椅子こん! 

たくひあい

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椅子こん!11

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ガタッ……ガタッ……
ガタッ……ガタガタ。
 風が吹いている。
外から入ってくる風に合わせて、椅子の身体に声が流れてくる。
全身があったときのように、枝を広げているような、開放的な不思議な感覚。葉を揺らし、他の木や世界と交信をはかったものだった。
 ガタッ……
 椅子が辺りを見渡すと、すっかり真夜中だった。
「────」
 意識。というものを重みを伴って、思い出す。誰かが、足を繋げてくれたらしい。接続は意識を破壊または形成する。
 椅子、というこの形の身体も一瞬の式のように仕様が出来上がっているようだった。

──今の身体には根が無い…………
この形にならなければ力が分散してしまうらしい。
やっと、姫と会話が出来そうだ。


 椅子は作業台から、窓の外に意識を向けた。人間のような眼球からの視覚はない。しかし、この身体は、視覚に匹敵する皮膚感覚を所有していた。窓の外に魚形のクリスタルの存在を感じる。

──今日も、やっている。
アレが人間から生まれる……

 大昔、44街が出来るよりずっとずっと前……木として根付いていた頃は、あのクリスタルは人間にやたらと視認されるものではなかった。
身体、心の中に留まり、今のような質量を伴ってまでやたら人を襲う為に暴れるほどではなかった。

──椅子が、椅子になったように、誰かが、魚という形を与えている。
 誰かに不当に利用されることで、ただしい場所に留まることの無くなった概念体。

 椅子は、身体を組み立てた誰かの精密な手作業に感心しながらゆっくり身体を起こす。本当はこの身体、あと数日置きたい、完全に嵌まりきっていないのだが────ここまで
組み立てられれば、椅子自身の意識をつかうことは容易かった。
 辺りを確認した後に、身体を黄金に光らせ触手を生やす。
触手たちは、自らの戻るべき位置を理解し、それぞれの部位を自ら修復し始めた。
 やがて、カグヤたちが出掛けたのを感じながら、椅子はふわりと浮き上がり、あとに続いた。







 そして、ああ、そっか、椅子か、と納得したカグヤはすぐに家に向かう。
「ちょっとまっててね、様子を見てくるから!」
「カグヤのほう、今帰りなんだね」
私が言うと、カグヤは振り返って頷いた。
「そうそう! それについてさ、あとで話があるから、私が来るまで待ってて!」 
そして彼女は走って家の中に向かっていく。なんだろう?
明るいがどこか慌てた様子が気になる。


アサヒが、椅子!
 となにか思い出したように言った。

「そうだ、あの椅子、なにか特別な椅子らしいんだ……」
いきなりそんなことをいうので、私はびっくりして、どうしたの?と聞いてしまった。
「ただでさえ空から来た椅子さんだよ? 特別に決まってるじゃない!」
「カグヤの家のじいさんが言っていた。あの椅子のようなのがかつては、城とかに繁栄とかを祈願して献上されていた特別なものだったって……カグヤの家の本家がそういう家具屋だったんだ」
「そうなんだ、すごーい」
「椅子が空を飛んでた話にも驚いて居なかった」
「えぇ────!?」

アサヒは、特別な家具を見られて感謝するとカグヤの祖父が話したことを私に伝えた。

「……な、なんかすごいね、椅子さん」

 椅子さんが何者なのか、そういえばわからないままでいる。
だけど、可能性がひとつ生れた。
少なくとも椅子さんもなにかそういった力を持つ存在だ。
 椅子さんはどうして、私と一緒に戦ってくれるのだろう。どうしてあの日、うちの近くにやって来たのだろう。
 嵐がやって来て、ヘリが墜落して、アサヒと一緒に椅子さんも倒れていて────

 カグヤが家から出てきて、こちらに走ってくる。
手ぶらだった。

「あれ? 椅子さんは?」
私が聞くとカグヤは目を丸くしたまま言った。

「実は、その椅子さんが、居ないのよ!」
なんだって!?

「昨日までは──寝ていたって、おじいちゃんも言ってて、だけど、今朝見たら居なかったって! なくしたのか、盗まれたのか、わかんないけど、とにかく、どうしよう!」

昨晩のことを思い出す。
椅子さんは、一度私に挨拶して、それからまた隠れた。

「椅子さん……もしかしたら、私に会いたくてあのあとカグヤの家を抜けて──探しにいったのかも」

「空を飛ぶくらいだからな」
アサヒが頷く。

 女の子は、きょとんとしていたが、すぐにカグヤに聞いた。
「ねぇ、さっき言っていた、はなしって」

「あぁ、そうそう! 昨日のことで」

 カグヤはすぐに昨日のこと、を話し始めた。遠くに見える空には少しずつ朝日が登り始めている。もうじき人通りが増えそうだ。

「ヨウさんが、主張を認めてないらしくて──盗撮の証拠はあるのか? って、重ねる為に脱いだ写真を送ってくださいってなってきて……
どうしますか?って感じで話し合いにすらならずに昨日は終わった」

「どうしますか? って、そんなの一々送りたい人居ないよ!」

憤りが隠せない。
なんでそこまでさせなきゃいけないの? 私だって被害に合っている。他人事とは言えなかった。

「メグメグが被害にあってるのに、
名誉毀損の証明義務はこっちにあるんだってさ!」

「ええええええーーっ!?」

びっくりだ。
もはや名誉がなにかわからない。

「証明も何も、ハクナ自体が怪しい集団じゃない。なのに自分たちは無実を証明せずにこっちにだけ、要求するのよ!? 信じられない!」

 カグヤが激昂する。
ハクナは名誉毀損を便利な道具としか思っていないかのようだ。
嫌なもの、隠したいことを、ハクナのためにこちらが証明しなくちゃいけないなんて馬鹿げている。

「みおちゃんの──」

女の子が小さく呟く。
みおちゃん? 私たちが伺うと、彼女はハッとしたように聞いた。

「ヨウ、って──アニメ『さかなキッチン』の人?」

カグヤが、よくわかったねと言う。
私も魚キッチンの名前を聞いて思い出した。

「あっ、魚キッチンのコラ画像なら、うちにも送られてきてたな。私の身体がコラージュでヒロインのみおちゃんになってた!」
「うちにも? あなたの家も、盗撮に合っているの?」

 カグヤがちょっと怖い顔になる。

「うん……あまりアニメ見ないからよくわからないけど」

感覚がマヒしてしまっているが見たくないのに、家にわざわざ画像を送りつけて来た辺りが自意識過剰な気がする。
 しかし確かにそれも大事件だが、私には、とりあえずは椅子さんだ。椅子さんは今、どこで何をしているんだろう……

「うー、メグメグの件だけじゃらちが明かないし……デモをやめるわけにもいかないし」

カグヤが考え込む。

「そういや、ヨウって、誰? ハクナの人?」

私が聞くと、カグヤが頷いた。

「幼いときから学会に入り浸ってる秀才。
学校に通わずに小学校くらいからほとんどを恋愛総合化学会の内部で過ごしている、幹部クラスの人」

「へぇー!」

「ハクナにも出入りしてるって噂だよ。今の面倒な社会のなか、最終学歴が小卒くらいでも
学会内部だとエリート優遇されてるんだから、すごいもんよね……
恋愛総合化学会を無くしたくない一人だと思うわ」

 小学校のときから、ってことは戦場になりやすい学校に行かずに、
学校での襲いかかってくるスキダから怯えずに大人になったのだろうか。 それはそれで、どんな人なんだろうという興味が湧いてくる。

「でも、アニメとヨウさんに何が関係あるの?」

「既に、44テレビ局の内部に入り込んだ構成員やスポンサーが、映像を操作してるのは知ってるよね?」

知ってる、かと言われればよく知らないが、見ているといえば何度も見ているので首肯く。
アサヒが隣で気まずそうに目を逸らした。

「ハクナを使った盗撮映像を管理して、適切な指事を出すのがヨウさんの取り巻きじゃないかって話なんだけど──
それって結局は、ヨウさん自身がやったようなものというか……でもヨウさんは自分で手を汚してないからっていうか……」

「テレビ局で働いてたやつから聞いたんだが」
アサヒがふと口を挟んだ。

「うちは他局とは違う、という放送は44テレビ局のどこも行わないようになっているみたいだな。ある程度のコードが統一されているからだろう」
「じゃあ、44街の放送が全て、誰かの指事と監視によってひそかに統一されているのね!?」

カグヤが拳を握りしめる。
 確かに、管理体制が出来ているとしたら、一部の管轄にそのまま言っても、きっとらちが明かないわけだ。





ふふ……ふふふ。

暗い闇のなか、ヨウはモニターを眺めながら笑っていた。
 44街は今や彼らが支配している。


「44街の市民さんたちは皆、私の圧力によって私だけしか見る事が出来なくなったよ、キム」

相手の意識を強引に操ることで洗脳が効果を発揮する。 思考の強制停止。
圧力によって強制的に『姫』いや『悪魔』やその周囲を思考停止に陥らせる、言わば行動不能。

「私もね、あの大戦から、手段を選んで居られなかったんだよ」

 街には手のひらの賄賂やらなんやらを見せる事で、すぐに手には入るものばかり。
いくらあの悪魔の血筋だって流石にひとたまりも無いだろう。

「キム…………」

ヨウは暗い部屋のなか、ドアに背を向け、何かに向かって語りかけるようにしてニヤニヤ笑っていた。
モニターには、先日の悪魔の家の様子が映されている。

「椅子さん起きて!!!』

クククッ。
彼にはどんな場面も娯楽に過ぎない。
楽しくて笑ってしまって大変だ。
 盛大に脳内に小躍りする。
そうか椅子さんでも椅子で無くなれば寝るんだ!喜んでいると誰かが壁の向こうから怒鳴ってきた。

「ボリューム下げて見られないの?
人が折角悪魔の能力を把握しようと構えている時にぃ! ……ただ、勝手に能力を喋ってくれたのは助かるぅ!」

 音をたてて彼の真っ暗な部屋のドアが開き、紫の髪と眼鏡をした男装女が現れた。

「あれ? ヨウ。この家に来てるやつ、キムじゃん……!!!
悪魔はよく生きてるね、普通ならこれで一撃なんだけど」

「ブン、うるさい、静かに観てて」


────────────
 ××年前。
 映像、音声技術の発展によって、あらゆるメディア分野が不景気の侵攻を受けずに急激な発展を遂げると同時期、束の間の発展、経済成長を嘲笑うかのように44街の人類を怪物が脅かし、各地に鎮められていたキムが目覚める。
 実はこの経済成長の裏では、日々激しくなるメディア間の争いに勝とうとあらゆる禁忌を恐れず侵した者が居た。
 それを押し留めようとしている恋愛総合化学会がまさかその禁忌そのものを『吐くな』と、隠す役目も同時に担っているとは、誰も思わなかっただろう。

 ブン、と言われた男装女子は頬を膨らませながらいーだ!
と挑発のしぐさをする。

「そういや、この映像、誰が観察担当したんだろう」

ヨウは気にも止めずに呟く。


「あぁー、まったく、映像だけではわからないよ。もどかしい。
このキムの生の状況が知りたい。話が聞きたい。ギョウザさんが、アサヒは辞めたって、言ってたな……そうだ、コリゴリを」

「コリゴリも辞めたらしいよっ」
「えっ、あのコリゴリが、私と境遇が近いお友達だったのにぃ……パパーン!」



(2021:2/271:46加筆)









「カグヤ……」
女の子がふいにカグヤを呼んだ。街では、ゴミ収集車が住宅を回り始めている。

「わたし……昨日、救急車とすれ違ったの」
女の子が淡々と呟くと、カグヤは目を丸くした。
「そっ、か……そっかそっか、見たんだ」
救急車?
私やアサヒが顔を見合せているとカグヤはあははと苦笑いしながら言う。
「なんでもないよ!」
「本当に?」
 女の子が食い下がる。
なぜそこまで救急車を気にするのだろう。そう、一瞬だけ思った。
「実は、おばあちゃんが運ばれたの。
急に腰が悪くなったとか、急に血圧が安定しなくなったとか、お医者さんは言うけど……」

カグヤが、仕方ないとばかりに言葉を濁す。
なんとなくだが、何か察した気がした。

「確かにおばあちゃんには持病があったし、普段出かけても家に帰るなり腰が痛い、胃が痛いを繰り返してたよ? だけど……なんか……なんとなくだけど、引っ掛かって」

 学会の関係者か、誰か都合が悪い人がもしも──悪魔と悪魔の仲間を見張って置けないことを理由に手を回していたのなら。私たちにそんな考えが過った。

「倒れたとき、お医者さんが薬を飲ませてたんだけど、その辺りからちょっと様子が変わった気がする……」
カグヤの顔が青ざめる。
お医者さんや製薬会社が、学会の悪い人と関わっていないとは限らないのだ。
 それに、もしもそうだとしたら、違和感をごまかせそう
な理由を用意する知識も持ち合わせている。

「そうなんだ……」

──何よりも、『見張られていた』のだ。
熱心な会員ですら!
こちらの状況を知っている。
観察は続いていた。
きっとどこにいても、なにをしてもつきまとう。

(そっか……見張られずに過ごせたことなんて、ずっと無かったんだ……ずっと、きっと生まれたときから私は悪魔でこの街にとっての生きた素材でしか無かったんだ)

胸が痛い。苦しい。
たったひとつ、「誰からも関わられずに自分の存在だけを感じられる夢」を見ることすらも、私にはかなわなかったんだと知る。

「私が、学会やハクナの愚痴を言ってるのも知ってるって、ことよね?」

「そう、だね」

私は曖昧に返事をする。
見えないが確かに、そこにある圧力。

「ごめんなさい──あなたたちは気にしないで、私が、私が学会を批判するようなことしてるから……」

カグヤが謝る。
そんなに気にすることはなく、気にしていないのに。

「ううん、ありがとう、カグヤ。おばあちゃんが、心配だけど……よくなるといいね」

「うん」

私が居るから争いになるという人が多いなかで新鮮な反応だった。 黙って悪魔として観察され続けていれば、何も起こらなかった気もする
私の生活だけがめちゃくちゃになるだけで、誰にも危害が──ううん、違う。
 めぐめぐも、他の誰かも、ずっとそう思って居たのかもしれない。
 だけど、ちょっとした衝動くらいで44街全体にここまで深く根を張れるわけがない。
誰にも危害がなんてこともなく私たちが皆に危害が既に現れていたのを誰も知らないだけだ。
普通なら学会があのやり方であそこまで栄えるわけがない。ずっと前から、私たちが生まれたときから始まっていたんだ。

「あー。泥棒ジジイ! 返せ、泥棒ジジイ!
かえせえええ! 泥棒ジジイ──────ッ!!!」

カグヤは空に向かって叫ぶ。


「──泥棒ジジイーー!!」

人目も憚らず、その声は辺りに響いた。
(泥棒ジジイ?)
(誰だよ)
(泥棒ジジイ……?)


 そんなこんなで、これから、椅子さんを探したり家に帰る私たちと、めぐめぐたちと話し合うカグヤは一旦わかれた。
 帰りの道を歩きながら、
たった1日でもいろいろなことがあるなと不思議な気持ちになる。せつがまだ見張っているかもしれない。観察屋がいるかもしれない。だけど、それでも今、ここで歩いて居るのは竹野せつではない。

 空にヘリが飛んでいる。
あちこちに、ひこうき雲が張っている。
青空に引かれた罫線みたいだ。

「ふふ、帰ったら朝ごはんだね……」

「────そんな時間か」

アサヒが呟く。
女の子は、なんだか悲しそうだった。

「ハクナたちが、構成員だろうと手にかけるなんて……」

「爆発させないだけ、人目を気にしたのかもな」

アサヒも真面目な表情になる。あのカフェに居るとき、女の子は例の男──パパと話をしたらしい。
ママが誘拐されても、自宅が爆破されてその娘が目の前に居ても特に気にした様子はなかったのだという。
あの、カグヤの祖母だろうと、お構い無しな学会の態度に、いろいろと考えてしまうみたいだ。

「わたしは──パパを選ばなかった。嫌いをすごく嫌う人で、好きしか言わせて貰えないから」

──嫌い、がまるで悪のようで、何もかも受け入れているなんて、自分の存在がわからなくなる。それなのに、見るもの、やること、すること全てに、嫌うことが許されない。
「やっぱり、嫌いが悪になる世界はだめだよ」
女の子はしっかりと前を見据えるように言う。
「街がスキダで溢れて嫌いが存在しない世界になるくらいなら、わたしが嫌う!

ママが嫌った世界を、私も嫌ってみせる!」


街が朝に変わっていく。
好きの輝き、が一旦眠りにつく。家に帰る道中、女の子は
病気の話をしてくれた。

「パパとは小さい頃わかれてて。
 好きに、専念できると思ってたけど好きなものを描きましょうって、保育園の課題でたおれて……それから今もずっと」

 好きを言おうとしても選ばれなかった嫌いを思い出してパニックになるようになって発覚したのだという。

嫌うこと、に酷い対応をされ続けた結果、好きもバランスを保てなくなってしまった。
好き、を得る為には嫌うこと
が不可欠なのだ。
 難病である、恋愛のことを考えるとショック症状になる恋愛性ショックも、もしかするとしっかり嫌えるものがあるだけで緩和するかもしれない。脳内の好き、と嫌いの判断に影響が出ているのは確かなようだし…………

「カッコいいね!」

ぱちぱち、と私は彼女に拍手する。
みんなのぶんまで嫌うことの勇気。私がせめて悪魔らしく居ようと思ったときを思い出した。

「堂々と嫌うことを、しているおねえちゃんが、だからわたしは憧れ」

「そう? ありがとう」


──これから自分のための幸せが例え世界の何処にも無かったんだと知るとしても。私はせめて、私らしく生きて私らしく散ろう。
 そう思えたのは、椅子さんが椅子や対話しやすいものに関わることに逃げずに人間と対話しようとする、諦めない心に気付かせてくれたからだ。
人間同士が一番対話が困難なのに。私はまだそれを見捨てていない。
実は、カグヤの祖母が大変なときに、私はひたすらに非常識なことを考えていた。
悪魔らしく。

 アサヒがしばらく黙っているので、私はなんとなくそちらを見た。

「──なぁ」

「なに?」

アサヒはなんだか言いにくそうにもごもごと口を動かすが、黙ってしまう。

「いや……その……あの男と、お前の家に、なんか関係あるのかって、思って」

「え──?」












「どうして、そんなこと……」

「だから、家に来てたんだよ」

「…………」

私がなにも答えられずにいると、アサヒは男のことを思い出すように呟く。

「そういやあいついろいろ、気になることを言ってたな」

「気になること」

「器、とか『あいつら』が妬ましく思う程度の、仲睦まじさとか、恋をして他人が怪物に乗っ取られるとか──お前の家族がどうとか──」

 「────そう、なんだ……」

「まさか、お前の母親も!」

アサヒがハッとしたように言い、女の子も私を見つめた。更に更にきょうだいが増えてしまうかもしれないと危惧? してるのだろう。
クスッとなんとなく、少しだけ笑えた。けれど、すぐに悲しくもなった。
だから苦笑いのようになったけど、なるべく笑顔で答える。

「ううん──違うの。お父さんは、小さいときに魔物に乗っ取られて死んだんだ。
お母さんは誰も好きにならないって決めてたのにお父さんに根負けして、結婚して──」

「どういうことなんだ、それって」

「──うち、昔からそうなの」
 今になって、さまざまなことを思い出してきた。
コリゴリと戦っても、スライムと戦っても、私は悪魔で居られた。
冷酷で、居られたのに。
あれ……あれ。
大変だ。このままでは、泣きそう。
「意識を…………与えた相手ごと…………、変えてしまうっていうのかな…………たぶん、あれが『コクる』だと思う」
 俯きながら、なんどか呼吸を深くしながら、はやく、上を向かなくちゃと焦りながら──けど、うまく笑えない。
「お母さんたちも、私になるべく話しかけなかった。私もそうした。
誰かと話をしても、すぐにおかしくしてしまって──いつも、不気味がられた」

 ある日、市庁舎に呼ばれた。
家族の紹介の後、市長と少し話して──翌週から、44街中に、私が誰とも関わらないようにというお触れが出される。 

「当時なんか、ニュースでキムの手?
とかいうのが騒がれてて、国が緊急事態がどうとか言ってたんだけど
キムの手は、悪魔を呼ぶとかって噂もあって……」
最初はそんなファンタジーなって、笑ってたのに、スキダが広く視認され始めたと同時期にみんなそのモデルの悪魔を信じだした。
「本当に、市のあらゆる権力で極力の交流が制限されるようになってて。
 帰宅して次の朝からもう、私と会話すると悪魔が憑くという噂になってたのよ」

 お母さんたちも、お父さんが死んだとき、うちは悪魔なんだよと言っていた。
「悪魔だから、あまり他人と関わらないようにしなさい」
私は素直にそれに従い──いつしかお母さんが居なくなったあとも、それに従っていた。
「キムの手は、俺も知っているよ。
悪魔がつくかは知らないがさまざまな憶測が飛び交ってはいたな。
コクる、とか器、とかって?」

「詳しいことは……わからない。
けど、あの子が、対話のために誰かを通じて私のところに来る──今日それが、わかったの」

あの子が対話したいときに、私の意識にある何かを通じて語りかけているのだと思う。ずっと、一緒に会話するのを待っていたのだろう。

「どういうこと、えっ、怪物は?」

アサヒがおろおする。

 私が感じたのは『あの子』は普通の人にはあまりに大きすぎて、受け止め切れないんだと思うということ。
だから、全身がスキダに成り代わって壊れてしまうのかもしれない。
だとしたら、器、は────

「ぅぐ……っ、う……ううう」

「おい、なんで泣いて……」

アサヒが何か、言うがよく聞こえない。
留めていたものが決壊した。

「うああああああ──────」

 なにも聞こえない。なにもわからない。
なにも知らない。

消えてしまいたいと、そうずっと思っていた。
私が歪めた血。私が破壊した魂。汚れていく手。重圧。うち、昔からそうなの。何故?
私は、昔からそうなのに。
何故?
どうして、どうして、今になって、私は
────


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ────」


 見た目通りに柔らかいスライムの笑顔や、コリゴリがこれをするしかないと言っていた場面を思い出す。
 私が消えて無くなれば無数の誰かが幸せになるのだろうか。
──だとしても、それでも私は結局、こう
やって、存在するしかないのだろう。
 街のみんなを困らせてそれでも対話を望むのが、どれだけ周りを苦しめるだろう。
それがわかっているから、私はただ冷酷で居る方を望む。


2021/0301/0:27













「今の話はキムの手と悪魔の関係がわからないが……とにかく、本来なら神様で良いにもかかわらず、悪魔の話を広げたやつと、キムの手が発見された流れになにか関係があると考えているんだな」

 フライパンに卵を落としている後ろでそんな声が聞こえる。
家は荒れて散らかってはいたが、どうにかキッチンなどは使えるし、器具も残っているので、帰宅してまずは朝ごはんとなった。

「うん……、それと、身近ななかで私を熱心に悪魔と呼んでいたのは『せつ』だった」

ちら、と後ろを見る。棚の側などを 改めて確認したがキムはまだ眠っているようだった。
 それになんだか家の中の空気が変わった感じがする。
今まで、部屋にどこかぼんやり薄暗い霧がまとわりついたような気配があったのに……電話の近くだとか、ちょっと苦手な重々しい空気をまとっていた気がするのに、それが、カラッと晴天のような────そういえばこれがこの部屋だったなと、今更感じ直すような、変な感じ。
完全にとは言えないが、圧倒的な身動きが出来づらいくらい重々しい空気のなかにあった部屋が、どこか、見違えたようだ。やっぱりあのときの戦いが関係するんだろうか。

 ほうれん草とベーコンをいれて、グシャグシャと溶いた卵を掻き回す。バターのいいにおいがする。

「『せつ』 ──今までの話を聞く限りだと隣国が首をすげ替えることを目論んで用意していたスパイ、だったな」

「うん……」

「なるほど、キムのことはわからんが──44街を乗っ取る足掛かりに
組織的に、『悪魔』を利用した可能性はある。
学会を侵食しながら目を付けた獲物を監視し、情報操作をしていた──と。観察屋が今のようになっているのもそれが絡んでいるだろう……俺もいきなり消されかけるし」

 アサヒがクビになったときの話を私はそういえばよく聞いてない。だが彼は当時の上司になにか心当たりがあるようだった。

「信仰は国家間の関係そのものと密接に関わる、国柄といっても良いものだ。
この国の44街の神様信仰を蹂躙する理由としても、悪、と名の付く悪魔のイメージを植え付ける方が早い、か」

「……戸棚から、パン出して」

「おぉ」


──あれから。
互いに何事もないように接している。
私は朝ごはんを作り、女の子とアサヒは、部屋の片付けを手伝ってくれていた。
 落ち着かないくらいに落ち着く日常の風景。

 ──未だに私は、誰かとこんな距離で関わることが、そもそも接することが正しいことかはわからない。

「あ、そっちの食パンの横にあるレーズンパンは私のだからね」
「はいはい……レーズンが好きなのか?」
 好き、それは純粋な好みだけでなく、何かや誰かのための望みや願いでもある。
「嫌いだよ」
 私は『スライムが願う私』を否定した。
それは『私』ではなかった。
私は私が決めなくてはいけない。
「嫌いだけど、でも、いろいろあるの」
「あっそ」

 生まれて何年間もずっと自身の存在自体に確信を持てないでいた私がスライムを否定してやっと自分の存在に気が付いた。

「いろいろ、あったけど、私、嫌いなものがあって、良かった。嫌いなものを否定して良かった。
それだけは思うの。スライムが、ああなったのは悲しいけれど──でも私は、自分の気持ちや、相手の気持ちと、戦って良かった」

受け入れられない誰かを否定して、遠くから周りの景色を見下ろして、やっと手に入るものも確かにある。
近すぎて見えないもの。
受け入れ過ぎて見えないもの。痛みを忘れてしまうと、見えないもの。
気持ちと戦うこともときには必要だ。

「──そうかもな」

誰かを嫌いになるとき、人はやっと、自分を確認出来る。


──ちらりと後ろを見る。
コリゴリの死体も、愛してるが散らばった紙もどこかに消えていた。
(……あの男が、うちに、来たのか)

 女の子が、部屋の奥で何かを言った。私は皿にほうれん草と玉子のいためものを盛り付けて、この前のハンバーグのあまりを乗せながら、気持ち、首を伸ばして部屋の方をうかがう。
彼女は神棚を見ていた。

「どうかしたの?」

「旅の無事をおいのりしてた」

「そっか──」

「うん。早く、嫌うことに慣れたい。だから、こわくないよ」
「え?」

「わたしも行くからね。どうせ置いていく気だったでしょう」

 私は苦笑いした。
アサヒはなにも言わずに席についている。確かに北国に女の子を連れて行けるかは、年齢の面でも危険かどうかという話し合いがないわけではなかったが、母親を見つける、という目的の為には現地で見てもらう方がまだ確実だと感じてもいた。

「戦うのも、北国にいくのもみんなわたしの為の願い事みたいな部分があるのに、なにもできないって、思ってた。
 わたしが、それだけ恐がっているから、自分の臆病なところが目につくのかもしれない。でも、いつまでも嫌いなものが怖い。それが、一番怖いから……」

「うん。行こう」

彼女の目が輝く。
少し焦げた部屋。散乱している紙束。倒れた物。
それらを背にした少女が、なんだかとても頼もしく見えて、私は微笑んだ。










「恋愛が出来なくても良いとは思わないけれど、人間が人間と出会うことと恋愛のイメージが、逐一常識でなくても良い。

誰かを好きになれなくても、嫌いになら、なれるかもしれない。

好きも、嫌いも、私たちには同じように必要なものです。

人間には、どちらも必要なのです。



「何言ってるんだ!」
「嫌われた人がどんな気持ちか考えろよ」
「そうだそうだ!」

「人は人としか恋愛が出来ないのでしょうか? 性別という今までの常識が近年、否定されています。
しかし恋愛に必要な姿形については、まだまだ認知されていません。
彼ら彼女らの全てが恋愛自体を滅ぼしたいというわけではなく、自身が完全であるからという考えも持っていない。
ただ──彼らにとっては、純粋に外部からの『刺激』。体が受け付けることに苦しむような刺激なのです。私の体がもつ難病の恋愛性ショックのような……」







「よしっ────」

 家の窓をちょっと開けたわたしは、気合いを入れてスキダを庭に発現させた。椅子さんがどこに行ったかわからない今、次にやることは北国に向かう準備。
けれどまずは朝ごはん。用意が整うまでは部屋を片付けつつ休んでいる。その合間に、庭に置いた小さな車を、力で少しずつ巨大化させていく。
わたしはこの子が好きだ。



────わたしがずっと好きなもの。
このおもちゃの車。保育園のとき、好きな相手はいないのかと周りに聞かれてあれ、と指差した車。           
 それは、家がまだ、爆破されていなかった頃、家族でやったクリスマス会のときのお菓子のおまけについていた小さなものだけれど、友だちがあまり居なかったわたしはそれからずっとポケットや鞄にいれて持ち歩いている。
ヒーローになりたい、が将来のゆめ、で許される保育園ということもあって、さいわいにもわたしの想いは許された。
 そのときにわたしは、初めて他人から認められた、と思った。
 人間でなければ、発作を起こさないという先生たちの同情もあったかもしれないけど──

 それでも本気で、何を好きになっても、誰を好きになっても、誰かが認めてくれるんだ、と。
たとえその相手の性別がどうでも、
たとえその相手が人間じゃなくても、誰かが認めてくれるんだと、そう確かに思った。

 家に帰ると「嫌い」を言うだけでこっぴどく叱られ、好きというまでは家に入れないと閉め出されるようなパパが居る。
けれど保育園で恋人を周囲に認められてからは辛くなかった。

 嫌い、を言わない生活の悲鳴の捌け口のように、わたしはその車のおもちゃのことが性的に好きになっていった。嫌いを言えないけれど嫌いな相手がそこに在る生活から目をそらして抜け出し、車のおもちゃとごはんを食べたりお風呂に入ったりする。
 そのことに、何ら、おかしいことはなくて────

 だけれど。ちょっと前に聞いた話だとお姉ちゃんが役場から恋人届けを突っぱねられて帰ってきたらしい。
人間ではないから。ただ拒否するだけじゃない、アサヒから聞いた話だとまるでバカにしたようだったという。
 胸の奥に、過去の自分を否定されるような痛みが走る。
あれはきっと過去の自分の姿なのだ。

「椅子さん──椅子さん。お姉ちゃんが、待ってるよ」

 車を庭から走らせる。椅子さんがどこかに居れば見つけられるかもしれない。スキダは少しずつ走行してわたしの目の前から遠くに向かっていく。
「車さん。つかれたり、なにかあったら帰ってきてね」

朝ごはん、もうすぐかな……
 お姉ちゃんのため、それにわたしのために、わたしは頑張るんだ。



 朝ごはん、を食べながら、アサヒが北国にいく計画の話をしていた。
「まず、荷物は纏めておけよ。旅先であまり高価なものは身につけない方が良い」

「はーい」
ポタージュを啜りながら首肯く。家が爆破されたからほとんど持ち物などないけれど。
お姉ちゃんは旅行なんて初めて、なんだかドキドキするとはしゃいでいる。

「あなたの服、とりあえずは私が子どもの頃のとか、小さくて着られなかったのとかで良いかな?」

聞かれて、首肯く。
そうだ、服……なにからなにまで世話になっている。
「そういえばあの子、居ないのか……?」

アサヒはふと周りをキョロキョロうかがった。
「ちょっと、食事中だよ! ……でも、そうだね、おはなししてみないと。この間は居たけどなぁ。眠っているのかもしれない」
 お姉ちゃんはちょっと機嫌が良さそうだ。
「嬉しいこと、あった?」
「うん。キムも眠っていることだし、今、本当に普通の家にすんでるみたいで!」
 誰にも関わられず観察されずに過ごしてみたかったという夢を叶えるのは難しい。けれど、彼女は今、新たな夢を叶えた。
普通に過ごすという難しい夢。
「これで、椅子さんがいれば、更に良いのになぁ……」

 椅子さんはどこに行ったのだろう。体調は良くなって居そうだったけれど、そもそもどこから来たのかも定かじゃない。

「まあ、でも椅子さんも立派な成人
だからね、一人で出掛けたいときも……あるの、かな」

 お姉ちゃんはちょっと寂しげにジャムを塗ったパンをくわえる。

「なぁ」

アサヒはコーヒーを啜りながら率直に聞いた。

「クロってのは、なんだ?」

「……そ、そんな話、したかな?」

お姉ちゃんが慌てる。目をそらした。
「身分証明書でクロにばれるから病院に行かないって、お前が、言ったんだ。だが旅行には入国許可証が必要になる。身分証明書がないと発行してもらえないんだよ」

「……だけど」

代理をたてられて、そして何かあっても私の代理が病院に行く、それがせつのことだとしたら。

「──クロはお前の痕跡すべてを、身分証明書レベルで、社会すべてから無くしたいと言ってたな。届けも出せない、外に出られない。身分証明も出来ないと。せつが戸籍屋と通じていると考えるのが自然だ」

何か不穏な動きがあったら戸籍情報を横流ししている連中。
──観察屋と繋がりがあることも知っている。

「要するに、クロっていうのは、戸籍屋なのか? なぜ、そんな企みがあると気付いていた? 戸籍屋のことを知って」

「まって、まって、質問がおおいよ……」

 お姉ちゃんは苦笑いのようなものを浮かべながら答える。

「──見たことがあるからよ」








 どうして──どうしてそこにいるの……
あなたは、昔の私と同じ、犬を殺して喜んだ仲じゃない!
人間に、愛や恋があるわけがない、そうでしょう?

 早朝から、呼び出された公民館の前に訪れた私は、あのときの金髪の少女に詰め寄られていた。

かつてのクラスメート。
今は宿敵のような立場である。
恋愛総合化学会にいる私を、彼女は快く思っていない。
それは、知っていたが、私には私の理由がある。

「学生時代は確かに、恋愛なんて、ふわふわした幻想が本当にあるのかを探すために殺していた。
 人を好きになる才能のない私たちはクラスでも浮いていたけれど、それは間違ってないと本気で信じていた! それは、今も変わらない」

彼女もそう。ただ二人して現実が見えすぎているだけなんだ。と、思っていた。
浮いていたクラスでも苦ではなかったのは、恋というものに懐疑的な人が自分以外にも居たためだ。

 だって、変じゃないか。
恋愛ドラマだって、ただ人が駆け回るシーンや生活の様子を流すだけにすぎない。
──結局は、どれが恋という幻想自体なのかはまるでわからないし、これです、と注釈がつくわけでもないのだ。

才能があれば、解るのだろうか?

  そんな、ありもしない、見えもしない、あまりにも不安定で具体性の無い物のために、浮気だ不倫だなんだ騒ぐ社会が、気持ち悪い。
まず証明してみせてから、言えと。あるのか?
どこにある?
恋はどんな物質でどんな見た目でどういう存在なんだ?
国民に示してみろ。
これが恋ですって。
できもしないくせに。
なぜ、みんな洗脳されてるんだろう。

「万本屋は、言ってたよね? 人を好きになれるのは才能だって!」

──彼女、は『私』に鋭い言葉を浴びせる。
取り締まりをする私。志が同じな恋愛総合化学会でも、やはり違反者や犯罪者は生まれるわけであり、それが、デモをしているかつての同級生ということだってあり得た。

「──ねぇ、どうして変わってしまったの? あなたの口から他人を慕う言葉なんて聞きたくなかった」

過去の彼女と私が同じなら、誰にも靡かず、誰の声も聞きたくないはず!

 まさしく、その通りだった。けれど、私に言い返すことは出来ず、ただ苦笑いした。

「聞きたくも、存在を感じたくもない、叩き潰してしまいたいの、わかるはずだよ」

「それは、悪口だぞ。名誉毀損だ」
私はひとこと、絞り出した声で言い返す。

「悪口? 悪口じゃないよね? 好かれるような甘ったるい言葉より、罵倒や辛辣な言葉の方がずっと私たちらしいって、いつも……」

「うるさいな! 悪口なんだよ! 酷いことを言うんじゃない!」

わかっている。
軽口、でしかないようなものだ。これまで彼女が言うのなら、私にとっては何一つ悪口に当たらなかった。
愛や恋、実在するかもわからないものよりも悪口の方がずっと素晴らしい。

「私の知るあんたは、少しの軽口を、高みから名誉毀損だと批難するような他人行儀ではなかったと思う」

そう。本当に仲が良いのなら、本当に仲があるのならば、名誉毀損なんて言葉が出るはずがない。
 しかし──今は状況が少し違う。
 正直に言ってしまうのが恥ずかしい。
見栄を、張ったんだ。
才能がある人のふりをしたくて、恋愛総合化学会は、恋愛宗教をするやつらの集まり。だから。才能がある自分に生まれ変わりたかった私は、朱に交わろうとした。
才能がある気分になれば、本当に恋が見つかるかもしれない。


「──恋愛総合化学会は、恋愛を研究する機関の中枢。
内部にいれば、44街がやろうとしている恋愛、という宗教の秘密を暴けると思ったの。あなたたちの、やっている、スキダ狩り──それに利用している粉、あれが恋を引き起こすのならそれがあんな違法な形で知られたら…………」

 私は大人びた口調で諭す。
塀の向こうの公民館では、今日も「話を聞く」、という建前のめぐめぐの取り調べが続いている。
カグヤという子は、祖母が倒れたので病院に付き添うらしく、今この場にいるのは彼女だけだ。

「けどっ、スキダを狩れば、告白が始まらない。告白が始まらないなら、恋愛は始まらないんだ、他に方法があるっていうのか?」 

 着ていたスーツの裾が、強風に煽られる。
冷たい風が全身に吹き付け、薄いシャツを通して肌に染みた。

「……恋愛が、始まらないと総合化出来ない。総合化して、恋愛というシステムを平等に享受しさえすれば、やがてこんな苦しい世界はなくなる! 蔑んだ目を向けられ、犬を殺さなくていいんだ!」

 彼女は、くっ、と唇を噛み締めた。
恋愛がシステムとして機能すれば少子化対策にもなるし、人を好きになれない才能に苦しむ人も居なくなる。望まない見合いなんて単語は消え、みんなシステムを平等に享受した幸福を得るかもしれない。
私はただ、恋愛なんてありもしない幻想を、より科学的に解明するかもしれない、その瞬間を見届ける場に立ち会いたい。

「でも──このまま突き合う人たちを、見てろっていうの!?
告白を見てろっていうの!?
めぐめぐだって、観察してまで恋愛をさせたいってこと? 恋愛総合化学会はそれで得た幸せでいいのか、万本屋は、それで!!」

 公民館の裏側のドアが開く気配がした。
私たちは慌ててそちらを見る。
どこかに移動するらしい。

「──留置所かなんかか?」

彼女が不思議そうに言う。いや、違う。


「恐らく──市庁舎だ」

「市庁舎! なぜ! 姉貴がなぜ市庁舎なんかに」

「悪いが今それを説明することはできないけれど、乗って!」

万本屋は、近くに止めていた車を指差す。
彼女はぽかんと車を見た。
「私も市庁舎に行く。行くなら早く」

「──どうして……」

「単に、目的地が同じなだけだよ」
















「……よく来てくれましたね」

 某日、明け方。
市庁舎に来客があった。明かりのついていない市庁舎の一室は、明け方なだけあり、大きく開かれた窓からの日光だけで充分に明るい。
 その一室、大きなデスクの置かれた部屋の中央にいる市長は、その魚顔からのぞくギザ歯を見せがらニヤリと笑って来客を出迎える。
この頭が魚の存在こそ、44街を治める今の長である。
「前の(さきの)大戦の後、あなたがまさか生きているとは、思いもよりませんでしたが……、ねぇ、大樹さん」

目の前に居る椅子は、軽く頷きながら地面に降り立つ。此処までは空を飛行して来ている。

──なんのために、個人情報を集めた。

「おや、いきなり本題ですか、そう気が急いていては、冷静な取引が出来ませんよ」

──やはり金か。姫が邪魔だという連中に、悪魔として売り渡してまで得た地位なのだろう。

「ウフフフ、それをお答えするとどんないい事があるかしら?」


椅子は光輝いた。手足から触手を生やし、市長の魚頭目掛けていく。
 市長は魚頭に触手をからめられつつも、手元の時計を見て録画したかな、などと呟いている。
「ヒーリングお嬢様、みました? インコ教団地とか……今日の朝からスタートなんです」

──御託はいいんだよ。
私はここで市長とのんびり語る気はない。


 かつて市長と同世代──超恋愛世代の起こした大戦は、人々の著しい精神汚染を招いた。
 癒しを求めてパワースポットに集まった彼らはさらなる土地の汚染を広げ、自分たちの私利私欲で争い合う。
 やがて、人間の薄汚い欲にまみれた土地は大樹が根付く場所をも汚染した。

「まぁ、そう言わないで。
もう、どこにも精神汚染を受けないで生存している大樹はないと、そう言われていたのに……あなたは面白い。旧友にあったかのようで……あぁ! なんとも懐かしい……どうやって、今のようになったの?」

──戦後、確かに人間の身勝手な癒しを求める欲の汚染により、毒素を排出するだけとなった私は、伐採されることになった。 だが、そんな私を唯一、椅子に生まれ変わらせた者が居た。
それだけだよ。

欲にまみれた、癒されたい、逃げ込みたいと各地を荒らしては何も還元しない人間たちのなかで、その者の感情は椅子には新しく、また、自身が汚染から守られ癒やされるのを感じた。


「んー、気になる……木だけにね」

──……。

「あなたの目的は、私が『悪魔』を売り渡すことを容認しているか調べること?」

──いや、それはすでにわかっていることだ。
44街付近の市民データベースへのアクセスには市長の許可が居るものもある。
悪魔、に接触禁止のお触れを出す役目もスーパーシティ条例の裏に盛り込まれていた。

「…………鋭い、椅子ね。素敵よ」

──超恋愛世代の生き残りである市長が、ようやく大戦による精神汚染がまだ浸透していない、新世代を監視するとはね。

「こっちにもいろいろあるの。ねぇ、私がしていることに気付いてるのだとしたら、あなたは」

──辞めさせに来たに決まっている。


 椅子が触手を市長の首にからめ、少しずつ微妙な力加減で締め上げる。
怯えを感じた市長は叫んだ。

「強制恋愛条例──だって……だって私は! 魚頭ナンダモォン!!!!!魚頭を受け入れてくれる人なんか居ないモォン!!! アアアアアアーー!! 好きぃ!!! 好きぃーー!」


────これは……


「夢で、デートする夢を見るの!! 目があった人全員が、市長をオオオオ!!!
イヤアアアア!!! 沸いてくるのぉ! 人間は沸いてくるのぉ!」


──……

市長は髪を振り乱して叫ぶ。
そのとき、ドアがノックされ、秘書の嘉多山が入って来る。

「市長、学会からお電話です」
椅子は慌ててデスクの影に隠れ、市長ははっとしたようにそちらに向かった。

「接触禁止令の許可を? しかし、面談しないことには……はい、ええ、はい、わかりました」



部屋の奥から、市長の通話する声が聞こえる。椅子は、精神汚染が広がるのが嫌だった。
(めぐめぐを閉じ込めたりすれば、またしても彷徨うスキダの数が増えてしまう……

しかしそれにしても、驚いた。
まさかあそこまで体がスキダに一体化した人間が居るなんて。頭まで魚そのものの形に変わるにはよほどスキダを自分自身に取り込み、理性で制御できない程に肉体ごと書きかわったとしか考えられない。
目があった人全員が市長のものという妄想を抱えるほどに肥大化した。もはや現実の区別がついていないのだろう。
────────────



 椅子がひとまず、市庁舎の市長室から様子を伺っていると本当にめぐめぐと誰かが建物内部に入って来たような賑やかな声が廊下から聞こえ始めた。
此処ではなく会議用の部屋のひとつで話すらしい。
「貴方の家にはウォール作戦のときに非常にお世話になりました」

 そーっと廊下に出て聞き耳を立てる椅子に、市長の挨拶が聞こえてくる。
ウォール作戦は知っている。
総合化学会や一部の権力者が失敗『させた』作戦だ。

「残念ながら、大樹を伐採し直接街に用いても、なんの効果も得られなかったことは悔やまれますが……あのときは助かりました」
「壁ごときでは、人類が大樹の防壁の内部に立ち入るくらい出来たこと。元から守れなかったのよ」

 誰かが、話し合っている。椅子は黙ったまま触手を伸ばして輝かせた。クリスタルが空に舞う。



 ウォール作戦、と呼ばれたのは
超恋愛時代の大戦中、キムから逃げる人類が、汚染されていない場所に根付いた大樹を囲む壁を破壊するものだった。
 それは大樹のための防壁で、その近くにあった大樹の街ごとに精神汚染を食い止めるために築かれていた壁だったのだが、自分たちを恐れ、自分たちの進行を防ぐためのものであると思い上がった人間たちが破壊した。
プロの泥棒は防犯シールの貼られた家を狙う、なんて話があるが、壁がまさにその防犯シールだったのだ。

 総合化学会や一部の権力者が指示し、失敗『させた』作戦。その結果44街はどこにいっても、椅子にとってすっかり汚染された街だった。汚染だけではない、大樹にすがる人間が本当に恐れる悪魔であったキムも、喜んで食い物にする街。

 地獄のなか椅子に出来たのは、嵐の吹き荒れたあの日。まだ汚染されていない『壁に守られた』『孤独な』その場所に向かうことだけ。
──迫害され、嫌われる悪魔の子。
誰から嫌われることも厭わない精神は、誰からも汚染されない。


──笑わせる。

一体誰が、人類なんてちっぽけなもののためだけに、壁を築くというのだ?
人間は壁を己の身体のみで破るには相当な気力や体力が要る。通常、精神が汚染されている者はわざわざ壁を壊さない。
少なくとも精神汚染の足止めくらいはしていたのだ。


 それを、よくも思い上がったものだった。
(愚かな……)
 そう思ったときに椅子の足の一部は少しだけ黒くくすんだ。
あの家の外は、今もまだ格段に汚染が広がりやすいことを失念していた。

────……………………


 大樹と同じように、隔離するべきものにすら築いた壁を勝手に壊し外部と繋がりを強制的に持つ人間が増えた現代。

──わかってはいる。
この美しい輝きは、戦争で精神が麻痺した彼らには捉えることすら出来ない。
私は彼らにはただの木だと。




「めぐめぐは、あなたの名誉の道具!?」

と、考え事をしていたら、部屋に誰かが乱入した。

「あら! 万本屋さん!」

市長が驚きの声をあげる。

────さて……

椅子は考えた。悪魔の子、の例は極端だ。めぐめぐを閉じ込めても汚染の引き金にしかならない。
 椅子にもわかる。
もうどこにも、あの頃のような、壁、なんて無い。
ならば闘わなくてはいけない。
 キラキラしたクリスタルの粒子が、椅子の周りで輝く。
市庁舎の周りにクラスターを発生させるべく、それは大気を漂って外へ向かう。

2021030803:42














 朝食後。
「見たことがあるから」と言った少女は、その先を言わずに逃げるように皿を洗い始めてしまった。
『アサヒもちょっと片付け手伝って!』を俺に告げた後は今も黙々と片付けている。
クロの話って言いにくいものなんだろうか。


 ってことで手持無沙汰な俺は、素直にそうして再び部屋の掃除をすることに。どうせ暇だし。
(この部屋で、コリゴリが死んだのか……)

 改めて見ても部屋は本当に酷い荒れようだった。棚は倒され、床に血が飛び散り、紙や物が散乱している。
けれど、この荒れようは、彼女たちが戦ったという証拠。
あちこちに残る血痕は、彼女たちが自分の気持ちと戦って出来た、生きる証。悲しくも、愛しいような、そんな気がして──少しだけ勿体ない気がして、せつなくなる。
(それでも、片付けないと過ごしにくいことくらいわかっている)


 がさ、がさ、と紙をまとめる音が静かな部屋に響く。
一面に広がる血や何かの汚れを拭き取る。
──少し、胸が、痛い。

 床に大量あった『あの紙』は、既にいくらかなくなっては居たが、まだ部屋のあちこちに散らばる盗撮写真や虐めのような言葉が並ぶチラシがないわけではなくて、見つかるその数々にうんざりする。
なんだか馬鹿らしかった。
 「こんなことが、観察屋の本当の使われ方だったなんてな……」

非道だ。鬼畜だ。
『これ』を撮ったやつを殴りたい。
もしかしたら依頼されただけかもしれないけど、これだけ見たら、そりゃ思うだろうな。俺だって思う。
そして黒幕はいつも尻尾を切るだけ。悪天候フライトまでして、やることなのか。コリゴリも、もしかしたらエリートになってまでやらされていたことが何かに気が付いてしまったのかもしれない。

本当のことは、もうわからない。
──俺にはただ、『こんな部屋』で楽しそうに暮らしてほのぼのと会話しているなんて狂気を、頭が固いか脳筋、に極端に偏った『英才教育』のエリート観察屋が受け入れられたように思えなくて……ちょっとだけ、言葉に出来ない何かを、思う。
(──そういえば、少女があのとき椅子と戦っていた『あのよくわからない存在』は、このような紙から這い出てきて部屋中を動いていたような気がする)
 ゾッとする。あれに怯えながら暮らすなんて、とてもじゃないが正気を保てる自信がない。
ただでさえ、こんな文字や写真、嬉しくないだろうに。
(──写真か)
写真は魂を映す。魂を吸いとられる、昔の人たちはよくそんなことを口にしている。
うちの父母も、写真が苦手だった。
小さい頃は写真ごときで魂を吸いとられるなんてわけはないと馬鹿にしていたし、撮影に何時間も動かずに居なくてはならなかったための貧血という何かの解説を信じていたんだが──本当に、それだけだったのか?
 もしかしたら昔の人たちは『あれが』見えていたのではないか。見えなくとも、よくない使われ方をすると何が起きるかを薄々感じていたのかもしれない。
 もしかしたら、俺が観察屋になるより前から、あれは居て、あれを呼び出すだけの依り代を観察屋が作っていたのだろうか。
……だとしたらあれは、俺たちが産み出した、俺たちの罪。

(──もし、彼女や誰かを『悪魔』として隔離してまで、ギョウザさんたちが『この事実』をずっと隠してるんだとしたら……)



「どうかしたの?」

──声がかかって、我に返る。
少女が食器を片付け終えてこちらに来ていた。

「いや、その……」

思わずこちらまで目をそらしてしまったが、周りがあちこち血だらけなので余計に気まずくなった。
「……すごい、部屋だなって」

言ってから、失言かもしれないと慌てる。
「あ、いや、違う……俺に出来ることが、あれば良いんだけど──その……えっと」

「ありがとう」

彼女は少しだけ寂しそうに笑った。

「──私、あの子に会ったときも、
この紙に囲まれたときも、思ったの、観察屋が使ってきたあの紙から嫌なものが生み出せるなら、きっと逆も出来るって」

 迫害にあっても、44街があんな風に自分を遠ざけても、そんな風に考えるものなんだろうか。こんな風に、笑うものなんだろうか。

「……逆」

「観察屋が生み出したものが、すべてが敵意を持つ存在に変わるとしても、きっと、依り代になった存在がそれを望んだかはわからない。だから、きっと逆のことが出来る、私にもアサヒにも。それが出来たらきっと何かがわかる気がする」

 いつだって見えるものは嘘だらけだ。幸せそうなのは、幸せだからじゃない。辛そうにするのは、辛いからとは限らない。
それでも幸せを錯覚しているかのような、幸せを享受しているかのような。

「──よく──わからないけれど、それを、やればいいのか」

「うん。きっと出来る」

スケールが大きいな、と言おうと思った。けれど、それだけ44街から隔離されている彼女は既にそういった大きな影響力の枠組みだった。

「孤独に亡くなって、また孤独を思い出す光景に縛られてしまうより少しでも──孤独以外も思い出して、楽しい思いをしてほしい。せっかく神様なんだから」

何かに急いているようだった。何を想っているかは、よくわからない。

「……きっと──、ううん……見張られて居ても、蔑まれていても『私は』まだ、生きていて、失ったわけじゃない」

「えっと、何を──言って、るんだ?」

「アサヒは、言ってたよね、湖の場所にアパートが建ったから、人魚さんはアパートに住むしかなくなった」

「──あぁ」

「村人さんが亡くなったとき、きっと、スキダも住む場所がなくなってしまってたと思う」
「戦っていたくせに、妙なところに引っ掛かるやつだな」

「そう? 人間とかが苦手なだけだよ」
 俺が棚の中身を整理する横で、雑巾で床を拭きながら彼女は淡々と言って、そしてふと、さっきより真面目な声で聞いた。
「──さっき部屋を見て、自分も観察屋だったから、あれを生み出す一因になったって、だから出来ることはって思ったでしょ?」

「──あぁ」

 確かにその通りだった。
なんだか、確信的な言い方だが、コリゴリも、そうだったんだろうか。

「アサヒがどうするのか──何が一番か私にはわからない。けど、だから、そのために、
まずは旅が成功することかな。
 マカロニさんのことがわかれば、あの女の子のこととか、何か役にたつかもしれないからね」

なんだか誤魔化された気がして、少しムッとしながら問い掛ける。

「自分の、願いはないのか」

「私も、アサヒがする旅に意味があると思う──そんな気がする」

「だから──!」

「私は、私で在ることが願いだよ」

 カチャ、と陶器の音がして、棚に食器が並ぶ。彼女は背後の流しでバケツの水を変えながら呟いた。
今度は、冷えきった声だった。
「おばあちゃんも、お母さんも、戸籍屋に個人情報を奪われて居なくなったから」
 なんだか背筋が寒くなってきた。
居なくなった、それは以前にも言っていた言葉だ。亡くなったとか、家出したとかそんな感じじゃなく、まるで消えてなくなったとでも言うような──

「個人情報を奪って、どうするか知ってる? 整形して、近所に住んで、言葉を真似て──それが現代医学でできてしまう。
 小さい頃、私はそれを目の当たりにした」

 彼女が隔離され続けて、自分からは自分の情報をほとんど出さないようにしていたのは、お母さんから聞いた悪魔、の教えを守って居たからだという。知らなければ整形も性格を真似ることもない。
そう、思っていた。

「お母さんたちが居なくなった後、犯人はクロかもしれない、そう教えてくれた人が居てね──
お母さんの知り合いっていうその人が撮ったっていう写真には、お母さんの背後にお母さんに似た人物がまるでエキストラみたいに、映っていた」


















しばらく黙々と部屋を片付けていると、
玄関の方でチャイムが鳴った。窓からそっと覗くと郵便局員がポストに何か、入れて遠ざかっていく。
外に出てポストを開けると少し厚みのある封筒が入っていた。
「──なんだろ?」

 44街からのお知らせ。恋人届けを提出されていない方にお配りしています。
恋人届けを提出すれば恋人割引や保険料などさまざまなサービスが受けられます。
【人間のパートナー】を連れて役場まで、下記の書類を届けてください。
動物、椅子、文房具、人形などはNGです。



 読み進めていくと、恋人届けの催促の手紙だった。人間の、を強調してある。
あのとき笑っていたのは受付だけじゃない。44街の民は、人間を相手にしない者を嘲笑していたし、人間を押し付けるクラスターが発生した。

「うわああああああああああああああああ!!!!!」

呼吸が乱れる。手紙を破り捨ててしまいそうだった。入国許可にも使う書類らしい。家を爆破されたり処刑されるのは嫌、だけど──
「恋人届けくらいでなんだよ、北国に行くんだろ? 椅子が嫌なら適当な人間を書いたりさ」
アサヒが励ましの言葉をくれるが、私はそれどころじゃなかった。
「そんなの絶対嫌だぁっ!!」

なんで、相手が人間じゃないって言っちゃだめなのだろう。クラスターは『まるで何事もなかったかのように』椅子さんのことをスルーした。そして、笑いながら、人間の相手を押し付けて、私も椅子さんも、私と椅子さんの想いも大勢で馬鹿にした。
視界に椅子さんがないかのように扱った。
およそ信じられないような、その光景は、ただただ現実で、私に深い傷を残した。

──信じられるだろうか。
恋愛素晴らしさを語る街が。
恋愛総合化を目指す学会に支配される街が。
その恋愛の素晴らしさに支配される44街の人が。
椅子と人間の恋人が居ると皆で笑い者にする。どんな想いも祝福する、ではなく結局は相手を見定めていたなんて。
「私、椅子のことしか……見てないのに」

 紙をよく読むと、相手が決まらない方向けのスキドウシシステム、による相性診断もしているとのことだった。
私、椅子さん、って名前まで書いたよね。
それを無視しているってどういう事?

「提出した! 私、ちゃんと提出したのに! なにそれ、私の好みにまで口を出す権利があるの!?」

 44街の人たちだって! 私は、街の人以下!?今まで話しかけもしてこないでせつに関わっていただけの街の人まで、
私が、初めて椅子を好きになっても祝福すらしないで、皆で笑い者にするんだ。

アサヒがちらりと封筒に目をやりながら苦笑した。
 「嘘をつけば済むだろ? 」

私はむきになって声を張り上げる。

「済まない! それに私、初めて、椅子を好きになったんだよ……ワクワクしながら、椅子さんのことを書いた……!
椅子さん以外を書いてなかったことにしたくないよ!」

 気が動転していたが、アサヒが倒れた棚を設置しなおすといって抱えたので私も手伝う。
改めて見るとだいぶん部屋が 片付いてきた。
それは、きっと、良いことだった。
 設置しなおした棚に、手作業でコップや、皿が棚に戻していく。

(コップ、かぁ……)
スライムとの会話が、脳裏に焼き付いて離れない。

 私が、コップのことが好きだったときも、私はコップを手に持ってさえいればカップルに見えているはず。と信じていた。
それだけ『スライムではなくて』コップのことが好きだった。
だから、信じていた。

 だけど──スライムの視界には、私単体しか見えてなかったせいで勘違いさせた。
(スライムの友達、悲しんだだろうな……
私一人のために暴れるなんて。
スライムの友達と仲良くなっておけば、スライムが私に執着する前に止められたのかもしれない。ごめんね、スライム、スライムの友達)


ん?
 そういえば、さっきから二人で片付けているのみで、女の子の声が聞こえない。
あの子はどうしているかな……
部屋を覗こうとしたそのときだった。
ドシン、と床に今まで感じたことのない揺れと衝撃が走った。

「なんだ?」

しばらくだまったままでいたアサヒも辺りを見渡す。そして窓を覗きにいく。私はその背中を見ながらも女の子の様子を────女の子も、窓を見ている。

「どうしたの?」

 私も窓を見る。窓の外に居たのは巨大な人型のロボットだった。
魚の形になって分散しているクリスタルとロボットが戦っている。
「やめて!!」
思わず叫んだ。

「お姉ちゃん……?」

女の子が怪訝そうにする。

「やめて!! 椅子さんを傷付けないで!」

 玄関に回り、靴を履いて飛び出す。
奇妙な感覚。理屈ではなく体が動いていた。まるで恋みたいだ。
「外出するなら、俺も自宅に帰ってきたいんだが」
アサヒが言う。
「着替えとか、荷物を持ってかなきゃならん……看病とかでしばらく世話になっていたが」
「え。だけどアサヒ、探されてるでしょ?コリゴリも来たし、大丈夫?」

「うまく逃げるつもりだけど、わからん」
























 巨大なロボットと戦っているクリスタルを見て『あれは、椅子さんだ』と私は直感的にそう思った。
そうとしか考えることが出来なかった。

「殺すなら、私を殺せばいいでしょ! 私だって悪魔よ! ロボットさんの敵でしかないんだから!」

聞こえるかどうかはわからないけれど叫びながら、見えている方角を目指す。
「えと……たしか、こっちの方だったよね?」

 坂道を下るにつれて普通なら、椅子さんたちの位置が周りの景色に溶け込んでしまうのだが、さすがに巨大なロボットなだけあって、見失うことはなかった。
だけど、どうして椅子さんを攻撃してきているんだろう?  ロボットに椅子さんから絡んだ様子は今までなかったのに。
私が知らないうちに何か、あったのだろうか。
──でも、こんなの、一方的だ。

 椅子さんは黙ったまま、市庁舎の近くにあるビルの真上に君臨するように浮いていた。ロボットも同じく、集まってくるクリスタルをものともせずに堂々と佇んでいる。
「椅子さんをいじめないでっ!」

椅子さんの近くに行こうと走る。
椅子さんは上空からちらっとこちらを見て『危ないよ』とだけ言った。
木でいると素材的に摩擦に負けやすいらしくて体をあの光で覆っているようだが、確かに椅子さんだった。

「どうしてこんなことするの!?」

『ハハッ、期待を裏切る者の末路が此方ですか──』
ロボットの口のスピーカー部分から、誰かの声が投げられた。
期待? なんのことだろう。

『処分されたくないなら今のうちに、逃げた方がいい』

「私は、期待なんか知らない! でも、私逃げない。私だってあなたの敵だから!」

『いいから、早く退いてください、次こそは数を減らして我々がもっとうまく使うつもりですから』

「うまく使うって何!?」

 ロボットは腕から短剣らしきものを取り出して構える。

──あら、銃器の許可は降りていない?

椅子さんが質問すると、ロボットはそちらに向かって切りつけた。

『……家具風情が』

椅子さんはそれをかわして静かに浮いている。……不思議な光景だ。

──使うことばかり。
そんなに、あの子たちを素材に使わなければ、自分では何も出来ないのか。
名誉毀損だなんてよく言えたものだ。

 椅子さんの近くに行きたいが、浮いているため届かない。

「ねぇ、何が起きて──」

振り向いて、誰かに話し掛けようとして気付く。アサヒは着替えとかを取りに向かっている。女の子も一緒に行ったらしいので、ここには私だけ。
強い風が吹いて、私の体勢が思わずくずれる。
ロボットが一歩、歩いたのだ。

『うまく使う、使ってみせる──!』

えと……使う、って私たちのこと!?

──迫害や事故、爆撃にあった家をどうコメディにするかしか考えないのか。


『迫害? 爆撃? それにあえば、経験から魔の者に勝てるのなら、安いじゃないか! 私だって虐待に合いたい! 私だって強くなる力がほしい! 虐待にあった子が、目の前で私を飛び越えていくのなら、私も虐待を受けて力を手にしたい。悔しいじゃないか!


力がほしい! 簡単に敵をキャッチ出来るような、虐待にあった子の力、経験が!


簡単に!』

何を言っているのか、よくわからなかった。虐待にあった子が、耐え抜くことが、目の前でそれを乗り越えて先に行くことがそんなに不愉快だなんて……
それが出来るなら虐待を受けてみたいなんて。簡単に、なんていうけど、きっと並大抵の努力じゃないはずだ、それすら、簡単に行ったようにしか想像が出来ない……いや、想像力が、備わっていないのか。
このロボットには他人の努力も、他人の痛みも認識し理解することが出来ないんだ。
ただ、力が欲しい。
力を得るためなら、何だっていい。
傷付いていても、爆撃にあっても、迫害からどうにか抜け出そうとしても、何も、感じない。ちょうどいい力でさえあるのなら


 走り出したロボットが椅子さんに向かって飛び上がる。同時に椅子さんが唸る。そして強い光に包まれて輝きだした。

────ガタッ!!!

────────ガタッ!!!!

────クラスターを発動。

『ハハッ。この近辺はあのお方のクラスターが固めているんだから、他のクラスターが入る隙なんてないのだ!』

確かに、クラスターが集まってくる。気が付くと街のあちこちから、クラスターが現れていた。
「えっ!」
そして、気が付くと、私の両脇に光輝く人型が立っていて、両腕を掴もうとしていた。思わず立ち上がる私の体を両方から引っ張る。
『いいか、そいつは迫害にあった人間のサンプル素材だ! なかなか手に入らんから殺すなよ!』

ロボットが、迫害にあった人間のサンプル素材、の力を殺さないよう指示を出す。

「離して! 私は、素材になるために迫害にあったんじゃない!!その力は、私のものよ!! 迫害されてまで手にした、私のためのものなのよ!」

『そうか、ならば、わかったぞ!
クラスターを発動!
お前に見せよう、だから迫害のちからの本領を見せてみろ!

クラスター効果──再現──事件現場!



 無意識に瞑っていた目を開けたとき、現れたのはいつもと変わらぬ町だった。ただし、それはある一軒の新しい家が建っていることなどを覗いてだ。

(ここは……)

 玄関先に育てられている小さな花やミニトマトを眺めながら、その家、を見上げる。ちょうど、ドアから自分を幼くしたような女の子が出てきた。


「人と、人が、いまーす」

両手で人形をふたつ手にして庭で遊んでいるみたいだ。

「うわーー」

どしん、と片方が庭に投げ出されると女の子は無邪気に笑った。
「地面にくっついたな! お前、土や草のことが好きなんだろう!」
片方の人形に、庭に投げ出された方をゆびさして言わせると、もう片方
も動かす。
「おかしい。くっついたくらいで、恋人なら、接着剤には何人の愛人がいるんですか!」
「なにも触るんじゃない!」

「いいえ、何を触ったとしても、それが恋だなんておかしすぎます。朝おきて、あなたに会うまでにさまざまなものが手に触れました、口にも触れました、だからなんだというのです? それが人に何か、批難する理由になりますか」

「なるさ! それはうわきだ。
これから、家にあるコップを壊してこよう」
 人形は人の形を模していることがわかるくらいで、ほとんどピクトグラムのように表情がなく、人によっては不気味にも映るかもしれない。けれどその子は気に入っている様子だった。

「あなたは、何を触っても良いのよ」

 女の子は独り言のように呟いて、人形を膝の上に置き、自分自身をぎゅっと抱きしめると、ぼーっと座り込む。

「あの人が口にする食べ物だって、触れて体内に入っていく。私はとがめたことがない」

 家の中から誰かの呼ぶ声がして彼女は家の中に戻っていく。
異様な光景をしばらくじっと見守っていたが、同じくしばらく静かにしていたロボットが腕を伸ばして手をグー、パー、と開いたり閉じたりしながら嬉しそうに言った。

『正しく着いたようだな!』

 場所を確認して頷いたロボットの目からレーザー光線が放たれる。視界に見えていた空間が宇宙のように大きく広がり始めた。
『懐かしいだろう? ここにあるものは、お前に映る現場を我々の記録技術によって
一部だけ再現したものだ』

 レーザー光線を放たれると、家や街がどんどん透明に変わっては消えていく。建物の中に人が居る様子が映り、それが次第に溶けてなくなる。此処、は偽物で、生き物じゃないことは知っていてもなんだか良心が痛んだ。なんのために、こんなことを。
 
『この場所の発想はなかったって感じですな。なんだか凄い気が満ちているような気がする! 
これで、これを浴びていれば私も凄い存在になれる……!』

 はしゃいでいるロボットの脇から、むくりと透明の存在が起き上がると、一度破壊した周囲の、あの家の近くだけが修復され始めた。
 先ほど焼き払われた『透明な存在』の、いくつかが雪のように舞い降り、ロボットの周囲に集まってくる。私のところにも降り注いだ。ひんやりして心地いい。

『さあ、透明化させた迫害の力を浴びるときだ!!』

 ロボットに降り注いだ透明な何かがやがて意思を持つかのように金色に輝くと機体に溶け込んだ。せっかく再現したのに空間のみを残して建造物や人間を取り払う必要があるのだろうかと思っていたが消えたばかりの概念体だけを吸収するためか。
確かに一瞬でそれをするには人力では到底難しい。

透明になった雪は、ロボットの身体を禍禍しくパーツごとに変化させていく。ロボットの身体がより固そうに艶と光沢を帯び、継ぎ目が細く引き締まると同時に、固い素材感のある羽が生えていた。
『美しい……! 迫害は、いじめは、痛みは、美しい……! 他人のを纏うとよりいっそう輝くな!』

 私は目で椅子さんを探す。
そういえばどうして、椅子さんはこの人と戦っているんだろう?
あと、このロボットはそもそも何なんだろう? 椅子さんのように、ロボットが好きな誰かの、恋人だろうか。

「──椅子さーん」

『どうした? お前の、空間だ! 
戦いやすいように此処に合わせたんだから、さっそくお前の力を見せてみろ!  
使われたくなきゃ、その迫害の素材にどれだけ価値があるか、証明して見せてくれ!』

価値?
迫害の力?
使われたくなきゃ素材にどれだけ力があるか証明?
何を言われてるかわからない台詞が並ぶ。
そもそも使われたくなきゃっておかしくない?
「私は、こんなところで戦っている場合じゃないの! あなたに証明して何になる?」

『負けるのが怖いのか!』

 ロボットは短剣を構えて腕を振り下ろすそぶりを見せる。
人と人とが仲良く張り合ったり、喧嘩したり、好きになったり、そんなのをわざわざやるなんていかにも他人を好きになる才能がある人がやることで、私は好みじゃなかった。
絡まれて、彼と何か関係があるように思われるのはごめんだ。

「あなたこそ、自分より若い人と同じ空間で張り合ったりしてみっともないと思わないの?」

 走りだそうとして、身体がぐっと両端から押される。そうだった、このロボットのクラスターだ。

『────思わないね!』

嬉しそうな声とともに、ロボットは少しずつこちらに迫ってくる。

『さぁ、戦え~~! 迫害の証明だ~!
じゃないと、《使われる》ぞ~~!!!』

「いやあああああああああああ!!」

 短剣を持っていない片方の手には、血塗れの物体──首から上の無い誰かの死体がつまみ上げられて不安定に指先で揺れていた。
『ふうん、この落ちていた死体は、強さに関係があるのか』
 ロボットは透明な家から、次々と引っ張りだして身に付けていく。透明な死体を食べ、庭に転がった髪飾りを指輪のように指にはめている。あれ、ロボットって死体を食べるんだっけ。
一体化していくのを眺めたまま、私はクラスターのせいで動けない。

 もがく指先に、どこかから飛来した紙飛行機が当たる。

「椅子……さん……」

椅子さんのクラスターだ。
だけど、椅子さんは何処に居るんだろう。

『さぁ、その強さで、これらのパーツになった存在を、すべて私と分離させてみろ!』


 透明になった家の中では、揉み合いが起きている。血の気が引くような光景。
ヒントがあの中にある。
答えが。

『それが出来なければ』────!














(2021/3/13/13:30)


「私たちには話す機会も与えられないのか!」

カフェの席のひとつで、市庁舎から追い出された金髪の少女が嘆いたとき、万本屋北香は横で提案をしていた。

「迷惑をかけてしまったので私個人の選択でやった、すべての責任を負いますから発表の段取りをしてほしいと、嘘の相談をもちかけるのはどう?」

確かに、そうしたら高い可能性で時間を作ってくれるかもしれない。

「会えばこっちのものよ。
自分の学会での功績アピールに話しをすり替える、とかしてさ」






















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