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緊張する悪魔
しおりを挟むついに待ちに待ったパーティー当日。
お昼に足を運んだ際公爵様は随分と緊張していた様子だったから大丈夫かと心配になる。
ホーリィには事前に公爵様が噂通りの怖い人なんかじゃないことをしつこく言い含めているから彼への印象は多少変化していると思うけれど…
近くで様子を窺ってみようか。
いや、公爵様もあまり近くに私がいたらますます緊張してしまうかもしれない。
悶々とした気持ちで会場にやって来た。
ホーリィは居合わせた友人と楽しそうに会話に花を咲かせている。
ずっとこのままだと話しかけにくいだろうなぁ。
「…ハンナ嬢」
完全に壁の華と化していた私に小さく声がかかった。
「ご機嫌よう、公爵様」
「あ、ああ。ちょっと付き合ってくれ」
彼はそう言うとどこか落ち着かない様子で私をバルコニーへと連れ出した。
「どうしたのですか?」
「…どうしたも何も、いざ覚悟を決め声をかけるとなると震えが止まらない!」
自らの体を抱きしめながらそんなことを言う公爵様は真っ青で、はっきり言ってかっこ悪い。
公爵様らしいと言えばらしいが。
「今までたくさん会話の練習もしましたし、ホーリィの好みや興味のある話題だって伝えました。そんなに不安にならなくても大丈夫ですよ」
「だが…」
もごもごと心配事を口にする公爵様に呆れ顔で言葉を続ける。
「公爵様は誰よりも優しくて魅力的な方です。私はそんな素敵な公爵様をもっとたくさんの方に知って欲しい」
なんだかペラペラと口が回る自分にモヤモヤとした気持ちが溢れてくるのは気のせいだろうか。
嘘なんかついてないはずなのに、これ以上そんな言葉で彼を後押ししたくない。
…私、公爵様のこと嫌いなのかな。
素直に彼の恋が成功することを望めない自分がいる。
「公爵様の本来の人柄を知って、落ちない女性なんてきっといませんから、安心してください」
苦々しい気持ちでそんな言葉を口にした。
私はやはり毒華と称されるだけあって、自分が思っている以上に最低な人間なのかもしれない。
「君も、私に落ちるのか?」
「え…?」
公爵様の言葉に思わず目を見開く。
「いや、なんでもない。話を聞いてもらって少しだけ落ち着いてきた。そろそろ声をかけに行って来よう」
「そうですか。心から応援しています」
嘘つきだ、私。
こんなんじゃ公爵様が苦手な典型的な貴族社会の女性そのものだ。
どんな顔でこれから彼と接していったらいいのだろう。
ああ、でも今回ホーリィと公爵様がうまくいってしまったら私もとうとうお役御免か。
会う機会だってそうそうないのかもしれない。
次に会うのはホーリィの婚約者の公爵様?それとも、旦那様?
心優しいホーリィはきっと彼の真実の優しさに気づいてしまうだろう。
そうしたらあんなに魅力的な彼に恋に落ちないわけがないのだ。
胸が苦しい。
「ああ、そっか」
今更になって気づいた。
_____私、公爵様が好きだったのね。
そんなことを思っても、もう遅い。
彼はホーリィの元に去って行ってしまったのだから。
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