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コミュニケーション能力を高めましょう。
しおりを挟むその日から公爵様は、ホーリィのことを尋ねたり、コミュニケーション能力を高めるためにひたすら話相手にしたりと、私を何度も公爵邸に呼び出した。
「ホーリィ嬢は何の菓子が好きなんだ?」
「ホーリィは甘いものがあまり得意ではないのでプレゼントならお菓子類は避けた方が懸命ですね」
そう答えると彼は目を丸くして驚いていた。
確かにあんなにふわふわして可愛らしかったら好みだって女の子らしいものを想像してしまうのも無理はない。
「もしもホーリィと親しくなったら、甘いものが人気なカフェなんかより美味しいレストランにでも連れて行ってあげてください」
「そうか、頭に置いておこう。それにしても、甘いものが嫌いな女性もいるのだな」
「好みは人それぞれですから」
姉妹であるホーリィと私だって好みは全然違っているのに。
「君も菓子は苦手なのか?」
「え?いえ、私は…どちらかと言うと、大好きな方です」
少しだけ恥ずかしく思った。
ホーリィのように可愛らしい女の子が甘いものが苦手だと言うのに、私みたいな毒華が甘いお菓子が大好きだなんて。
おかしく思われただろうか。
不安に思ってちらりと公爵様を覗き見ると、予想に反して彼はにっこりと微笑んでいた。
なんだか胸がドキッとする。
初めて彼のこんなに嬉しそうな笑顔を見てしまったからだろうか。
「それは良かった。今日はいつも相談に乗ってくれているお礼に最近人気だというカフェのフルーツタルトを用意したんだ」
「フルーツタルト!?」
予想外のご褒美に嬉しくなって思わず声が大きくなってしまう。
…はしたなかったかな?
「喜んでくれたようで何よりだ。今準備させよう」
「ありがとうございます、公爵様」
公爵家の使用人が私達のつくテーブルに美味しそうなタルトと紅茶を用意してくれる。
薄いゼリーでコーティングされたフルーツがキラキラと輝いていてすごく美味しそうだ。
「どうぞ、ハンナ嬢」
「いただきますっ」
フォークを使って一口台にしたタルトを口に入れると、フルーツの甘酸っぱさとカスタードが絶妙にマッチしていて今まで食べたどんなタルトよりも特別な味に思えた。
「美味しい…!!!」
ほっぺたが落ちそうだ。
「いつも凛としたハンナ嬢のこんな無邪気な姿が見れるなんて思わなかった」
「こんなに美味しいタルトの前では誰しもこんな風に我を忘れてはしゃいでしまうものです!」
「ふっ、そうか。満足していただけたようで良かった」
こんな美味しいお菓子が待っているな毎日でも公爵邸に足を運びたいくらいだ。
「ありがとうございます公爵様。すごく美味しかったです」
「礼を言う必要はない。いつも話を聞いてもらっている礼だと言っただろう」
それはそうかもしれないけど、やっぱりその厚意が嬉しかったから仕方ない。
それに、私はなんだか公爵様と過ごすこの時間が少し楽しくなってしまっているのだ。
そうして時は流れ、いつの間にか公爵様の屋敷に訪問するようになって半年が経っていた。
「では、そろそろ公爵様の晴れ舞台について作戦を練っていきましょうか」
「…晴れ舞台?」
「これだけホーリィと仲良くなるために努力しているのですから、そろそろ本番に移るべきです」
私がそんなことを言うと、彼はポカンと口を開けて驚いていた。
「公爵様は何のために今まで練習していたんですか?」
「それは、まあ…せっかく習得し始めたコミュニケーション能力を誰かに試したい気はするが…」
「きっと今の公爵様なら大丈夫ですよ」
彼が私以外の人と仲良くなるのはなんだか寂しい気もするけど、そんな私の気持ちが彼の付き合いを邪魔してしまうことだけは避けたい。
それに、ホーリィは良い子だ。
彼のこともきっとわかってくれる。
「公爵様にも、来週行われるパーティーの招待状は届いていますよね。ホーリィはそれに参加すると言っています」
「それは君も参加するのか?」
公爵様がそんなことを聞いてくる。
行くつもりはなかったけれど、いきなり一人で臨むのは不安なのかもしれない。
「そうですね、私も公爵様の晴れ舞台しっかり見守らせていただきます」
「…ふっ、なんだそれ」
「公爵様と私は一蓮托生ですから」
こんなに優しい公爵様には、素敵な恋をして幸せになってほしい。
心の底からそう思った。
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