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結婚式
しおりを挟む春になると、私達は親族や本当に大切な人だけを招待した小さな結婚式を挙げた。
アボット公爵家のみんなや、学園で出来た友人枠であるユーリや殿下も勿論参加してくれている。
教会での式を終え、ささやかだが立食式のパーティーまで開催することができた。
「おめでとうカティ…それとグレン様も」
少し複雑そうな顔をしながらも、ユーリは精一杯の笑みを浮かべて祝福の言葉をくれた。
「ありがとうユーリ。来てくれて嬉しい」
「カティの一生に一度の晴れ舞台だもんね~。来るに決まってるよ。あ、でもグレン様と離婚したら僕ともっかい挙式してもいいかもね」
悪戯っぽく笑うユーリ。
彼はいつもこうやってふざけて、私を笑わせてくれていたっけ?
学園を卒業してまだそんなに経っていないはずなのにもう懐かしく感じてしまう。
「そんな日は未来永劫来ない」
「…信じていいんですか?」
きっぱりとしたグレン様の言葉が嬉しくてほんのり胸が温かくなる。
「ああ。卿には以前、無礼な振る舞いばかりして申し訳なかった。…カティを支えてくれて心から感謝する」
「気にしてませんよ。まさかあっさりかっ攫われるとは思ってませんでしたけどね?」
ユーリはあからさまに肩を竦めて言葉を続ける。
「カティは僕が心から愛した唯一の人なんです。傷つけたら侯爵様であれど許しませんよ」
挑発的な笑みを浮かべてそんなことを言う彼に、恥ずかしくなって顔に熱が集まるのがわかった。
彼の想いを受け入れることが出来なかったにも関わらず、以前と変わらない優しさを向けてくれるユーリ。
先日正式に伯爵位を受け継いだものの、やはり家格でいうとグレン様の方が優勢なのは間違いないのに…私のためにそこまで言ってくれる人が彼の他にいるだろうか。
「本当にありがとう…」
「このくらいの牽制どうってことないよ。なんたって僕にはフィリップ殿下っていう強力な味方がついてるんだし。カティに関してはあの人も僕と全く同じ意見だと思うよ」
…ああ、そうね。
王太子殿下がついてるんじゃグレン様なんて目じゃないはずだ。
「その通りだ。グレン、もしもお前がカティア嬢を泣かせることがあれば、その時は私かここのユーリが容赦なく彼女を奪い去ってしまうからな」
「そんなことはさせません。ていうかあなたも出席していたんですね。…カティ、殿下には招待状は送らなくていいといったのに」
相変わらずの憎まれ口を叩く彼に苦笑いを浮かべてしまう。
「ふん、招待状なんてなくともこの私が親友達の結婚式に欠席なんてするわけがないだろう」
「…今日くらい私の気持ちを汲み取って自粛してくださっても良いのでは?」
「グレンの本心などお見通しだからこそ私はこの場にいるのだろう」
しかめっ面のグレン様に殿下はしたり顔で笑みを浮かべていた。
「…カティ、少し疲れたんじゃないか?控え室で休憩した方がいい」
「えっ?私は別に…」
「では殿下にシュゼット伯爵、我々は束の間の休息をとってくることにします。本日は気心の知れた人間ばかりのくだけた場、肩の力を抜いてささやかではありますが、手ごころこめた料理や美酒をどうぞお楽しみください」
取って付けたような笑みでそういうグレン様は、返事も聞かずに私の手を引きパーティー会場を後にするのだった。
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