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幸せになんてさせない。

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「お姉様、どうやってユーリ様に取り入ったんですの?」

家に帰ると、先に帰っていたらしいエクルが待ち構えていたかのように廊下に腕を組んで立っていた。


「同じクラスになっただけですわ」

「同じクラスになっただけなのに、どうして二人きりで学園を歩き回っていたのよっ」


私を睨みつけながら言葉を続けるエクルは、心底私のことが気に食わないらしい。

ユーリと仲良くしたのは軽率だったかも。


エクルが突っかかってくるのは今に始まったことではないが、やはり自分の婚約者の弟となれば普段以上に思うところがあるようだった。


「ユーリ様も、ウォルターの婚約者である私のお姉様がどんな人なのか気になっただけなんだから、勘違いしないでよねっ?お姉様」

「勘違いなんて、してないわ」


みじめな気持ちになるのは、もう真っ平だ。


ユーリは常識人なだけであって、私の事を真に思っているわけではない。

本当に、ただの普通の良い人なのだ。


普通以下の人間ばかりと接して、少し感覚が狂ってしまったのだろう。

危うく絆されるところだったわ。


今回ばかりはエクルに気付かされてしまった。



「あんまり婚約者に執着しないでよねっ?」

「ユーリは関係ないから」


「関係大ありだわっ、だってあの二人は私とお姉様以上に仲の良い兄弟なのよ??」


私達より仲の悪い兄弟姉妹の方が珍しいだろうに。


「とにかく!!またユーリ様と一緒のところを見かけたりしたら、私もっともっとお姉様のダメなところ広めちゃうかもしれないわ」

「…根も葉もないこと触れ回ってるだけでしょう?」


エクルは昔から変わらない。

侯爵家にやってきた頃からずっと。


お父様や、義母、使用人に至るまで、いろいろ人達に私の事実無根の醜聞を触れまわり、泣きわめくのだ。

お陰ですっかり悪女の私のできあがり。



「私、お姉様には絶対に何も譲らないんだから…何も、誰も!!お姉様だけは一生幸せになんてさせないわ」


拳を強く握りしめ、そんなことを宣うエクル。

落ち着かない様子が不思議で眉を顰める。



「…いったい、何を焦ってるの?」


「っ、うるさい!嫌い、大嫌い!本当にもう、私達の前から消えてよ…っ」


「部屋に戻るわ」


どうしてこうも、この妹は私を憎んでいるのだろうか。

この家に来た時からなんとなく私のことが気に入らないのだと思っていたが、もしかすると明確な理由があるのかもしれない。


ただならない様子のエクルを脳裏に思い浮かべながらそんなことを思った。



幸せになんてさせない、か。


兄妹揃って似たようなことを言うんだね。
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