割り切れない世界にいる僕ら

浅香ショウ

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「キャーッ!」
数人の女子生徒の甲高い叫び声が聞こえ、ケイタは咄嗟に振り返った。

シンジが教室の床に横たわっている。
虚ろな目をして、身体は完全に脱力している。

セブン!」
ケイタはそう叫んで、瞬間的に走り出した。
教室の入り口からシンジの席まで、
いくつも並んだ机や椅子にガタガタとぶつかりながら、
最短距離でシンジの元まで駆け寄る。

後ずさりするだけで、シンジに一切触れようとしない周囲の生徒を押しのけ、
ケイタはシンジを抱え起こした。

真っ青な顔をして、薄く目を開いているが、
その目はどこまでも黒く、一切の光を通していない。

「7!どうした!」
そう言いながら、シンジを抱えたまま立ち上がったケイタは一瞬怯んだ。
軽すぎる。
野球の練習でチームメイトを背負って走ることがあるが、
シンジは彼らとは比べものにならないほど軽く、
勢いよく抱き上げたケイタは後ろ向きに倒れそうになった。

抱き上げた反動のまま振り向き、教室の後ろのドアに向かって走る。
いつも昼食を共にしている今田ヨシオたちが塊になって出入り口に溜まっていた。

「なんだ、なんだー?」
ヨシオがはやし立てるような声を出してピョンピョンと跳ねている。

「そこ、どけよ!」
野次馬を身体で跳ね飛ばし、ケイタは教室の外へ飛び出した。
そのまま、保健室のある1階に向けて走っていく。
その耳に後ろの方からヨシオたちの声が届いた。

「ケイタ!何すんだよ!」

ケイタは小さく舌打ちをして、階段を駆け下り、
保健室の前まで来た。

身体でドアをスライドさせ、空いた隙間から強引に入る。
中にいた保健室の先生が勢いよく立ち上がった。

「どうしたの!?」

それには答えず、ケイタはベッドまで大股で向かい、そこにシンジを下ろした。
息が上がって、言葉が出ない。

「とにかく、君も座りなさい。」
先生にそう促され、ベッド脇の丸椅子にドスンと腰を下ろす。

「こいつ、、、急に、、、倒れて。」
肩で息をしながら、ケイタはやっとのことで答えた。

それを聞きながら、先生は手際良くシンジの眼球を調べ、脈と熱を測っていく。

「多分、寝不足と貧血のダブルパンチね。」
血圧計のベルトをシンジの腕に巻き、シュポシュポと圧力を上げていく。
ケイタはその様子を黙って見つめていた。

「上が90。やっぱり低血圧ね。」
ケイタに聞かせるように、先生がシンジの血圧を読み上げる。

「でも、重症じゃなさそう。安心しなさい。」

そう言われてケイタは大きく息を吐いてうな垂れた。

「あー、死ぬかと思った。」

「それは、君が?それともこの子が?」
先生は笑い混じりに言いながら、ケイタの肩に手を置いた。

「連れてきてくれてありがとう。
次はもう少し優しく、あんまり揺らさないこと。」

ケイタが力なく笑うと同時に、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。

「ほら、君は授業に行きなさい。放課後またいらっしゃい。」

ケイタは一瞬迷ったが、すっと立ち上がり、
もう一度シンジの顔をまじまじと見た。
まだ青白いけれど、唇の血の気は少し戻った気がする。

「よろしくお願いします!」
ケイタは先生に大きく一礼して、保健室を後にした。

「はいはい。お任せ下さい。」
先生はまたクスクスと笑いながら言った。

それからケイタは午後の授業を受けたが、
気持ちは保健室のベッド脇に終始居座り続けた。

しばらく部活に出ていない身体でダッシュしたからか、
脚や腕にだるさを感じながら、放課後を今か今かと待ち続けた。
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