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カイゼル・ハディソン視点

お似合いな二人

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「しんどいなら目を瞑っているといい。多少はましになるだろう」

馬車の中、調子の悪そうなハンナ嬢にそう言うと、彼女は素直に瞳を閉じる。


抱き抱えられたまま私に身を任せる彼女が愛おしい。

彼女の憂いなんて私が全て拭い去ってしまいたい。


「体調が悪いこと、気づけなくてすまなかったな。私は自分のことにばかり気を取られて、君のことを考えてやれなかった」

「違います、公爵様は何も悪くありません」


自分の不甲斐なさを詫びると、ハンナ嬢は慌てたように私の言葉を否定する。

体調が悪いというよりも、どこか思いつめたような彼女が気がかりだった。


もしもハンナ嬢が私のせいで心を悩ませているのだとしたら、ここで解消しておかなければならない。


「私は君に負担をかけてしまったのだろうか。私はハンナ嬢にたくさん助けられたというのに、思えば君に何かをしてあげたことなんて一度もないんだ」

「…それは違います」


彼女はまたもや否定の言葉を述べると潤んだ瞳でじっと私の顔を覗き込んだ。


「私、公爵様と話している時間が本当に楽しかったんです。こんなことを言うのは烏滸がましいですけど、あなたは初めてできた私の友人でしたから…」


私と過ごすことを楽しいと言ってくれる彼女に嬉しさを感じながらも、はっきりと友人だと告げられ複雑な思いだ。

小さく苦笑をもらす私に彼女が口を開く。


「ごめんなさい、公爵様」

そう言ってハンナ嬢はぽろぽろと涙をこぼし始めたのだった。


「っ、どうして泣くんだ!」


腕の中で肩を震わせる彼女に狼狽えながらも、私はなんとかハンカチを差し出しした。

もはや私の方がパニックだ。


「どうしたら泣き止んでくれるんだ?私は君が泣いたらどうしていいかわからない…」

「迷惑、かけてっ、ひっく…ごめ、なさ」

「違う!言い方が悪かった。迷惑なんかじゃないから、もう好きなだけ泣いてくれ」


どうすることもできず、せめてもと彼女の頭を優しく撫でるが、ハンナ嬢はより一層ぼろぼろと大粒の涙を流す。

綴るように私を見つめる瞳に、勘違いしてしまいそうになる。

彼女にとって私はいったい…



…このまま彼女を素直に家に送り届けるなんてとてもじゃないができなかった。


「やはりそのまま我が邸に向かってくれ」

御者に向かってそう告げ、家に着くまでずっとハンナ嬢の頭を撫で続けていた。



「あの、公爵様…」

「まだ顔色がよくない、しばらく大人しくしていてくれ」

「……はい」


馬車が止まっても、私は彼女を手離すことなく腕の中に閉じ込めたまま屋敷に足を踏み入れる。


いつもの応接室ではなく、客間のベッドにその華奢な体をゆっくりと下ろした。



「何か、嫌なことでもあったのか?」

「え?」

「確かに冷えてはいたが、体調が悪いというわけではないのだろう?」


何か思い悩んでいた様子が気になる。

彼女の悩みやわだかまりならすぐにでも解消してあげたかった。


「…公爵様は、今日のパーティー楽しかったですか?」

「ん?ああ、いつもよりも有意義な時間を過ごすことができた。ホーリィ嬢も君の話していた通り、随分と親しみやすい女性だった」


そう答えるとハンナ嬢は少しだけ傷ついたような表情を浮かべる。


____君はいったい、今何を思っている?


ホーリィ嬢と親しくなったことに少しでも胸を痛めてくれているのなら、私は期待してしまってもいいのだろうか。


ごくりと息を飲んで私はそっと口を開いた。



「だが…私はやはり社交界なんかよりもハンナ嬢と話している時間の方が好きだ」


「…公爵様」


私の言葉が余程意外だったのか、彼女は驚いたように目を見開いた。


しかし、すぐに不安げに視線を彷徨わせる。


「ホーリィと緊張しながら話すよりも、私と過ごす方が気を使わなくて楽だということですか?」


私なりに勇気を出して伝えた言葉だったが、彼女にはまだ決定打にはならなかったらしい。


「違う」

「…では、どういう意味ですか」


真っ直ぐにそう問われて一瞬だけ息が詰まった。

負けるな、男を見せるんだ。



「私はこれからもハンナ嬢のそばにいたいということだ」

「…ホーリィの相談なら聞きますよ」


ぐっ…これでもダメだと言うのか。

今のは最早プロポーズと捉えられても仕方ない言葉ではないのか…!?


「ああもう!どうしてこうも伝わらない!やっぱり君はコミュニケーション能力が不足しているぞ!!!」

「なっ!?公爵様にだけは言われたくありません!」


ぐしゃぐしゃと頭をかく私をキッと睨むハンナ嬢に肩をすくめる。

はあ、私は大変な人を好きになってしまったのかもしれない。


「っ、よく聞くといい」

「…?」


大きく深呼吸して口を開く。



「私は君が好きだ!!!」



言った。言ってやった。

さすがのハンナ嬢もこれだけストレートな言葉だったら理解してくれるだろう。



「いや、あの…公爵様?あなたはホーリィのことが好きだったはずでは?」


「以前は、確かにホーリィ嬢に恋をしていた。いや、恋をしていると思い込んでいた」

「思い込んでいた…?」


ホーリィ嬢は愛らしい容姿をしていて、私は彼女に亡き愛犬の面影をみた。

正直すごく惹かれた。


忙しかった両親の代わりにどんな時も寄り添ってくれたのが小さな小さなあの子だったから。



「だが、君と過ごす中で気づいた。私のホーリィ嬢への想いは、今まで私に向けられていた偏見と何も変わらないと。私は彼女の容姿が小動物の様で気に入り、恋をしていると勘違いしてしまったんだ」



「見た目から入る人だっています」

「確かにそうだが、私は本当の恋をしてしまったのだから、彼女への思いが恋愛のそれではないことくらいわかる」

彼女をじっと見つめて言葉を続ける。


「私は君に恋をしている」

「っ…」


そう言うと真っ赤に頬を染めて気恥しそうに口元に手を当てるハンナ嬢。

あまり可愛い反応をしないでほしい。


胸に抱いた希望が打ち砕かれた時、私はきっとそのショックに耐えられない。



「…君が涙を流していた理由を教えて欲しい。君が私を見つめる瞳に愛おしさが篭っているように感じるのは私の自惚れだろうか」


祈るような気持ちでそんなことを尋ねる。


どうか、今だけは私のことを否定しないでくれまいか。

バクバクと煩い胸の鼓動に、自分がどれだけ緊張して、不安を感じているのかが嫌という程自覚できた。


彼女の苺のように赤い唇がゆっくりと開かれる。



「自惚れじゃ、ありません…っ、公爵様が、ホーリィと結ばれてしまうと思ったら…悲しくなって」


…きっと君は知らないだろう。


「私も、公爵様が…好き」

「そうか、両想いだな」


この時私がどれだけ幸せを感じて、信じてもいなかった神に感謝したか。



ベッドに座る彼女を強く強く抱きしめた。



「っ、ふっ、うぅ」

「どうしてまた泣くんだ」


「嬉しくて…」


そんな可愛いことを言う彼女の背を優しく摩ってやると小さな笑い声が聞こえた。


「私、毒華ですけど、いいんですか?公爵様のタイプのふわふわして可愛らしい女の子なんかじゃありません…」

「ハンナ嬢は可愛いよ。確かに容姿だけ見ると凛々しい美人だが、私はもう君が意地っ張りで涙脆く、誰よりも可愛らしい人だと知ってしまった」

そう言うと肩口に隠れるように額をくっつけるハンナ嬢。

照れているのがわかり思わず表情が緩む。


「そういうところも可愛い。それに、それを言うなら私の方こそ、社交界の悪魔だが?」


「ふふっ、私達結構お似合いですね」



クスクスと笑いあって、なんだかすごく幸せだと感じた。



「愛してます、公爵様」

「ああ、私もハンナ嬢を愛している」



_____微笑みあって、どちらからともなく唇を合わせた。




毒華などと、全く相応しくない異名を持つ彼女のこんなにも可愛い姿を見られるのは、この先もきっと私だけだろう。




■□▪▫■□▫▪■□▪▫



ということで、やっと公爵様視点まで完結することができました!(;▽;)

読んで頂いた皆様ありがとうございます!

引き続き番外編を書いていきたいと思っておりますので、そちらもぜひお読みいただけたら幸いです。


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