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出会いと雪解け
最強の姫に
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「じゃあ、行こうか」
サーラはタンポポ色の髪を揺らしながら、ナギサに笑顔を向けた。
一方のナギサは、やや緊張した面持ちで頷く。
「大丈夫だって!怖い人じゃないから!」
サーラはそう言って、ナギサの手を握ると、楽しそうに歩き出した。
先日、冥界に赴いた際、獣に襲われたナギサは痛感した。一人前に戦えるようにしなければ、と。
ナギサは、自分の護衛役であり、軍人としてもある程度の地位を持つサーラに聞いた。
「もっと強くなりたい?わたしがいつも控えるから、最低限の自衛だけでいいと思うけど」
サーラは目を丸くさせたが、ナギサはふるふると首を振った。
「それじゃあダメなの。王女と言う身分に甘えるの嫌だもの。それに、王族として民を守る立場なのだから、ある程度戦えるようにしておかないと」
ナギサの真面目な答えに、サーラは「そういう答えが出るのが、王としての素質ありって言われる所以じゃない?」と、ぽかんとしたが、すぐに思いついたようにぽんっと手を叩いた。
「あっ!じゃあさ、師匠のとこに行こうよ!」
サーラが笑顔で言うと、ナギサは目を見開いた。
師匠。何故、彼の存在を忘れていたのか、と言わんばかりのナギサに、サーラはいたずらっ子みたいな笑みを零した。
「今は、軍の新人教育も彼が担当してるんだよ。たぶん、今日も本部にいるんじゃないかな?ね!行こう!軍だったら、わたしが連れて行けば問題ないし!」
サーラはナギサの手を引くように言う。
やや考える素振りを見せたナギサだったが、すぐに大きく頷いた。
「ええ、そうね。折角だから、挨拶もしたいものね」
「よし!決まりね!じゃあ、わたしは準備ついでにリナに言っとくから、出掛ける準備しといて!」
サーラはそう言うと、意気揚々と部屋を出て行った。
サーラに連れられ、ナギサが着いた先は、聖界防衛軍の総指令部であり、さらに歩みを進める先は、新人専用の訓練場だった。
「いざ、となると、さすがに緊張するわね」
「ナギサは帰って来てから会ってないんでしょ?師匠、ナギサのことすっごい可愛がってたから、喜ぶと思うよ」
「いや、そんな動物みたいに言わないでよ」
サーラの言葉に、ナギサは苦笑いを浮かべる。とは言え、子供の頃に会った時も随分と可愛がってもらっていたのは事実で、何となく思い浮かべてしまう。
その時、ナギサとサーラの耳にドドドドッと激しい音が聞こえ、ぎょっとした。
「ナギサーっ!!久しぶりだねーっ!!」
彼は突然現れた。青の長い髪を振り乱し、嬉しそうにやって来る姿はまるで犬みたいで、思わず「強ち間違いじゃなかったみたいね」とナギサがぼやいた。
しかし、避ける暇もなく、そのままナギサは男にぎゅっと抱き締められた。
「ちょっ!ちょっと!師匠!痛いです!」
ナギサの言葉に、少しだけ我に返ったようで、ハッとして「ごめんごめん」と離れる。
「ふふっ。随分と大きくなったね」
彼は穏やかな笑みを浮かべながら、ナギサの頭を撫でる。
「も、もうっ!子供じゃないんだけど!」
と、ナギサが照れながらその手を振り払う。
「確かに、あの頃に比べたら大きくなったけど……まだまだ子供だよ」
そう、へらへら笑いながら言う男に、ナギサはムッとしながらも、丁寧に頭を下げた。
「お久しぶりです、師匠。六年振りですね」
その丁寧な姿に、男もゆっくりと腰を折った。
「ナギサ王女の帰還、心待ちにしておりました。再び、師弟としてお願い致します」
彼、カズエラ=レキニートは、武道に長けた人間だ。若い頃に、聖界一の剣術士として名を馳せたこともあり、その他の武術も得意だったため、軍や王族のほとんどが彼に教わっている。実際に、ナギサも幼い頃は彼に剣術を習っていた。
「あの!挨拶もそうなんだけど……師匠にお願いがあって来たの!」
ナギサは突然話を振り、カズエラは驚いたようにナギサを見つめる。
ナギサは、先日の冥界での出来事も交えつつ、自分がもっと強くなりたい旨を伝えた。
それを静かに聞いていたカズエラは、笑みを浮かべる。
「うん、そっか。そしたら、今は軍の新人教育中だから、その後、実戦しようか。サーラは悪いけど、セイズにそのまま訓練場使わせてってお願いしてくれる?」
カズエラの言葉に、サーラは「えー、めんどくさーい」と嫌そうにするが、「ごめんねー」の一言で終わらせる辺り、有無を言わさないようで、サーラは渋々とその場を後にした。
カズエラはそのままナギサの手を取る。
「ナギサは、一緒に行こう。新人たちの訓練を見るのも、勉強になるだろうからね。それが終わったら、僕と実戦だ!」
「ちょ、ちょっと待って!私、実戦なんてできないわ!」
「そんなことないと思うよ。体は覚えてるだろうし、ナギサの剣裁きは、目を見張るものがあったからね」
そういうと、彼は半ば引きずるような形でナギサを訓練場へと連れて行った。
実戦することになったナギサとカズエラの周りに、多くの野次馬が集まった。
先日帰って来たばかりの王女と、元・聖界一の剣術士との対戦に、周りは心躍らせている。
一方、サーラはその様子を見ながら、軍の総指揮官と総補佐官に囲まれていた。
「全く。ここまでちゃんと予想してほしかった」
総指揮官は盛大な溜め息を吐きながら、ナギサとカズエラを見つめている。その文句は、サーラに言っているのか、元々のきっかけを作ったカズエラに言っているのか、はたまた訓練が終わったにも関わらず野次馬として集まっている新人たちに言っているのか。いずれにしろ、じとっとした目で二人を見る。
軍の最高責任者でもあるセイズの溜め息を受けて、彼の後ろに立つ総補佐官は表情を変えずに前を見据えている。
その視線の先で、ナギサはおろおろしながらカズエラに喋りかけた。
「あ、あの、師匠。さすがに、この状況だと集中できないんだけど」
ナギサの言い分は尤もで、先程まで新人の訓練をしていたこともあり、新人たちはもちろん、本部に残っていた軍人のほとんどが集まり、とんでもない賑やかさになっていた。
「大丈夫大丈夫。実戦だったら、もっと騒がしいなんてしょっちゅうだし、環境的にはとってもいいと思うよ」
そう、ぶっとんだ理論を言うカズエラに、ナギサはぎょっとした表情で返す。
「そ、そうだけども……。私、帰って来てからまともに剣を握っていなくて、できるのかすらわからないのだけど」
「大丈夫大丈夫。体は覚えているものだよ。ほら!問答無用だ!」
そう言うと、カズエラは容赦なくナギサに向かって行き、木剣を振り下ろした。
腹を決めたのか、ナギサも手に取っていた木剣でそれを受け止める。
「ほらね。だから、体が覚えてるっていたでしょう?」
にこにこ笑いながら言うカズエラだが、力を緩めることなく、ナギサを押しやる。
「ちょっと師匠!少し手荒なんじゃない?」
ナギサは、受け止めたままだが、何とか拮抗させる形でいた。
ナギサはぜえぜえと息を荒くしながら、膝に手をつき、何とか立っていた。
「帰って来て早々、ここまで出来るなんてさすがじゃないか」
カズエラはそう平然と言いながら、変わらぬ笑みを浮かべている。
さすがに勝てなかったとは言え、帰って来たばかりにしては抵抗した戦いに、カズエラは満足していたし、観ていた野次馬たちも「プリンセス、意外とやるな」と熱い喝采を送っていた。
「これからちゃんと修行を積めば、もっと強くなる。期待してるよ」
カズエラはそう言いながら、ナギサに手を伸ばした。その手をナギサはぎゅっと握り、「お願いします、師匠」という言葉を聞いて、カズエラは満面の笑みで答えた。
「ね?いい見学だったでしょ?」
サーラはナギサとカズエラの戦いを見た後、すぐにセイズに振り返った。
「……サーラ、後でレキニート先生と一緒に、執務室まで来るように。総指揮官命令だ」
そう言って立ち去るセイズの言葉に、サーラは固まった。それを見ていたキレアは、サーラの肩をぽんっと叩いた。
「ここの後始末は私がやりますので、メイル副隊官はレキニート先生を連れて、総指揮官の元へ行って下さい」
キレアの最大限の心配りなのだろうが、サーラは顔面蒼白になりながら、その場を後にした。
その日、サーラとカズエラに、聖界防衛軍総指揮官の盛大な雷が落ちた。
一方、ナギサは、再びカズエラを師とし、改めて修行をすることを心に誓った。
ナギサが剣術の才能を開花させるのは、もう少し後の話。
そして、「戦姫」の二つ名で恐れられるのは、もっと後の話。
サーラはタンポポ色の髪を揺らしながら、ナギサに笑顔を向けた。
一方のナギサは、やや緊張した面持ちで頷く。
「大丈夫だって!怖い人じゃないから!」
サーラはそう言って、ナギサの手を握ると、楽しそうに歩き出した。
先日、冥界に赴いた際、獣に襲われたナギサは痛感した。一人前に戦えるようにしなければ、と。
ナギサは、自分の護衛役であり、軍人としてもある程度の地位を持つサーラに聞いた。
「もっと強くなりたい?わたしがいつも控えるから、最低限の自衛だけでいいと思うけど」
サーラは目を丸くさせたが、ナギサはふるふると首を振った。
「それじゃあダメなの。王女と言う身分に甘えるの嫌だもの。それに、王族として民を守る立場なのだから、ある程度戦えるようにしておかないと」
ナギサの真面目な答えに、サーラは「そういう答えが出るのが、王としての素質ありって言われる所以じゃない?」と、ぽかんとしたが、すぐに思いついたようにぽんっと手を叩いた。
「あっ!じゃあさ、師匠のとこに行こうよ!」
サーラが笑顔で言うと、ナギサは目を見開いた。
師匠。何故、彼の存在を忘れていたのか、と言わんばかりのナギサに、サーラはいたずらっ子みたいな笑みを零した。
「今は、軍の新人教育も彼が担当してるんだよ。たぶん、今日も本部にいるんじゃないかな?ね!行こう!軍だったら、わたしが連れて行けば問題ないし!」
サーラはナギサの手を引くように言う。
やや考える素振りを見せたナギサだったが、すぐに大きく頷いた。
「ええ、そうね。折角だから、挨拶もしたいものね」
「よし!決まりね!じゃあ、わたしは準備ついでにリナに言っとくから、出掛ける準備しといて!」
サーラはそう言うと、意気揚々と部屋を出て行った。
サーラに連れられ、ナギサが着いた先は、聖界防衛軍の総指令部であり、さらに歩みを進める先は、新人専用の訓練場だった。
「いざ、となると、さすがに緊張するわね」
「ナギサは帰って来てから会ってないんでしょ?師匠、ナギサのことすっごい可愛がってたから、喜ぶと思うよ」
「いや、そんな動物みたいに言わないでよ」
サーラの言葉に、ナギサは苦笑いを浮かべる。とは言え、子供の頃に会った時も随分と可愛がってもらっていたのは事実で、何となく思い浮かべてしまう。
その時、ナギサとサーラの耳にドドドドッと激しい音が聞こえ、ぎょっとした。
「ナギサーっ!!久しぶりだねーっ!!」
彼は突然現れた。青の長い髪を振り乱し、嬉しそうにやって来る姿はまるで犬みたいで、思わず「強ち間違いじゃなかったみたいね」とナギサがぼやいた。
しかし、避ける暇もなく、そのままナギサは男にぎゅっと抱き締められた。
「ちょっ!ちょっと!師匠!痛いです!」
ナギサの言葉に、少しだけ我に返ったようで、ハッとして「ごめんごめん」と離れる。
「ふふっ。随分と大きくなったね」
彼は穏やかな笑みを浮かべながら、ナギサの頭を撫でる。
「も、もうっ!子供じゃないんだけど!」
と、ナギサが照れながらその手を振り払う。
「確かに、あの頃に比べたら大きくなったけど……まだまだ子供だよ」
そう、へらへら笑いながら言う男に、ナギサはムッとしながらも、丁寧に頭を下げた。
「お久しぶりです、師匠。六年振りですね」
その丁寧な姿に、男もゆっくりと腰を折った。
「ナギサ王女の帰還、心待ちにしておりました。再び、師弟としてお願い致します」
彼、カズエラ=レキニートは、武道に長けた人間だ。若い頃に、聖界一の剣術士として名を馳せたこともあり、その他の武術も得意だったため、軍や王族のほとんどが彼に教わっている。実際に、ナギサも幼い頃は彼に剣術を習っていた。
「あの!挨拶もそうなんだけど……師匠にお願いがあって来たの!」
ナギサは突然話を振り、カズエラは驚いたようにナギサを見つめる。
ナギサは、先日の冥界での出来事も交えつつ、自分がもっと強くなりたい旨を伝えた。
それを静かに聞いていたカズエラは、笑みを浮かべる。
「うん、そっか。そしたら、今は軍の新人教育中だから、その後、実戦しようか。サーラは悪いけど、セイズにそのまま訓練場使わせてってお願いしてくれる?」
カズエラの言葉に、サーラは「えー、めんどくさーい」と嫌そうにするが、「ごめんねー」の一言で終わらせる辺り、有無を言わさないようで、サーラは渋々とその場を後にした。
カズエラはそのままナギサの手を取る。
「ナギサは、一緒に行こう。新人たちの訓練を見るのも、勉強になるだろうからね。それが終わったら、僕と実戦だ!」
「ちょ、ちょっと待って!私、実戦なんてできないわ!」
「そんなことないと思うよ。体は覚えてるだろうし、ナギサの剣裁きは、目を見張るものがあったからね」
そういうと、彼は半ば引きずるような形でナギサを訓練場へと連れて行った。
実戦することになったナギサとカズエラの周りに、多くの野次馬が集まった。
先日帰って来たばかりの王女と、元・聖界一の剣術士との対戦に、周りは心躍らせている。
一方、サーラはその様子を見ながら、軍の総指揮官と総補佐官に囲まれていた。
「全く。ここまでちゃんと予想してほしかった」
総指揮官は盛大な溜め息を吐きながら、ナギサとカズエラを見つめている。その文句は、サーラに言っているのか、元々のきっかけを作ったカズエラに言っているのか、はたまた訓練が終わったにも関わらず野次馬として集まっている新人たちに言っているのか。いずれにしろ、じとっとした目で二人を見る。
軍の最高責任者でもあるセイズの溜め息を受けて、彼の後ろに立つ総補佐官は表情を変えずに前を見据えている。
その視線の先で、ナギサはおろおろしながらカズエラに喋りかけた。
「あ、あの、師匠。さすがに、この状況だと集中できないんだけど」
ナギサの言い分は尤もで、先程まで新人の訓練をしていたこともあり、新人たちはもちろん、本部に残っていた軍人のほとんどが集まり、とんでもない賑やかさになっていた。
「大丈夫大丈夫。実戦だったら、もっと騒がしいなんてしょっちゅうだし、環境的にはとってもいいと思うよ」
そう、ぶっとんだ理論を言うカズエラに、ナギサはぎょっとした表情で返す。
「そ、そうだけども……。私、帰って来てからまともに剣を握っていなくて、できるのかすらわからないのだけど」
「大丈夫大丈夫。体は覚えているものだよ。ほら!問答無用だ!」
そう言うと、カズエラは容赦なくナギサに向かって行き、木剣を振り下ろした。
腹を決めたのか、ナギサも手に取っていた木剣でそれを受け止める。
「ほらね。だから、体が覚えてるっていたでしょう?」
にこにこ笑いながら言うカズエラだが、力を緩めることなく、ナギサを押しやる。
「ちょっと師匠!少し手荒なんじゃない?」
ナギサは、受け止めたままだが、何とか拮抗させる形でいた。
ナギサはぜえぜえと息を荒くしながら、膝に手をつき、何とか立っていた。
「帰って来て早々、ここまで出来るなんてさすがじゃないか」
カズエラはそう平然と言いながら、変わらぬ笑みを浮かべている。
さすがに勝てなかったとは言え、帰って来たばかりにしては抵抗した戦いに、カズエラは満足していたし、観ていた野次馬たちも「プリンセス、意外とやるな」と熱い喝采を送っていた。
「これからちゃんと修行を積めば、もっと強くなる。期待してるよ」
カズエラはそう言いながら、ナギサに手を伸ばした。その手をナギサはぎゅっと握り、「お願いします、師匠」という言葉を聞いて、カズエラは満面の笑みで答えた。
「ね?いい見学だったでしょ?」
サーラはナギサとカズエラの戦いを見た後、すぐにセイズに振り返った。
「……サーラ、後でレキニート先生と一緒に、執務室まで来るように。総指揮官命令だ」
そう言って立ち去るセイズの言葉に、サーラは固まった。それを見ていたキレアは、サーラの肩をぽんっと叩いた。
「ここの後始末は私がやりますので、メイル副隊官はレキニート先生を連れて、総指揮官の元へ行って下さい」
キレアの最大限の心配りなのだろうが、サーラは顔面蒼白になりながら、その場を後にした。
その日、サーラとカズエラに、聖界防衛軍総指揮官の盛大な雷が落ちた。
一方、ナギサは、再びカズエラを師とし、改めて修行をすることを心に誓った。
ナギサが剣術の才能を開花させるのは、もう少し後の話。
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