[本編完結]伯爵令嬢は悪魔と呼ばれた公爵様を応援したい。

ゆき

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毒華の嫉妬

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どのくらいバルコニーに居たのだろうか。

柵の上に両手を置いてぼんやりと遠くに見える庭園を眺めていた。


「ハンナ嬢!?まさかずっとそんなところに居たのか!?」

そんな焦ったような公爵様の声が聞こえて我に返る。


「いくら春だと言っても夜はまだ冷えるだろう!ほら、こんなに冷たくなっている!」


彼は少しだけ怒った様に声を荒らげながら、そのしなやかな手を私の頬にあてるのだった。

公爵様のじんわりと温かい体温を感じる。



「顔が少し赤い。もう今日は帰った方がいいだろう」

そう言うと彼は自身が着ていた上着を私の肩にかけ、バルコニーから中に連れ戻した。


「私の馬車で送っていこう」

「…あの、大丈夫ですから」


せっかく覚悟を決めた彼の大切なパーティを邪魔したくなんかなかった。


「平気な様には見えない。ホーリィ嬢に伝えてくるから君はここで待っていてくれ」


いきなり彼の口からホーリィの名前が出てきて少しだけ驚いてしまう。

そうも簡単に彼女に声をかけることができるほど親しくなってしまったのだろうか。



「…ハンナ嬢?」


気がつくと条件反射の様に彼の袖口をきゅっと掴んでしまっていた。


「あ…」

「やっぱり様子がおかしい。ちょっとだけ我慢してくれ」


公爵様をそう言うとそっと私を抱き抱えた。

俗に言うお姫様抱っこというやつだ。



「っ!公爵様!?」

「すまない、だけど今の君を一人にさせてはいけない気がした。倒れでもしたら大変だ」


「別に体調が悪いわけではありませんから、あの、公爵様…少し恥ずかしいです」


もう何を言っても無駄だった。

心配性で優しい公爵様は結構頑固なのだ。



「ホーリィ嬢、ハンナ嬢は体調が悪いようだから私が送り届けてもいいだろうか」

彼はあれだけ緊張していたくせに、躊躇なくホーリィに声をかける。

…変わってしまった彼に喜ぶべきなのに、なんだか寂しくなる。


「えっ、お姉様大丈夫ですか?」

「熱はなさそうだが心配だから今日はもう帰らせたい」

「そうですね、お姉様をよろしくお願いしますカイゼル様」


…カイゼル様?

親しげに名前を呼ぶホーリィに目の前が真っ暗になってしまうようだった。


なんだかとっても良い雰囲気なのだ。



「ハンナ嬢?」


公爵様は突然胸元に顔を寄せた私に不思議そうに声をかける。

二人の応援をするふりをして、私はどこまでも自分のことしか考えていないのだ。


こんな醜い自分、知らなかった。



「あらあら、体調が悪くて公爵様に甘えたくなってしまったのですね。お姉様は本当に可愛いです!」

「そうなのか…?」

「そうに決まってますわ!早くお姉様を送って差し上げてくださいな。あら、ここからだと我が家よりも公爵邸の方が近かったかしら?お姉様もつらそうだし、もし良ければ公爵様のお家に連れ帰ってくださいませんか?」


何を言ってるの、ホーリィ…!?

楽しそうにクスクスと笑いながら告げられる言葉にびっくりしてしまう。


もしかすると彼女は私の気持ちに気づいてしまっているのではないか。


だとしたら、私は公爵様の恋を完全に邪魔するだけの存在に成り下がってしまう。


「あの、やっぱり私一人で帰れますから…」

「ダメだ。ではホーリィ嬢私達はこれで失礼する。今日は話せて良かった。良ければまた話を聞いてくれるだろうか」


公爵様は少しだけ頬を染めてホーリィにそんなことを言う。


「ええ、勿論です!」

「ありがとう。ではまた」


彼はそれだけ言うと私を抱えたまま会場を後にするのだった。


ああ、こんなことならパーティーなんて来なけれ良かったのかもしれない。


公爵様の恋を応援するつもりだったのに、これでは完全な足でまといだ。



「ごめんなさい、公爵様」

「君が謝ることなんて何も無いよ」



彼は自らの馬車に乗り込むと、私を抱えたまま帰路につくのだった。


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