[本編完結]伯爵令嬢は悪魔と呼ばれた公爵様を応援したい。

ゆき

文字の大きさ
1 / 14

悪魔からの招待

しおりを挟む


その日私は緊張した面持ちでその屋敷に足を踏み入れた。

そこは社交界でも悪い意味で噂に事欠かないカイゼル・ハディソン公爵の邸宅だった。


通称、社交界の


公爵様はその見慣れない漆黒の髪や赤い瞳のおかげでそんな不本意なニックネームを付けられてしまった不憫な方である。

なんだか気になって一時期観察してしまったことがあるので彼のことは少しだけ知っている。



彼は人とコミュニケーションをとることが苦手なのだと思う。

誰かから声をかけられることはもちろん、自分から声をかけることすら滅多にしない公爵様に私が勝手にそんな印象を持っているだけかもしれないが。


それでもやはりたまに社交界で目にする彼はどことなくそわそわしているように見えて、本当は人と話したいのではないかと予想している。



だから、彼からいきなり手紙をもらって、屋敷に招待された時は緊張したが、怖いなんてことは一度も思わなかった。

いや本当に緊張はしているが。



どうして私なんかを呼び出したのだろうかと、不思議には思う。


自慢ではないが、私だって公爵様に負けず劣らずの評判の悪さを誇っているのだ。



社交界の、それが私、ハンナ・ルーベルの不本意な汚名だった。



これは公爵様と同じく、私の容姿から受けたイメージなのだろう。

私のツンとした印象を受ける少しつり目がちな瞳と、何もしなくても目鼻立ちがくっきりしている派手な顔面は、傍から見れば気の強い傲慢な令嬢といった風貌だ。


それに加えて私は昔から歯に衣着せぬもの言いをしてしまうこともあり、今では毒華とまて呼ばれる令嬢としては事故物件。

だけどきっと我が伯爵家は私とは違ってそれはもう可愛らしい妹が素敵な旦那様を見つけて継いでくれるから平気だ。


人間諦めが肝心な時もある。



「ようこそおいでくださいました、ハンナ・ルーベル伯爵令嬢様」


執事らしき初老の男性に案内され、応接間に通される。

扉が開くと、公爵様はソファに腰掛けじっとこちらを見つめていた。


「お初にお目にかかります、ルーベル伯爵家の長女、ハンナ・ルーベルです。今日はお招きいただきありがとうございます」

「ああ、わざわざ足を運んでもらい申し訳ない。どうぞこちらにかけてくれ」


対面するソファにと促されてそそくさと腰を下ろすと、彼は一呼吸置いて口を開いた。



「今日は折り入って君に相談があるんだ」

「相談?公爵様が、私なんかに?」



「君の妹であるホーリィ嬢についてだ」


少し頬を染めてそう言う公爵様に首を傾げる。



「あの、うちの妹が公爵様に何か粗相でもしてしまいましたか…?」

「いや、そうではない」


目の前の彼が首を横に振るのでますますわからなくなってしまう。

いったいどういった用件なんだ。



「これは姉の君にしか相談できないことなのだが、聞いてくれるだろうか」

「…まあ、その、内容によりますね」


「そうだな、何も言わずに了承を得ようとするなんて私が卑怯だった」


あっさりと謝罪の言葉を述べる彼に驚いてしまう。

彼は私が思っている以上に素直な人だ。



「私は…その、なんだ…つまり…」


どうしてか彼は、いきなりコミュニケーション能力が百くらい下がってしまったようだ。

その後ももごもごと声にならない声を発する公爵様。



しばらくすると、彼は決心したように口を開いた。


しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

地味顔令嬢の私を「嘘の告白」で笑いものにするつもりですか? 結構です、なら本気で惚れさせてから逆にこっちが盛大に振ってあげます!

日々埋没。
恋愛
「お前が好きだ。この俺と付き合ってくれないか?」    学園のアイドル、マルスからの突然の告白。  憧れの人からの言葉に喜んだのも束の間、伯爵令嬢リーンベイルは偶然知ってしまう。それが退屈しのぎの「嘘の告白(ウソコク)」だったことを。 「あの地味顔令嬢が俺に釣り合うわけないだろ。ドッキリのプラカードでも用意しとくわ」  親友のミネルバと共に怒りに震える彼女は、復讐を決意する。まずは父の言いつけで隠していた「絶世の美貌」を解禁! 嘘の恋を「真実の恋(マジコク)」に変えさせ、最高のタイミングで彼を地獄へ突き落とす――。 「……今さら本気になった? 冗談はやめてください、これドッキリですよ?」

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。

しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。 断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。

あなたが捨てた花冠と后の愛

小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。 順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。 そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。 リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。 そのためにリリィが取った行動とは何なのか。 リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。 2人の未来はいかに···

煤かぶり姫は光の貴公子の溺愛が罰ゲームだと知っている。

朝霧心惺
恋愛
「ベルティア・ローレル。僕の恋人になってくれないかい?」  煌めく猫っ毛の金髪に太陽の瞳、光の貴公子の名を欲しいがままにするエドワード・ルードバーグ公爵令息の告白。  普通の令嬢ならば、嬉しさのあまり失神してしまうかもしれない状況に、告白された令嬢、ベルティア・ローレルは無表情のままぴくりとも頬を動かさない。  何故なら———、 (罰ゲームで告白なんて、最低の極みね)  黄金の髪こそが美しいという貴族の価値観の中で、煤を被ったような漆黒の髪を持つベルティアには、『煤かぶり姫』という蔑称がある。  そして、それは罰ゲーム結果の恋人に選ばれるほどに、貴族にとっては酷い見た目であるらしい。  3年間にも及ぶ学園生活も終盤に迫ったこの日告白されたベルティア、実家は伯爵家といえども辺境であり、長年の凶作続きにより没落寸前。  もちろん、実家は公爵家に反抗できるほどの力など持ち合わせていない。  目立つ事が大嫌いでありながらも渋々受け入れた恋人生活、けれど、彼の罰ゲームはただ付き合うだけでは終わらず、加速していく溺愛、溺愛、溺愛………!!  甘すぎる苦しみが、ベルティアを苦しめる。 「どうして僕の愛を疑うんだっ!!」 (疑うも何も、そもそもこの恋人ごっこはあなたへの罰ゲームでしょ!?)

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~

marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」 「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」 私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。 暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。 彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。 それなのに……。 やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。 ※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。

処理中です...