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kangaroo court
萩原先生
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「未来をみることの、何が悪いの?」
ある日。俺は、朝から母親に叱られて部屋に籠もった。
ストレスから荻原先生が薬を飲んでいるのだと先生直々に連絡帳を書かれ、それが母に指摘された為だった。
話によるとどうも俺の態度が良くないらしい。
態度というのも別に暴れ回ったとか備品を壊したとか暴言を吐いたというわけじゃない。普通に、感じたことが当たっていたとかその程度の事だ。
なのにそれが周囲には不気味に映った、だからストレスだというのだ。
「変な事言わない! 大人しくしていなさい」
と怒鳴られて、先生や友人からも怯えられ、自分だけ意味が分からない。
そんな事がそれまでも何回かあった。
「萩原先生がお薬飲んでたら何? 俺のせいで薬に頼ってるって事? 俺関係無いじゃん」
ただ、これはまだマシな方だ。
――――もし、親の前で未来が確定すれば、作家の父親の『書籍化刑』が待っている。
予知能力がある、と知られてからは
具体的な会話をすればいつ書籍化や映像化されるかわからない毎日だった。
彼らは俺の許可なくプライバシーを侵害する。性的嗜好での自殺者が報道されるようになってからは同性愛への人権侵害認知は進んだけれど、
霊能者、他広義の能力者の情報開示は現在でも未だに法整備されておらず、人権侵害行為を勝手に行われることが多かった。
「そもそも未来かどうかなんて、一歩歩けば哲学的に未来なんだから考えたってしょうがないじゃん、生きてれば既に来るんだから、俺だけあげつらって、皆の前で発表されて、なんでだよ……おかしいだろ」
調べた話では『一応国からは当人以外での売買が禁止されている』ようなのだが、あくまでもそれも警告に留まっている為、能力者の売買取引が行われる事も後を絶たないらしい。
真偽は定かではないが、最近では
・能力者を監視する人達が居る。
・街角にレインコートを着た密売人が立っていることがあるが、その一人で、彼らは国交上の便宜を図っている。
・『能力者を国外に売りやすくなるよう秘密裏に攫う計画がある。レインコートの人達が取り計らっているのではないか』
……なんて謎に具体性のある都市伝説もあるほどだ。
なんで皆勝手に進めるんだろう。
俺だって別に目立ちたくてやってるとか、言葉全てを全部能力に充てようと思って生きているとかじゃないのに。
普通に、感じた事や思った事を言うだけだ。
生活の為、意思疎通の為に言葉が必要で使っているのだ。
それなのに生活が、普段の言葉が気味悪がられている。人権そのものが否定されかけている。
何の為に学校に通うのかすら忘れたのか?
これからは「あー」以外喋らずに生活してやろうか、と言う考えが頭を掠めたが、余計に変質者扱いされそうな気がして考えをやめ、布団に潜りこむ。
「なんで俺が消えないといけないの?」
「周りが何か言うから?」
「せっかく言葉を覚えているのに、使えば気味悪がられる。余計なこと考えちゃダメ、俺は何の為に生きてるの? もう消えたい」
わからない。何もわからない。
未来くらいで動揺しないで欲しい。
いろんな人が居る、個性だと言って欲しい。
未来を否定しないで欲しい。
いちいち使わないで欲しい。
俺を……
言葉にならない言葉が溢れて、泡のように消えていく。
悔しくて、悲しくて、でもそんな話をしても更に人権侵害を受けるだけだから、閉じ籠もる以外にない。
「こいつキメ―んだよ」
圭一君が教室で俺を指さした事もあった。
「リカんとこに色目使ってるんだろ?」
「――――なんの」
「お前のせいで、リカんとこの事業が一つ、なくなるかもしれないんだって。ほら、あの東北のなんとか教の。あーぁ! どうすんだよ、リカが来なくなったら」
ある日、リカのところが消えそうだ、と突然話しかけてきたのが圭一君。
それまで話もしない隣のクラスだったのに、ある日の放課後、廊下に立っていて……お前を倒すしかないと言い出した。
「――――知らない」
リカは最近ある事件の影響で解体されそうになっている宗教団体の娘、圭一君も同じ出身らしい。
そもそも、リカと言う人物がこの近辺に居たことすら知らなかったのだが……
何故か『俺の方が神秘的に目立っているから、求心力が集まらないのが悪い』のだと言う。
書籍の影響だったのだろうか。
(それとも――――)
『あの男』が、初めて会った後、ときどき現れては俺に見せるようになった未解決ファイルの中に、そんな事件があったのだろうか。
でも、俺が直接妨害しようとしているわけでも無い。リカの宗教の訴求力や圭一君の問題なのだし……
「何、お前教祖にでもなるの?なんでリカの邪魔をしてるんだよ。
神力があるとか言って、何人か噂してたぞ。鬼様になるべきリカが言われるべきだ」
圭一君はそう言って、凄く怒っているようだった。
もしリカが支持されずこのまま死んじまったらと、嘆いている。
カルト宗教の様々な事件があったお陰で、他の仕事に就こうにも学校に行こうにも逐一警戒される事が決まっているらしい。
だから世の中を席巻するような存在でなくてはならない、と。
だからって、 俺も俺で、目を付けられたら今以上に普通に生きて行けないのに。と、言わなかった。
「あー」以外喋らずに生きるなんて嫌だ。
ギリギリ今を生きているのに。それだって第三者的な支援者も居ないのに。
彼らには許されている、自由に行える好きな本も、好きなアニメも作らずに、何も見ないように生きて来たのに。
だけど、それよりまず――――
「おに?」
東北地方では鬼を祀る神社も結構あるらしいのだが、そもそもその辺り出身でない俺には馴染みが無くて、何故鬼が出て来たのか意味不明だった。
「鬼は鬼だ、鬼様だ」
圭一君は曇りのない目で言う。
不思議な力と言えば鬼。それ以外を認めないという前提で俺を鬼だと思っているらしい。
俺は自分を一方的に鬼と言われた事がショックだった。
自身を鬼だと思った事は一度も無いし、先祖に鬼が居たなんて話も無い。
視力や聴力と同じで、これは俺自身の個性に過ぎないのだ。
「俺は俺と言う人間で、絶対に鬼じゃない。変な事言うなよ」
その翌日。
同じ時間の廊下に、なぜか彼に似た母親も立っていた。
「……あの」
圭一君があいつ、と指を指すと彼女は迷わず俺に向かって来た。
「ウチの圭一君の悪口を言ってるらしいですね!?」
「……え?」
「神なんて居ないのに馬鹿馬鹿しい。全部貴方の妄想ですのに。リカ様が鬼様になる事を妬んでいるのでしょう」
「あの、鬼とか、リカ様とか言われても」
「誰も見てないからって、言われっぱなしと思ったか?」
――――あの日、圭一君が、俺が彼の悪口を言ったと確信している目をしていたのが今も忘れられない。
「絶対許さねぇぞ! リカのぶんまで!」
リカの存在を尊厳の消滅から守る為に、彼は戦った。
俺から大事な何かを強引に奪う事が、唯一、圭一君に出来る事だったとでもいうのだろうか?
そんな、俺が生れる事すら許されないような暴論を彼は何の疑問も抱かずに投げかける。
ちなみに、このときに予言したように、この部分のエピソードは後にまた俺に確認を取らずにネタになり、
『この話が完結するよりも先に』
強引に何処かの商業ラインに入れてやろうと誰かの画策が始まる。
市販の小説か漫画かアニメかゲームか、そういった作品の内容の舞台に無断でなって売り出される事が決定する。
もしかしたら未来では既に市場に流れているのだけれど――――
それはまた別の話。
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