guardian of gate

宇奈月希月

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5話 過去・2

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「これが、十年前の真実だ。……まあ、結局、魔王は約束を違えたわけだが」
 力なさげに笑みを零す神だったが、すぐに俯いた。
「オレの独断とは言え、本当に申し訳ないことをした。許してもらえることじゃないのはわかってる。本当に……すまない」
 頭を垂れる神に、ライカがそっと寄り添った。
 エルエとナルハは声が出せず、固まってしまっている。
 二人の姿を見て、心を痛める神だったが、すぐに真剣な表情を浮かべた。
「ただ……今回の件は、全て魔王が仕組んだことだ。お前たちが、人間界で出会ったのも、そのために十年前の件が起きたのも。全て、この古の伝承を起こさせるため」
「え?ど、どういうこと!?」
 思わず、ナルハが声を荒げた。今まで信じてきたものが、どんどんと崩れていく感覚に、溺れないようにするために。
「魔王は、二人を出会わせ、伝承通りに災いが起きた混乱に紛れて、天界だけでなく人間界までも手に入れるつもりだ。そのために、双子を引き離した方が、再び引き合う確率が高いのだと踏んだのだろう」
「で、でも!魔王様は、伝承を信じていないでしょ!?」
 思わず神に掴みかかろうとするナルハに、ライカが間に入ると、口を開いた。
「口では何とでも言えますからね。あの女は、そういう奴ですよ。……本当に、昔から何も変わらない」
 忌まわしげに言うライカだったが、そのままナルハの腕を掴んだ。
「ナルハ。あなたも本来は天界の者です。もう、魔界に帰らなくてもいいのです」
「そ、そんなっ!私は信じない!放して!」
 ライカとナルハが押し問答をしているのを横目に、神はエルエへと向き直った。
「エルエ……すまないが、最後のお願いをしてもいいか?」
「は、はい」
 ハッと現実に戻ったエルエが慌てて返事をするのを聞いて、神は真剣な顔で続けた。
「魔王と決着をつけてきてほしい。ここで全てを終わりにする。お前の力なら、魔王と同格に戦えるはずだ。頼む」
 その言葉に、エルエは一瞬瞳を揺らしたが、すぐに膝をつき、「わかりました」と返事をする。その様子を見、ナルハを黙らせたライカが声をかけた。
「エルエ。私も、ナルハを落ち着かせたら向かうので、無理をしてはいけませんよ」
 それを聞いて、エルエは力強く頷くと、再び戦いに赴いた。

 エルエが去った部屋では、ナルハが倒れ込んでいた。
 神がナルハの記憶を思い出させたことで、一時的にキャパオーバーになり、倒れてしまったようだった。
 ライカが様子を見、体調に問題がないことを悟ると、ほっとしたように息をついた。
「全く。神様は少し強引すぎます」
「す、すまない。まさか、倒れるとは思わなかった」
 オロオロと答える神だったが、ライカは立ち上がると前を見据えた。
「……では、ナルハが目を覚ませば落ち着くと思うので、私はエルエを追いますね」
「いや、ライカはここに残った方が」
「いえ。彼女と決着を付けなければならないのは、私ですから。必ず止めなければならないのです」

 一方、エルエとナルハが消えた戦場では、戦闘はまだ継続中だった。
 ナルハがいなくなったことで、暴れているイートと、自分が手柄を立てるのだと張り切るカネアだったが、天界を必ず守るという天使たちの間で激しい攻防を繰り返していた。
 その様子を後方からつまらなそうに見つめる魔王。
「はあ。あの双子が会ったのだから、もう少し何か起きてもいいんじゃないのかしら?本当にただの伝承だったの?せめて、姉さんは表に出てくると思ったのに。……はあ、つまらない」
 そうぼやくが、魔王の上空が裂け、エルエが飛び出してきた。
「魔王!!ここで、全ての罪を償ってもらうわ!」
 エルエの攻撃をギリギリで避けた魔王が、驚いたようにエルエを見つめた。
「まあっ!まさか、あなたが一人で来るのは予想外だったわ。まあ、でも、そうね。退屈しのぎにはなるかしら。あなた如きでは、わたくしを倒せるとは思わないけどね」
 そう構えた魔王だったが、すぐに目を見開き、楽しそうに声を上げた。
「ふふっ。楽しくなりそうね。二人でわたくしの相手をしてくれるなんて、こんな楽しいことがあるかしら?」
「え?二人?」
 そう言ってエルエが振り返ると、そこにはナルハが立っていた。
「ナルハ!?ライカ様は!?」
「……なんか、神と揉めてたから抜け出してきた」
 そう、飄々と答えるナルハだったが、すぐに魔王へと向き合った。
「私は……魔王様を裏切りたくない。だから、本当のことを教えてほしい。本当の目的。災いのこと。全てを、教えてほしい」
 しっかりした目つきで魔王を見据えるナルハの姿に、魔王は更に楽しそうに笑った。
「あなた、過去を思い出したのでしょう?なら、天界の者としての力も目覚めているはず。二人で力を合わせれば、わたくしと楽しく戦えるわね。わたくしに勝ったら、全て……何もかも話してあげるわ!だから、精々楽しませてちょうだい!」
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