兄が度を超えたシスコンだと私だけが知っている。

ゆき

文字の大きさ
上 下
11 / 56

シスコンお兄様はたまに暴走してしまう。

しおりを挟む


この国では、十五歳になった次の春、上流階級の娘達はデビュタントを迎え社交界に羽ばたく。

義妹であるエクルも華やかな黄色いドレスを着て王宮に向かい、それはもう満足そうに帰宅した姿は記憶に新しい。


そしてデビュタントからおよそ一月後の今日、


「お待たせ、ウォルター!」

花が咲いたような笑顔を婚約者に向けるエクルが、私とお兄様も通っている貴族の子女が集う名門学園に入学する。


「おはよう、エクル」


この二人は婚約から順調に絆を深めていっているらしい。

時々ウォルター様が私に向ける目は酷く憎らしげだが、一応エクルの姉ということもあり際立って酷い態度などはとってこなかった。


エクルはウォルター様の馬車で学園に向かうようだ。


もともとウォルター様は伯爵領にある学園に通っていたようだが、エクルとの婚約を機に今年から私達と同じ学園に通い始めるそうだ。

何故か兄について学園に来た弟は別の馬車で先に向かったらしい。


私はいつも通りお兄様と同じ馬車に乗り込む。


「ウォルターとエクルは仲が良いな」

珍しく自分から口を開いたグレン兄様の意図が全くもって理解できない。

わざわざそんなことどうでも良いことを言うお兄様ではなかったはずだ。

それともこれも、私の知らない妹思いのお兄様の一面なのかしら。


「そうですわね」

「ウォルターとエクルが破局することはきっと有り得ないだろうな」


「…?そうですわね」


同じ言葉を返す私に、グレン兄様はどこか満足気に頷いた。

変なお兄様。



「リボンが、歪んでいる」


「っ」


対面したグレン兄様が一気に距離をつめて、座った私の目の前に片膝をつく。

そしてリボンに手を伸ばすと、一度解いて結び直してくれているようだ。


男性にしてはしなやかで綺麗なグレン兄様の指が首元に触れる度、恥ずかしいような胸が痛いような複雑な気持ちがした。

…早く、結び終わってほしい。


「ありがとうございます、お兄様」

「…」

「……?」


結び終わったというのにいっこうに席に戻らない兄の頭が相変わらず首元にあり落ち着かなたな。


「もう少し、警戒心を持て」


「っ、や」


気がつくとお兄様は私の首筋に吸い付いていた。

痺れる様な甘い痛みが広がる…

「グレン、にい…さま」


「お前は緊張感が足りない」


首元を押さえて固まる私に、すぐさま椅子に座り直したグレン兄様が説教をするように言葉を紡ぐ。

何かを誤魔化すように少し早口グレン兄様。


「だからウォルターなんかにつけ込まれるのだ」

「ウォルター様は、エクルの婚約者ですわよ?」


「一瞬婚約しかけただろう」


それは、そうですが…すぐにエクルに乗り換えちゃいましたよ?


「その調子ではいつか侯爵家の名に泥を塗ることになるだろう。経験が無いのは仕方ないがも少し男に危機感を覚えろ。いい加減自分が他人より見栄えが良いことを自覚するべきだ。いや、その愛らしい性格ももっと偽っておくべきだろう。何のために俺がお前の根も葉もない噂を流してきたと………着いたぞ」



やけに饒舌に、普段なら決して言うはずもない言葉を並べるグレン兄様。


ぽかんと呆気に取られる私に、我に返ったように一瞬大きく瞳を見開いた。

タイミングよく到着した馬車に、きっとグレン兄様は救われた心地だったのではないだろうか。



(カティ~顔赤いよ~?)

(グレンとお揃いねっ!)

(二人とも照れてるの~)


お兄様が………実物の私を、褒めた。

もしかして、写真と間違えてしまったのだろうか。


グレン兄様は私を置いてスタスタと自分のクラスに向かってしまった。

赤い跡を隠すように束ねていた髪を下ろす。


実の兄にあんな跡をつけられて赤面してしまう私って、どうなの?

ため息をついてグレン兄様の背中を見つめて歩いた。

しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...