かいせん(line)

たくひあい

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Messiah complex

彼らの優しさの中では息が出来ない

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「いきなり来たのになんだけど、でも、行かなきゃいけない、と思う」

「裕子さん、って聞いて思い出す用事って」


答えない。
足元で何かの気配を感じて振り向くと、コロコロ……と何処かから毛糸が転がって来ていた。ずっと電気がついて居ないのもあって、さっきは気付かなかったけどさっきからあったのだろうか。

「なんだかアキと、重なるな」
さして気にする様子もなく、瀬戸さんが言う。

「え?」

「いや……」
瀬戸さんはなんだか言いにくそうにしながら、アキは編み物が趣味だったんだよ。とよく分からないことを言った。
だからあちこちに毛糸が落ちている、とか。

過去形。アキに何かあったのだろうか。

「自殺したんだよ。
アキの気持ちは俺には描けない……何を言えば良かったのか。
あいつを傷つけない言葉が俺には分からない。
そんなときに、君を見ていたら、重ねてしまったかもしれない」

「…………そんなもの」


何か、言おうとした。
でも言えなかった。



……。
ポケットを探る。
端末を出し、最寄りのバス停を検索する。
バスは今から行けば、幸い1時間程度で来るようだ。

「あのさ」

地図をみる横で、瀬戸さんが言う。
「何」

「これで嫌いになったりはしないで欲しいんだ。対立はしたくないと思ってる」
「…………」

――――その言葉に俺は、答えない。







そのまま数秒、数分、随分長い時間が経ったような気がするが、ほんの10分程度だろう。
そのくらいの沈黙を置いて、ようやく彼は何か決めたらしい。
ヨーちゃんを抱きかかえると共に静かに奥へと消えていった。







静寂が訪れると、深く息を吐き出した。



「先手を打とうとするなんて」「俺が決めることだよな」「対立したらまずいのか?」
様々な感情が溢れて、言葉にならなかった。

どんな言葉があれば良いか、何をしたら良いか。
そんなの、あるわけないじゃないか。
あたえて、あたえて、あたえて、あたえて、あたえても、それじゃ、何も救えない。

優しい言葉や幸せな世界だけ見ていると、いつかはそれを画面越しにしか得られない自分の存在に耐えられなくなる。

そのときに残るものなんて無い。
手にする事を、許さなかった誰かを
許せない気持ち以外残りはしないのだ。

いつか致死量に達する毒。
それが、彼だったのかもしれない。


  
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