になっていただろう問いかけを、ようやく真昼に話した。
『ジャックってなに?』
「────────────」
何かが、おかしい。何かをすれ違えてる。
意味が分からない。
謎が謎を呼び、今ひとつ実感の湧かない現実感。
今まで紙一重で触れられなかった謎が、その一端を覗かせた。
声の出ない真昼にハクは続ける。
『テレビの意味は分かったんだけど、ジャックの意味は調べても沢山出てきて分からなかったんだ。ヤミイシャとかかい?』
「なにって……ジャックはジャックだよ! 乗っ取るとか、そんな感じの意味合いで…」
『ぼくが、テレビを乗っ取る……? ……ふふ、あはは! そんな事ぼくには出来ないよ』
からからと響く笑い声。
普段なら安らぐはずの気持ちは、酷く低迷している。
頭の中で思考が纏まらない。
では、あのテレビジャックはハクが起こしたものでは無い。そうだとして、ではハクは映像を何処に持っていったんだ?
ただただ困惑しかない真昼は尋ねる。
「え、まって……じゃあさハクは何処に持っていったの?」
『うーん、空いてる所に持って行って流そうと思ってたんだけど、どこも鍵が閉まってて入れなくてさ。
でも頑張って探したら変な通路みたいなのがあって、そこ通って流しただけだよ?
場所はよく分からないけど広かったのは覚えてる!』
記憶を洗う。
警察の聴取を終えた後、真昼とハクが会話した内容を最初から確かめるが。
確かに、ハクの口からテレビジャックしたとは一言も言われていない。
運んで流した、だけとしか言っていない。
「もしかして、とんでもない勘違い……?」
テレビジャックをしたのはハクじゃない?
いやでも流したのはハクだ。それは本人が言っているし、流れた映像が須川くんのスマホで撮ったものって一二三が証言している。
では、何がおかしいんだ?
誰かがテレビジャックをして、そこにたまたまハクが流した、とでも言うのだろうか。
それとも、そうなるように誰かが操ったのか。
色々な考えが浮かんでは沈む。
意味の無い自己論議。
だって実行犯の彼自身がやった事を知らなかったのだから。
しかし、結局答えは出ない。
ただ『ハクとは別の誰かがこの事件に関わっている事』
それが分かったが、しかしそれを伝える相手もいないし、何よりこの事件から早く手を引きたかった真昼は数日のうちにこの事を記憶から消すだろう。
そうしてGW2日目は終わりを迎える。
以後の数日間至る所で何かが起こるが、それに真昼たちは関わらない。
なぜならそれらは、主題にして、伏線。
これから起こる事件への壮大な前振りにすぎないのだから。
─────────────────
何かがズレていく。何かが狂っていく。
日常が終わり始める音がする。
それに誰も気づかない。
舞台からは舞台が見えない。逆光で観客すら見えない。
静かな舞台で全てを見るのは観客の特権なのだから。
風紀委員室での後日談。って言ってもその後は別段文字に起こすような事は起きていない。
靴を履いていない事をゴリ公から指摘されパソコン室に戻れば、何故か睨み合ってる一二三、舞花と合流。
色々と聞かれたが、やはりまだ話すのは早いだろうという考えから『真昼の予想が空ぶって、結局手紙の主は不明』という結末で話を終わらした。
しかし、何故か2人はやる気満々でその後も手紙の照合を続けて気づけば日も傾く頃、とうとう最後の一人に絞り込めた。
左利きで文字が手紙と近くて、文章の上手さから趣味の欄にも注目し、50人の中から一人が見つかったのだ。
名前をマイケル。
なんだか最近聞いたような見たような人物が残ってしまった。
絶対に違うと全員分かってはいたが、その頃になると2人のやる気も低下していて。
もうこいつでいいんじゃね、といった空気にみんな流されてしまった。
というか、趣味に『小説添削』ってなんだよ。どれだけ情報量多いんだよマイケル
その後、力になれずすまない、といった2人に謝られ帰宅。
ふと、空の加減に気づいて急遽あの場所へと足を運んだのだ。
***
黄昏時。それは別名、逢魔が時とも呼ばれ、昼と夜の境界線は魔物と遭遇する時間だと恐れられた。
そして、今彼と相対する真昼もまさに魔物と遭遇している、そんな感覚であった。
「やあ、朝ぶりだね真昼ちゃん」
そう言ってヒラヒラと手を振るのは朝取り調べの相手だったコスプレ少年、確か名を芥子風太であった。
開口一番、犯人通告を行った彼は、驚いて声も出ない真昼に両手を合わせてごめんね、と謝る。
目まぐるしく変わる彼の行動に理解が追いつかないでいると、芥子は続ける。
「ほんとはね、証拠もなしに大っぴらに暴くのは僕の流儀に反するんだ。
でも、負けたままってのはもっと嫌だからさ。これで、引き分けだね」
にこりと笑う彼、その行動はいつも至ってシンプルだ。
極度の負けず嫌い、それもこと事件においては彼の右に出る者はいない。それは彼の持つSの称号がよく表しているだろう。
どんな才能にも『負けず嫌い』という短所こそが伸ばす秘訣なのだから。
彼は笑い、それを向けられる真昼は困惑顔だ。
彼の言った言葉のその1部に安心し、されど、どうしても気になった事を尋ねる。
「証拠はないって言ってるけど、じゃあなんで私を付け狙うの?」
真昼も気づいている。
探偵がここまで調査するという事は真昼に気になる所があったからだろう。それがただ確たる証拠がないだけで。
真昼が気になるのはそこだ。単純に、真昼のどんな所が探偵は怪しいと思っているのか。
そこを聞かなくては、正体の分からない不安が真昼を苛む。
そんな真昼に彼は笑って答えようとして─────どこからとも無くバイブ音が鳴る。
気づいたようにポケットからスマホを取り出した彼は画面を見るなり、表情が変わった。
目を少し開き口元に笑みが無くなる。
貼り付けた笑顔は仮面の如く、どうなっても変化しないと思っていた真昼にとってそれが意外すぎた。
思わず「大丈夫ですか?」と言ってしまう。
真昼の声にハッとした芥子はまたいつもの笑顔を貼り付け、
「ごめんね。ほんとはもっと話していたいんだけど後がつっかえてて。偶然会えてよかったよ。この話はまたいずれ。次はこっちから出迎えるから」
それだけ言うと、ばいばいと手を振って早々にどっかに行ってしまった。
急に来て急に帰る、どこか小鳥遊舞花と同じ嵐の感覚だ。
どっと来る疲れと緊張の解けが重なって一瞬意識が飛びそうになるが、その際スマホを落としそうになり意識を覚醒させる。
「大丈夫まひる?」
「うん……帰ろっか」
せっかくのエンディングシーンを邪魔された気分だ。
最後にと、その風景へと向く。
私は日常に戻れたんだ。そう思い直すように。
***
ふと懐かしく感じる商店街に安堵の息をつく。
三嶋町
そこは夕方18時頃になると街灯が点き、晩御飯の買い出しや学生の下校と重なる事で1番賑やかになる時である。そしてまさに今であったりする。
頭に響くような騒々しさではなく、どこか懐かしさを感じる交響のよう。夕暮れに歩くこの光景が真昼は好きだ。
頭を抱えるような問題は大方片付き、視界がクリアになったからかその郷愁に押され、真昼は久しぶりにそこへと足を向けた。
「たえさん! コロッケ1つくださいな」
数人の列に並び、自身の番が来たので元気よく注文。忙しそうに揚げ物を弄っていた、たえさんはちらりとこちらを見て、いつもの笑顔で出迎えてくれた。
「あら真昼ちゃん、久しぶりねぇ。最近表情暗かったから心配してたのよ」
「私ってそんな顔に出てた?」
「出てた出てた。そりゃあもうゾンビみたくなってたんだから。皆でマヒルハザード来るわねって笑ってたんだから」
なんかタクからもゾンビ顔って言われてたな。私って疲れるとそんな死人顔になるのだろうか。
というか、マヒルハザードってそれ私が増えるみたいじゃん。
そう考えながら顔をムニムニと伸ばしてると、それにたえさんは笑って、
「でも、今の様子を見ると問題は片付いたの?」
「うん、ほんと高校生も大変だよ。やること多くてさ」
今回の事件を話すわけにもいかない。
適当に誤魔化し笑ってそう答えると、「よし!」と店の中から袋を出される。いつもコロッケを複数渡す時に入れる紙袋。しかし、真昼は1つしか頼んでなかったはず、なのだが。
「じゃあそんな真昼ちゃんに2つオマケね。しずくちゃんとお食べ」
「───たえさんありがとう!!」
そう言って大きめの袋を頂く。中から安心するいつものコロッケの匂いでお腹が減ってきた。
コロッケ1つ分のお金を財布から出そうとして、
「あーそうそう。真昼ちゃんさ、隆二のやつ見なかったかい?」
そんなことを聞かれた。
もちろん真昼と隆二の間に最近は接点がないため、少し考えるも何も思いつかない。
「隆に……隆二さんどうかしたの?」
「この辺り毎日うろついてたアイツが最近めっきり見なくなってね。まあ三嶋の人間だしね、例えあのちゃらんぽらん警官でも心配してあげないとね」
言い方的に隆二は嫌われているように聞こえるが、本質はその真逆。
数日、近所の人が見えないだけで心配するのは信頼し愛している証拠だ。まあ三嶋の人間はそれを承知の上でたえさんと隆二のいざこざを楽しんでいるのだが。
しかし、隆二について尋ねられても真昼には検討もつかない。というか、ここ最近は真昼の方が多忙でいない事にすら気づいていなかったほどだ。
しばらく唸った末、出た結論として言った。
「どうせあの人の事ですから、何かやらかして東京の方にでも叱られに行ってるんじゃないんですか?」
「それもそうね」
あはは、と笑って流した。
ここに隆二でもいれば、どれだけ真昼の為に今頑張ってるのか、と怒りたくなるだろうが、残念。
遠くでくしゃみの声を響かすだけであった。
***
「はぁぁ、ただいまぁぁ」
最近ため息癖が着いているような気がする。齢16歳にしてなんてことだ。
友人や近所の人からゾンビ顔って言われるほどだしそろそろ美容系極めるか、なんて考えていると、
「ん? なにこれ」
靴棚の上、そこにあるA4サイズの白い本を見つけた。
一瞬見覚えのあるような表紙だったが、どうやら見間違いだ。 ────────────違いすぎる
表紙には地球の上で大人たちが円になり手を繋いでいる。──────人は手を繋がない、聖人ではない
地球の中心にはハートがあり、よくある皆で世界守ろう、みたいな意志を感じる。────なんで崇めない
一体なんの本なのか、パラパラめくっていると、とあるフレーズに目を奪われた。
「あーおかえりー。それおねぇにプレゼントだからー」
リビングから湯気のたったパジャマ姿のダラしない格好をしたしずくが出てきて本の説明をする。いや、こんな曰く付きみたいな本欲しがった覚えはない。
「どこから拾ってきたのこれ」
「人を犬みたいに言わないでよ。この前家にいたら宗教の人たちが来てさ。本だけでもーっていうからしょうがなく受け取ったの。なんかねー人は平等だよって書いてた」
千年原家の本の批評家であるしずくにこんな感想を抱かせるということは、それほどこの本がつまらなかったという事だろう。
特に気になる所もないし要らないか、と廊下に出してあったゴミ袋に無理やり詰める。
ここに置いてあるということはゴミ出しは明日だ。明日は早めに起きよう。
「すぐご飯できるけどー?」
「あ、食べる食べる! 昼から何も食べてないんだよね」
「明日はおねぇの当番だからね、楽しみにしてるよ」
にしし、と笑う妹に笑みが零れる真昼。
いつものご飯前の光景は、どんな所よりも深く安心できた。
***
夕食後、真昼は部屋でハクとだべっている。
話してる内容は転々としていた。
最初は真昼の友達について。
真昼の自慢の友人たち。美晴、蛍、高城、高須賀、山本。一人一人思い出話を加えつつ紹介していく。
その次がハクの記憶について。その時ハクに少し迷う素振りがあるように見えたが、見間違えのようだ。元気なハクからは可愛さはあれど、新たな収穫は無かった。
最後に残りのゴールデンウィークで何をしようか、その話をしていると、昼間一二三が言っていた事を思い出した。
もう既に忘れたい事件ではあったが、それでも別の欲求に駆られ疑問が口に出る。
「ちなみにさ、どうやってテレビ局をジャックしたの?一二三くんがすごく大変だって驚いてたよ」
たしか人材と機材が2クラスあっても足りないとかなんとか。もしそんな凄いことが手軽にできるのならハクは何でもできる可能性があるということになる。
例えば、……………なんだろ。
いや、それでも凄いことに変わりは無いのだ。今からハクがきっとドヤ顔で説明してくれるだろうから、その時は大手を振って褒めちぎってやろう。
そういう魂胆で聞いた質問、それにハクはドヤ顔でも自信満々の説明でもなく、疑問符を浮かべていた。
『? 僕はただ運んだだけだよ?』
「………運んだ、だけ?」
軽く話すハク。謙遜か、と少し考えたが本人の顔は至って真面目だ。
本当にたったそれだけしかやっていないのでは?
そんな言葉が浮かんで有り得ないと首を振る真昼に、ハクは続ける。
『うん。どこに運ぼっかなぁって悩んでたら、道を見つけてさ。持っていって流しただけだよ』
「え、じゃあテレビジャックしたつもりは無かったの?」
決定的な疑問。
PJ事件とは東京全域のテレビをジャックした大事件。それを行ったのがハクだとずっと思っていたからバレないように聴取で誤魔化し続けていたのだが、
『ねぇまひる』
決定的な疑問の解答。
ハクは目を丸くしてずっと気になっていただろう問いかけを、ようやく真昼に話した。
『ジャックってなに?』
「────────────」
何かが、おかしい。何かをすれ違えてる。
意味が分からない。
謎が謎を呼び、今ひとつ実感の湧かない現実感。
今まで紙一重で触れられなかった謎が、その一端を覗かせた。
声の出ない真昼にハクは続ける。
『テレビの意味は分かったんだけど、ジャックの意味は調べても沢山出てきて分からなかったんだ。ヤミイシャとかかい?』
「なにって……ジャックはジャックだよ! 乗っ取るとか、そんな感じの意味合いで…」
『ぼくが、テレビを乗っ取る……? ……ふふ、あはは! そんな事ぼくには出来ないよ』
からからと響く笑い声。
普段なら安らぐはずの気持ちは、酷く低迷している。
頭の中で思考が纏まらない。
では、あのテレビジャックはハクが起こしたものでは無い。そうだとして、ではハクは映像を何処に持っていったんだ?
ただただ困惑しかない真昼は尋ねる。
「え、まって……じゃあさハクは何処に持っていったの?」
『うーん、空いてる所に持って行って流そうと思ってたんだけど、どこも鍵が閉まってて入れなくてさ。
でも頑張って探したら変な通路みたいなのがあって、そこ通って流しただけだよ?
場所はよく分からないけど広かったのは覚えてる!』
記憶を洗う。
警察の聴取を終えた後、真昼とハクが会話した内容を最初から確かめるが。
確かに、ハクの口からテレビジャックしたとは一言も言われていない。
運んで流した、だけとしか言っていない。
「もしかして、とんでもない勘違い……?」
テレビジャックをしたのはハクじゃない?
いやでも流したのはハクだ。それは本人が言っているし、流れた映像が須川くんのスマホで撮ったものって一二三が証言している。
では、何がおかしいんだ?
誰かがテレビジャックをして、そこにたまたまハクが流した、とでも言うのだろうか。
それとも、そうなるように誰かが操ったのか。
色々な考えが浮かんでは沈む。
意味の無い自己論議。
だって実行犯の彼自身がやった事を知らなかったのだから。
しかし、結局答えは出ない。
ただ『ハクとは別の誰かがこの事件に関わっている事』
それが分かったが、しかしそれを伝える相手もいないし、何よりこの事件から早く手を引きたかった真昼は数日のうちにこの事を記憶から消すだろう。
そうしてGW2日目は終わりを迎える。
以後の数日間至る所で何かが起こるが、それに真昼たちは関わらない。
なぜならそれらは、主題にして、伏線。
これから起こる事件への壮大な前振りにすぎないのだから。
─────────────────
何かがズレていく。何かが狂っていく。
日常が終わり始める音がする。
それに誰も気づかない。
舞台からは舞台が見えない。逆光で観客すら見えない。
静かな舞台で全てを見るのは観客の特権なのだから。
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『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。
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帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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