ライバル

宇奈月希月

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三学期・1

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 そして、年が明け、三学期が始まった。
「はーい。あけましておめでとうございます。今年も勉学に励むように。と、ここで早速ですが、最早始業式の恒例になっている転校生の紹介があります」
 その担任の言葉に、クラス中に衝撃が走った。
「え!?また!?」「うちのクラスばっか転校生多くない!?」「もう事件はごめんだー!」と、そこら中から聞こえるのを、「静かにー」の一言で黙らせると、一人の少年が入って来た。
「土木(つちぎ)さとるです。よろしくお願いします」
 爽やかな笑みを浮かべながら言う彼に、クラスの女子たちからわっと声が上がる。

 放課後、女子たちがさとるの周りに群がるのを横目で見ながら、絵梨奈は実砂の元へと駆け寄った。
「みんな、ああいう男がいいのね」
「顔いいし、優しそうだもんね」
「あら?実砂もああいう男がいいの?」
 その言葉に、実砂ははっと鼻で笑った。
「冗談やめてよ。私は順司だけで十分。順司、帰ろー!」
「う、うん!」
 実砂に呼ばれた順司は慌ててカバンを取ると走った。
 その様子をさとるが見ているのも知らずに。

「まあ、ほんとにモテるのね」
 絵梨奈は溜め息を吐きながら言い放った。
 土木さとる、爽やかな笑顔と、明るい性格、そこに運動神経抜群、というモテる要素が入っているのだから、クラスの女子からは圧倒的人気を誇っていた。
「それでいて、誰かを贔屓するでもなく、万遍なく、それはもう男女問わずで優しくするのだから、モテて当然よね。何をしたいのかしら、あの男」
 若干悪意があるような絵梨奈の言葉に、実砂は苦笑いを零した。絵梨奈は、瑞樹の件もあって転校生を信用しなくなっていた。
「あ!合上さん!」
 そんな中、さとるに呼び止められた実砂はぎょっとして立ち止まるが、隣にいた絵梨奈がキッと睨みながら「何かしら?」と答えた。
 その棘のある言い方に、驚いた表情をしたが、さとるはすぐに笑顔を作る。
「あ、驚かせてごめんね。次、視聴覚室って聞いたんだけど、場所わからないから、一緒に着いて行っていいかな、って言おうと思って」
「着いて来るだけなら着いてくればいいじゃない」
 そう言い捨てる絵梨奈を宥めつつ、実砂はやっと口を開いた。
「絵梨奈がごめん。視聴覚室、滅多に使わないから、場所知らないでしょ?一緒に行こうか。順司、行くよ!」
 それを聞いて、順司はそのまま実砂の隣に駆け寄る。その様子を見ていたさとるが口を開いた。
「ほんと、二人って仲良いんだね。クラスのみんなが口揃えて仲良しって言ってるの、よくわかるよ」
 そう、笑みを浮かべながら言うさとるに、絵梨奈はちらりと視線を送った。
「それを言ったらあなたこそ、とんでもなくモテてるわよね。好青年すぎると思うのだけど、それは演じているのかしら?」
「ちょっと!絵梨奈!」
 あまりにも失礼な物言いに、思わず実砂は止めたが、言われたさとるは一瞬目を開いた後、お腹を抱えて笑い始めた。
「はははっ!そんな訳ないでしょ。そんなに演技上手かったら、俳優にでもなってるよ」
 そう笑う彼をじろじろ見た絵梨奈は、ふんっとそっぽを向いた。
「確かにそうね。その顔で演技力もあれば、タレント事務所が放っておかないでしょうね。まあ、そのつもりがあるなら、紹介でもしてあげるわ」
 そう上から目線で言い放つと足早に行く絵梨奈の背中を見つつ、実砂はさとるに声をかけた。
「ごめんね、土木くん。ちょっといろいろあって、絵梨奈捻くれてて」
「気にしなくて大丈夫だよ。山川さんってお嬢様なんでしょう?なかなか慣れなくて大変だろうし。あと、俺のことはさとるって呼び捨てでいいよ」
 そう言いながらウインクをするさとるに、実砂は思わずぎょっとした。
「え、あ、いや、やめておく」
 鳥肌を立たせつつ、実砂はやんわり断ると、「そこ、右手に曲がったら視聴覚室だから!」と早口で言い、順司の腕を掴んで走り去った。
「あーあ、なかなか合上さんは落ちないなぁ」
 そうぼやく、さとるの声が廊下に響いた。

「ほんと、いけ好かないわ」
 絵梨奈の悪態を、苦笑いで返す順司。
 普段なら、それを止める実砂がこの場にいないということもあるのだが。その実砂を目で追い、順司はぐっと口を噤んだ。絵梨奈も同じ方を見ながら、眉間に皺を寄せている。
「安藤くんは我慢しすぎじゃないかしら?よくあの状態で文句の一つも出ないわね」
「モヤモヤはするよ。ただ、実砂はあの性格だから周りから好かれやすいのは理解してるよ」
「だから仕方ないって言いたいのかしら?私なら、あらゆる手を使ってでも阻止するのだけど」
 絵梨奈の言葉に、順司は「うーん、過激派」とツッコんだが、自分も彼女みたいな行動派なら、と羨ましく思ってしまったのも事実だ。
 二人の視線の先では、実砂がさとるに話し掛けられ、それに答える姿が映る。
 少しでも実砂が嫌がる雰囲気や、困った様子を見せれば、力ずくでも止めるつもりではいるが、今のところその素振りすらなく、順司も絵梨奈ももどかしい気持ちを抱えていた。
 一方、そんな二人の疑う視線を視界の端に捉えていたさとるは、内心楽しそうにほくそ笑んだ。目の前では、自分の話にちゃんと答えてくれる実砂がおり、彼女はそんな彼らの想いに全く気付いていなかった。
「合上さん、ノートありがとう」
「それは構わないけど……頻度高くない?そんなに勉強苦手なわけ?」
「うーん、もちろん好きではないけど……合上さん優しいから、つい甘えちゃうんだ」
 茶目っ気たっぷりに言うさとるに、実砂は眉を寄せた。同時に、クラスの女子がわっと集まって来た。
「ちょっと実砂。順司くんいるのに、さとるくんまで狙ってるの?」
「そんな訳ないでしょ。ノート貸してって言うから貸してただけ」
 女子に囲まれながら答える実砂を見ながら、さとるが口を開いた。
「俺も、実砂ちゃんって呼んでいい?」
「はあ?お断り!」
 ツーンとそっぽを向く実砂に、「残念だなー」と呟くものの、楽しそうに笑うさとる。他の女子たちは「実砂モテすぎー」と不満を述べていたが。
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