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謝罪と願い

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「妹を手に入れるために、妹の世界から他の人間を排除しようとする人の頭が正常だとはとても思えませんわ!」


グレン兄様と最後に会った時に彼は、私の世界には自分だけでいいと、そのために他の人間は排除したと、確かにそう言った。

自分勝手で狂愛的とも捉えることが出来る言い分には心底ゾッとしたものだ。



「……」


「その事については、どうお思いですか?」


グレン兄様は今も私から全ての人を遠ざけたいと考えているんだろうか。



「カティが俺だけを見てくれたらいいのにって思う気持ちは今も変わらない」


言っていることは前とそう変わらないのかもしれないが、少しだけ言い方がマイルドになったような気もする。

変わったのか、変わってないのか…判断しようがない。



「だが」

グレン兄様が言葉を続ける。



「今はもう、カティのそばにいられたら、きっと俺は幸せだ」


グレン兄様はそう言うと、見たことも無いような、慈愛を含んだ甘い笑みを浮かべた。



「…そう、ですか」


拍子抜けしてしまう。



「ここに来てずっと、カティのことを考えないように仕事に没頭してきたけど…ふとした瞬間、頭に浮かぶのはいつもお前のことばかりだった」


遠慮を無くしたように想いをぶつける彼に、私はタジタジになってしまう。



「会いたくてしかたがなかった…だから、今日カティがここに来た時は思わず夢なのではないかと疑ってしまった」

「夢じゃないです」

「ああ、わかってる。重たいパンチも食らった。どうしてか驚くほど傷は浅かったが」


妖精さんのせいです、グレン兄様。



「もう、カティを縛り付けたりしない。絶対に。独占したい気持ちは…正直あるけど、それ以上にもうこれ以上カティに嫌われたくない。カティの嫌がることはしたくない」


「反省、したんですか?」


「……カティを失って、初めて後悔した。カティの意思を尊重せず、自分勝手にやってきたツケは俺の一番大切なものを奪い去っていった。もう、こんな思いはしたくない」


握りしめられたグレン兄様の拳はプルプルと震えていた。




「俺は今度こそ、カティの幸せのために生きたい。今まで本当に悪かった。都合が良いのはわかってるけど、カティのそばにいさせてくれないか…?」

「………」


以前のグレン兄様からは考えられないような言葉をたくさん聞いた気がする。


驚きすぎてまともな返事もできなかった。



「………あ、えっと……」


「っ、もちろん、カティが嫌なのだったら、俺は…………………諦める……………努力は、する」


グレン兄様は苦虫をかみ潰したような表情でそんなことを言った。



「あの、グレン兄様は王都を追放されているのですよね?」


「……………そうだ」


「私のそばに、ということは…私をカワイティルに招きたいとおっしゃっているんですか?」


「……そこまでは、考えていなかった」


「だったらどうやってそばにいるつもりですか?」


現実問題、私は今公爵家の養子として王都に住んでいるのに、カワイティルに住むグレン兄様のそばにいることは厳しいのでは?

学園を卒業した後のことはまだ何も考えてはいないけど。



グレン兄様は明確なビジョンはなかったようで、答えを出すことに苦労しているみたいだ。


仕方ないことだと思う。



今日まで私もグレン兄様も、きっと二度と再会できないような心持ちでいたのだから。

少し考えて答えが出るような簡単な問題でもないはずだ。



「…難題を突きつけてしまったようで申し訳ありません」

「いや、答えられない自分が情けない」


そう言うとグレン兄様はしょんぼりと項垂れてしまった。


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