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Messiah complex
天才
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「俺は、俺だよ。藍鶴色」
「――はぁ」
瀬戸さんが呆然とした顔になる。
「それは知ってる。あの事務所の人、って話ではあったけど」
「なら、聞いてないですか?」
瀬戸さんは首を横に振る。
「いや、上辺しか知らない。あそこって表向きは謎が多いんだよ……解決してない事件専門の謎の天才集団ってことになってるし」
外から見た自分たちの評価は意外だった。
未解決事件なだけあって検挙率も高くなく組織内でも目立つ事が少ない、警察関係や内部でも追い出し部屋の窓際集団、みたいな笑われ方をされているのだとそう、思って居たが――――そもそも未解決事件を解くこと自体がそう容易くないのか。
「天才、か」
努力以前の、生体、イレギュラーそのものとしての天才。
確かにそれは生まれ持った天賦の才、能力そのもの。
生まれつきそうであることを才能とするのなら、確かに藍鶴色は天才の一人なのだろう。
「俺は、藍鶴色。
幼少の頃から未来的なものを知覚する事があって、生れてからずっと怖がられたり行動を制限されてきた」
――――生まれ持っての、才能。
苦い、苦い、思い出。
手放しでも喜べないし、かといって悲しみだけでもない。
どういっていいかわからない気持ちだった。
「界瀬や貴方がそうであるように、あの場所では予知能力者、と名乗っている」
俺は言う。
――――頭の中で、雪が舞っている。
高いところからひらひらと落ちて来る。
瀬戸さんが、目を丸くする。
そうなのかと納得する感情と共に、いや、それよりも今のこの、魚が死んだりする状況はその話と何か関連があるのかと聞きたそうな目。
「その事なんだけど」
俺は少し考えたが、一部だけ端折って伝えてみる事にした。
「たぶん、本当に、俺のせいかもしれない」
瀬戸さんが静かに俺を見つめる。
「正確には、予知能力そのものというより霊媒体質に近いようなものなんだ。自動筆記のようなところがある。制御は出来ない」
幼い頃から専門の監視がつき、常に書いたものを捨てられたり盗まれたりしてきた。
今でも人前で本を読んだり、何か描いたり、親しい人や身内に読まれたりすることに激しい嫌悪がある。
名乗ったりしないし関連付けないように、身内にはそう言ったものに関して俺には関わらないように、応援をしないように頼んでいるくらいだ。
「現象が抑えられればいいんじゃないか、って全部捨てたり何も喋らないようにしたりと自分自身を縛った事もあった。周りが言う様にやめたこともあった。だけど、それは駄目だった」
「何かあった?」
「俺が何も書いたり出来ないようにするに伴って、周囲に怪奇現象が起こるようになったんだ」
「怪奇現象?」
物が動いたり、影が歩いたり、事故が起きたり、
「複数人に憑くようになった」
「複数人に憑くって、どういう」
俺にも、どう言えばいいのかわからなかった。
まるで『せっかく任せていたのに、伝える手段を奪うな!』と抗議するように、実際の人間の言葉を使うようになった。
「演技とかじゃないんだ。みんな覚えてないっていうし、目が合わなくて、言葉遣いが変わる」
実際に見て無いと分からないと思うけど、あれにはいつまでも慣れない。
気付いたら戻っている事もあるが、それでもこちらだけ記憶しているせいで「スピっている」「繊細さん」と揶揄される事もあった。
作家の知人から神を殺す話の、神の異端さや、祟りのモデルにされた事すらあるのは、子どもだった当時に浴びせられるにはあまりにも度を越していたと思う。
「それに人だけじゃない、鳥とか、犬とか、猫とか、魚とか。でも、さっきの魚は耐えられなかったのかもしれない」
瀬戸さんが静かになる。
「魚が死んだのに、こんな話、だけど――――」
改竄されたり盗まれたものまで含めると途方もない話で、俺だってもうどうしようも無かった。生れてからこれまでの全てを返してもらう事なんて。
「それって、さっきの仏間の事?」
瀬戸さんが言う。
「あぁ」
頷く。
どんな目で俺を見ているだろう、と瀬戸さんを見る。
悲しんでいるようでもあり、怒っているような……そんな複雑な表情をしていた。
「俺は、俺だよ。藍鶴色」
「――はぁ」
瀬戸さんが呆然とした顔になる。
「それは知ってる。あの事務所の人、って話ではあったけど」
「なら、聞いてないですか?」
瀬戸さんは首を横に振る。
「いや、上辺しか知らない。あそこって表向きは謎が多いんだよ……解決してない事件専門の謎の天才集団ってことになってるし」
外から見た自分たちの評価は意外だった。
未解決事件なだけあって検挙率も高くなく組織内でも目立つ事が少ない、警察関係や内部でも追い出し部屋の窓際集団、みたいな笑われ方をされているのだとそう、思って居たが――――そもそも未解決事件を解くこと自体がそう容易くないのか。
「天才、か」
努力以前の、生体、イレギュラーそのものとしての天才。
確かにそれは生まれ持った天賦の才、能力そのもの。
生まれつきそうであることを才能とするのなら、確かに藍鶴色は天才の一人なのだろう。
「俺は、藍鶴色。
幼少の頃から未来的なものを知覚する事があって、生れてからずっと怖がられたり行動を制限されてきた」
――――生まれ持っての、才能。
苦い、苦い、思い出。
手放しでも喜べないし、かといって悲しみだけでもない。
どういっていいかわからない気持ちだった。
「界瀬や貴方がそうであるように、あの場所では予知能力者、と名乗っている」
俺は言う。
――――頭の中で、雪が舞っている。
高いところからひらひらと落ちて来る。
瀬戸さんが、目を丸くする。
そうなのかと納得する感情と共に、いや、それよりも今のこの、魚が死んだりする状況はその話と何か関連があるのかと聞きたそうな目。
「その事なんだけど」
俺は少し考えたが、一部だけ端折って伝えてみる事にした。
「たぶん、本当に、俺のせいかもしれない」
瀬戸さんが静かに俺を見つめる。
「正確には、予知能力そのものというより霊媒体質に近いようなものなんだ。自動筆記のようなところがある。制御は出来ない」
幼い頃から専門の監視がつき、常に書いたものを捨てられたり盗まれたりしてきた。
今でも人前で本を読んだり、何か描いたり、親しい人や身内に読まれたりすることに激しい嫌悪がある。
名乗ったりしないし関連付けないように、身内にはそう言ったものに関して俺には関わらないように、応援をしないように頼んでいるくらいだ。
「現象が抑えられればいいんじゃないか、って全部捨てたり何も喋らないようにしたりと自分自身を縛った事もあった。周りが言う様にやめたこともあった。だけど、それは駄目だった」
「何かあった?」
「俺が何も書いたり出来ないようにするに伴って、周囲に怪奇現象が起こるようになったんだ」
「怪奇現象?」
物が動いたり、影が歩いたり、事故が起きたり、
「複数人に憑くようになった」
「複数人に憑くって、どういう」
俺にも、どう言えばいいのかわからなかった。
まるで『せっかく任せていたのに、伝える手段を奪うな!』と抗議するように、実際の人間の言葉を使うようになった。
「演技とかじゃないんだ。みんな覚えてないっていうし、目が合わなくて、言葉遣いが変わる」
実際に見て無いと分からないと思うけど、あれにはいつまでも慣れない。
気付いたら戻っている事もあるが、それでもこちらだけ記憶しているせいで「スピっている」「繊細さん」と揶揄される事もあった。
作家の知人から神を殺す話の、神の異端さや、祟りのモデルにされた事すらあるのは、子どもだった当時に浴びせられるにはあまりにも度を越していたと思う。
「それに人だけじゃない、鳥とか、犬とか、猫とか、魚とか。でも、さっきの魚は耐えられなかったのかもしれない」
瀬戸さんが静かになる。
「魚が死んだのに、こんな話、だけど――――」
改竄されたり盗まれたものまで含めると途方もない話で、俺だってもうどうしようも無かった。生れてからこれまでの全てを返してもらう事なんて。
「それって、さっきの仏間の事?」
瀬戸さんが言う。
「あぁ」
頷く。
どんな目で俺を見ているだろう、と瀬戸さんを見る。
悲しんでいるようでもあり、怒っているような……そんな複雑な表情をしていた。
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