兄が度を超えたシスコンだと私だけが知っている。

ゆき

文字の大きさ
上 下
42 / 56

謝罪と願い

しおりを挟む


「妹を手に入れるために、妹の世界から他の人間を排除しようとする人の頭が正常だとはとても思えませんわ!」


グレン兄様と最後に会った時に彼は、私の世界には自分だけでいいと、そのために他の人間は排除したと、確かにそう言った。

自分勝手で狂愛的とも捉えることが出来る言い分には心底ゾッとしたものだ。



「……」


「その事については、どうお思いですか?」


グレン兄様は今も私から全ての人を遠ざけたいと考えているんだろうか。



「カティが俺だけを見てくれたらいいのにって思う気持ちは今も変わらない」


言っていることは前とそう変わらないのかもしれないが、少しだけ言い方がマイルドになったような気もする。

変わったのか、変わってないのか…判断しようがない。



「だが」

グレン兄様が言葉を続ける。



「今はもう、カティのそばにいられたら、きっと俺は幸せだ」


グレン兄様はそう言うと、見たことも無いような、慈愛を含んだ甘い笑みを浮かべた。



「…そう、ですか」


拍子抜けしてしまう。



「ここに来てずっと、カティのことを考えないように仕事に没頭してきたけど…ふとした瞬間、頭に浮かぶのはいつもお前のことばかりだった」


遠慮を無くしたように想いをぶつける彼に、私はタジタジになってしまう。



「会いたくてしかたがなかった…だから、今日カティがここに来た時は思わず夢なのではないかと疑ってしまった」

「夢じゃないです」

「ああ、わかってる。重たいパンチも食らった。どうしてか驚くほど傷は浅かったが」


妖精さんのせいです、グレン兄様。



「もう、カティを縛り付けたりしない。絶対に。独占したい気持ちは…正直あるけど、それ以上にもうこれ以上カティに嫌われたくない。カティの嫌がることはしたくない」


「反省、したんですか?」


「……カティを失って、初めて後悔した。カティの意思を尊重せず、自分勝手にやってきたツケは俺の一番大切なものを奪い去っていった。もう、こんな思いはしたくない」


握りしめられたグレン兄様の拳はプルプルと震えていた。




「俺は今度こそ、カティの幸せのために生きたい。今まで本当に悪かった。都合が良いのはわかってるけど、カティのそばにいさせてくれないか…?」

「………」


以前のグレン兄様からは考えられないような言葉をたくさん聞いた気がする。


驚きすぎてまともな返事もできなかった。



「………あ、えっと……」


「っ、もちろん、カティが嫌なのだったら、俺は…………………諦める……………努力は、する」


グレン兄様は苦虫をかみ潰したような表情でそんなことを言った。



「あの、グレン兄様は王都を追放されているのですよね?」


「……………そうだ」


「私のそばに、ということは…私をカワイティルに招きたいとおっしゃっているんですか?」


「……そこまでは、考えていなかった」


「だったらどうやってそばにいるつもりですか?」


現実問題、私は今公爵家の養子として王都に住んでいるのに、カワイティルに住むグレン兄様のそばにいることは厳しいのでは?

学園を卒業した後のことはまだ何も考えてはいないけど。



グレン兄様は明確なビジョンはなかったようで、答えを出すことに苦労しているみたいだ。


仕方ないことだと思う。



今日まで私もグレン兄様も、きっと二度と再会できないような心持ちでいたのだから。

少し考えて答えが出るような簡単な問題でもないはずだ。



「…難題を突きつけてしまったようで申し訳ありません」

「いや、答えられない自分が情けない」


そう言うとグレン兄様はしょんぼりと項垂れてしまった。


しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

処理中です...