兄が度を超えたシスコンだと私だけが知っている。

ゆき

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もんもんグレン

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side グレン

■□▪▫■□▫▪■□▪


「っ、やってしまった!!!」


義父から与えられた書斎に駆け込み、勢いよく扉を閉めて鍵をかける。


「ついに俺は…」

動揺から一人称が素に戻ってしまっていることも気にせず独りごちる。



俺は、俺は…


「…カティにキスしてしまった」


するりと口から出た言葉に、改めて顔が赤く染る。

いや、あれは仕方がなかったのではないか。


あろうことか、カティは俺に“ウォルター様と結婚できたら幸せ“などという言葉をぶつけて来たのだ。

愛する女性にあんなことを言われて、冷静でいられる男がいるのならばその男の心は死んでいる。


カティの唇は、柔らかかった。

温かく、ほんのり湿っていた。



「っ…!!!」

儀式のように口付けていた写真の、サラサラとした冷たい感覚とは全く違う。


カティをベッドに押し倒してしまった時は、正直このまま襲ってしまうのではないかと自分自身が怖かった。

そんな気持ちを全力で、それはもう必死に食い止めた自分を今だけは褒めてやりたい。


キスしたくせに、何を言っているんだ俺は。



「私は、カティの兄だ」

血は繋がってないけど。


「カティの家族なのだ」

結婚することと何が違うのか。


時制する言葉とは裏腹に、本心である邪な感情が次々と浮かんでくる自分に呆れる。


紙切れではなく、生身のカティの唇に触れた瞬間は昇天してしまう程嬉しかった。


今だって、すごく、幸せだ。


幸せだけど



「………死にたい」


カティに嫌われた、絶対に。


愛するカティに幸せになって欲しいという気持ちとは裏腹に、俺以外の人間の隣で笑ってなんて欲しくないという馬鹿げた感情ばかり募るのだ。

だから、決めた。

カティを絶対に幸せになんてさせないと。


カティは絶対に俺といても幸せになれないから。

身勝手にも、カティを嫁になんて一生行かせないととうの昔に決めたのだ。


だから、カティに嫁の貰い手が来ないよう必死にカティの汚名を流したし、カティを嫌う母や妹のドン引きするような嫌がらせもあえて無視を決め込んだ。

時にはうまく事が運ぶよう支援したりもした。


カティには俺以外から徹底的に嫌われて欲しかった。

そうなるよう務めた。


だけど

あのウォルターは、どごまで真面目なのか…カティに直接近づき真偽を確かめ行動したのだ。


「…まあいい。ウォルターはあいつに任せるか」


妹は、馬鹿だか…人を謀ることだけはうまかった。

この悪い状況を逆転する手はまだある。



「カティは幸せになんてなれないよ」


胸のポケットから取り出したカティの写真に口付けながら、呟いた。


…だからせめて、全て終わった時は、カティが満足できる暮らしだけは約束するから。


俺の傍に、いてほしい。
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