兄が度を超えたシスコンだと私だけが知っている。

ゆき

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変態シスコン兄様の誕生

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side グレン


■□▪▫■□▫▪■□▪


カティと初めて出会ったのは、俺が七歳、カティが六歳の時だった。


エクルの実の父である男が前妻を病で亡くし、妾だった母が出世して後妻の座についたのだ。

田舎の男爵家だった母が、飛び跳ねて喜んでいた姿が目に浮かぶ。


侯爵家の屋敷に招かれ、カティの姿を初めて目にした時は衝撃が走った。


ミルクティ色のふわふわとした髪の毛に、淡いエメラルドの瞳。

目はぱっちりと大きくて、すっと通った小さな鼻。

血色の良い唇に、薔薇色の頬は思わず口付けたくなる程愛らしかった。



「何をしている、早く挨拶しろ」

こんなに可愛い子にどうしてこうも冷たく接することができるのか。

この時ばかりは義父がまるで宇宙人のように感じられた。


「カティア・リシャールです…ろ、六歳になります。カティの家族に…なってくれるのっ?」

大きな瞳を潤ませて、不安げに問いかけるカティには心の中で全力で頷いた。


眉を寄せてカティを一瞥する母と、あからさまにカティを睨む妹には少し不安になったが、俺が精一杯この愛しい子を守ってあげようと密かに誓った。

侯爵家に早く馴染めるよう一生懸命教育を受け、一人称も俺から私にした。


がむしゃらな努力はいつの間にか力になり、気がつくと父の代わりに侯爵家を治める程となった。


「グレン兄様っカティと遊ぼ?」

にこにこと愛らしく笑う妹に、妹以上の感情を抱くのにそう時間はかからなかった。

今思えば、出会った時からこの想いは芽を出していたのかもしれない。


「エクルも一緒においで」

「お兄様は、エクルのお兄様ですわ!!」


エクルがカティを虐めないよう、彼女を気遣うことも忘れなかった。


しかし、母親譲りの本来の性質なのか、気づいた頃には親子揃ってカティに悪意を向け始めていた。



「世界にカティと二人だけなら良かったのに」


もともと家族に対する愛着が薄いのか、カティに対する愛が大きすぎるのか(多分両方だろうが)、いつもそんなことばかり考えていた。



母や妹を諌めるごとに、カティに対する扱いがひどくなっていく始末。

考えても、改善策は見つからなかった。



そんな悩みと同時に、


俺には、カティには悪いが、それ以上に心を悩ませる特大の苦悩があった。



それは自分が、義理ではあるが、カティの兄妹であること。

カティが俺を兄として慕っていること。


俺とカティが想いを通わせることは絶対にありえないということ。



「こんなに、愛しているのに…」

夜な夜なカティの愛らしい姿を収めた写真を眺めては、冷たい紙に唇を押し付ける日々だった。


これは絶対に秘密だが、思春期に突入してからは、カティの下着をこっそり盗み出したり、寝ているカティの頬に口付けたりもした。

…絶対の絶対に言えないが。



十年来の想いも、煮詰まりすぎて完全に腐ってしまっているみたいだ。



いつの日かカティを守ると誓った手で、カティの幸せを壊そうとしている醜い自分に嫌気がさす。

だけど、手放しでカティの幸福を願うことなんて、今の俺にはとてもじゃないができない。


カティはこんな俺を心底嫌っている。


こんな最低な俺は、カティと出会うべきではなかった。



「…可哀想なカティ」


カティはこれからもずっと、大嫌いな男に縛られ続ける人生を送るのだ。


早く、みんながカティを嫌って、離れていきますように。

毎日毎日馬鹿みたいにそんなことばかり考える俺を、カティは軽蔑するだろうか。

…するに決まってる。


カティが俺以外の人間から見放されたその時は


俺が誰よりもカティを愛してあげるから、


だから早く


俺だけのものになってくれ。

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