戦国の鍛冶師

和蔵(わくら)

文字の大きさ
上 下
92 / 122

第90話 副団長と逃走

しおりを挟む

旦那様、大変な事になりましたぞ!

そう言いながら部屋に入って来たのは、筆頭執事・エドヴァルドである。
部屋に一緒に遣ってきていたメイド長のヘレナも、エドヴァルドと一緒に
部屋に入って来たのだ。


「何を慌てておる!?まさか企てが、失敗したのではあるまいな?」

部屋に居たのは、シーランド辺境伯であった。辺境伯はエドが慌てて居る
事を危惧して、直ぐに何事が起きたのかと確認を取ったのである。

準男爵と準士爵は、この度の計画の通りに亡くなっておりますが、ですが!
計画に無い事が起きました。それは、助かるはずの御者までもが、あの貴族
達に寄って亡き者にされたと言う事です!

「なんじゃと!?計画では御者は助かり、その御者から全てが公になる手は
ずであっただろう?では、誰がこの事を報告してきたのであるか?」

はっ!それは、あの貴族達が乗っていた御者により、報告がなされました。
それも、事細かく報告されたので、周りでは大騒ぎになっておりまする。

「では、儂にも詳細な報告を頼むぞ!」

はっ!畏まりました。計画は馬車同士の離合するまでは、全てが順調だったと
判断します。ですが。計画が狂ったのは、離合をしてる最中の馬車に、業を煮
やした貴族共が、御者を引き摺り下ろしてしまった事です。その為に、全てが
台無しになったのです。

「あの貴族の乗る馬車の御者を引き摺り下ろして、その後は、どうなって
しまったのじゃ?」

あの貴族の甥が、御者台に乗ると、馬車を無理やり発進させてしまったとか、
離合中の馬車に体当たりをする形になり、準男爵と準士爵が乗る馬車は、御者
諸共に谷底に落ちてしまったと言う訳です。

「なんじゃと!?それでは、一方的に向こうが悪いと言う事か!?それも、
此方には何一つの落ち度もないと!?」

その通りで御座います!問題は無くなった御者が、黒の団の副団長の弟だと
言う事なのです!副団長の末の弟だったようで、副団長は末の弟を可愛がっ
ており、黒の団に入団させる際も、過保護すぎる程でした。それが、此度の
事で弟を亡くした事で。副団長の箍が外れる可能性があります。いや..........
既に副団長の箍は外れておりまするぞ!

「副団長が、どうしたのじゃ?」

実は、事実を知った副団長が、剣を片手に貴族の宿泊施設に侵入しようと、
黒の団の本部を出ようとしていた所を取り押さえました。このままでは、
副団長が私怨で、あの貴族を誅殺してしまいまする!ですから、どうか
副団長の為に、復習の機会をお与えくだされ!

「うむ、副団長は、今まで辺境伯家に使えてくれた忠臣である!その身内
を討たれたとあれば、儂が何とかせねば成らぬであろうな!」

はっ!あの貴族を呼び出して、詰問した後に、粛清すると言うのは駄目で
しょうか?その場に副団長が居れば、傭兵が50人居ようが200人居ようが
あの者であれば、意に介さないでしょう!何せ副団長は、大陸では鬼剣士
と呼ばれておるそうで、武者修行時代に付いた二つ名だそうです。何でも
副団長が参戦した戦いで、1人で中隊規模の敵を亡き者にしたと言う話は
大陸では有名ですからな!

「そうであったな!爺の推薦もあって、我が家に仕官させたのだったな!」

副団長に仇を取らせてあげて下され!

「合い解った!あの貴族を直ぐに屋敷に呼び出すのじゃ!手向かいすれば、
ひっ捕らえよ!捕縛には白の団の者達に任せる!決して逃がしては成らぬ!」

《はっ!》

「白の団は既に、あの貴族の宿泊施設を取り囲んでおります。後は旦那様の
ご命令が下るのを待っている状態でした。それと、宿泊施設の前にですね、
全身甲冑を着込んだ黒の団の副団長が、黒の団の団員と共に馬車の中で待機
しております」

「副団長は、止めたと言ったではないか!」

はっ、施設に入るのは止めさせましたが、施設の周りで、貴族が逃げない様
に見張らせるのは許可しておりまする!

「なるほどな!それと、シーランド私設海軍にも出動をかけておけ!では、
各自に行動を開始せよ!」

男爵が宿泊している施設にて!

「叔父上!直ぐに此の宿を引き払い、東の海岸まで行きましょうぞ!そこで
援軍を待ち、機を見計らって島を脱出するのです」

「そうです男爵様、この島さえ脱出して大陸に戻れば、宮廷に申し開きなど
如何様にでも出来ます。ですから、早めにご決断くだされ!」

「マルクスはどうしたのだ!?あの者は、こう言う時の為に雇って居るのだぞ
あの者を早く儂の元に連れてくるのじゃ!」

「叔父上、あの者は、数日前の事件以来、姿を見かけた者はおりませぬ!」

「なんじゃと?あの役立たずめが!」

「失礼いたします。宿の主人に御座います!実は表にですね領主様の使いの
者が参っております。付きましては、貴族様に面会を申し出ております」

「領主の使いの者だと?そんな者は捨て置け!儂は忙しいのじゃ!部屋に
入ってくるではないわ!」

「ひぃ~すいませぬ!」

宿の主人は、貴族の怒号を耳にしてしまい、脅えながら部屋を後にしたの
であった。そして、部屋に残るのは、貴族と側近の甥達と傭兵の隊長だけ
であった。

「傭兵隊長よ、直ぐに宿を引き払って、東の海岸に向かう事にするぞ!
そちは、援軍にその旨を伝えよ!そして、儂達を無事に東の海岸まで
連れて行くのじゃ!」

「簡単に言ってくれるよな!こんな事になったのは、あんた達のせいな
のによ!俺達は割に合わない仕事をさせられて居るんだぜ!安い給金で
これ以上は働けないぜ!」

「くっ.....解ったわい!大陸に辿り着いたら、好きなだけの金額を言え
好きなだけの金をお前達に渡してやる!」

「へっへへへ!そうでないとな!俺達は慈善事業をしてる訳ではないの
だからな!」

《金の亡者め!》


しおりを挟む

処理中です...