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エスコートできるのは。
しおりを挟む「カティ、おはよ~」
「おはよう、ユーリ」
教室に着いてそうそう、待ち構えていたかのように話しかけてきたユーリだった。
どうしたのだろうか。
「ねえカティ、今度王宮で舞踏会があるのは知ってるよね?」
「ええ、父が先日話していたわ」
結構大きな舞踏会で、たくさんの貴族が招待されていると聞いた。
もちろん私の侯爵家も、きっと、ユーリの伯爵家も招待されているはずだ。
「それで、相談なんだけどさ~」
「相談?」
ユーリが私に相談なんて、珍しいことだ。
私が他の令嬢に絡まれている時など、いつもユーリはさりげなく助けてくれる。
すごく感謝しているから、私で力になれることがあればしっかり手助けしたい。
「その舞踏会で、僕にカティをエスコートさせてくれないかなぁ?」
「ええ?どうしてわざわざ?」
思いもよらない提案に目を見開く。
「実は舞踏会でいとこのエスコートをさせられそうになっててさ~」
ため息混じりに言うユーリに首を傾げる。
「したらいいんじゃない?」
「絶対無理!あんな女のエスコートなんて冗談じゃないよ~。叔父さんに頼まれて今までは兄さんがエスコートしてたんだけどさぁ、婚約してるじゃん?今あの人」
余程嫌なのだろう。
思いっきり顔をしかめるユーリに苦笑を浮かべた。
「本当に、やばい人なんだよ?気に食わないことがあるとすぐぶん殴られるからね~」
「さすがに舞踏会でそんなこと…」
「いや~、あの人はやっちゃうんだ~それが。そんなことばかりしてるから完全に嫁に行き遅れて僕なんかにエスコートの話がまわってくるんだよまったく」
随分と破天荒な女性らしい。
「だから、僕に一緒に行く相手がいないってわかったら強制的にあの人のエスコートさせられちゃうんだよねえ…すっごい困ってるんだよ僕」
「…グレン兄様に、相談してみるわ」
正直お兄様には少し話しづらい内容だけど、ユーリのお願いならきいてあげたい。
これで少しでも恩返しができるなら。
「ありがとうカティ~~~!!!」
「もしグレン兄様が許してくれなくても、ユーリなら他の令嬢が喜んで承諾するからあんまり不安にならないでね?」
なんと言っても社交界で話題の美男子なんだから。
「う~ん、僕としてはカティがいいんだけどね?」
「ふふっ、私もユーリにエスコートしてもらえたら嬉しいわ」
相変わらず女の子の扱いが上手だ。
「じゃあ、グレン殿によろしくね?」
あんまり期待できないけど、なんて小さく呟かれた言葉が私の耳に届くことは無かった。
グレン兄様にお願いするには、家よりも学校での方がいいだろう。
周りの目もあるし、あまり横暴なことはできないはずだ。
エスコートを兄妹がする必要はないのだし。
お昼休憩になると、私はグレン兄様がいるであろう学園のレストランに向かった。
入るとすぐに、グレン兄様の姿が見える。
侯爵家ではありながら、グレン兄様は、その綺麗な容姿や優秀な成績などから、周りの目を引くことが多い。
周りの注目を辿っていくと意外と簡単に発見できるのだ。
「グレン兄様、お話がありますの」
急に現れた私に、お兄様は軽く目を見開く。
「それは今すぐしなくてはいけない話か」
「できれば今聞いて頂きたいです」
無表情のグレン兄様はあまり機嫌が良くなさそうだが、私も今日だけは簡単に折れない。
「わかった、座れ」
「ありがとうございますグレン兄様」
目の前の席に座った
「王宮での舞踏会の話ですが、今回はグレン兄様ではなく、ユーリにエスコートして頂こうと思いますの」
「……ユーリ殿?」
絶対零度の冷たい声でユーリの名前を口にするグレン兄様。
ここまで不快そうなグレン兄様は滅多に見ないかもしれない。
「ええ、ユーリにお願いされてしまって。だから今回はユーリと参加しようと思いますの」
「それはだ」
きっと、ダメだと口にしかけたのだと思う。
諦めかけた時だった。
「もしかして、そちらがグレンの妹か?」
よく知った、そんな声が聞こえた。
「っ、殿下」
グレン兄様は、額に手をやり、ため息をついた。
「お初にお目にかかります。リシャール侯爵家長女のカティア・リシャールにこざいます」
淑女の礼をとって自己紹介する。
こんな時を想定して、シュミレーションはばっちりだった。
「ああ、私はグレンの親友の、フィリップ・ロズベルグだ」
「以後お見知り置きを、フィリップ殿下」
傍から見ると完全に初対面の構図だろう。
「私もご一緒していいかな?」
「勿論でございます」
なかなか複雑な組み合わせだけど、一介の侯爵令嬢に殿下の申し出を断れるはずがない。
「少し雰囲気が悪いようだが、何かあったのか?」
「今度の舞踏会について話をしておりました」
「ほう、王宮での舞踏会か」
ふむ、と顎に手をやる殿下。
「あれは、ここだけの話、父が私の婚約者を探そうと開催した舞踏会だ」
殿下の言葉には、私も兄も驚いて固まってしまった。
そんな重要なことを私達に言ってしまっていいのか。
「なぜ淑女のみに限定されなかったのです?」
「私が父に言ったのだよ。本来の姿が見たいからただの舞踏会という程にしてくれと」
兄の問いかけに殿下はそう答えた。
「私の婚約者になるつもりで意気込んだ令嬢を相手にするのは面倒だからな。今までは父も私の意思を尊重してあまりうるさく言わなかったが、今年で私も学園を卒業だ。私が何もしなくとも、今回の舞踏会で父が適当に令嬢の中から相手を見繕うだろう」
家の存続は貴族の務めだが、王族も大変だ。
その重圧は計り知れない。
「そういえば、カティア嬢はまだ婚約者がいないのだったな。グレンがエスコートするのであれば、意中の相手もいないとみなされて私の婚約者候補に挙がるかもしれないな」
その時はよろしく、なんて軽く言う殿下。
こっそり私にパチリとウィンクをしてくれたところをみると、もしかすると初めから私とグレン兄様の話を聞いていたのかも。
シスコンのお兄様にとって、私がユーリにエスコートされるよりも、殿下の婚約者に挙がる方がずっと嫌だと思う。
だからあえてそんな話を振ってくれたのだとしたら、殿下には感謝しなければ。
次に図書館で会った時はお礼を言おう。
「先程の話の続きですが、ユーリにエスコートしてもらってもかまいませんか?」
「……ああ、好きにしてくれ」
「ありがとうございますお兄様」
しっかり兄の承諾をもぎ取り私はホッと息をついた。
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