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第一章:剣姫の婿取り
害虫駆除と姉妹姫
しおりを挟む害虫駆除と言っても、本当に害虫を駆除する訳じゃない。
俺が考案した、というか前世のものを再現したカードゲームだ。
「カードの種類はゴキブリ、クモ、ハエ、イナゴ、ケムシ、ムカデ、シロアリ、カメムシの八種類。それぞれのカードは8枚ずつある」
一年連続決闘勝負の二番目を終えた翌日、早速俺の部屋に集まってルールの説明をしていた。
部屋にいるのは俺とイリス。それにアリーシャとリーリア。アウローラは呼んでないんだけど、レフェルを伴ってやって来た」
「全員が同じ手札になるようにカードを配る。シャッフルしてから配るから、当然手札は偏る可能性もあるぞ」
今回は説明なので、手札は公開している。
とりあえず、6人それぞれに10枚ずつ配った。
俺の手札にはハエが4枚あるが、クモが無かったので、偏りについて説明する。
「必ず各種類1枚はくるわけじゃないのね」
「確率的には入るだろうけど、無い場合もあるさ」
続けるぞ、と言って説明を再開する。
「親は本来年長者だけど、今回は説明なので俺が務める。親は若干不利だから、他の人間より1枚多い状態ではじめてもいいけど、どうする?」
「……いいわ、あなたに任せる」
当然、決闘のルールとして採用するかどうかを俺は聞いたわけだけど、イリスはその意味を誤解しなかったみたいだ。
「じゃあ、時間短縮のために親も手札の数を揃えてスタートだ。親はまず自分の手札から1枚選ぶ。そして適当なプレイヤーの前に差し出す」
言いながら、俺はアリーシャの前にカードを置く。
「本来ならこのカードは伏せられているからな。そして宣言する『このカードはクモです』」
「ケムシじゃない」
俺がアリーシャの前に出したカードは、イリスの指摘通りにケムシだった。
「だが本来は裏返っているから何のカードかはわからない。差し出された側は、そのカードを見るか、勝負するか選べる。アリーシャ、まずは見ようか」
「はい。差し出された側が相手の言っている事が正しいと思うか、真偽が不明だった場合、このカードを見る事ができます。この時、他のプレイヤーには見せません。そして見たプレイヤーが今度は親となり、このカードを適当なプレイヤーに差し出します」
そしてアリーシャはアウローラの前に置く。
「この時、一度同じカードが差し出された相手には差し出す事は出来ないから注意な」
「『これはハエです』」
「なるほど。本来ならカードは伏せられているから私には真偽はわからない。お義兄様が嘘を吐いていたかもしれないし、アリーシャさんが嘘を吐いているかもしれない。あるいは、両方が嘘を吐いているかもしれない、それをここで判断するんですのね」
「そういう事だ。ちなみに、別に俺がクモと言って渡したカードを、クモと言って別の人間に渡してもいいからな。じゃあアウローラ、勝負しよう。この場合、このカードはハエであるかどうかを宣言する。ハエだと宣言してもいいし、ハエじゃないと宣言してもいい」
「何か、までは当てなくてもいいという事ですわね?」
「そうだ。じゃあハエと宣言してみてくれ」
「はい。このカードはハエです」
「ここで初めてカードの情報はプレイヤー全員に公開される。まぁ、当然ハエじゃない訳だから、アウローラはアリーシャの嘘を見破れなかった事になってこの勝負はアウローラの負けだ。負けた側は勝負の対象になったカードを手札とは別に自分の前に置く。これも公開情報だ。そして勝負に負けたプレイヤーが新たな親となり、自分の手札から1枚選んで、さっきと同じように、適当なプレイヤーの前に差し出す。アウローラ俺の前にくれ」
「はい。『これはゴキブリです』」
そう言ってアウローラはカメムシのカードを俺に寄越した。
……こういうところでしっかり嘘を吐いてくるあたり、策士というかギャンブラーというか……。
「じゃあ俺は勝負する。これはゴキブリじゃない。ゴキブリじゃないので、このカードは負けた側、つまり出したプレイヤーの前に置かれる」
アウローラに集中する形になっちゃったけど、他意はない。
ホントダヨ。
「で、勝負に負けたから、再びアウローラが親だ。これを繰り返していって、最終的に、自分の前に置かれたカードの中で、同じ種類のカードが4枚になる。8種類のカードが全て揃う。手札が無くなった状態で勝負に負ける。のいずれかを満たすと敗北だ。基本的には一人負けだな」
「ねぇ? これって一対一でやるの厳しくない?」
一通りの説明を受けて、イリスがそんな感想を漏らした。
そこに気付くとは、やっぱりイリスはバカとは違うな。
「できなくはないけど、一応俺は四人での勝負を考えてるけど……」
言いながら、アリーシャとリーリアを見る。
「二人がいいって言うなら、二人にするぜ?」
ババ抜きをやった限りだと、間違いなく瞬殺だと思うけどな。
イリスは顔に出過ぎだ。
「…………いいえ、ここは四人にしましょう。お互いが一人ずつ指名する形で」
「……いいぜ」
今の長考は二人にするか四人にするかで迷ってただけじゃないな。
その証拠に、俺が了承したら口元歪めて笑いやがった。
計画通りって感じでさ。
「じゃあ俺はアリーシャを指名するな」
四人勝負とは言っても、当然ながらお互いが残りの二人を指名するなら、それはチーム戦だ。
となれば、最も信用できる相手を指名するのが当然だった。
「じゃあ私はアウローラを指名するわ」
そしてリーリアじゃなくて、しれっと『賢姫』を指名する『剣姫』。
「だろうな」
相方がリーリアなら、わざわざお互いが指名する、なんて条件つけなくても良かったもんな。
これまで何度かゲームをしてきた感じだと、リーリアも手強そうだけど、やっぱイリス的にはアウローラの方が評価が高いのか。
「よろしくお願いしますわ、お姉様。そして、お手柔らかにお願いしますね」
花が咲くような笑顔でアウローラが笑う。
「お義兄様」
本来ならとても可憐で魅力的な笑顔の筈なんだけど、なんだろう。
獲物を見つけた狐のようにも見えた……。
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