2 / 27
プロローグ
ある子供の誕生から幼少期まで
しおりを挟むドーモ、ミナ=サン。田中翔太です。
どうやらやっぱり俺、死んでたらしい。
なんでわかったかって言うと、俺赤ん坊になってた。
いわゆる生まれ変わりってやつだな。
とは言え赤ん坊の頃から流暢に言葉を喋ったり、色々考察しつつ活動していた訳じゃない。
色んな意味で体ができていないせいか、目もあんまりよく見えないし、耳もよく聞こえない。
喋ろうと思っても上手く声が出ず、大きな声を出そうと思うとどうしても叫び声のようになってしまう。
オムツでも御飯でもないのに泣き叫ぶ俺を、可哀想な人を見る目で見た乳母の表情が忘れられない。
そう、乳母。
俺ってばなんと貴族の三男だった。
神はいた!!
俺はニートになる資格を得て生まれて来たのだ!
長男は家を継ぐために色々面倒が多いし、次男はその予備だ。
しかし俺は三男!!!
適度に自由で適度に家の恩恵を受けられる立場。
素晴らしい!!!!
ただ、あまりボンクラ過ぎると放逐されちゃう可能性があるし、平凡なだけではよその家に婿に出されちゃう可能性がある。
俺を実家に囲い込みたいと思わせるだけの優秀さを見せないといけない。
そういう点でも三男という立場は丁度良い。
何せ俺は長男ほど厳格に育てられないし、次男のように厳しく監視されない。
与えられた課題さえこなしていれば、好き勝手に過ごせる立場にあるんだ。
という訳で幼少期の俺は、言いつけを守る良い子であり、大人の言う事はしっかりと聞く賢い子を演じる事にした。
また自由時間は基本的に書庫で読書三昧。
本当は屋敷の外に出て、世界の事を色々と知りたいのだけれど、流石に幼児では一人での外出を許されなかった。
まぁ、これは仕方ない。
俺の中身の事なんて誰も知る訳がないし、それを伝える訳にはいかない。
信じて貰えないだけならいいけれど、気が触れたとか思われたら最悪だ。
しかも本を読むと、そういう人間は『悪魔憑き』と言って隔離されてしまうそうだ。
そんな感じの物語が幾つもあった。
うん、まずいね。
これはまずい。
という訳で何かの知識を披露するためにも、俺は読書に勤しむ事にした。
どこで知ったかと聞かれたら、本で読んだと答えるためだ。
二十一世紀の日本の感覚で言えば、大人は全員読み書き計算ができて当たり前だった。
しかし、どうも違うらしい。
うちの屋敷で働いている人達も、必要最低限の教養は身に着けているみたいだけど、その程度は決して高くない。
日本風に言えば、ひらがなとカタカナは読めるけど、漢字は無理、みたいな感じだ。
まぁ、日本でも、江戸時代や明治時代、簡単に言えば義務教育が施行されるまではそんな感じだったらしいから、文明レベルが低いとそんなもんなんだろう。
習っていないならわからなくて当たり前だし、親が習っていないなら子供に教えられるわけがない。
そして平民にとって、子供とは貴重な労働力だ。
わざわざ金を払ってまで学校に行かせる余裕がないってことだな。
二十一世紀の地球でも、発展途上国に義務教育を根付かせる場合、教育の大切さを説くより、給食を完備した方が効率が良いってんだから、まぁ推して知るべし。
結局何が言いたいかと言うと、本を読んでるだけで褒められるんだよ。
一人で絵本を読んでかしこいねー、かしこいねーって感じじゃない。
なん……だと……?
って感じで驚愕と共に俺を褒め讃えてくれるんだ。
その上でサラリーマン時代に培った社交術を使い、使用人達にも気さくに接するようにした。
ニートになるからってひきこもり過ぎて、コミュ障になっても困るからな。
こういうのは幼少からの訓練が大事だ。
ただ、これは逆効果だった。
まぁ、貴族には貴族らしい振る舞いがあるって事だな。
使用人にも気さくに接する俺は、頭は良いが、貴族の常識を知らない変人、だと思われるようになっていた。
それでも日々の課題はちゃんとこなすし、礼儀作法もしっかり覚えていたから、大人になれば自然と貴族らしくなるだろう、という事で排斥されずに済んだ。
そういう意味では、頭の良さが独り歩きして異常に高まってしまっていた評判が下がって、丁度良かったのかもしれない。
俺が書庫に籠って本を読んでるって噂が屋敷内に流れてた時、上のにいちゃんや下のにいちゃんからの視線、かなり怖かったもんな。
後継者争いなんてする気ないよ。
俺はニートになりたいんだ。
くわばらくわばら。
0
お気に入りに追加
962
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる