私は今日、勇者を殺します。

夢空

文字の大きさ
上 下
8 / 53
1章

閑話1 交差する裏舞台の住人さん

しおりを挟む
真昼が駅へと向かうその姿を路地裏から見ている影が2つあった。
1人は派手な金髪に厳ついピアスの跡、もう1人は寸胴体型で茶髪のオールバック男がいた。
どちらも首に蜂のネックレスをつけ蹲踞を、つまりヤンキー座りをしていた。

「おい、どうするよ」

金髪の男は溜息をつきながらぼやく。

「もういいんじゃねーの。どうせ駅ん中入ったら手が出せねえんだしよ」

「ま、そりゃそっか。んじゃ帰りどっかよらね。俺腹減ったわ」

「あ、じゃあマック行こーぜ。新しいシェイク出てたはずだからよ」

行き先も決まり金髪男がヤンキー座りから立ち上がった時、

「へい、そこのクソボーイズクソ野郎ども。ちょいと聞きたいことがあるんだけどいいかね」

「あん? だれだ?」

後ろから声がかけられた。
その奇妙な呼び方に怒りよりも先に呆れを感じ後ろを振り返る。

(最近できたJUSTICEとかいう奴らの下っ端か?)

もし変なイチャモンを付けるならぶっ飛ばしてやろう、そんな軽い気持ちで見れば、そこにいるのは子供ではなかった。正確に言うと黒スーツサングラスの立派な大人が1人いた。背丈は180を超えるほどの巨体。だからこそスーツがよく似合っていてとんでもない威圧感だけがヒシヒシと感じる。

「てめぇどこのグループだ?」

その威圧感を物ともしないのか、或いは気づいていないのか。もう1人の太めのヤンキーがこちらも威圧を掛けるように手に持った鉄製の安全棒を黒スーツに向ける。

「おーおー若いねぇ。おいちゃん『八重嶋やえす』って言うんだけど、ちょっと話聞かしてもらってもいいかな」

「おいおい、それが人に物頼む態度かよ!」

太めのヤンキーは安全棒を振りかぶりながら突進。男の頭に1発入れてやろうとして───

一閃

速すぎる拳がヤンキーの顔に入った。

「ガァッ!!!」

遅れた悲鳴の後、直ぐにヤンキーは壁に叩きつけられる。叩きつけられた顔からは血が流れ間違いなく鼻が折れていた。

(こいつ……最近街で聞く黒スーツとか言うやつか……?)

上がる心拍と繋がってるように震える拳。拳を更に強く握ることで震えを止めた。

「おいちゃんはただ話に来ただけだ。わざわざ痛い思いをしたいなら勝手だけど」

スーツ男は手をぶらぶらしながら続ける。

「どうかな?君はちゃんと話が出来るタイプか、それとも痛い思いをして話すタイプか?自分で選びな」

そんな質問に意味は無い。
なぜなら既に金髪男の頭の中に平和的なんて言葉は存在しないからだ。

「悪ぃがな、俺らだってかしらとの決め事ってのがあんのよ。ダチは売らねぇしダチが傷つけられたら黙ってらんねぇ。それが新生虎頭蜂スズメバチの掟だぁぁぁぁ!!」

金髪男は右拳を前に突き出す。顔面に入れようとした拳は、しかし横に首を曲げる事で避けられた。
素早く拳を戻し、その勢いのまま後ろに反転。後ろ蹴りでアッパーをかまそうとして、しかしそれもさらに後退される事で再び避けられる。
金髪男はそのまま宙返りをしてスーツ男と再び向き合うと、最初と同じく右拳で突っ込む。
そして─────

「ほぉ、足がメインの戦闘スタイルか」

がっしりと拳を掴まれた。スーツ男の掌は前にも後ろにも動かない。
しかし────

「オラァ!!」

動かなくなった腕に体重を掛け体を浮かせる。
その勢いのまま右足に力を込めて相手の顔面を蹴ろうとして、

「今のはあんちゃんも驚いたが、まだ遅いな」

次は左手で足をがっしりと掴まれる。
攻撃がくる、そう思い身構えるが、

「────へ?」

思いっきり空へと投げ飛ばされた。

3秒と満たない空中浮遊は重力によって終わりを迎え地面へと金髪男を引っ張っていく。

「ア゛ア゛ア゛ア゛! ガッ」

地面へ落ちた少年はピクピクしながらもまだ意識を保っている。
視界はぼやけ胃の中はグルグル、口の中から血の味を感じていた。聴覚も暫くは耳鳴りで塞がっていたが、次第に聞こえるとその怪物の声がする。

「おーい喋れるか」

「なんも…言わねぇ…ぞ…」

「なんだ、ただのやんちゃ坊主かと思いきや決める所は決めてんのな。ちょっと見直したぞ」

スーツ男はそう言うと倒れている少年たちの前にしゃがむ。

「君たちがみていた女の子。あのお嬢ちゃんに何をしようとしていたのか───」

「それは、本当ですか?」

途中で遮るように機械音声チックな女の声が背後から聞こえ、八重嶋やえすは驚き振り返る。

「次から次へと、あのお嬢ちゃんも人気だねぇ」

見ればそこには黒いフードを被った小さい影がある。

、と。暴漢の犯行声明です。つまり、命令上消してもいい部類です。処罰、実行します。」

そう言うなり少女は一気に距離を詰める。
袖で隠されていた手には暗器のようなナイフがある。
毒を塗られている可能性も考え、素手での対抗は無謀と判断。ふと、足元に落ちている安全棒に目が行く。

「と、危ねぇ」

横から薙るナイフを素早くしゃがみ難なく逃れる。そのしゃがんだ状態から安全棒を拾い、そのまま少女の腕に打ち込もうと振り上げた。
しかし────

「なんちゅう身軽さだよ」

少女は素早くジャンプそのまま右の壁を蹴り、左の壁を蹴り、そのまま後ろへと後退した。
間違いなく戦い慣れている。

「……………」

「おいおい...女の子と戦うなんて趣味おいちゃんにはないんだけど…ねぇ!」

無言で加速し、次は両手のナイフで切りつけようと迫ってくる。
右手の刃を後ろに避け、左の刃を安全棒で弾く。左手が仰け反ったのを逃がさず、空いた左腹に蹴りを入れる。

「……グッ」

上手く入った。経験上これで相手は立てなくなるはずだ。はずなんだが、

「おいおい...おいちゃん、自信なくすなぁ」

しかしその少女は難なく立ち上がり、小首を傾げる。

「疑問です。対象は予測値よりも高い戦闘力を確認します。しかし私の耐久値が予測値よりも著しく下がっています。原因不明。しかしこの戦闘を続ければ私の死は68%と予測します。」

「面白い喋り方だな。それでどうする?逃げるのか?」

「逃げるは命令上有り得ません。しかし、同時に生きて帰るという命令も承っています。
よって────」

少女はその場でくるりと回る。すると先程までナイフを持っていた手には黒くて丸い何かを持っている。

「戦略的撤退を選びます」

その黒い何かを素早くこちらに投げてくる。
そして気づいた。
何度も嗅いでいるからこそ、あの手に持つ物を理解した。あれは火薬。爆発物の類だ。

「おい待て、まだ昼間だぞ!?」

反転して路地裏を出ようと駆け出し、そして地面で寝ている少年2人が目に入った。

「まだお前らいたのかよ!」

素早く少年2人の襟を持ち逃げ出そうとして────

眩い閃光の後、爆発した。

ドッという衝撃の後に火薬の匂いと有り余る熱量が頬を沿っていく。

「ふぅ……あっぶねぇ」

路地裏を見ればそこには大きな爆発の跡。地面はえぐれ、爆弾の破片が周囲に突き刺さっていた。
その爆発音を聞きつけ周囲が騒ぎ始めている。
この少年2人をここに置いとけば犯人扱いされるに違いない。
スーツ男は溜息をつきながら両腕で1人ずつ担ぐようにそこを離れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

処理中です...