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番外編◆赤ちゃん
しおりを挟むグレイスさんがご懐妊だとわかったのは、私とカイの結婚式が終わってすぐのことがった。
媚薬事件のあと、順調に仲を深めていった二人は今ではどこからどう見ても相思相愛といった様子だ。
…私とカイには負けるけど。
そんなこんなでいつ妊娠してもおかしくない状態だった彼女からそんな報告を受けても大した驚きはなかった。
心の底からおめでたいとは思ったけど。
そして今日、
先日無事に出産を終えたグレイスさんと、その赤ちゃんに初めてご対面する。
「…アーシェ、落ち着いて」
「カイ、もしかして私そわそわしてる?」
「とっても」
どうやら、親友の出産を自分は思いの外喜んでいるらしい。
早く会いたいなあ、赤ちゃん。
殿下とグレイスさんの子どもならそれはもう可愛らしい玉のような赤ちゃんなんだろうな。
…私とカイの子には劣るけど。
………まだ子どもなんてできなてないけど。
「すーはーすーはー」
「深呼吸ばっかりしてないで、早く入ろうアーシェ?姉さんも待ってるよ」
「そ、そうだね」
どきどきだ。
部屋に案内してくれた使用人の方が部屋をノックして、グレイスさんの返事があってもう数分程部屋の前で立ち往生していた。
「開けるからねもう」
「ま、待ってカイ…」
私の制止を無視して、彼は扉を開けてしまった。
「ちょっと、ノックしてから何分経ったと思っているんですの!?待ちくたびれましたわ」
「大声を出したら赤ん坊がびっくりしますよ、姉さん。出産おめでとう」
「グレイスさん!!!!おめでとう!!!ふわぁぁああちっちゃい!!!赤ちゃんちっちゃいよカイ!!!」
文句を言いながらも少し丸みを帯びた表情に、これが母親なんだなと感慨深い気持ちになった……のもつかの間、
視線はグレイスさんの胸に抱かれる小さな物体に一直線。
「か、かわ、かわわわ…」
「アーシェ、落ち着いて?」
「すっごく可愛い!!!!!!」
小さな顔にまん丸な瞳がキラキラと輝いていて、ほっぺなんてふにふにで薔薇色だった。
琥珀色の瞳は殿下、綺麗な銀髪はグレイスさんゆずりだろう。
「ふふっ、ありがとうアーシェさん」
「可愛いしか言えないもう…」
「確かに、可愛いね」
私たちがそう言うとグレイスさんは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「だろう?リリアというんだ。私とグレイスの良いところを総取りしたような美しい子が生まれてしまった。傾国の美女というのはきっとリリアのような子を言うんだろうな」
急に背後からそんな声が聞こえ、振り返ると頬をデレデレと緩ませた殿下が立っている。
「…殿下のおかげで少し冷静さを取り戻せました。ありがとうございます」
親バカの極みか。
すけこましな殿下がここまで言う女の子が存在するとは数年前は想像も出来なかったよ。
「女の子はお嫁に行っちゃうから寂しくなりますね」
「………誰が行かせるか」
カイが面白そうに口角を上げている。
…あなた、実は殿下のこと揶揄うの大好きだよね。
「僕らの子が男の子だったらぜひお嫁さんに来てくださいね、お姫様」
「お前たちの家にだけは嫁がせないに決まってるだろ!娘にみすみす苦労をさせる親がいてたまるか!」
なんか、棘がありません…?
どうして殿下からこんなに可愛い子が生まれたのだろうか。
思わず首を傾げてしまう。
ああ、グレイスさんの血ね。
………つまり、カイの血ですね、はい。
「カイ、私たちの子どもは絶対可愛い子が産まれてくるって今確信した!」
「まあ、アーシェの子なら絶対可愛いだろうし、僕はずっとわかってたよ?」
彼は私のお腹をさすりながら微笑む。
はい、きゅーん。
カイの反応からわかる通り、リリアちゃんと半年違いで、私達も妊娠しているのだ。
よかったね、こんな素敵なお父さんなかなかいないよ??
まだ見ぬお腹の子どもに脳内で話しかけた。
「ううう楽しみ楽しみ楽しみ!」
「うん、僕も楽しみだよ。落ち着いて、アーシェ?」
これが妊娠ハイってやつなのかもしれない。
「この子が男の子でも女の子でも、仲良くしてくださいね、リリア姫?」
小さな手をつんつんとつついてそんなことを言うとまるで肯定しているように可愛らしい笑顔を浮かべてくれた。
「そうなったら幸せですわね。私も早くお二人の赤ちゃんを見てみたいわ」
「待っててね、グレイスさん」
「ええ、頑張ってね。アーシェさん」
大切な人に囲まれて、今でもすごく幸せなのに、私は早くこの子の顔が見たくて毎日そわそわしてしまっている。
欲張りね、私。
約半年後に現れるだろう小さな女神を想像し、自然と笑みが零れた。
「……何その笑顔。アーシェが可愛すぎてつらい」
「私の娘を見に来たんじゃなかったのかお前ら」
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