戦国の鍛冶師

和蔵(わくら)

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第72話 お見合いと仲人

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空は晴れ晴れしており、恰好の仕事日和な日である午後の昼下がりの事である。
鍛冶屋・黒猫屋の扉が勢いよく開け放たれて、扉を開けて帰ろうとしていた客を
扉を開け放った人物が、扉を開けた勢いで客を吹っ飛ばしていただった。

俺は騒動に気が付くと、急いで裏口の扉を開け放って逃げる所だったのだが、
逃げるのは一足遅く、3人娘に捕まってしまったのである!

「後生だ芳乃!俺は此処から急いで離れなければならないのだ!」

俺の身体は逃げようとしているのだが、一向に身体が前に行かなかった。それも
そのはず、3人娘達に寄って身体を掴まれていたからだ。

「お前達は、何故に俺の邪魔をするのだ!?俺は行かねばならんのだ....ならんのだ」

「好成様、いい加減に覚悟を決めてください!私達の旦那様になる方が、この様に
見っとも無い姿を晒さないでください!仲人をやるのは初めてでしょうけど、遣れば
出来ますから!ご自分で言い出した事は最後まできちんとしましょう!」

「頭には、あの様に言うしかなかったのは芳乃も知っているだろ!俺が駄目と解ると
直ぐに違う相手を紹介しろと言われて、掴まれて逃げられもしなかったのだから
仕方ないだろ!」

「それでもです!男が1度口にした約束は破っては行けません!」

「裏切りは戦国乱世の習いよ!さらばじゃ!」

俺は、そう言うと煙球を地面に投げ付けて、姿を暗まそうとしたのだが、くノ一の
3人娘には、忍術を少し齧っただけの素人の遣る事などは、お見通しだったのだろう!
直ぐに捕まってしまった!

結局、俺は縄で縛られた状態で、黒猫屋の休憩所に連れて来られていた。そんな中
ダーンに頼んで連れて来たのだろう!ヤーコブがダーンと一緒に部屋に入って来た
のだった。

役者は揃ったのだが、また面妖な光景が広がっている部屋で、お見合いをすると
言うのは珍しいかった。仲人は逃げない様に縄で縛られており、お見合い相手は
どっちらも、作業着姿だったのだ!

「本日はお日柄も良く、絶好の......絶好の......芳乃、何って言えば良いんだ?」

「初顔合わせでも、絶好の日和でも、好きに言って下さい」

「此方の男性が、私が困ってる時に助けてくれたり、従兄弟を手伝って魔獣に
奪われた村と集落を取り返す為に、日夜、努力を惜しまず働いている青年で、
ヤーコブと言います!彼の父親は村長を務めており、時期が来れば彼が次の
村長になるかと思います!」

その言葉を訊いた頭は、満足そうな顔をしながら頷いていた。だが、妹さんの
顔はと言うと、俯いたままでヤーコブの顔を見ようともしなかったのだ。

「此方の女性が、今回の奪還作戦で輸送を担当してくれる船団、その船団の頭
の妹さんです。この女性の方は数ヶ月前に不幸にも、許婚を亡くされており今
も悲しみにくれており、そんな彼女の心を救ってくれるであろう男性との出会
いが、今日の此の場で行われております!」

俺は、ヤーコブに包み隠さずに真実を伝えたのだ。もしも、ヤーコブが後で
この事を知ったのならば、何で前もって知らせなかったのかと攻められるか
も知れないからだ!結婚して真実を知ってからでは襲いのだ!

「そうなのですか!許婚の方を亡くされてしまったのですね!その悲しみ
僕は解りますよ。何故ならば、僕も数ヶ月前に許婚を亡くしているのです
好成さんは誤解をされてますので、あえて此の場で言わせてもらいます。
僕がアントンい協力しているのは、叔父や叔母の亡骸を迎えに行くだけで
はないのです。僕の許婚の為でもあるのですよ!だから、僕は眠らなくて
も働けるのです。奴らを倒すまでは、僕は寝てなど居られないのだから!」

俺と芳乃は、顔を見合わせてから、《えっ~~~!?》っと、悲鳴じみた声を
上げてしまったのだった。ヤーコブさんや!そんな大事な話は、もっと早くに
教えて欲しかったのだがね!

ヤーコブの話を静かに訊いていた妹さんが、顔を上げてヤーコブを見ていた。

「貴方も私と一緒で、大事な人を亡くされたのですね。それなのに、お見合い
何ってしてる私達って、何なんでしょうね?」

「死んでしまった者は、もう二度と帰って着ませんが、僕達は生きているので
生きる為には、足掻かないと行けないのです!楽して人生を送れるとか夢を抱
いている人何って居ませんよ!みんな、辛くて苦しいけど、それでも生きる為
に努力して行き続けているのです。その寿命が尽きるまでね!だから、僕は敵
を討つ為の努力を続けています!それが小さくても一矢報いる為にね」

ヤーコブって、こんな感じの青年だったのかと、好成は初めて知ったのだった。
彼は彼なりに悩み、苦しみ、そして、努力を続けているのだ。今はシーランド銃
の扱いが下手でも、必ず彼はシーランド銃の扱いに長けた人物になるだろう!
それだけの努力を続けていた。

「貴方の許婚の女性の方が、羨ましいです!私の許婚など、遺骸すら無いのです
遺骸を回収できるだけでも、貴方は幸せですね.....私は....私は.....」

頭が妹さんが泣き崩れるのを受け止めており、妹さんには現実を受け止められる
だけの状態では無かったのだろうと、好成は思ってしまった。こんな状態の娘を
お見合いさせるなど、相手にも失礼だし、本人も辛いであろう!

「頭、今回のお見合いは悪いが、無かった事にして貰えないだろうか?本人達も
辛い中で、頑張っている。だが、時期が早すぎただけなんだ。だから、時期が来
たら、また話を持ってきてくれないか?」

「待って下さい!」

部屋の中で、一際大きな声を上げた者は、いったい誰だったのか!?



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