兄が度を超えたシスコンだと私だけが知っている。

ゆき

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シスコンお兄様はたまに暴走してしまう。

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この国では、十五歳になった次の春、上流階級の娘達はデビュタントを迎え社交界に羽ばたく。

義妹であるエクルも華やかな黄色いドレスを着て王宮に向かい、それはもう満足そうに帰宅した姿は記憶に新しい。


そしてデビュタントからおよそ一月後の今日、


「お待たせ、ウォルター!」

花が咲いたような笑顔を婚約者に向けるエクルが、私とお兄様も通っている貴族の子女が集う名門学園に入学する。


「おはよう、エクル」


この二人は婚約から順調に絆を深めていっているらしい。

時々ウォルター様が私に向ける目は酷く憎らしげだが、一応エクルの姉ということもあり際立って酷い態度などはとってこなかった。


エクルはウォルター様の馬車で学園に向かうようだ。


もともとウォルター様は伯爵領にある学園に通っていたようだが、エクルとの婚約を機に今年から私達と同じ学園に通い始めるそうだ。

何故か兄について学園に来た弟は別の馬車で先に向かったらしい。


私はいつも通りお兄様と同じ馬車に乗り込む。


「ウォルターとエクルは仲が良いな」

珍しく自分から口を開いたグレン兄様の意図が全くもって理解できない。

わざわざそんなことどうでも良いことを言うお兄様ではなかったはずだ。

それともこれも、私の知らない妹思いのお兄様の一面なのかしら。


「そうですわね」

「ウォルターとエクルが破局することはきっと有り得ないだろうな」


「…?そうですわね」


同じ言葉を返す私に、グレン兄様はどこか満足気に頷いた。

変なお兄様。



「リボンが、歪んでいる」


「っ」


対面したグレン兄様が一気に距離をつめて、座った私の目の前に片膝をつく。

そしてリボンに手を伸ばすと、一度解いて結び直してくれているようだ。


男性にしてはしなやかで綺麗なグレン兄様の指が首元に触れる度、恥ずかしいような胸が痛いような複雑な気持ちがした。

…早く、結び終わってほしい。


「ありがとうございます、お兄様」

「…」

「……?」


結び終わったというのにいっこうに席に戻らない兄の頭が相変わらず首元にあり落ち着かなたな。


「もう少し、警戒心を持て」


「っ、や」


気がつくとお兄様は私の首筋に吸い付いていた。

痺れる様な甘い痛みが広がる…

「グレン、にい…さま」


「お前は緊張感が足りない」


首元を押さえて固まる私に、すぐさま椅子に座り直したグレン兄様が説教をするように言葉を紡ぐ。

何かを誤魔化すように少し早口グレン兄様。


「だからウォルターなんかにつけ込まれるのだ」

「ウォルター様は、エクルの婚約者ですわよ?」


「一瞬婚約しかけただろう」


それは、そうですが…すぐにエクルに乗り換えちゃいましたよ?


「その調子ではいつか侯爵家の名に泥を塗ることになるだろう。経験が無いのは仕方ないがも少し男に危機感を覚えろ。いい加減自分が他人より見栄えが良いことを自覚するべきだ。いや、その愛らしい性格ももっと偽っておくべきだろう。何のために俺がお前の根も葉もない噂を流してきたと………着いたぞ」



やけに饒舌に、普段なら決して言うはずもない言葉を並べるグレン兄様。


ぽかんと呆気に取られる私に、我に返ったように一瞬大きく瞳を見開いた。

タイミングよく到着した馬車に、きっとグレン兄様は救われた心地だったのではないだろうか。



(カティ~顔赤いよ~?)

(グレンとお揃いねっ!)

(二人とも照れてるの~)


お兄様が………実物の私を、褒めた。

もしかして、写真と間違えてしまったのだろうか。


グレン兄様は私を置いてスタスタと自分のクラスに向かってしまった。

赤い跡を隠すように束ねていた髪を下ろす。


実の兄にあんな跡をつけられて赤面してしまう私って、どうなの?

ため息をついてグレン兄様の背中を見つめて歩いた。

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