戦国の鍛冶師

第87話 忘却と暴虐の報い

インガ様、過去の事は忘れて頂き、今は若い２人の為に堪えて貰え
ないでしょうか？都合の良い事を申していると言う事は、重々承知
しておりますが、何卒２人の為に此処は堪えて下さい。

「ダニエルとエーヴァは、私に取っては、どちらも可愛い孫さね！
その可愛い孫達が好いて居るのならば、私は過去を忘れ去り、今だ
けを生きるとするさね！」

「母さん！父さんは殺されたのですよ！そのケジメは付けて貰わな
いと行けない！ダニエルとエーヴァの結婚には反対はしないが、儂
は、父さんを殺した者達には、きっちりとケジメを付けてもらう事
が、結婚をさせる条件にさせてもらう！」

オレークの言う事は、至って普通の事であったのだ。それはヘレナ
も考えていた事だったので、直ぐにでもオレークには返事をする事
にした。その返事とは、インガ様の旦那様を暗殺した黒幕を突き止
めて、そして黒幕とそれに関わった者達だけの始末を付けるとだけ
オレークに伝えたのだった。

「うむ！黒幕一味だけの始末で十分です。その家族には手を出さな
いで頂きたい。もしも家族諸共に始末してしまえば、その縁者達が
私達の命を狙って来るであろう！そうならない為には、黒幕一味だ
けで手を打つ事が慣用と心得てます！」

オレークは、憤りを態度で表しているが、頭の中は至って冷静なの
であろう。後先の事も考えて発言をしているからである！そうでな
ければ、止めるのに一苦労する事になる！

「オレークが言う様に、今回のケジメは黒幕だけにして貰うよ！
今後の事を考えれば、当然と言えば当然の事さね！誰しも命を
狙われながら生きて行くのは、私はごめんだね！」

ヘレナは、２人に何度も何度も繰り返し、黒幕一味だけの始末をす
るとだけ言うと、２人は納得していた。そして、若い２人の結婚の
話を後日、両人を交えてから正式な場所でするとも決まっていた！
会場となる場所は、当然ながら領主の屋敷になるのであるが、問題
は、結婚を何時するかと言う事だったのだ。インガとオレークは、
町を出発前に結婚をしたいと言っているし、ヘレナの判断だけでは、
この事は決められないので、今後の話し合いの場で日時を決める事
にすると言う事だけを伝えたのだ。だが、この事は、旦那様に直ぐ
に報告してから、後日の会見の場で、日時を何時にするかを直ぐに
決められる様にだけは、して置くつもりだった。

その事を告げたヘレナは、インガとオレークと別れると直ぐに屋敷
えと戻ったのだった。

そして、ヘレナが遣って来た部屋は、黒の団のトップが居る部屋だっ
たのだ。

バンッ！

「どうしたのだ!?大きな音を立てて部屋に入ってきたりして！」

筆頭執事・エドヴァルドが、部屋の執務机で仕事をしている最中で
あったようだ。眼鏡を掛けており、手にはペンが握られていたから
である！

部屋に入るなり、エドの前まで凄い勢いで行くと、エドの襟首を絞め
あげながらヘレナは、今までの話をエドに伝えていたのだ。だが、首
を絞められているエドは、見る見る顔から血の気が引いて行っていた
のだった。

ゴッホゴッホ!!!

「その黒幕を儂が突き止めれば良いんじゃな？この事は旦那様には話
しているのか？......えっ!?今から一緒に旦那様の下に行って、始末を
する許可を貰うだと！ならば、直ぐに旦那様の下に行くとしよう」

２人は、事態を重く受け止めており、神妙な顔付きのまま旦那様が
居られる執務室のドアをノックしたのだった。

コンコン！

「爺か！入ってまいれ」

「旦那様......実は分家の者達が、旦那様の断りもなく、インガ様の
旦那様を暗殺していた事実が判明いたしました。詳しい話は妻の
ヘレナからお聞きくださいませ」

ヘレナは、インガから訊いた話を一言一句間違う事無く、旦那様に
伝えたのである。それを訊いた辺境伯は、顔面蒼白になっており、
今にも机の上で、上半身だけが机に倒れこみそうな程、勢いになっ
て居たのだった。

「叔父上達しか、この様な事を考える人物は居ない！爺よ！直ぐに
でも調査して、事実確認を急ぐのじゃ！もしも、叔父上達が裏で糸
を引いていたのならば、構う事は無い始末は任せる！」

「畏まりました！3日もあれば、全てが判明すると思いますので、
それまでお待ちください！もしも、黒幕が準男爵様達ならば、どう
しましょう！あの貴族と争わせる形で、命を落す事にでもなれば、
準男爵家の者達は、辺境伯家に協力して、あの貴族を討ち取る事に
なるでしょうな！」

「十中八九！叔父上達で間違えないわ！爺の申すとおり、あの貴族
を使えたら、全ての恨みは、あの貴族が受ける事になるの！そうと
決まれば、策を練らねばならぬな！」

ヘレナは、旦那様に対して、まだ決まった訳ではないと申したのだ
が、旦那様は策を練る事に集中しており、ヘレナの話を全然きいて
は居なかったのだ。

「旦那様、準男爵様と貴族を一緒の場所に連れ出してはどうでしょ
うか？もしも、北西の山にあるブドウ園に、あの者達を連れ出す事
が出来れば、あの山道は馬車が離合する事が難しい場所であり、更
には、路肩を壊して置けば事故に見せかける事も可能です！」

「それだぁ！」