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■先輩と後輩と、貯金箱3■
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展示だ! に、みんなが込めたのがなんだったのかはそれぞれの考えだろうが、単純に、展示、が指すことについて説明する。学校の式典や行事、などに、必ず体育館に出てくる、学校ならではのものはないだろうか。割れたらやばそうなつぼとか、この花を飾る、とか。
そこについては置くが、まあとにかく、初代校長像は、この学校では、そういうところにほとんど参加する像なのだった。(たぶん、そこに関わった人を疑ってるんだろう)
まん前、とは言わないが、体育館入り口近くの右端に、だいたい持って来られて飾ってあったりする。
ただし、普段の全校集会などをのぞく。
「――いや、ばかな。あれは本当に、ただの像であって、貯金箱の方じゃ……」
一人、展示だ! とは言わなかったらしい、校長が、口ひげに指をのせて答えたのを見て、まつりは何かの確信を強めたらしかった。
「――やっぱり、本来の像も、あるんですね。で、そちらはどうされたんですか? なぜ本日は、そもそも、似ている方を、棚の上に出されていたのでしょうか」
早口ではないが、それなりにぐいぐい迫るように雑に言われて、校長は少し気圧されたようだった。
説明にも、解決にも、早くも飽きているらしい。雑になるのはそのせいだろう。まつりにとってはこの手の事件は場所が学校なだけに、それなりに真面目に、筋書き通りの仕事(?)をしないとならないので、窮屈なのかもしれない。
ちなみにぼくは、気力がわかない。ぼやーっと立っているだけだ。下手に割ってはいるとややこしいので脇役である。校長は、戸惑ったように答える。
「……像は――私は、その、知らないですよ」
そこについて、まつりは深くは触れなかった。ただ、頷いたくらいだ。
「――わかりました。その像の残骸なら、たぶん美術倉庫あたりにまだ、あるんじゃないでしょうか。この辺りのことは、部外者にはわかりませんから、断言しませんが。とにかくこれは頭と胴体を組み合わせていますが、たぶん、二つは別のものです」
「でも、なんで、似たような像があるって」
「……なんか見たことがあると思ったんだよ、数年前に、ちょっとこの学校に寄ったときに。あとおじいさまが、自分の頭部ばっかり作ってるって昔聞いてたからさ。見たときにあったのは……こんなのは巻いていなかったけど」
こんなの、と、置かれたえりまきを指さして、怪訝な顔をする。
身内という贔屓目を持ってしても、たぶん理解出来ないセンスなんだろう。
「……えーっとね。頭が貯金箱で空洞でー、首が、すぽっとはまるってこと、かな? それで首ごと頭が折れた……っていうか、さすがな趣味……」
「『頭の中が、知的な好奇心で溢れるような――』って、前に読んだな、卒業生の文集の最初にある、学校についてのページで……」
ぼくが思い出して言うと、なにかツボを押さえてしまったのか、まつりは笑いだしてしまった。
頭の中、弾けすぎだよ! とつっこみながら。
その笑いにはついていけなかったが、おそらくは、頭が割れたからとかそういう意味ではなく、まつりの知る、おじいさまという人の、ギャップだとか、人柄的な、なにかを思い起こしての笑いだったんだろうと解釈する。
「で、犯人は誰なんですか!」
今までずっと黙っていた八木が、ようやく息をしたかのように挙手で質問した。たぶん、悪いやつではない。――が、やや、その元気が、主に、疲れぎみの耳や頭には、その存在が強く反響しすぎるというか……
突然の質問だが、まつりはそれなりに柔らかく対応して答える。
「犯人? 割れたっていうか、もともと合っていないから――ってことじゃなく、この事態を招いた犯人ってことになると、似たような像がここにあるってこと知っていて、校長室に出入り出来るから校内の人物で、最初に――――」
二、三語、つけ足して、それだけ言ったら、じゃあ帰ります、とまつりは校長室を出ようとして、何かに気がついたように、振り向き、ぼくを引っ張りに来た。はいはいとそちらに向かう。盾になるのはぼくの方だったか……
まあ、あとは、なんとかなるだろう。背後では、何やら会議が始まりそうだった。
安心は、手っ取り早く、である。
□
「あ、そうそう、この泉、……昔は、金魚飼ってると思ってたんだよな」
帰り道、校庭の、まさに庭、奥に見える泉を見て、ぼくがそう感慨にふけっていると、まつりは一瞬、その泉を一瞥してから、ふうん、と呟いた。興味無さげだ。
「お前もなんか、願い事してきたら? コインを投げ入れたら、ガマガエル様が叶えてくれるらしいぞ」
電話で聞き流しまくったはずの八木からの受け売りだ。聞いてなかったはずが、なぜか覚えているらしい。そういえば思い出した。 少し前までは髪を首までだらんと長くしていた、美術部の幽霊部員(って噂)だ。髪が長かった人が居なくなったな? とは思っていたが、暑くなったとかで切ったのか。
まつりは、外に出た途端、しばらく無言で先を歩いていたが、ふと何かに気付いたらしく、ぼくの方をちらりとみて、呟いた。
「……かぼちゃプリン、無くした……」
「あらら」
少し切なそうだったので、仕方がないから、何か……焼き鳥とか代わりに買って来た方がいいんだろうかと考えていたら、まつりは相変わらず、切り替えた。
「……ま、いっか!」
5
あれ以来、ぼくは携帯電話の電池を抜いていた。
あの日から、女子からも男子からも、メールがやたらと来たからだ。理由は伏せるので、聞かないで欲しい。
最後に電話に出たとき、八木が魂の叫びをスピーカーが耐え切れなくなりそうな音量で伝え出したので、トラウマ気味でもある。
『丸焼きじゃなきゃダメだったのかなあああ!?』 とのことたが、そんなのはぼくが知ったことではない。本当に。
どちらみち、学校に行けば彼らに会ってしまうのだが――しばらく登校がつらい……下手に好奇心で動いてみるものではないなと思った。
「今日は、ありがとな」
だらーんと、リビングで倒れているまつりに、なんとなく声をかけると、一瞬こちらを向いて、視界がぼやけるのか、目をぱちぱちと動かしてから、不思議そうに首を傾げた。
「……その、なんていうか――」
ぼくはあわてて何かを言いかける。
――と、同時くらいに、まつりはぼくに言った。残念そうに。
「あれ、処分出来ないなあ」
「……まあ、な。でも来年、校長先生が定年になるらしいし、変わったら、また変わるかも、その辺り」
結局、件の誰かについてを他の生徒たちの前で言わなかった辺りが、まつりらしいが(余計に騒がしくなることが嫌で避けたんだろう)、あれから、その事態に関わった犯人は見つかり、先生たちに怒られはしたものの、処分は軽かったようだ。
――と、ぼくがそう話し始めた頃、まつりはさっさとどこかの部屋に消えていた。
「あれ……まあ、いいか」
仕方がないので、ソファーの真下あたり、床に大胆にも放り投げられたままの上着を片付けようと掴んでみる。
と――なんだか重たい。
まさか、なあと、ポケットを探ってみたところ、どうみてもシェイクされていそうなプリンの入った袋が見つかった。ちょうど、上着を取りに部屋に戻って来たらしいまつりが、それを目撃する。
「あー……」
微妙な顔でそれを眺めたので、なんとなくおかしくなって、ぼくは吹き出した。
まつりは、変なものを眺めるように、しばらく、笑い出すぼくを見ていたのだった。
end.
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