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Messiah complex
桜の痕跡
しおりを挟む今聞いてもうわぁとなる御幸ヶ原の台詞を一つずつ思い出していると、横から菊さんが言った。
「事業の付加価値、利益性が限定的なので収益で賄うしかない。ここはもともと土地の所有者が好意でくれたもので、自分にならその価値を最大限生かす取り組みが出来ると考えて居る。人が来ないまま廃れていくような場所よりもずっといい。これの真意が解って来た」
「……菊さんにしてはよく覚えてますね」
俺としては、絶対に御幸ヶ原に土地を好意でくれたとかあり得無いと思うんだが。菊さんは、どう言う意味だよと少し俺を睨んだがそれだけで、
目の前の大樹のところで足を止めた。
「此処最近はこの木の呪いについて調べてたんだ」
「……はぁ」
この木――――と言ったのは、その山に生える大きな木の一つ。
しめ縄? 紙がひらひらと付けられた大きな縄が巻き付けてあって、ひと際異様だった。前はこんな装飾は無かったと思うのだが、新たにこのようにしたのだろうか。
「どうやら、出所を調べたら此処で死体を埋めた事を隠蔽する役目をASAが担っている、御幸ヶ原は其処に噛んでいたという疑惑が出て来た」
※ちなみにASA、というのは朝倉会やパルフローラ等を総じた本社、みたいな略称のようである。
「お前には見えないと思うんだが、よく見るとこの木の中に呪符みたいなものがある」
それを聞いて、そう言えば彼は透視が出来るのだ、と今更思い出した。
「で、どうも、日本で一般に儀式に使われる文字では無さそうなんだよな。それで調べていくと、これを施していたのが昔から存在するある『会』の奴らで、かつても何らかの儀式に同じやり方をしていたらしい」
「――――そこはASAや某国ともつながりがあったと?」
「まぁ、聞けよ。俺や色はこの木が『誰』だったのか、誰の可能性があるのか探したんだ。すると、かつて某会が、宗教法人としても名を連ねていた頃に、一人子どもが失踪しているという話になってな」
「急に飛びましたね」
「……色が、あいつが言ったんだよ。此処に来てからずっと、女の子に呼ばれている、とか」
「えっ、そうなんですか」
思い出してみると、確かに少し、不思議なところ、様子の変だったところはあった気がする。
だが俺は幽霊がはっきり視えるタイプじゃないので、色が何処まで何を視たのかまではわからなかった。
「そのとき俺は、俺でASAの周辺を探していて、新聞とかニュースを漁っていたんだ。
帰ろうとしてたら、奴から電話が来た。
此処でかつて女の子が捧げられたんじゃないか? 子どもが居なくなった話は無いか?と」
「同じタイミングで、宗教内で失踪した記事を見つけた」
「あぁ」
菊さんが頷く。
「その宗派の思想に地球と一体になる? 樹木葬? なんだっけな、そういうのがあるんだよ。まぁ……つまり柱だな。子どもを使っていた疑惑がでていたらしい」
「人柱、ですか」
「……ただ、証拠は無かったようだが」
「――」
「そもそも仮にそうだとしても人柱に使ったのか、という点も、断定はできなかった。
それだけなら普通呪符なんか持たせて無いだろ?」
聞けば聞くほど変わった話だ。
「そうですね」
「で、これは別の目的があったと思うんだ」
菊さんは、珍しく、ふざけることもなく真面目に話を続けた。
実は何度か業者が此処を買いたがった。
だがこの土地に何か建てようとするたびに、取り壊しになったり不幸な事故が続いたという。
何人も、謎の現象に見舞われて死んでいるらしい。
「恐らく、この土地には何がある。彼らが呪い(まじない)をしてまで拘るようなものが」
「……何か?」
「何かは知らん。
ただ、呪いについては言われているのが、世界か土地か……何か恨むように殺されていて、その木に呪符を入れて育て、死体をその養分として埋めたんじゃないかって」
「死体――」
「生き埋めかもしれないけど。頭蓋や内臓に種を植えるというものもある」
「うぇ……」
想像したら気分が悪くなった。
「まぁ、やり方は分からないがな。
呪符に書いてある文字から推測される範囲だと、『何処かの国が素晴らしい極楽の国である』らしい」
「……それ、呪いなんです?」
聞いてみると、菊さんは朗らかに笑った。
「まっ、そういうのもあるんだよ。それは逆に、他の国は矮小な国という事でもある」
そうなのか……その札にこんなところに居るくらいなら死ぬ方がマシだみたいな感情が込められているのならそれは確かに、あまりに強い憎悪、執念なのかもしれない。
「日本でわざわざ埋めて来るような代物じゃないって事ですね」
「そうだな」
菊さんが苦笑する。
そのときふと俺の脳裏に、何故なのか、本当に何故か、あるシーンがよぎっていた。
「――桜」
昔、色と探した事がある、桜の木。
死体は、あの人は『枯葉になっていた』
骨を溶かし、肉体をあそこまで圧縮するハイリスクな劇物を一般的に目にすることなどそう無いが……
――此処は人気の無い山の中。
尚且つ、当時から不審がられた新興宗教が管理する土地となると、むやみに近付きたい人などいない。
こういった場所でなら、あの日、色が採取したあの瓶、あの中身を使えるんじゃないか。
匂いや、物質を溶かしていく酸にもとらわれず
「……桜が、どうかしたのか」
御幸ヶ原たちが此処を買収してまで隠したいもの。
(この場所の痕跡――)
2025年1月4日8時35分
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