兄が度を超えたシスコンだと私だけが知っている。

ゆき

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ウォルター様の婚約者

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「シュゼット家から、カティアと婚約したいという話が来ている」

父からその話を告げられたのは、例のごとく家族揃った朝食の席だった。


「長男ウォルター殿の強い希望だそうだ。この間のパーティーで気に入られたのだろう」

「…はあ」

驚きでそんな気の抜けた返事しか返すことが出来なかった。


「どうしてお姉様なの!?おかしいわっ」

「そうよ、カティアなんかにシュゼット伯爵家の嫁が務まるわけがありませんわ」


降嫁するからと言って、シュゼット伯爵家ならば悪い話ではない。

そんな美味しい状況に黙っているような義母義妹ではない。

特に美麗と噂のウォルター様とあれば、この二人から文句が出ない方がおかしい。


「ウォルター様もこんなにつまらないお姉様なんかより、私の方が良いに決まっているわ!私がまだデビュタントを済ませていないからと言って、こんなのおかしいっ!ねえ、お兄様もそう思うでしょう?」

助けを求めるように兄を見るエクル。


お兄様は考え込むような表情で返事を返さなかった。



「朝からそんなに騒ぎ立てるな!私は用があるから外に出る。私が不在の時はグレンに家の事は一任している。あとは勝手に話し合え。私は裕福な伯爵家とのパイプができるならば姉でも妹でもどちらでもかまわん!」


無責任なお父様が悪いのか、実子ではないにも関わらず侯爵家を一任されるお兄様がすごいのか。


父はすぐにバタバタと出ていき、愛人の元へ去っていった。



「お兄様っ!お兄様はお姉様より私の方がウォルター様に相応しいとお考えですわよね!?」

「そうよ、グレン。伯爵家に嫁ぐのはエクルに決まっているわ」


ウォルター様の意向を無視して話を進める二人に白けた視線を向ける。



「カティアは、侯爵家に嫁ぎたいのか?」


グレン兄様の言葉に、少し驚いた。

お兄様が私の意思を尋ねることなんて、初めての経験だった。


嫁ぎたいと聞かれると、どうだろう。


社交界での私の立ち位置は、決して良いとは言えない。

それはこの家の兄妹達のせいなのだが、今更それをどうこう言っても仕方がない。


だけどこのまま行くと私は、誰からも手を差し伸べられないまま、年老いた金持ち貴族の後妻か、爵位が高い男の妾になる未来が目に浮かぶ。



「そう、ですね。ウォルター様と結婚できたら幸せですわね」


「……そうか」


グレン兄様は、無表情の下でどんなことを思っているのだろう。

もしかすると、妹の幸せを叶えてくれる気になってくれたのだろうか。



「ウォルター殿の婚約者には、エクルを推薦しておこう」


「っ、わかりました」

「ありがとうお兄様!!」


…期待した私が馬鹿だったわ。



視界の端で、意地悪く笑うエクルが見えた。


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