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番外編
最大の敵
しおりを挟むSide カイゼル
■□▪▫■□▫▪■□▪▫
…面白くない。
婚約者の前だというのに、楽しげに隣の妹ばかりと話しているハンナに、そんなことを思った。
「このクッキーは美味しいな。どこのだろうか」
わざとらしくハンナを一瞥しそんなことを口にすると、ようやく彼女は私に向き直り言葉を返した。
「何言ってるんです?いつものシェリエールの紅茶クッキーじゃないですか」
「…そうだったな」
シェリエールというのは、美味しい菓子が人気のカフェだった。
以前ハンナとタルトを食べて以来、私達はすっかりその店を重宝している。
当然、私だってこのクッキーがいつも食べているシェリエールのものだってことはわかっていた。
だが、構って欲しかったのだ。
私の婚約者は、婚約して幾ばくか月日も経っているというのに、まだまだ私に対する認識が甘いのではないか。
「…この紅茶は、いつものアールグレイだが、今日はあまり美味しくない」
むっとした表情でそんなことを言う私に、ハンナは不思議そうに首を傾げる。
「カイゼル様、もしかして拗ねてます?」
「…そんなことはない」
「私がホーリィにばかり構っているから、寂しくなってしまったのですか?」
「……」
その通りなのだが、面と向かって図星をつかれては恥ずかしくなる。
また、子どもじみた態度をとってしまった。
「ふふっ」
「笑うな」
口元に手をやりクスクスと笑う彼女。
面白がられて悔しい気持ちもあるが、ようやくこちらに笑みを向けてくれたハンナに一瞬で心が舞い上がってしまう自分が情けない。
「話に混ぜて欲しかったのならそうおっしゃったらいいのに」
「君は私の存在を無視しすぎだ」
「カイゼル様が仏頂面で黙っていただけでしょう?」
仏頂面だと気づいていながらどうして放置するんだ。
…私がうまく会話に入らなかったことにも非があることはわかっているが、それでも少しくらい相手をしてくれてもいいのではないか。
そもそも、この姉妹は仲が良すぎる。
ちらりと彼女の隣にいるホーリィ嬢に視線を向けると、ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべていた。
くそ!またか。
この少女は社交界でも噂になる程可憐な容姿をしているくせに、性格はかなり歪んでいるのだ。
俗に言うシスコン。
ハンナのことが大好きで、今日のように度々私とハンナの仲を邪魔しに来る。
出会った頃は背中を押してくれたはずなのだが、それはあくまでもハンナの幸せを願ってのことで…
彼女が私と結ばれた今、今度は私を邪魔することに余念が無いのだ。
「最近のお姉様はカイゼル様に構いきりなのに、実の姉妹がほんの少し仲良くする時間すら許せないのですね。独占欲が強すぎると嫌われちゃいますわよ?お姉様、私もお姉様ともっとたくさん一緒にいたいですっ」
「ふふっ、ホーリィは可愛いわね」
最悪なのは、この姉も妹を溺愛してしまっている事だ。
この二人が揃うと邪魔者なのは私であるような気さえしてくる。
「自分の家で好きなだけくっついているだろう」
「あら、まだまだ足りませんわ」
あっけらかんとそんなことを言うホーリィ嬢はもはや私の最大の敵なのだ。
「私だって、全然足りない」
ぐっとハンナの手を引き、自らの足の間に彼女を座らせる。
抜け出せないように首元に両腕を回すと、そのしなやかな体にきゅっと力が入るのがわかった。
「っ、カイゼル様…ホーリィの前ですから」
「他人でもないのだし気にすることはない」
「気にします!」
耳まで真っ赤に染める彼女の項にそっと口付けを落とし、悔しそうに顔を歪めるホーリィ嬢に嫌味な笑みを返した。
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久しぶりに更新したらめちゃくちゃ息抜きになりました(;▽;)楽しい!
いつもコメント・お気に入りありがとうございます。
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